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本コラムの趣旨
学生や社会人に向けてケース面接の指導や執筆活動をしている戦略コンサルタントが、フェルミ推定やケース問題のポイントについて解説する【プロによる実践講座】シリーズ。今回は第17弾です。
今回のコラムでは、新商品展開の例題から面接官の出題意図を探ることで、問題の重要な論点を探っていきます。
ケース面接の中でも、特にフェルミ推定となると、ついつい数値計算にばかり意識が行ってしまいがちです。しかし、長い問題文の場合は、様々な情報や制約が付けられているため、売上や市場規模を増大させるビジネスケースと同様、論点の把握が必要です。また、面接中に議論する内容も、問題文から抽出したポイントをもとに、強弱をつけないと、有意義な議論にはなりえないでしょう。
これらの場合、ビジネス的視点で物事を見る(ビジネスの当事者になりきって考える)ことが有効です。ビジネス的視点に立てば、施策は「どのような目的」「具体的にどのような業務上の検討内容・プロセス」にて展開されるのでしょうか。今回は、この「ビジネス的視点で物事を見る」ことについて、解説します。
今回のテーマは、「コーヒーメーカー」です。例題を以下に示します。「よくあるミスを修正する」のが本コラムの趣旨ですので、皆さんも同じようなミスをしてしまうか否かを判断するため、ぜひ一度問題を20~30分程度で解いてみたうえで、解説をご覧ください。
例題
これまで、クライアントのコーヒーメーカーは、味に改善余地があると、お客さまからご意見をいただいていました。そのため、技術開発を重ね、レギュラーコーヒー並みの味が実現できるコーヒーメーカーを開発しました。
さて、この新しいコーヒーメーカーを積極的に展開していこうと考えています。このコーヒーメーカーを導入した場合、コーヒーメーカーの機械の製造費用(仮に10万円とします)を回収するのに、どの程度の期間が必要か計算してください。
設問
問1: 製造費用回収の推定式の内で出てくる「コスト」関連項目として、どのようなものがあるか、洗い出してください。
問2: 回収期間を推定するための計算式を記述してください。
問3: 問2の計算式の中に、「コーヒーメーカーの本体価格のような、導入に関するコスト」があったと思います。この数値を設定するうえで、注意すべきことを提示してください。
問4: 問2の計算式の中に、「インスタント粉の販売数(販売量)」に関する項目があったと思います。この数値を推定する上で、あなたであれば何を考慮に入れるべきと考えるか、考慮すべきことの一覧を提示してください。
今回のフェルミ推定は、コスト部分の分析が難しい
上記の例題は、形式的にはフェルミ推定にあたるでしょう。ただし、一般的なフェルミ推定は、売上のような特定の1項目を推定させますが、今回の場合、売上とコストという2項目を推定し、製造費用の回収期間の部分で2項目のバランスを見ているというのが、現実的な解釈かと思います。そのため、少し難易度が高そうです。
各推定の難易度ですが、売上側は簡単そうです。そもそもコーヒーメーカーを無料で提供するので、実質的には「インスタント粉」から発生する売上がほとんどを占めるでしょう。
では、コスト側はどうでしょうか。実はこちらには様々な項目があり、少々難易度が高いです。主に見逃されるのは、以下の2つの視点ですので、それぞれ分けて解説していきたいと思います。
見落とし1: 巡回・メンテナンスに関わるコスト
さて、コーヒーメーカーは、導入すれば終わりではありません。
まず、コーヒーメーカーを利用していれば、メンテナンスが必要になります。たとえば、機器の洗浄(汚れ、カビなど)や、部品の交換などです。一部は顧客にやってもらうことも可能でしょうが、ある程度はメーカー側で負担せざるを得ない業務です。顧客側が中途半端なメンテナンスを行えば、無料で提供しているコーヒーメーカーの耐用年数が短くなり、メーカー側のコスト増にもなりえます。また、部品交換を一般的な顧客に任せることが難しい、複雑な仕組みのマシンも多いでしょう。
次に、インスタント粉は消耗品なので、当然補充の必要があります。メーカーの担当者が補充のために巡回するコスト(人件費など)が必要でしょう(ただし、この補充は顧客にやってもらうことも不可能ではありません。しかし、機器のメンテナンスで巡回しているのであれば、その時に補充するのが妥当な気もします)。
(なお、実質的に巡回・メンテナンス費用と関連が高いと思われる項目に、営業費用・営業担当者の人件費などがありますが、今回は解説を省略します。)
見落とし2: 既存の旧型コーヒーメーカーを置き換えることによる損失
この部分については、残念ながら言及できる方が少ない印象です。
まず、今回のフェルミ推定は、「新商品の展開」に関するものです。ビジネス的な視点(ビジネスの施策推進者の立場)で見たとき、この「新商品の展開」によって達成したいことは、当然のことですが、売上や利益の最大化になるでしょう。
コーヒーメーカーの新商品を開発・導入すると言われると、どうしても新規導入のお客さんばかりに意識が行ってしまいます。しかし、そもそも、新規のお客さんだけに限定する必要はないでしょう。既存のお客さん(自社の旧型コーヒーメーカーを導入済み)への導入検討がなされてもいいはずです。もし、旧型コーヒーメーカーを新しく置き換えることによって収益がUPするのであれば、ビジネス的な合理性を考えたとき、コーヒーメーカーの置き換えの施策が実施されるでしょう。
ただし、コーヒーメーカーを置き換える場合には、別のコストが発生します。まず、旧型の原価償却が終わっていない場合、旧型コーヒーメーカーの導入費用の残りをコストとして反映する必要があるでしょう。また、仮に減価償却が終わっていたとしても、旧型コーヒーメーカーがそのまま置かれていた場合に将来発生するはずであった利益がなくなってしまうので、その利益を新型コーヒーメーカーのコストとして反映する必要があるでしょう。
以下、上記2つの見落としについて、より詳細を考えていきます。
見落としを防ぐ考え方:巡回・メンテナンスに関わるコスト(見落とし1)
さて、少なからず、コーヒーメーカー導入場所への巡回やメンテナンスの費用を見落とす方がいますが、どうすれば防げるのでしょう。
これについては、基本的なことですが、現実のビジネスの流れを具体的にイメージするのが、最も手っ取り早いでしょう。そもそもコーヒーメーカーに関わらず、製造メーカー側から機械の導入というビジネスの流れを見たとき、「営業・商談」を経て、「機材の導入が決定」したのち、「メンテナンス・アフターサービス」の業務がないというのは考え難いです。
消費者として、具体的に家庭でコーヒーメーカーを利用する立場に立ってみても、飲食物を扱っている機材である以上、洗浄の必要性はすぐに思いつくと思います。そこから、次に洗浄は誰が実施するのかを考えれば、巡回によるメンテナンスを思いつくのは簡単でしょう。
他には、類推も有効です。身近な「マシン」として、自動車の車検はもちろん、エアコンや掃除機であっても、メンテナンスや交換の業務が発生しているのがわかると思います。
いずれにしても、様々な視点から、「巡回・メンテナンス」の視点を思いつくことが可能であり、特に難しい思考(客観的な思考、抽象的な思考)が必要なわけでもありません。「なんとなく考えている」といった初歩的な次元を脱しており、ある程度具体的なイメージを持って考えるクセが着いていれば、この「巡回やメンテナンスに関するコスト」に気が付くのは、それほど難しくないと思います。
見落としを防ぐ考え方:既存の旧型コーヒーメーカーを置き換えることによる損失(見落とし2)
さて、こちらについては、言及できる方が少ない印象です。(今回の例題だと、問1や問3あたりで気づいていただきたいところです。)
問題文が長いのには意味がある: 付加されている要素の抽出が必要
さて、最低限、気が付いていただきたいのは、「なぜ、問題文がこのように長いのか」についてです。そもそも、今回のフェルミ推定の問題は、下記のようにシンプルに出題することができます。
コーヒーメーカーの機械を無料で提供し、インスタントの粉の販売によって売上を上げるモデルにおいて、コーヒーメーカーの機械の製造費用(10万円)を回収するのに、どの程度の期間が必要か計算してください。
元の例題を分解すると、例えば、「新型コーヒーメーカーを開発」「レギュラーコーヒー並みの味に改善」といった要素が付加されて、問題文が作成されているのがわかります。なぜ、出題者はわざわざこのような要素を入れ、問題文を複雑にしているのでしょうか。以下、上記の2つの要素について、それぞれ考えてみます。
要素1: 「新型コーヒーメーカーを開発」の意味とは
まず、気が付きたいのは、「新型コーヒーメーカー」があるということは、「旧型コーヒーメーカー」も存在するということです。さらに、問題文からすでに旧型のコーヒーメーカーにてビジネスを展開していたことも読み取れます。
ビジネス上の合理性を想像すれば、旧型コーヒーメーカーの置き換えも検討が必要になる
まず、今回のフェルミ推定は、「新商品の展開」に関するものです。ビジネス的な視点(ビジネスの施策推進者の立場)で見たとき、この「新商品の展開」によって達成したいことは、当然のことですが、売上・収益の最大化になるでしょう。それを前提に考えてみます。
今回のテーマは、「新しいコーヒーメーカーの開発」とあるため、どうしても新規導入のお客さんばかりに意識が行ってしまいます。しかし、そもそも、展開先を、新規のお客さんだけに限定する理由はないでしょう。既存のお客さん(自社の旧型コーヒーメーカーを導入済み)への導入検討がなされてもいいはずです。
そもそも、新型コーヒーメーカーは、1日当たりの売上量をUPさせると考えて間違いないでしょう。長期的な視点で見て、もし、この売上・利益の増加額が十分に大きいのであれば、ビジネス的な合理性を考えたとき、コーヒーメーカーの置き換えの施策が実施されるでしょう。
たとえフェルミ推定に見えたとしても、ケース面接では、なんとなく数値を置いて計算するといった、数値遊びをするのではなく、やはり上記のように、ビジネス的視点を踏まえた回答を行うことが必要です。
「新規導入」ではなく「置き換え」の場合、別の「負担や損失」が発生する
そして、コーヒーメーカーを置き換える場合には、別の負担や損失(この先は、いったんコストと呼びます)が発生します。まず、旧型コーヒーメーカーの原価償却が終わっていない場合、この旧型の導入費用の残りを“コスト”として反映する必要があるでしょう。
また、仮に減価償却が終わっていたとしても、旧型コーヒーマシンがそのまま置かれていた場合に将来発生するはずであった利益がなくなってしまうので、その利益を新型コーヒーメーカーの“コスト”に反映する必要があるかもしれません。
今回のフェルミ推定には、2パターンの計算式が必要になる
これらの議論を踏まえたとき、どのようにフェルミ推定を実施すべきでしょうか。まず、当然ですが、「新規導入の場合の回収期間の推定」は、ベースになるものであり、必須でしょう。
一方で、「置き換え」の場合における計算式は作成するとしても、実際の数値計算を行うか否かは、面接時間によるでしょう。しかし、面接官は詳細な計算を求めていなくても、一つの視点として提示することを期待している可能性は十分にあります。そのため、まずは「置き換えの施策もあり、その場合は計算方法が異なる」という考え方や、その置き換えの場合の計算式を提示しておくのが望ましいでしょう。
次回コラム「その18」の予告
今回は、コーヒーメーカーの新製品導入の問題を解説しました。特に、コスト面において、様々なことを考慮する必要があることについて、2つの視点を提示しました。
メンテナンス費用については、具体的な業務のイメージができていないと、ついつい見逃してしまいがちなコスト項目です。また、「新たに」新型のコーヒーマシンを開発し、それを導入していく以上、新しいオフィスへの導入だけでなく、自社の旧型コーヒーマシンの置き換えが検討されるべきですが、その時、コストには旧型コーヒーマシンの撤去・廃棄に関するものも言及が必要でしょう。
次回のコラムでは、売上の計算において、今回のような「新製品の開発⇒導入」がどのような意味を持つのか、解説したいと思います。ぜひ「その18」も併せてご確認ください。
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