フェルミ推定の教科書【一歩差がつく回答編5】ディズニーランドの客数は?(3/3)
2019/06/20
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前回のコラムでは、因数分解のアプローチの中に、十分に精度が高いといえるものが見当たらない場合の対応方針と、「ディズニーランドの来場客数」を需要ベースで計算する場合のポイントについて、説明しました。
今回は、「ディズニーランドの来場客数」を推定するにあたって、「需要」「供給」の両方のアプローチの比較と、結局どのように面接中に対応すべきと思われるかについて、解説していきます。
どの因数分解の方法を適用すべきか
前回説明したように、因数分解の式のパターンを洗い出したら、次は、どれを採用するかという議論が必要になります。
どちらの因数分解も、精度が微妙な部分は残る
さて、「供給ベース」「需要ベース」の両方のアプローチを見た結果、どちらも難しいと感じたのではないでしょうか。どちらも、「精度が低い」「論理的な議論が難しい」と思われる項目が残るからです。
◆供給ベースの因数分解: 各アトラクションの客数が難しい
すでに述べた通り、供給ベースの「アトラクション」をベースにした場合、各アトラクションの人数に振れ幅が大きいという問題がありました。そして、ここを精度の高い計算方法へ変えるのも、なかなか難しそうでした。
◆需要ベースの因数分解:利用頻度の数値が難しい
一方、需要側も問題があります。利用頻度という数値が、かなり感覚的になるため、ここの振れ幅が大きいのです。振れ幅が大きくなる背景は、いくつか解釈が考えられます。
すでに、テクニック編でも説明しましたが、「設定する数値が小さい」ほど、振れ幅が大きくなる傾向があります。カフェのように、毎日の日課として、「日単位」で利用するものは数値が大きくなります。しかし、ディズニーランドのように「一生」や、せいぜいイースターのイベントのような「季節単位」で利用するものは、数値が小さくなりがちです。
また、別の解釈もできます。
「日々の日課に組み込まれる」ことの多い、カフェや喫茶店の利用形態は、対象とする需要のパターンさえ決めてしまえば、合理的に数値を置くことができます。「毎朝、仕事前に、カフェで新聞を読む」といった感じです。
そして、このような、回数の多い日課があれば、これに、「たまたま飲み会の前の待ち時間に利用した」というようなものを無視しても、全体に与える影響はわずかです。
しかし、完全な「嗜好品・娯楽」であるテーマパークでは、来場が何に紐づいているのかはっきりせず、そもそもの数値設定の論拠の設定が難しいとも解釈できます。例えば、「大型連休」「イースターなどのイベント」などに紐づけても、かなり微妙なロジックに感じるのではないでしょうか。このあたりは、なかなか解釈が難しい・多様になるかと思います。
このあたりは、解釈的な要素が強いので、いったんここで解説を止めておきます。いずれにしても、カフェの利用頻度よりも、ディズニーランドの利用頻度のほうが、何かしらの論理をもって数値を設定することが難しいということは、上記以外の理由も含めて、「感覚的」に、何となく分かるのではないでしょうか。
ポイント: 面接では、時間制限から、ある程度感覚的な判断になる
さて、少し話がそれますが、直前で、あえて「感覚的」という単語を使った理由について、補足しておきます。
実は、ケース面接では、「感覚的」というあたりも、重要なポイントになります。結局のところ、「需要と供給のどちらが良いか、論理的に説得力のある説明が難しい」ということを、ある程度、「感覚的」に気付くことが重要なのです。
◆そもそも、論理的に白黒つけることが、“現実的”に難しいことも多い
もし仮に、ここで無理やり白黒つけようとすると、おそらく長時間にわたる細かい議論や、場合によっては情報やデータ集めが必要になるでしょう。
しかし、30分程度の面接で、このようなことを行うのは、当たり前ですが不可能です。つまり、「論理的に白黒つけられない」ということを、論理のみでなく、ある程度「感覚的」な側面も入れてよいので、まずは「気が付くことができるか」というのがポイントになります。
そうすることで、「どの因数分解が良いのか」といった次元から離れ、現実的な視点から「どのように説明すると最も論理的になるか」といった、「別の視点」「一段上の視点」に移動することが容易になります。
対応策:論理的・現実的の両面で、選択肢の比較検討が必要
さて、話を戻しましょう。
今回のフェルミ推定は、どちらの因数分解も、結局のところ、自信をもって選べるものではなく、論理的な白黒をつけるのは非現実的でした。では結局、どちらの因数分解を利用すべきでしょうか。
◆論理的に考えて、比較検討が必要
結論としては、前回の「パターン2」で述べた通り、「両方とも示して、比較検討しながら議論する」ということに尽きます。
前回は、「聞き手の立場に立てば、論理的に考えて、比較検討や議論が必要」という、比較的「論理的」な説明をしました。ここでは、上記のような「論理的」な理由に加えて、もう少し「現実的」な側面でも、やはり同じ結論になることを説明しておきたいと思います。
◆復習:面接官は、答えをもって臨むことも少なくない
すでに、これまでのコラムでも述べましたが、ケース面接では、面接官がある程度理想的な答えをもって、出題している可能性が低くありません。
私個人としては、相対的に、需要ベースで解くほうがマシだと感じられますが、それほど自信を持って言い切ることはできません。これまでの「カフェ」や「缶ビール」の因数分解と比較すると、かなり判断に迷う・微妙なところであると感じます。
おそらく、このディズニーランドの来場者数だと、面接官によって、正しいと考える因数分解のアプローチは、かなりばらつきがあるのではないかと想定されます。
もちろん、初めから答えをもって面接にの臨んだりせず、プロセスをしっかり評価する面接官も大勢いるでしょう。しかし、そうでなかった場合が、かなり危険です。面接官と、そもそもの方向性が異なったまま議論するという、大きなリスクを背負うことになります。
◆「現実的」な観点から、選択肢を示して、リスクヘッジしておくべき
では、面接官が予め“正しいと思う答え”をもっていると想定した場合、どのように臨むべきでしょうか。
この場合、あり得そうなパターンを複数提示しておくのが、現実的でしょう。面接官の反応を見ながら、意図を探り、方向性を決めるイメージです。複数パターンを初めに提示しておけば、万が一、面接官の“正しいと思う答え”と違うものを、良い方法として回答したとしても、即座に他の選択肢へ変えるなど、バックアップが実行しやすくなります。
◆色々な選択肢を示すことが、論理的・現実的の両面でリスクが低い
以上のように、「比較検討する」「選択肢を示す」という意味で、微妙にニュアンスが異なりますが、いずれにしても、「特定の方法で決め打ち」せず、「因数分解の選択肢自体を議論する」という流れに持っていくことで、「論理的」「現実的」の両面で、リスクが低くなります。
特に、今回のディズニーランドのフェルミ推定のように、「因数分解式が微妙なものしか見当たらない」場合ほど、「因数分解の選択肢自体を議論する」というステップを入れるよう、意識してください。
その他の論点: 問題文の前提確認は十分か
さて、本コラムのメイントピックは、以上で終了です。
最後に、この「ディズニーランドの来場者数」における、上記以外に「議論になり得そう」「差がつきそう」な部分について、言及しておきたいと思います。
今回の問題文には、若干微妙な部分が2点ほどあります。そのあたりを確認しておいたほうが良いでしょう。
前提1:来場客数の単位・期間はどの程度か
ここまでの解説では、曖昧なままにしておきましたが、そもそも来場客数が、「1日」「1カ月」「1年」など、どの単位なのかを明確にしておくべきでしょう。
市場規模であれば、一般的に、「1年」とすることが多いでしょう。そのため、「1年間」以外を選択するのでなければ、特に言及しなくても、許されるかと思います。
しかし、客数の計算には、「一般的な単位」は存在しないと思われます。そのため、明確に面接官と定義を共有しておくべきでしょう。
◆定義するタイミングは、ある程度柔軟でよい
では、どのタイミングで、言及すべきでしょうか。回答の最初に言及できるとBestですが、必ずしも必須とは言い切れないと思います。
上記の解説を見て分かる通り、供給ベースの場合は1日、需要ベースの場合は1年とするほうが、計算しやすいように見受けられます。また、そもそも、1年間と1日の換算は、大雑把には「365倍」「365分の1」という、単純な修正で済む程度の問題でもあります。ある程度計算が進んだ段階で、定義しておけば、大きく減点されることはないと思われます。
しかし、「明確に言わなくても、聞いていれば予想できるだろう」というのはNGです。これは、論理的なコミュニケーションにはならないからです。少なくとも、「定義し忘れた」と気が付いた段階で、明確に「言い忘れましたが、客数は、1年間で計算します」のように定義しましょう。
前提2:「ディズニーランド」には「ディズニーシー」を含むのか
東京ディズニーリゾートの敷地内には現在、厳密には、「ディズニーランド」「ディズニーシー」の2つのテーマパークがあります。
おそらく、運営元のオリエンタルランドからすれば、「ディズニーランド」と表現したとき、「ディズニーシー」を含むか否かに関して、明確な定義があるでしょう。
しかし、世の中で一般的に、「ディズニーランドへ行きたい」といったとき、明確に「ランド」の側を指しているとは限りません。「ランド」「シー」の両方を意味していることも多いです。
※このあたりは、ディズニーシーが建設される前の名残もあるかと思います。
細かい話になりますが、このように、今回の問いの客数の範囲に、「ディズニーシーを含むのか否か」というのは、念のため確認しておいたほうが良いでしょう。
ちなみに、両方とも利用したことがあれば、両者は「敷地面積」「入場者数」など、来場客数に関するさまざまな側面で、大きく異なるようには見えないと感じると思います。ですので、計算の最後に、単純に「2倍」するか「0.5倍」するかという程度でも、フェルミ推定上は大きな問題がないようにも思えます。
※実際には、数十パーセント異なりますが、フェルミ推定上は、あまり気にする必要はないでしょう。よって、計算ロジックが大きく変わるとは思えず、定義の問題といえるでしょう。
最後のまとめ
さて、長々と説明しましたが、最後にポイントを確認しておきます。
今回のように、「因数分解の式の選択肢」自体を、しっかりと提示して議論することが重要なケースは少なくありません。根本的には、「因数分解の式」自体が、フェルミ推定において、最初の方向性を決めるという、きわめて重要な部分であるからというのが、主な理由です。
特に、「どの因数分解が良いかイマイチはっきりしない」といった場合は、そもそも、選択肢を提示して議論しておくことが「聞き手の立場で考えた時に合理的である」というだけでなく、「面接官の感覚に合わせる」という現実性を含めて、有効になるでしょう。
補足:どのようなケースでも、因数分解の選択肢を示すことが、有効な可能性がある
これまでに提示した、「カフェの市場規模」「カフェ1店舗の売上」や「缶ビールの市場規模」のケースでは、解説上は複数の因数分解のパターンを示しましたが、「複数の因数分解のパターンを面接官に示すべき」といった言及はしませんでした。
上記のケースでは、ディズニーランドの客数に比べれば、どの因数分解が良いか、ある程度明らかといっても差し支えないと思われるのが理由です。
しかし、このあたりは、やはり完全な論理で決まるものではなく、感覚的な判断になります。前回のコラムで、「パターン1」「パターン2」の違いで、「これでOKと呼べる因数分解があるか否かが重要」としましたが、このあたりの判断は、かなり感覚的にならざるを得ません。
つまり、聞き手によって、このあたりの判断基準は異なると思われます。そのため、聞き手によっては、やはり因数分解のパターンを示すことが論理的に感じられる可能性もあると思われます。
面接官との議論の流れを俯瞰しつつ、場合によっては「選択肢を示して議論する」ことが必要になるということを、心に留めておいてください。
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