前回に引き続き、「缶ビールの市場規模」の解説の後半を行います。
前回の「フェルミ推定の教科書【一歩差がつく回答編1】缶ビールの市場規模は?(1/2)」を読んでいることが前提なので、そちらのコラムを読んだうえで、このコラムを読んでください。
目次
プロセス2:「缶ビール」という商材の特徴を理解する
前回のコラムにて説明した通り、因数分解の大きな方向性が、需要ベースの分解に決まりました。そうすると、次に、因数分解の各項目を洗い出したくなるところです。
しかし、すでに「ありがちな回答」で示した通り、因数分解をうまく行うには、フェルミ推定の対象となっている商材の特徴を押さえなければなりません。
では、「缶ビール」の商材の特徴を整理してみましょう。
しっかりと理解を深める“コツ”とは
さて、いきなり「特徴を洗い出せ」と言われても、どうアプローチすればよいかわからず、途方に暮れてしまうでしょう。ですので、まずコツを紹介します。
コツ1: 問題文をよく読む
今回の問題文には、商材として、「缶ビール」とあります。さて、「ビール」とは何でしょうか。そして、「缶」という制限がかかっている理由は何でしょうか。
このように、問題文をよく読むことは、問いの理解のベースとして有効です。しかし、この辺りの有用な条件を見落としてしまう人が少なくありません。
ひどい人だと、「ビール市場の売上」という、「缶ビール」以外の売上を含めてしまう人までいます。注意して問題文を読んでほしいところです。
コツ2: 自分が知っている例をイメージしよう
「ビール」「缶」の特徴を、どう考えればよいでしょうか。
このような場合、自分が知っている例をイメージするのが一番です。まずは、普段、自分が消費者として、「ビール」や「“缶”ビール」を利用するときを、イメージしてみましょう。
さて、上記の2つのコツを踏まえながら、以下の解説を見ていきましょう。
Step1: そもそも、「缶ビール」という商材は何なのか
さて、まずは、商材そのものの、当たり前の特徴を理解することから始めましょう。
ポイント1:缶ビールは、アルコールの一種
さて、缶ビールというが、これを抽象的に述べれば、「アルコール」の一種です。正確には、アルコールの中に、ビールがあり、ビールの中に、缶ビールがあります。
以上のように、対象となっている商材の位置づけを、より抽象的な次元から、まず把握しておきましょう。特に、今回のように、“缶”などの、“制限”をするような情報が付いている場合は、このような思考を忘れず行いたいところです。
ポイント2: アルコールには、ビール以外に何があるのか
さて、次は、上記の分類の「???」となっている部分を埋めていくことになります。
さて、アルコールには、ビール以外に何があるのでしょうか。これは、自分が普段アルコールを飲むときを想像すればわかるはずです。
「スーパーの棚」「居酒屋のメニュー」などをイメージします。そうすれば、下記のように、様々な種類あることに気が付くはずです。
➢ ビール
➢ 酎ハイ
➢ ハイボール
➢ ワイン
➢ 日本酒
➢ 焼酎 etc…
ポイント3: ビールには、缶ビール以外に何があるのか
さて、次に、ビールの中には、缶ビール以外に何があるのでしょうか。「缶」は容器なので、この「容器」の軸で整理すると、以下のようなものがあるでしょう。
➢ 缶ビール
➢ 瓶ビール
➢ 生ビール(※ビールサーバーから、コップ・グラスなどに入れて、提供されるもの)
上記は、もはや辞書の上の定義レベルの話です。ビジネス的な難しい考え方など何も利用していません。
しかし、この先の深く考えるために、前提として整理しておくべき内容です。落ち着いて、いったん紙に書いて整理しておきましょう。
Step2: より深く特徴を考える
さて、Step1で、缶ビールの定義・位置づけを考えました。しかし、商材の定義の話だけでは、まだ不十分です。缶ビールの特徴をもっと深く考える必要があるでしょう。
深く考えて特徴を洗い出すとき、上記の定義確認で洗い出した「缶ビール」以外の商材のことを、比較しながら考慮するとはっきりしやすいです。以下で見ていきましょう。
ポイント1:「アルコール」には、「飲まない」「飲めない」が存在する
そもそも、「アルコール」というカテゴリの中に、「缶ビール」があるわけだが、「アルコール」の特徴は何でしょうか。
まずは、「飲まないのか」「飲めないのか」という切り口が重要であることがわかるでしょう。
一般的なの飲食物と異なり、アルコールは「飲めない」という人が少なからずいます。それに加えて、普通の飲食物と同じく、「健康」「嗜好」を考えて、「飲まない(食べない)」という人もいます。
このあたりの軸も、当然、缶ビール市場規模の数値に、大きな影響を与えるはずです。飲めない、飲まない人の割合だけ、市場規模が小さくなるからです。
このような切り口は、「自分の身の回り」のことをイメージできれば、気が付くのも容易なはずです。皆さんの周りにも、「アルコールが飲めない」という人はいるでしょう。「コツ2」にあった通り、商材に関連することで自分が知っていることを、しっかりとイメージしましょう。
ポイント2:缶ビールと他のアルコールとの違いは何か
缶ビールの特徴は、結局何なのでしょうか。これは、ビール内の他の商材である「瓶ビール」「生ビール」と比較するとわかりやすいです。
これらの瓶や生の商品は、基本的に「お店で飲む」ものであるということに気が付きたいところです。一方、缶ビールは、「家で飲む」場合がほとんどでしょう。
このように、ビールは、容器によって、飲む場所・オケージョンが異なるのです。
➢ 家でビールを飲む ⇒ 缶ビール
➢ お店で飲む ⇒ サーバー・瓶ビール
このように、飲む場所・オケージョンの視点を入れると、「ビールの中で、缶が選ばれる割合」をはっきり定義しやすくなります。
もちろん、上記には例外があります。缶ビールを出すお店もあります。家に瓶ビールやサーバーを置く人もいるでしょう。そのため、「基本的にはこうなる」という表現で伝えることになるはずです。
しかし、あまり細かい例外的なことを気にしても、「数値の推定」にほとんど影響がありません。ですので、このあたりを“些末なこと”と割り切って、シンプルに考えることも重要です。
このような考え方は、「サーバービール」「瓶ビール」などの、「缶ビール」の競合を、“明確”に意識できていることが必須です。
そのうえで、缶ビールとこれらの競合を“比較”しながら、「コツ2」にあるように、自分が知っている例をイメージできれば、自然と気が付くことができるでしょう。
ポイント3:飲む場所の違いは、どの様な条件に左右されるのか
「家で飲む」「お店で飲む」という切り口は、もちろん意味があるものではあるものの、因数分解式で利用するのが難しいです。そのため、もっと深く考えてみましょう。
「家で飲む」「お店で飲む」という違いは、どの様な切り口によって発生するのでしょうか。
もちろん、「1人で飲む」「集団で飲む」などの違いもありますが、これでは、因数分解式に組み込みにくいことは変わりません。それ以外に、もっと明確な違いはないのでしょうか。
ここは、少し思考のジャンプが必要ですが、「お店で飲むことができない」人について、気が付きたいところです。
一つは、通勤・通学方法です。車を運転しなければならない人の立場に立って考えてみましょう。
夜の居酒屋でアルコールを飲んでしまうと、車を運転できなくなってしまいます。そのため、電車やバスで帰れない人は、他の人に運転してもらわなければなりませんが、これがかなり難しいことがわかるはずです。
つまり、車で移動する人の場合、上記のような制限から、アルコールを飲むとき、家で飲むという選択肢が必然的に増えるはずです。
ポイント4:車で通勤・通学する人は、どの様な条件・特徴の人か
さて、もっと深く考えてみましょう。
「車で通勤・通学」が必要な人とは、どの様な人でしょうか。車の代替手段は、自転車・徒歩などのスピードに限りがある手段を除くと、電車やバスになるでしょう。
しかし、「自宅」「職場・大学」の間を、都合よく電車とバスで行き来できるのは、必然的に鉄道を中心とした公共交通機関が発達しているところに住んでいる人ということになります。そのため、田舎の人ほど、夜にお店でお酒を飲むのは厳しそうです。
つまり、住んでいる・働いているエリアが、公共交通機関が発展している都会か、田舎かによって、家でお酒を飲む頻度は大きく変化しそうです。
このくらい深く考えれば、都道府県などに紐づけて、因数分解式に落としやすくなるでしょう。
ちなみに、それまでに出た切り口自体は、意味がないわけではありません。いきなり「都市部」「田舎」という切り口を示されても、聞き手からすると唐突に感じるでしょう。
このような、「家で飲む」「お店で飲む」や、「車で移動」「電車・バスで移動」といった切り口を経ていることを、しっかりと説明する必要があります。
補足:容易性も踏まえて、深く考えられる部分に時間を使う
さて、フェルミ推定は、限られた時間と情報から、最も合理的な数値を計算するための手法です。
そのため、数値の設定に当たって、どこを深く考えるかは、「必要性」だけでなく、「容易性」も考慮しなければなりません。
ビールか、その他アルコールかは、合理的な議論が難しい?
ここまでの、商材に対する、より深い理解は、基本的に「缶ビール」と「その他の容器のビール」の選択について、議論してきました。
しかし、「ビール」と「その他アルコール」の選択については、ほとんど議論していません。せいぜい、どんな選択肢があるかを、示した程度です。
その理由は、「考えを深めることで、何か意味のある示唆が出てくるか」という部分にあります。
ビールの容器の話と異なり、アルコールの種類のうち、どれが選択されるかについて、合理的な議論はなかなか難しそうです。定量的な数値がどの程度かの議論もはっきりしないし、また個々人の趣向の違いが強すぎるため、「年齢・性別」はもちろんですが、「居住エリア」などの別の切り口で見ても、数値が“大きく”変化する合理的な理屈を立てるのは難しいのです。
そのため、どれだけ考えても、最後は、「身の回りを見た感覚」にならざるを得ないでしょう。
身の回りの感覚で、「20%」と置いたとしても、規模感に大きな差は出ないという、インパクトの視点を含めて、あまり深く考える意義が大きくないといえます。
このように、理屈付けして考えやすい部分と考えにくい部分があります。
特に、この問題の場合、皆が気付きやすい、「ビール」VS「ワインなど」のアルコールの種類の方は、有用な示唆を出すのが難しく、軽視しがちな「缶」VS「瓶・生」の部分に、有用な示唆が多いのが、試験問題として適切である理由でしょう。
引っかからないよう、注意してほしいところです。
「因数分解」と「場合分け」の切り口を修正する
以上のように、商材の特徴を念頭に置けば、因数分解の式も変化するはずだ。
以下、改善例を見てみよう。
商材理解を踏まえた、因数分解の切り口を設定
これまでの商材理解を踏まえると、例えば、以下のように、より細かく、缶ビール専用といえるような因数分解式を作ることができるでしょう。
商材理解を踏まえた、場合分けの切り口を設定
場合分けも、年齢よりも、よさそうな軸があるでしょう。例えば、以下のような切り口です。
➢ アルコール利用頻度
➢ 好きでよく飲む
➢ 大量に飲める
➢ あまり飲めない
➢ 付き合い程度しか飲まない
➢ 基本的には飲まない
➢ 居住エリア
➢ 都会(電車、バス、Taxiで移動)
➢ 田舎(車で移動)
このような切り口の方が、設定する数値により明確な違いが出るでしょう。
ポイント:正解はないが、商材の特徴を踏まえることを意識する
上記の、「因数分解」や「場合分け」の切り口に正解はありません。以下のように、様々な選択肢が考えられるからです。
まず、様々な切り口は、完全に独立していないことに注意が必要です。「場合分け」に「アルコール利用頻度」を入れ、分類に「アルコールを飲まない」と入れた場合、因数分解側の「アルコールを定期的に飲む人の割合」は必要ないだろう。
また、因数分解を、フローのように書いていますが、順番・流れも決まったものはありません。「家飲み ⇒ 缶ビール」となっていますが、「ビール ⇒ 家飲み」という流れで考える人やオケージョンも、当然あるはずです。
また、アルコールを「飲む」「飲めない」だけでなく、「飲めない」「飲めるけど飲まない」「飲む」など、分類の粒度も様々なパターンが考えられます。
どれが正解ということはありません。しっかり考えた上で、切り口を提示し、面接官から「なぜ」と質問された時に、その理由を答えられるようにしておけば、「思考力があることを示す試験」の回答として、十分でしょう。
くれぐれも、公式やフレームワークにあてはめたり、暗記した内容を答えたりしないよう、注意してほしいです。
この後のステップの進め方
適切な切り口で分解したら、後はマトリックス内の各項目に、数値を設定していくことになります。
今回のフェルミ推定において、このマトリックス内の「数値を設定」する部分が、特段難しいということはありません。そのため、細かい解説は行いません。ここの考え方は、すでに「原則編」でも説明しましたので、詳しくはそちらをご覧ください。
今回の缶ビールの場合、あくまで難しいのは「因数分解」「場合分け」の切り口や項目をどう置くかにあるので、注意してください。
ところで、「数値を設定する」という観点で、いくつか補足しておきます。
補足:商材特徴が整理できていれば、数値設定の議論がスムーズ
マトリックス内に数値を設定するときに、ここまでに行った「商材の特徴理解」が役に立つはずです。例えば、「田舎に住む人」の「缶ビール選択割合」を高めに設定したとき、なぜそうしたのか、理由を答える必要があります。理由をこちらから話さなければ、「何でそうしたの?」と面接官から質問されるはずです。
この時、「車で移動」「缶ビールは家、瓶や生ビールはお店」といった視点を提示すれば、数値設定の背景の説明になります。
このように、切り口をあらかじめ整理できていると、自然に数値設定の理由を説明できたり、面接官からの質問に対する回答がスムーズに行ったりしやすいのです。
注意:数値を設定する段階で、商材理解を活用するのは、難易度が高い
さて、「因数分解」や「場合分け」は、最初に説明した「イマイチな例」のように行い、個別のマトリックスの数値設定まで来た段階で、上記のような商材理解を踏まえ切り口を使った議論をするのはどうでしょうか。
理論上は、この方法でも大丈夫ですが、現実的には避けることを強く推奨したいところです。
なぜならば、1つの項目の数値を設定するときの議論すべき内容が多くなりすぎるため、議論が煩雑になり、伝えることの難易度が高くなるからです。
数値設定時に議論する内容が多すぎると、相手に伝わりにくい
例えば、最初のイマイチな回答例にあった「缶ビールを飲む頻度」の「40~59歳」の数値を置くとき、どれくらいの説明が必要になるか考えてみてください。
このとき、「そもそもアルコールを飲まない人」「アルコールの中で、ビール以外を飲む人」「ビールの中で缶ビールを選ぶ人」などの、様々な切り口による説明が必要になるでしょう。
説明内容が多くなるため、面接官に対して、かなり上手に説明できないと、「ふ~ん。それで、結局、40~59歳の人が、缶ビールを飲む頻度を決めるうえで、何が重要なんだっけ」と思われかねません。このように、高度な伝える技術が必要とされてしまいます。
そのため、あなたが、伝える・プレゼン技術によほどの自信があるのであれば別ですが、そうではない場合、因数分解や場合分けの段階で、重要な切り口を、明確に組み込んでおく方が良いでしょう。
※また、そもそも伝え方という観点から判断すると、その方が適切なのだから、採用選考としても、良い評価を得やすくなります。
今回の場合、「そもそもアルコールを飲まない人」「アルコールの中で、ビール以外を飲む人」「ビールの中で缶ビールを選ぶ人」といった視点は、場合分けしたどの項目でも言及が必要になるはずです。そうであれば、あらかじめ、因数分解や場合分けの中に入れ込んでおきましょう。
今回の解説は以上です。くれぐれも、「因数分解」や「場合分け」をどのような切り口で行い、どのような境界線・粒度で行うかは、しっかりと考えましょう。そしてその時は、「商材理解」を深めることを忘れないようにしてほしいです。
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