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本コラムの趣旨
学生や社会人に向けてケース面接の指導や執筆活動をしている戦略コンサルタントが、フェルミ推定やケース問題のポイントについて解説する【プロによる実践講座】シリーズ。今回は19回目です。
今回のコラムでは、公共政策系の将来予測のフェルミ推定から面接官の出題意図を探ることで、問題の重要論点を探っていきます。
ケース面接の中でも、特にフェルミ推定となると、ついつい数値計算にばかり意識が行ってしまいがちです。しかし、長い問題文の場合は、様々な情報や制約が付けられているため、ビジネスケースと同様、論点の把握が必要です。
今回の例題の場合、「現在の値」ではなく、「将来の値」を計算しているのが重要なポイントです。この場合、将来の数値を予測する「実際の担当者の立場で考える」ことが有効です。担当者であれば、まず、将来予測をする場合、「何が数値に影響を及ぼすか」という視点や要素を考えるでしょう。その考え方の詳細について、具体的に解説していきます。
今回のテーマは、「介護士」です。例題を以下に示します。「よくあるミスを修正する」のが本コラムの趣旨ですので、皆さんも同じようなミスをしてしまうか否かを判断するため、ぜひ一度問題を20~30分程度で解いてみたうえで、解説をご覧ください。
例題
そこで、15年後を目標に、これらの諸問題を解決していくことになりました。さて、諸問題が解決された場合、15年後に日本の高齢者向けの介護施設で働く介護士の数は、合計何人必要になるでしょうか?
※この問題のポイント
さて、この問題は、一見するとただのフェルミ推定にみえます。しかし、なぜ出題者は「介護士の人数を推定してください」というシンプルな問題文にしなかったのかについて、考察してみましょう。
設問
問1: 仮に「介護士の人数を推定してください」というシンプルな問題文であった場合と比較して、どのようなこと(現状分析や論点など)について、追加で検討する必要が出てくるでしょうか。(問2の解答の要素・項目との関連を意識しながら、回答してください。)
問2: このフェルミ推定における、数式・因数分解の要素・項目を記述してください(問1の解答で洗い出した検討事項と連携した数式・因数分解にしてください)
問3: 問1で洗い出した検討事項について、それぞれどのようにアプローチ・考えるべきか、重要そうなものから順番に述べてください。
いきなり数値計算を始めてはいけない: 出題者の意図を考察する
さて、シンプルに介護士の人数を推計する場合、例えば、以下の数値を計算するでしょう。
・介護の総需要 ÷ 介護士1人当たりの供給
そして、「介護の総需要」をもう少し細かく、例えば以下のように計算するのではないでしょうか。
・高齢者人口 × 介護を必要とする割合 × 介護施設の利用を希望する割合 × 介護サービスを必要とする頻度(日数や時間)
さらに、もう少し気が利けば、そもそも介護のサービスの種類(介護を必要とする度合いなど)を数パターンに分け、それぞれにおいて「介護サービスを必要とする時間」はもちろん、介護の手間の違いによる「介護士1人当たりの供給」が異なることなどを明示しながら、2軸のマトリックスにして、各因数分解の項目を介護サービスの種類ごとに推定しながら、計算を進めると思います。
出題者の意図を問題文の因数分解から読み解く
上記のような回答をする方は非常に多いです。しかし、今回のフェルミ推定において、この回答方針では、おそらく不十分です。そもそも、上記のような内容を聞きたいだけであれば、「介護士の人数を推定してください」という、単純な問題文で十分だからです。
しかし今回の問題は、15年後という「将来の数値」を推定させていますし、さらに「諸問題を解決していく」といった形で、介護を取り巻く「状況・環境の変化」があることを示唆しています。わざわざ、このような補足情報が問題文に追加されている理由を考えてみましょう。
「状況・環境の変化」には、様々なものが想定される
「将来」に向けて、「状況・環境変化」がある中で数値を推定するわけなので、まず「状況・環境変化」について、「思いつきベース(あまり網羅性を重視しない)」でいくつか挙げてみましょう。
変化1: 年々、介護対象となる層の人口が変化する
15年もたてば、人口ピラミッドは大きく変化します。「1世代(1年)あたりの人口規模」も変化しますし、「平均寿命」も延びていくでしょう。大きく見れば、介護の対象となるのは高齢者であり、これらの世代の方々の一部が介護対象となることを考えると、この人口ピラミッド変化である、「1世代あたりの人口規模」や「平均寿命」の視点は重要です。
変化2:介護が必要となる人の割合は様々な要素で変動する
15年もたてば、様々な技術やノウハウも発達してくるでしょう。例えば、医療技術の発達や健康ノウハウの深化によって、健康に生活できる期間が長くなり、介護を必要とする期間が減るかもしれません。
また、別の視点としては、環境や食習慣の悪化などにより、体調を崩す人の割合が増え、介護が必要になる人の割合が増えるかもしれません。また、医療技術の発達が、健康寿命を延ばさす、単純な寿命のみ延ばせば、介護を受ける期間は長くなるでしょう。
変化3: 介護が必要になる程度が変化する
これは、変化2に似ているのですが、技術やノウハウの変化は、介護を必要とする人の割合だけでなく、各人が介護を必要とする度合い(要介護度)も変化するでしょう。要介護の度合が変化すれば、介護士がケアできる人数も変化するので、見逃せない視点です。
変化4:実際に介護サービスを受ける人の割合が変化する
この部分は、様々な要素があり得ますので、いくつかに分けながら考えてみます。
介護サービスを受ける必要がなくなる
機械・ロボットなどの技術が進化すれば、自宅で介護を受けることが容易になり、あるタイプの要介護者は、介護士による介護サービスを受けなくとも、自宅介護にて対応可能になるかもしれません。
海外で介護サービスを受ける
日本は、労働人口が減っているため、「サービスのキャパシティを確保する」という側面や「コスト」の視点で、そもそも国内で介護サービスを行うことが現実的でなくなるかもしれません。また、もっと踏み込めば、コスト・パフォーマンスの視点で見て、国内で介護サービスを受けることが、介護を必要とする人から見て、良い選択でなくなる可能性も、“ないとは言えない”でしょう。
その場合、極端な例ではありますが、「海外で介護サービスを受ける」という選択肢を選ぶ人が増え、結果として、日本国内の介護サービスの需要が減るかもしれません。(これは、国が積極的に推進しなくても、サービス需要者側がコスト・パフォーマンスを判断し、「海外」という選択肢を主体的に選ぶ可能性がある点に注意が必要です)
現在満たされていない介護需要が満たされる
極端な例ですが、いきなり明日から介護サービスの供給が十分なされるようになった場合を想定してみましょう。
ここからは、「現在と比較して、将来どれだけ需要が増えるのか」という、現在との比較で考えてみます。まず、前提として、「介護サービスの供給は、ほぼいっぱいであり、サービス供給を受けたくても受けられない」というのが、現在の状況とします。
まず、すでに現時点で、「介護サービスを受けるために、施設の空きを待っている」人が、サービスの共有を受けるようになるでしょう(やむを得ず、「自宅介護」「認可のない介護施設」「海外の介護施設」でサービスを受けている人)。その意味で、15年後「諸問題が解決」されるという問題文に従えば、「待機している人がゼロになる」「待機している人がサービス需要者になる」という視点が必要です。
潜在的な需要が喚起される
それ以外にも、まだあり得ます。初めから「介護施設に空きがない」ことを前提に、対策している人が、新たに需要者として発生する可能性があります。これは、保育園で考えるとわかりやすいのですが、あらかじめ保育園が空いていないことを見越して、「祖父母に孫の世話をお願いする」「ベビーシッターを手配しておく」などの手を打っている人は、そもそも保育園の需要者として現れない(照会・申請すらしない)でしょう。しかし、十分な供給が行われるようになれば、このような事前の対策は必要なくなるので、「諸問題が解決」されてから、多少時間がかかるとは思いますが、徐々に需要者として顕在化してくる可能性があります。
変化5:介護士一人当たりが介護可能になる人数が変化する
まず、わかりやすい例としては、技術革新によるものでしょう。介護士に対して、「ロボットの補助」「機能的なベッドによるサポート」などが行われるようになれば、単純に介護士一人当たりが介護できる人数が増えます。
また、「介護施設に多くの問題や課題がある」という問題文の記述もポイントです。このような状況で有れば、非効率なオペレーションも多数発生していると思われます。介護という一種の「産業」が「成熟」してこれば、労働生産性が向上してくるでしょう(わかりやすい例は、企業や施設の大型化かと思います)。
他にも、現在介護士が不足していることによって、不十分な介護サービスしか供給できていない場合もあり得ます。この場合、ある意味で表面的な「介護士一人当たりが介護可能な人数」は大きく見えますが、これらの不十分な状況が是正されれば、介護可能な人数は「適正」な値まで減少するでしょう。
補足: 将来の「状況・環境の変化」だけでなく、「諸問題の解決」の視点で考えることも有効
今回は、より網羅性のありそうな、将来の「状況・環境の変化」の視点から要素を洗い出しました。しかし、この視点だけでなく「諸問題の解決」の視点で、再度要素を洗い出してみることも有効でしょう。
町の文房具店の解説でも指摘した通り、視点によって、各要素の想起しやすさは異なります。「諸問題の解決」という別の視点から見ることによって、「状況・環境の変化」の視点で漏れていた要素が洗い出せる可能性がありますので、実際に考えるときは両視点からアプローチするのが良いでしょう。
将来の様々な変化が、推定数値に大きな変化を及ぼす
ここで一つ重要なことは、上記の「変化」がどの程度になると予測するかに応じて、介護士の人数という最終的な推定値が変化するということです。最終的な推定値に対して、もしこれら変化の影響が大きければ、フェルミ推定上、重要な視点・軸といえるでしょう(例えば、カラオケBOXのフェルミ推定であれば、「曜日と時間帯」が客数の推定に大きな影響を与えました。このときの視点・軸と、ほぼ同等と考えていただけると良いかと思います)。
今回、上記の変化は、あえて細かいレベルのものも含めて記載しています。これらの変化の中でも、介護士の人数という最終的な推定値に対して“影響が大きい可能性がある”ものについては、面接官と認識確認・議論が必要です。
また、この推定は「将来」の話であるため、「現在」の値を推定するのと異なり、正解はありません(正解は、まだ未確定です)。これは、解答である「介護士の人数」だけでなく、上記の様々な「変化」も同様です。「正解がない」「未確定」であるため、普通のフェルミ推定以上に、面接官との「前提・認識」の確認をしておかないと、議論として成り立たないでしょう。
「正解がない」「未確定」である以上、認識の祖語といったコミュニケーションスキルのレベルの話ではなく、これらの「前提・認識」を面接官と確認することは「論理的に考えて必須」と言えるでしょう。
次回コラム「その20」の予告: 網羅的に変化を洗い出すには
以上のように、「将来の予測」を行うのであれば、「現在と比較」して、「どこが大きく変化するか」という視点を持つ必要があります(余談ですが、将来の値を、現在の状況や結果を無視して推定することは、現実的には非効率です)。
さて、以上のように、今回いくつか変化を上げてみました。しかし、上記の洗い出し方は、「思いつき」ベースであり、このような思考方法で、網羅的に要素を洗い出すのは困難でしょう。さらに、上記の洗い出し方は、数か所で重複もあるため、「伝え方(プレゼンテーション)」的な意味でも、あまりMECE・網羅感がありません。
さて、ケース面接における現実的な問題は、どのように上記のような要因(特に重要なもの)をもれなく洗い出すかにあります。次回のコラムにて、その考え方を解説いたしますので、ぜひ「その20」も合わせてご確認ください。
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