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本コラムの趣旨
学生や社会人に向けてケース面接の指導や執筆活動をしている戦略コンサルタントが、フェルミ推定やケース問題のポイントについて解説する【プロによる実践講座】シリーズ。今回は第15弾です。
今回のコラムでは、“現実的”な思考プロセス・議論の流れについて、解説したいと思います。
ケース面接において、「様々な視点から考え、広く項目・要素を押さえる」ことが非常に重要であり、これを怠ると、重要な論点を外してしまうことで、中身のない議論に時間を消費してしまうリスクがあることは、これまでのコラムにて解説してきました。
しかし、きわめて短いケース面接の時間内で、広く考えることばかりに時間を使っていては、なかなか議論が進まないでしょう。また、十分に時間をつぎ込んでさえいれば、モレなく項目・要素を押さえられるとも限りません。
今回は、様々な視点から考えることによる「論点把握」の難易度が高い問題にて、「現実的」にどのようなプロセスで論点が特定されるのか、具体例をもとに考えていきます。あえてきれいに進めない柔軟な思考や議論のプロセスが、現実的かつ有効であることを提示したいと思います。
今回のテーマは、「町の個人経営の文房具店」です。例題を以下に示します。「よくあるミスを修正する」のが本コラムの趣旨ですので、皆さんも同じようなミスをしてしまうか否かを判断するため、ぜひ一度問題を20~30分程度で解いてみたうえで、解説をご覧ください。
今回の例題
※ さて、いきなり施策を考えるのではなく、プロセスを整理してみましょう。まず、文房具店というビジネスにあまりなじみがない方が多いと思われますので、「文房具」を扱うビジネスについて、順番に整理してみます。
問1:この文房具店は、主にどのようなお客さんから売上を得ているのでしょうか。重要なお客さんから、順に記載してください。
問2:この文房具店の主だった競合のタイプを複数上げてください。さらに、問1であげた売上上位のお客さんに対して、最も脅威となる競合を特定してください。
問3:さて、問2であげた脅威となる競合と自社の違いを把握し、自社の強みを特定してください。
なじみがないテーマだからこそ、現状をしっかり把握・整理する必要がある
今回の「文房具店」というテーマを聞いて、どう感じたでしょうか。おそらく、“なじみがない”方が多いのではないかと思います。文房具は「ネットで買う」「本屋やコンビニで買う」のが普通であり、専門店である文房具店に行くことがほぼない方も多いのではないでしょうか。また、都会の方だと、「そもそも、町の個人経営の文房具店を見た記憶がない」という方もいるかもしれません。
このような「なじみのないテーマ」であるからこそ、現状把握を「意識的」かつ「念入り」に行う必要があります。なじみのないテーマは、イメージがわきにくいことで「広く要素を洗い出すことが難しい」ですし、また「どの要素が重要・論点となり得るかという直観」も働きづらいからです。これを怠ると、重要な論点を見落としたまま、議論を展開してしまうリスクが高くなります。
では、このような、なじみがないテーマに対して、現状分析と論点把握を行うとき、どのようなプロセスを経るのでしょうか。以前のコラム(「現役コンサルが語る、公共政策系ケース問題の注意点(前編)【プロによる実践講座:その11】」「現役コンサルが語る、具体的思考の重要性~「シェア2位」の意味(後編)【プロによる実践講座:その8】」)にて、視点を広げるための「意識的」な考え方をいくつか紹介してきました。今回は、それらを復習しつつ、実際の思考・面接プロセスでどう展開されるのか、例示していきたいと思います。
ポイント: 重要な視点・項目である「法人顧客」に気が付くことができたか
まず、解説の初めに、今回のケース問題における一番のポイントを明らかにしておきます。それは、「個人経営の文房具店」特に「地方の商店街」に立地しているような店舗において、最も重要なお客さんは「法人顧客(学校、役所、地場企業 など)」であるという部分です。
しかし残念ながら、このケース問題を出題すると、半数程度の方は、この「法人顧客」に気が付きません。
もちろん、重要顧客だからと言って、「法人顧客の売上UPの打ち手を考えよ」と即座になるわけではありません。法人顧客の売上改善が望めないのであれば、例えば「新規顧客の開拓」「弱い顧客層の強化」などが有効な打ち手でしょう。
しかし、「新規顧客の開拓」や「弱い顧客層の強化」を選択するにあたっても、既存の最大顧客である「法人顧客」に関する言及がなければ、打ち手の提案までの全体ストーリーに大きな欠落があることになります。
「法人顧客」という主要顧客に気が付くにはどのような方法があるか
今回の場合、「法人顧客」に気が付かない人が続出するのは、ある意味では仕方がないとも言えます。なぜならば、一消費者として「文房具店に一人のお客さんとして来店して買い物をする」場面をイメージしても、「法人顧客」に気が付くのが困難だからです。
基本的には、あくまで「普段からアンテナをはって物事を見る」ことが重要です。しかし、テーマによっては、個人の経験に左右され、うまくいかないこともあるでしょう。
今回の場合、いくつかの視点・方法にて、「法人顧客」に気が付くことが可能でしょう。以下3つの方法を例示します。
方法1: 出したアイデアを抽象化し、並列・反対にある項目を考える
シンプルに(狭い視点で)、クライアントである文房具店(3Cの自社)の顧客層を洗い出した場合、「学生(学校の勉強用)」「サラリーマン(仕事・職場で使用)」「主婦(家庭用)」などが上がると思います。
さて、この顧客層の例示には、「バイアス」がかかっています。一般的に、思考にはバイアスがかかるのはやむをえないのですが、考えた内容を「抽象化」することで、バイアスを排除することができます。以前のコラム(「現役コンサルが語る、公共政策系ケース問題の注意点(前編)【プロによる実践講座:その11】」)でも解説しましたが、その流れを具体的に示したいと思います。
まず、これらの顧客層は、いずれも「店舗への来店客」を想定していると言えます。であれば、「店舗に来店する以外の客」はいないのかと考えを及ぼし、「店舗が宅配する」ことはないのかと考えれば、「大口顧客」がいる、具体的には「企業」「学校」「役所」がいるとなります。
別の考え方としては、「学生」「サラリーマン」「主婦」はいずれも「一般消費者」と言えます。それならば、「法人顧客」がいるはずだと考え、具体的には「企業」「学校」「役所」などを想起することになると思います。
方法2: 「店舗側」ではなく「顧客側」から、さらに「購買」ではなく「利用」から考える
そもそも、「文房具店」という「小売店」側から考えること自体、バイアスがかかってしまいます。そうではなく、顧客側(3Cの消費者)から見た「文房具そのもの」を見ると、より広く・違った視点から、洗い出しができると想定されます。
また、顧客サイドであっても、購買する人の視点で見ると、これもバイアスの原因になります。例えば、伝統的な4人家族「サラリーマン、専業主婦、中学生、小学生」を考えると、家庭で文房具を「購買」するのはおそらく「専業主婦」ですが、「利用」は全員、特に中学生と小学生が多いでしょう。このように、「利用者」で見た方が、より広く要素を押さえられそうに思えます。
さて、顧客サイドかつ利用者の視点で見ると、どうなるでしょうか。例えば、サラリーマンを考えてみましょう。サラリーマンが会社で利用している文房具は、だれが購買しているのでしょうか。万年筆などであれば、個人的な持ち物でしょうし、ボールペンなどもこだわりがあるので、個人的に買ったものである可能性も高そうです。しかし、ハサミやホッチキスは、さすがに会社の備品として、総務部などがまとめて購買していると想定されます。つまり、「法人購入」を行っている可能性が高そうです。
補足: 文房具店の商品ラインナップはどこまでか
ここで、「はさみ」「ホッチキス」などが出てきましたが、そもそも文房具店はどのような商品を売っているのか、ここで疑問に思いたいところです。特に、プリンタ関連用品(トナー、コピー用紙 など)は、法人の消費量が多い商品であり、法人による購買とみて間違いないでしょう。このように、現状分析において、商品ラインナップについて広く考えることによっても、「法人顧客」に気が付く可能性を高めることができるでしょう。
方法3: 競合の顧客層も分析すれば、見落としていた別の顧客層を想起しやすい
ケース面接が進んでいけば、いずれ「町の文房具店の競合」(3Cの競合)について考えるタイミングが来ると思います。
どのような競合が存在するのか洗い出してみる
まず、明白な「他の文房具店」以外を考えてみると、
・コンビニ、スーパー、ホームセンター、書店
といった競合がすぐに思い浮かぶと思います。しかしこれらはいずれも「実際の店舗を構えている業態」と抽象化できれば、
・Amazon、ヨドバシドットコム
のような、「インターネットショッピング」も思い浮かぶと思います。
しかし、上記は、いずれも文房具の専門ショップではなく、「ついでに文房具を取り扱っている」にすぎません。「実際の店舗」かつ「文房具の専門店」である競合は「他の文房具店」となりますが、「インターネットショッピング」かつ「文房具の専門店」はないのかと考えると、
・アスクル、カウネット
などが出てくると思います(あまりなじみがない方もいるかもしれませんが、会社名くらいは聞いたことがあるのではないでしょうか)。
自社の顧客層だけでなく、競合の顧客層も洗い出してみる
さて、いったん上記のように競合を洗い出しました。ここで、各競合について、自社分析をするときと同様に、「主要な顧客層」を分析してみましょう。
一般家庭において、アスクルやカウネットを利用している方は少ないのではないかと思います。では、彼らの主要顧客はどこかを考えれば、必然的に「法人顧客」が思いつくと思います。
洗い出した視点・要素は、別の分析ステップでも活用できる
そもそも、「競合」の主要な顧客を分析した理由は、おそらく「自社の顧客層との重複の程度を確認しつつ、どこがより競合しているか」「市場分析からわかった有望な顧客層を獲得しているのは現在どこか」などといったものでしょう。あくまで別の目的のために実施されています。
しかし、仮に自社分析をしている段階で「法人顧客」の存在に気が付いていなかったとしても、競合のカウネットの主要顧客を考える中で「法人顧客」という視点・要素を想起した時点で、自社分析のことを再度思い出せれば、自社の顧客にも「法人顧客」があることに気が付けます。
以上の様に別の分析(競合分析)をしているときに、すでに実施済みの分析(自社分析)を思い出し、お互いの分析で想起した視点や要素を活用すれば、より広い視点で物事をおさえられます。すでに完了した分析・プロセスであったとしても、必要で在れば議論の後半で積極的に見直し・ブラッシュアップをする視点を持ちましょう(このように、必要に応じてプロセスを巻き戻せることも、「広い視点」で考えることの一例と言えるでしょう)。
補足: 「主体の変更」という視点は、広く項目・要素を洗い出しやすい
上記の方法1~3は、いずれも「主体の変更」をしながら、現状を考察していると言えます。「自社」「競合」「法人顧客」「一般消費者(利用者)」「一般消費者(購買者)」などです。
以前、野菜ジュースメーカーのコラム(「現役コンサルが語る、具体的思考の重要性~「シェア2位」の意味(後編)【プロによる実践講座:その8】」)でも「消費者(購買時)」「メーカー目線(営業担当者)」などの、別の主体で考えることが、思考の幅を広げることを解説しました。
主体が異なれば、想起しやすい視点・要素が異なります。そのため、1つの主体からの視点だけでは見落としがちな要素(今回の場合、法人顧客)を想起できる可能性が上がりますので、様々な主体の立場になりきって、考察する癖をつけたいところです。
次回コラム「その16」の予告
今回は、町の文房具店の主要顧客である法人顧客に、「気が付くための方法」「気が付くタイミング」のパターンについて、複数解説しました。
気が付くタイミングや方法は、複数ありますが、特に、「競合」の分析時にその競合の主要顧客を分析する方法が、具体的なイメージで想起できる(抽象的な思考の必要度が低い)ので、難易度が低いと思います。しかし、違う議論(競合分析)時に思いついた内容を、別の議論(自社分析)に紐づけるという、広い・客観的な視野が必要になります。
次回のコラムでは、このように柔軟な考え方を行うための心構えやアプローチに関し解説したいと思います。ぜひ「その16」も併せてご確認ください。
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