目次
実際のケース面接で応用できるようになるために
「フェルミ推定の教科書」(下記バックナンバーを参照)では、これまで以下の内容を扱ってきました。
➢ テクニック編: カフェ系の複数の例題を基に、問題のタイプ別にどの様にアプローチすべきか、特に、最初の「因数分解」の切り口を重視して、解説してきました。
しかし、上記だけでは、実際のケース面接で応用できるようになるためには、不十分だと思います。
まず、例題を基に説明しましたが、その例題の数は限られていました。「抽象的」な視点でどうするべきかであれば、ある程度イメージが付いたと思います。しかし、実際にさまざまな商材のフェルミ推定に応用するには、より多くの例題を基に訓練しながら、帰納的に理解することが有効です。
また、実際のケース面接は、「採用選考」なので、差をつけるための問題が出題されます。受験者間で差をつけるため、少し「ひねり」「ひっかけ」があることが少なくありません。
※今後説明していきますが、「ビジネス理解」、特に「商材の理解」がしっかりしていないと、「ひねり」「ひっかけ」をクリアすることができず、評価が低くなってしまいます。
上記のことを踏まえながら、例題を通して、より良い思考方法を習得してほしいです。
今回の例題は、「缶ビールの市場規模」です。面接時間は30分であると想定して、考えてみてください。
ありがちな回答例のどこがまずいか
さて、「缶ビールの市場規模」を求められたとき、ありがちな回答はどのようなものでしょうか。
よくあるイマイチな回答例
まずは、よくあるイマイチな回答例を一つ載せておきます。
Step1:市場規模の因数分解式を書く
Step2:因数分解した式に、値を入れる
次に、各枠の数字を置き始めるでしょう。
日本人口は、一旦「1億2000万人」でよいとして、その次の、「頻度」が問題です。仮に、ここを、「1週間に2回」と置いた場合、どうなるでしょうか。
5分の面接なら、これでよいかもしれません。しかし、30分の面接では大雑把すぎます。おそらく、面接官から、「もう少し詳しく考えて」という質問を受けるはずです。
Step3:場合分けして、数字の設定を行う
そうすると、「年齢で分けて考えてみます」と言って、下記のようなマトリックスを書き出す人が多いです。
そして、このマトリックスの各項目の数値を、順次埋めようとします。
※明らかそうな部分については、すでに上記のイメージ図に値を入れておきましたが、それ以外の部分については、面接官と細かい議論をしながら、数値を設定していくことになるでしょう。
さて、このよくある回答例は、どこがイマイチなのでしょうか。少し考えてみましょう。
改善箇所1: 目標数量の分解式がイマイチ
さて、市場規模の因数分解は、抽象的に述べると、「人口」「頻度」「1回あたりの量」という表現に言い換えることができます。
どの商材にも当てはまりそうな分解になってしまっている
この因数分解式は、缶ビールでなくても当てはまる、一般的なものであることに気が付きましたか。
例えば、「缶ビール」という部分を、以下のような商材に置き換えても成り立ちそうです。
➢ ガム
➢ 冷凍食品
➢ クリーニング屋
➢ カラオケBOX(1回あたりの量⇒時間)
消費財もあれば、小売店も存在します。
さらに、1回に一つしか買わないものは、「1回あたりの数量をすべて1」と置くと考えれば、以下の商材でも成り立ちます。
➢ パソコン
➢ ディズニーランド
➢ マクドナルド・ファーストフード
➢ スターバックス・カフェ
つまり、上記の「よくある回答例」は、「大半の商材」で成り立ってしまう、一般的な分解式であるといえます。
ポイント: 商材の特徴を踏まえた分解であることが望ましい
どの商材に変えても成り立つということは、「対象の商材の特徴を何も押さえていない」と言えます。
そのため、「缶ビール」について何も考えていないことになり、「思考力の発揮」が見られない回答と判断されてしまう可能性が高いです。思考力を見る採用選考としては、マイナス評価となります。
もちろん、このような一般的な分解が最も適切な商材も考えられますので、あくまで“可能性”の問題です。
しかし、「差をつける試験である採用選考」において、このような一般的、つまり誰でも最初に思いつくような分解式が、最適である可能性は低いということも、同時に認識しておいてください。
改善箇所2: 場合分けを年齢とするのがイマイチ
そもそも因数分解した、「頻度」「1回あたりの量」などに、1つずつ数値を設定するのではなく、わざわざ(年齢などで)場合分けしたうえで数値設定するのは、なぜでしょうか。
すでに、「フェルミ推定の教科書【原則編 2/7】」でも説明しましたが、その理由は、より正確・詳細に数値を設定し、予測精度を上げるためです。ということは、場合分けは、上記の「頻度」「1回あたりの量」などの分解された項目に、大きな差が出るような切り口である必要があります。
本当に、年齢や性別で分けることが、適切か
このような場合分けが必要な時、すぐに「年齢」や「性別」といった、どこかの回答例に書いてありそうな切り口で、場合分けする人が多いです。しかし、本当に、「年齢」や「性別」で分けるのが正しいのかを考えなければなりません。
具体的には、商材の特徴を考慮するのがよいでしょう。
今回の商材は缶ビールですが、「頻度」や「1回あたりの本数」は、確かに、年齢によって異なるでしょう。しかし、これが「最も差がつく」、適切な切り口なのでしょうか。
考えてみればわかりますが、「20-39歳」と、「40-59歳」で、何が違うのでしょうか。「60歳以降」も、多少変わるでしょうが、大きな違いになるとは思えません。
後ほど説明する通り、缶ビールという商材を踏まえた、より適切な切り口があるはずです。
※注意: 年齢や性別で分けることが適切なことも少なくない
さて、改善箇所1と異なり、この改善箇所2の場合、よくある「年齢」「性別」で分けることが、適切な問題も少なくありません。
よって、しっかり商材の特徴を考えた結果、年齢が適切であるということであれば、「年齢」という切り口を使うこと自体は基本的に問題ありません。しかし、その場合でも、「分類の粒度や境界線」はしっかり考えてほしいです。
ポイント: 切り口だけでなく、境界線や粒度も、商材理解をもとに考える
よくある回答に、マトリックスの数値を設定する段階で「大学生は、飲み会が多いので・・・」などといった理由を挙げるパターンがあります。
しかし、そのような切り口で議論するのであれば、「0-19」「20-39」のような分け方ではなく、「大学生(19-22歳)」のような分け方をするべきです。
このように、年齢の切り口で、「0-19」「20-39」「40-59」「60-」といった粒度で分けることが正しい場合は、極めて少ないと認識したほうがいいでしょう。
結局、場合分けの切り口の「粒度」「境界線」まで考えれば、適当な公式を当てはめたものが正解である可能性は低いです。切り口はもちろんですが、必ず、その粒度や境界線も考えましょう。
ポイント: 「思考力が発揮されている感」を受けない分解になっている
上記のように、「論理的に間違い・矛盾が発生している」とまでは言い切れないものの、「論理的に考えて、最適・より良い回答」とは思い難いのが、この回答例の問題点といえます。
そして、「最も一般的な考え方を持ってきた」という傾向もみられるため、「思考力が全然発揮されていない」という視点でも、ケース面接という「思考力をはかる試験」への回答として、イマイチです。
では、どのように考えれば、より良い切り口や分解を導き出せるのでしょうか。
まずは商材の特徴を理解⇒整理した後に、分解や場合分けの切り口を考える。
すでに、改善箇所1と2でも述べた通り、「商材の特徴」を、まずしっかりと把握する必要があります。
「原則編2」にて、「【ポイント3】現実感のある議論をするため、知っている例を、具体的にイメージしてみる」という話をしたのを覚えていますか。「商材の特徴」を把握するためには、このような思考を、しっかり持つよう意識することが重要です。
次以降で、今回の缶ビールにおける商材理解の具体例を見ていきましょう。
プロセス1:まず、どの方向性で因数分解を進めるか
さて、フェルミ推定の教科書の「テクニック編」でも示した通り、まずどの様な因数分解式を選択するかで、答えの方向性が大きく変わってしまいます。
しかし、今回のフェルミ推定の場合、ここは簡単でしょう。以下で見ていきましょう。
需要ベースで考えざるを得ない
まず、「需要」と「供給」のどちらで考えるか考えてみます。
供給ベースの回答は、数値設定が不可能に近い
供給の場合、おそらく、小売店の売上を積み上げることになりますが、この方法は、不可能に近いことがわかるはずです。以下、箇条書きで整理しておきます。
➢ 缶ビールを取り扱う店舗は、「コンビニ」「スーパー」「酒屋」などさまざまあるが、これらの店舗数がいくつかわかりません。
➢ 上記の店舗のうち、どの程度の割合で、缶ビールを取り扱っているかわかりません。
➢ 1店舗で、缶ビールがどの程度売れるのかについても、何を根拠に計算するのか、はっきりしません。
上記のように、いずれの数値も「振れ幅」が大きい項目ばかりであり、“桁”のレベルで数値がズレそうな、論理的な推論が難しいものばかりです。
需要ベースの場合は、数値設定のイメージがしやすい
需要の場合は、すでに例示した通りです。因数分解のどの項目も、桁単位でずれるような「振れ幅」が大きい項目はないでしょう。
そのため、今回は需要ベースが適切そうです。
ポイント: 今回の場合、因数分解の切り口より、先の“詳細”で差がつく
しかし、さすがにこの問題を、「供給」ベースで解く人はほとんどいないでしょう。大半の受験者は、「需要」で解くはずです。
ということは、ケース面接において、ここでは差がつかないことになります。そのため、この先に、因数分解の細かい分け方など“詳細”をどこまで詰められるかで差がつくでしょう。
では、因数分解の詳細を見ていきましょう。
※ポイント: 消費財の場合、需要ベースで考えるのが基本
ここで、少し“公式”的なテクニックになりますが、確認しておきましょう。
今回の缶ビールのような「消費財」の場合、需要ベースで考えるほうが、解きやすいことが多いです。そのため、消費財であれば、まずは需要ベースのアプローチの方が適切ではないかと、仮説をもって検討しましょう。こうすることで、スピードUpして考えることができ、より先のプロセスに時間を使うことができるようになります。
さて、次回の解説では、後半部分を説明します。
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