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本コラムの趣旨
学生や社会人に向けてケース面接の指導や執筆活動をしている戦略コンサルタントが、フェルミ推定やケース問題のポイントについて解説する【プロによる実践講座】シリーズ。今回は23回目です。
今回のコラムでは、社会変化に合わせた魅力的なビジネスについて取り上げました。
今回のケース問題は、問題の問い方があいまいであり、まずしっかり問われている内容を整理する必要があります。ここでいう、「問題の定義」は、ケース問題によくある「前提の定義」とは少し異なりますので、今回詳しく解説します。
また、ビジネス環境への影響には、記載されている社会変化から直接導かれるもの以外にも、派生した様々な変化があり得ます。広い視点がないと、ビジネス機会の範囲を大きく狭めてしまいかねません。
また、あたり前ですが、ここで「本当に良いアイデアを出すことを求められているわけではない」と考えることも重要です。問われている「社会変化」自体は、日本全国の皆さんが知っていることですし、その変化に対応したビジネスを、日本中の人が考えています(本当に良いアイデアであれば、とっくに誰か別の人がすでにビジネスと立ち上げているでしょう)。
その観点からも、「とあるビジネスが良い」と示すことそのものではなく、それを「良いと特定したプロセス」やその理由こそが重要であり、そこが面接官から見られていると考えるべきでしょう。アイデア勝負をすることは望ましくありません。
今回のテーマは、「団塊の世代の退職」です。例題を以下に示します。「よくあるミスを修正する」のが本コラムの趣旨ですので、皆さんも同じようなミスをしてしまうか否かを判断するため、ぜひ一度問題を20~30分程度で解いてみたうえで、解説をご覧ください。
問題文
設問
問2: 「団塊の世代が退職」することによって、日本の世の中にどのような変化が起きるでしょうか。様々な側面から、整理してください。
問3: 「魅力的なビジネス」とありますが、この場合「魅力的」とは具体的にどういう意味でしょうか。まず、あり得そうな意味を複数洗い出し、妥当なものを選択してください。
問4: 問1と問2で整理した内容を踏まえつつ、「魅力的なビジネス」と、それを選択した理由を教えてください。
陥りがちな罠: 簡単な現状把握のみを基礎として、打ち手を考えてしまう
まず、この問題が出題されると、皆さん必ず答えるのが「高齢者の人口が増える」「高齢者はお金を持っている」「高齢者は時間に余裕がある」といったものです。そして、これらの「現状認識」をベースに、いきなり打ち手を答え始めます。
しかし、少し考えてみてほしいのですが、「高齢者はお金を持っている」「高齢者は時間に余裕がある」といった部分は、以前から同じ状況であり、団塊の世代の退職に特有の変化と呼べるものではないでしょう。
また、「高齢者の人口が増える」というのは、正しいのですが、「変化」はたったこれ1つだけでしょうか。
まずは、現状分析をどう実施するかについて、少し考えてみます。
視点: 問題文を因数分解する
さて、もう少し現状把握をしっかりと実施したいところです。特に、「変化」の洗い出しが重要でしょう。
そのため、まずは今回の問題文を因数分解してみましょう。問題文を見てみると、例えば「団塊の世代」「魅力的なビジネス」という2つの単語が気になります。以下、これらについて、考察していきます。
「団塊の世代の退職」による変化とは
さて、団塊の世代の退職による変化には、どのようなものがあるでしょうか。これは様々な視点から洗い出すことができると思われます。今回の例題の問1と問2は、この団塊の世代の退職の特徴に対して、それぞれ違った視点から言及しています。以下、それぞれ考察してみましょう。
「団塊の世代」の特徴とは(問1)
この問1で問われている内容は、「団塊の世代」と問題文で、“わざわざ”指定されている意味です。「陥りがちな罠」でも述べた通り、「お金を持っている」「時間に余裕がある」というのは、「団塊の世代の高齢者」だけでなく、近年の「高齢者全般」に言える特徴です。では、「団塊の世代」特有と言えそうな特徴とは、何でしょうか。
視点: 代表的な例と比較する
ここで、「以前の世代」との違いを考えれば、様々な違いが出てくると思われます。それらの違い、つまり特徴を踏まえたビジネスの方が、より「魅力的」といえるでしょう。
※補足: 以前の世代の退職者にも共通する特徴であれば、すでにそれに合わせたビジネスが存在するかと思いますが、団塊の世代特有の特徴に合わせたビジネスであれば、これから立ち上がる・大きくなるビジネスですので、より「魅力的」と言えると思われます。これは、市場を細分化したうえで、どのセグメントの市場が特に増加するのかを判定しているとも言えます。
※ここからは、あくまで一例としてご確認ください。
団塊の世代の特徴として、様々なことが巷で言われています。例えば「アクティブシニア」的な話などです。この世代の方々は、これまでの世代の方々より「行動力がある」「活動的である」という特徴があるなどと言われています。そうなると、例えば、「海外旅行の需要」「社会的な活動」「積極的な高額消費」などへ、つながりやすくなるかもしれません。これらの市場は、高齢者の増加割合以上に伸びが大きい市場、場合によっては新しく発生する市場であり、より「魅力的」な市場と言えるでしょう。
今回、例の1つとして、アクティブシニアを挙げましたが、実のところ、これはあまり良い例とは言えないでしょう(世間で一般的すぎる特徴であるため)。この種類の特徴は、しっかり考えて示唆のある提言をするほど、かえって客観的であるとは言い難くなる傾向もため、人によっては「それは違うと思う」と考える場合もあるでしょう。面接官としっかり議論しつつ、「打ち手」に必要な特徴を明確にしたいところです。
別の言い方をすれば、ここは自由かつ独特の観察力・洞察力・解釈が問われる部分と言えるため、あまり「違うと思う」と言われることを恐れない方が良いかと思われます。
(客観性が不十分なことは、伝え方を工夫すれば十分でしょう。例えば、「これは私の感覚も入るのですが、…」といった言い回しで意見を述べるなどです。)
一番良くないのは、「団塊の世代」の特徴を、考慮すらしないことでしょう。検証した結果、「ビジネス上で有効な団塊の世代に特有の特徴はない」という話であれば問題ありませんが、何も検証していないのであれば、それは検証プロセスをスキップしていることになってしまいます。
団塊の世代が「退職」することによる変化とは(問2)
今回のような問題の出し方をすると、「団塊の世代そのもの」や「高齢者から直接お金が発生するビジネス」ばかりに集中してしまいがちです。しかし、それ以外の変化はないのでしょうか。もっと広い視野から、少し考えてみましょう。
視点: 「別の主体から考える」&「考えている項目を抽象化する」
さて、高齢者以外の世代から考えると、何か見えてくることはないでしょうか。ここは、高齢者以外の世代として、わかりやすく「若者」視点で考えてみましょう。
団塊の世代の退職による、最もわかりやすい変化は「高齢者の人口が増える」という部分です。これを、若者視点から見るとどう見えるでしょうか。
まず、「年金問題」などからもわかる通り、「より少ない若者の数で多くの高齢者を支える」必要が出てきます。これは、「税金負担が重くなる」などの理由による、若者の消費の減衰といった話だけではなく、もっとわかりやすい変化があります。この「より少ない若者の数で多くの高齢者を支えなければならない」という内容を、抽象的に言い換えれば、「労働者人口の割合が小さくなる」と言えます。
また、別の視点だと「退職」という単語を言い換えれば、「働かなくなる」という意味に解釈でき、労働者の数が減ることになるため、ここから「労働者人口の割合が小さくなる」という内容を導くこともできるでしょう。
そうすれば、必然的に「効率的な労働力の活用」が必要になるため、例えば、「低付加価値な仕事の海外移転」といったビジネス(例:アウトソーシング)や、労働生産性の向上(例:機械化・ロボット化・AI などの技術)といったビジネスが有望になってくるでしょう。
これらは、いずれも高齢者から直接発生する需要やお金ではありませんが、団塊の世代の退職が増えることで魅力が増すビジネスの一つであることは、ご納得いただけるのではないかと思います。
この種類の打ち手の方向性を、面接中に選択肢として提示できるか否かは、「広い視野を持っている」というポイントの評価を大きく変化させるでしょう。必ずしも、これらを最も魅力的なビジネスの最終的な回答にする必要はありませんが、「方向性の提示」「選択肢の提示」レベルで大丈夫ですので、面接官に提示しておきたいところです。
コンサルの視点で回答を構成する必要がある(俯瞰的、客観的、論理的に)
さて、ここまで様々な選択肢の洗い出しや、特徴の分析をしてきましたが、なぜこれらのプロセスが必要なのでしょうか。このような面倒なプロセスを飛ばして、「何かイケてる打ち手を1つ出せば、それでOK」ではないのでしょうか。
以前、サーフショップのコラムでも解説しましたが、ケース面接は「コンサル」の採用選考として行われる以上、やはり「コンサル」に必要とされる様々な思考力を図るものであり、議論や思考のプロセスも、コンサルの実務に沿った形式が望ましいです。
もちろん、自分一人で出資金を用意し、自己責任で勝手に自己資金を投じて新しいビジネスをやるのであれば、「別の選択肢を比較しながら考慮する」ことも、「なぜその選択肢が優れているのか理由を考える」ことも、“必須ではない”でしょう。
しかし、コンサルの仕事は、クライアントという“他者(他社)”のことについて実施しますし、コンサルが提案した内容をクライアントが実施したことによって、失敗や損失が発生したとしても、コンサルが責任を取るわけではない場合が大半です(出入り禁止になる程度です)。
そのため、クライアントやその関係者をロジカルに説得する必要があります。そうなると、例えば、「客観的」な視点から、様々な可能性を「俯瞰的」に考慮しながら選択肢を洗い出し、それぞれのメリット・デメリットなどを「論理的」かつ体系的に整理し、なぜ最終的な提案内容・選択肢が良いのか、理由を説明する必要があるでしょう。
今回のケース問題も、同様の視点で取り組まないと、コンサルティング会社のケース面接としては、「検証が不十分な回答」になってしまいます。特に、これまでのコラムでも解説した通り、いわゆる“論理的”な回答をするにあたって、現実的には「俯瞰的な視点」「広い視点」といった部分がおろそかになる方が多いです(一方、単純な論理の飛躍などは、あまり発生しません)。視野が狭くならないよう、注意してください。
本コラムのまとめと、次回コラム「その24」の予告
以上のように、「団塊の世代が退職」といっても、変化の内容は様々です。
まず、大きくは高齢者人口の増加を中心とした「高齢者消費の市場の変化」と、退職者の増加による「労働者人口の割合の減少」があります。
特に後者の「労働者人口」の視点を見落としやすいので、広い視野から物事を把握する(今回の場合、退職という現象・単語の裏側を見る)ことを心がける必要があるでしょう。
また、前者も「高齢者消費の市場増加」と単純に解釈してしまうと、現状把握として不十分でしょう。「団塊の世代」と指定があることから、この世代の特徴を洗い出すなど、より深い現状把握をしないと、検討として不十分だと思われます。
今回のコラムは、どちらかというと、「適切な現状分析のアプローチ」という上段の話について解説しました。次回は、これらの現状分析を踏まえつつ、「どのようなことに気を付けながら回答を構築・伝えるべきか」について解説いたします。ぜひ「その24」も合わせてご確認ください。
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