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本コラムの趣旨
学生や社会人に向けてケース面接の指導や執筆活動をしている戦略コンサルタントが、フェルミ推定やケース問題のポイントについて解説する【プロによる実践講座】シリーズ。今回は21回目です。
今回のコラムでは、新規事業の採算性検討のケース問題を取り上げました。その中でも、特に出題者の意図をつかむ部分に、ポイントがある問題について、解説します。
まず、「採算性検討」といわれると、ついつい単調にフェルミ推定をしてしまう人がいます。もちろん、議論や思考のプロセス中の1パートとして、フェルミ推定が必要になりますが、フェルミ推定だけを実施すれば良いわけではない場合も多いです。
また、新規事業系のケース問題になると、ついつい思いついたアイデアに引っ張られて、それのみを述べる方も少なくありません。しかし、実務者の立場で考えた場合、それでは不十分であり、ある程度広い視点で選択肢を検討すべきである場合が大半のはずです。ケース面接は時間的制限もあるため、ある程度簡略的な方法であることは仕方がありません。しかし、そもそもの実務の考え方やプロセスから、大きくかい離した内容であることは、あまり好ましくないでしょう。
今回のテーマは、「おにぎり屋」です。例題を以下に示します。「よくあるミスを修正する」のが本コラムの趣旨ですので、皆さんも同じようなミスをしてしまうか否かを判断するため、ぜひ一度問題を20~30分程度で解いてみたうえで、解説をご覧ください。
例題
また、仮に出店した場合、3年後にはそのお店の業績がどうなっていると思われるか、推定・説明してください(問2)。
この例題を適切に解くうえで必要な視点
さて、この問題を適切に解くには、最低限2つの視点が必要になると思われます。これまでのコラムでも紹介してきた内容になりますが、改めて今回の例題に沿って解説いたします。
下記の2つの視点を考慮すれば、今回のケース問題、特に問1が、「新規事業立案」「採算がとれる、良い“ビジネスモデル”を考える」という側面の強いケース問題である可能性が高いことが想定できるはずです。以下、解説します。
視点1: 「出題者の意図を考える」
さて、今回の例題には、問が2種類あります。その意味を考えてみましょう。
まず、問1は理解できるでしょう。この例題のメインとなる、新規事業の採算性の検討を求めています。
さて、問2が少し不思議な感じがします。この問2は何のためにあるのでしょうか。もちろん、文面通り素直に解釈すれば、3年後の「事業の将来やトレンドなどを考える思考力」を見たいだけの可能性もあります。
しかし、問1と合わせてみると、別の視点も見えてきます。問2で「仮に出店した場合」と書いてある以上、問1も「出店できる・採算が取れる場合のケース」が望ましいのではないでしょうか。仮に、問1で「採算が取れない」という結論になった場合、問2が非常に回答しづらくなります。採算が取れない新規事業に対して、3年後の業績を予測するとなると、イメージがわきにくく、そもそも意味があるとは思い難い検証をすることになる可能性が高いです。
(※注: 決して、採算が取れるように、計算式を“歪める”べきだというわけではありません。詳細は後ほど解説します。)
視点(補足): 「問題文をシンプルなバージョンを考え、それと比較する」
また、そのうえで問1を見ると、問題文が以下のような単純な書き方をされていないのも気になります。
例題:シンプル版
採算が取れるか否かを検証するために必要なことは、“数値計算”という次元で見れば、売上とコストを分析すればよいことになります。しかし、もし出題者が売上とコストを「計算する思考力そのもの(定量的な思考力や計算力など)」を見たいのであれば、上記のシンプル版の例題のような、単純なフェルミ推定として問題を作成・出題すれば十分であるはずです。
視点2: 「当事者の立場になって考える(当事者意識をもって解答する)」
さて、仮にあなたがどこかの飲食チェーンの本社で働いていたとして、今回の例題のような指示を上司より受けた場合(もしくは出資者などに事業の内容説明が必要な場合)、どうするでしょうか。(実施する施策を、誰にも説明・説得せずに済む場合は、現実的にほとんどないでしょう。)
おそらく、まず「どのような形態の店舗・ビジネスモデルにしたら儲かるのか」を考えるはずです。そのために、どのような出店・ビジネスパターンがあるのか洗い出すでしょう。(詳細は後述しますが、「品川駅」で「おにぎりと汁物を売る店」といっても、「在来線の改札近く」「新幹線のホーム」など、出店のパターンは様々あります。)
ここで、もしあまり深いことや詳細を考えず、“代表的”な出店パターンによる収益構造を分析して提示した場合、上司や出資者からどうコメントされるでしょうか。このような“代表的”なパターンは、あいまいな“ふわっと”したイメージや定義の場合が多いことに問題があります。
まず、「採算が取れない」という結論であれば、かなり厳しい指摘をされるでしょう。上司から、当然ですが「他に採算が取れるビジネスモデルはないのか」「そもそも、〇〇のようなビジネスモデルであれば、採算が取れるのではないか」などと、いろいろな指摘をされ、検証のやり直しを命じられるはずです。
一方、仮に「採算が取れる」となっていても、そのまますんなり検証が終わるとは思い難いです。“代表的”な“ふわっと”したビジネスモデルだと「ビジネスモデルの具体的イメージがわかないので、これだと本当に計算方法や計算結果が正しいのかわからない。詳細をもっと詰めてこい。」などの指摘を受ける可能性が高いです。(イメージできなければ、それが「最善」か否かもわからないので、そもそも「もっと採算のいいビジネスモデルはないのか」といった指摘をされる可能性も高いでしょう。)
以上のように、「あいまいなビジネスモデル」や「自分が最も良いと思うビジネスモデル」のみを説明しても、上司を説得することはできないでしょう。「他のビジネスモデル(特に上司や意思決定者が、良いと考えそうなビジネスモデル)の採算性を検証」するか、もしくは「自身が採算性を検証したビジネスモデルが、なぜほかのビジネスモデルよりも優れているのか説明」できないと、プレゼンや説得として不十分であり、論理的な解答とは言えません。
視点(補足): 「具体的にイメージしながら考える」
上記のように、ビジネスモデルがあいまいなままだと、そもそも相手に話が伝わりませんし、その採算性の検証結果である各種数値が、妥当なのか否かもわかりません。
(※例:簡単な例をあげると、「賃料は50万円」と言われたとき、聞き手はこの値の妥当性をどう判断するでしょうか。まず具体的な広さの数値がないと、結果である数値の妥当性は全く分かりません。また、仮に、15m2と記載されていたとしても、テイクアウト専業であれば可能かもしれませんが、イートイン有りであれば、おそらくスペースが足りないでしょう。このように、他の前提によって、「計算結果の数値そのもの」というよりも、「計算方法そのものの妥当性」が変わってしまうため、しっかりとした前提の確認が必要になります。)
以上のように、具体的なイメージをもとに、様々なビジネスモデルの中身の前提を置かなければ、そもそも採算性の計算が正しいか否かを、聞き手も判断できないでしょう。
今回の問1にて、あるべき検討プロセス
さて、上記の2つの視点を踏まえて、今回の例題をもう一度見てみましょう。まず、「品川駅」で「おにぎりと汁物を売る店」とありますが、ビジネスのパターンとしては、様々なものがあり得ます。
例えば、品川駅のどこに出店するのでしょうか。極端な2例を出すと、「在来線の改札の外」に出店する場合と、「新幹線のホームの売店」として出店する場合では、客層を含めて、様々な要素が全く異なるでしょう。
また、店舗の形態も重要です。おにぎりと汁物を売るだけであれば、テイクアウトのみの店舗も考えられますし、イートインを含んだ形態(店内で飲食するスペースがある店舗形態)も考えられます。どちらかによって、コスト(特に賃料)や客層が大きく変化するはずです。賃料の変化は、採算性に多大な影響を及ぼすでしょう。
「有望なビジネスモデルを検討」するプロセスを抜かさない
以上のように、「新規事業の採算性」を検討するのであれば、当然採算性の高い、良いビジネスモデルの採算性を検討対象とすべきであり、結果として報告すべきでしょう。それを踏まえると、新規事業の検討をするうえで、単純にかんがえても、最低限以下の2つのプロセスが必要なはずです。
・Step1: 有望なビジネスモデルを考案・議論
・Step2: ビジネスモデルの採算が取れるか否かを検証
この時、Step2は皆さん実施しますが、Step1を抜かす方が多いです。
また、文面だと表現が難しいのですが、Step1とStep2では、考え方・心構えが異なる点にも注意が必要です。まず、Step1は、「可能な限り採算性がよさそうなモデルを探す」という、ある意味で「大きく意思を入れた思考」が必要です(仮説思考の一種と考えることもできます。すべてのモデルにて、Step2の採算性検証を実施するのは、現実的ではないでしょう)。一方、Step2では、有望だと思われるモデルに対して、「中立的・客観的」に数値を計算する必要があります。
コンサルの仕事というと、ついつい「中立的・客観的」な思考ばかりに目が行きますが、思考プロセスの中には、Step1のように、ある程度意思を入れる必要もあります。Step1を、変な意味で中立的・客観的に行ってしまうと、意味のない検証Stepになってしまうので、注意してください。
次回コラム「その22」の予告
さて、今回のケースでは、新規事業の採算性検討の問題にて、「具体的にどのようなビジネスモデルであるかはっきりさせること」、および「より有望な採算性の良いビジネスモデルを考案する必要があること」を提示しました。そのことに気が付くためには、「出題者の意図を考える」という視点を中心に見ながら、「当事者の立場になって考える」ことが近道であることを解説しました。
これらのことを踏まえず、“なんとなく”フェルミ推定してしまうと、かなり厳しい評価が下されるでしょう。
今回のコラムは、どちらかというと、この問題において押さえておくべき「大原則」的な内容を解説しました。そのため、次回は「この原則を踏まえて、現実的にはどの程度広く・深く検討を進めるべきか」や、「より細かいプロセス中で発生する重要なポイント」について解説いたします。ぜひ「その22」も併せてご確認ください。
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