コンサルティングファームをはじめとした、様々な企業の採用選考で出題されるケース面接。多くの方が、以下のような課題をもっているのではないでしょうか。
➢ とりあえず、何回かケース面接をやってみたけど、どこを改善すればよいのかわからない
➢ 面接官の反応は悪くないのに、選考が通過できない
以前のコラムでも解説しましたが、ケース面接、特にフェルミ推定では、「根本的なアプローチ」がイマイチであり、面接の序盤で、すでに厳しい状況に陥っている方が多いのが実情です。
※このような場合、面接官もどこからコメントしてよいか、判断が難しいため、「面接官の反応は悪くないのに、選考が通過できない」となります。
本シリーズでは、筆者が経営コンサルタントとして働く一方で、多くの学生・若手社会人の方と、1対1で、ケース面接練習を手伝いながら見出してきた、「よく“つまずく”ポイント」と「それを回避する」方法をカウンセリングしていきます。
導入: ここまでの解説と本コラムの位置づけ
「フェルミ推定の教科書【原則編】」(※【原則編 1/7】に遷移します)では、1つのフェルミ推定(カフェ一店舗の売上)を、ストーリーに沿って解説することで、どのような場所でつまずくのかと、解き方のポイントを、一通り解説しました。
ポイント1)より数値の曖昧さ・振れ幅が大きい項目を、細かく分解する
ポイント2)式の分解の切り口は、複数パターンを考え、比較検討する
ポイント3)現実感のある議論をするため、知っている例を、具体的にイメージしてみる
ポイント4)ツリー構造だけでなく、2軸のマトリックスも活用しながら整理し、面接官と議論する
ポイント5)「定性的な分類 ⇒ 定量的分類 ⇒ 数値に落とす」という順序を経ながら考える
ポイント6)数式で全体像を定義し終わるまで、個別の数値の設定を開始してはいけない
ポイント7)最初の一人で考える時間において、具体的な数値の設定に時間を浪費しない
ポイント8)面接官をディスカッション相手と考え、指摘を適時自分の意見に反映する
ポイント9)面接官と明示的に共有できていない前提・状況がないか、適時確認する
ポイント10)前提・状況の設定は、最初ではなく、適時必要なタイミングで実施する
ポイント11)絶対的な数値の大きさではなく、他の数値との相対的な大小を議論する
ポイント12)正確に計算するのではなく、だいたい正しい値になるよう計算すればよい
ポイント13)主要パターン以外は、係数を利用するなど、簡略に済ませる方法も考慮する
その中でも、特に、「目標数値の分解に対する、適切なアプローチ」に関する「ポイント2」は、その後の議論に対する影響が大きい重要箇所であり、なおかつ受験者の間で、大きく差が付くポイントであることも、併せて言及しました。
そのため、フェルミ推定解説のテクニック編では、この「ポイント2」の詳細解説を行います。
前回までのコラムである、「フェルミ推定の教科書【原則編】」をご覧いただいた後のほうが、理解しやすいと思われますので、まだご覧になっていない方は、ぜひ原則編も併せてご覧ください。
今回の記事の要点は下記3点です。
- 式の分解の切り口を考えるコツは、「需要」と「供給」の“両側”を意識すること
- 式の分解の起点は、消費者として感覚の持ちやすいものにせよ
- 曖昧さの大きすぎる項目を含まない分解式を採用せよ
本解説の進め方
この解説では、「カフェ」に関する様々な種類のフェルミ推定を、基本的なものから順番に利用しながら、「ポイント2」の式の分解に対する適切なアプローチを、学習していきます。使用するフェルミ推定の問題は、以下の通りです。
➢ 基礎編(最もよく出題されるパターン)
➢ 【例題1】 カフェ市場の売上
➢ 【例題2】 とあるカフェ1店舗の売上
➢ 応用編パートA
➢ 【例題3】 カフェへの来客数
➢ 【例題4】 存在する、カフェの数
➢ 応用編パートB
➢ 【例題5】 東京都のカフェ市場の売上
➢ 【例題6】 スターバックス全店の売上
➢ 【例題7】 カフェ市場における、デカフェコーヒーの売上
➢ 発展編
➢ 【例題8】 外国人旅行者による、カフェ市場の売上
➢ 【例題9】 ニューヨーク州のカフェ市場の売上
※特に指定がない場合は、「カフェの中に、“喫茶店”を含まない」「1年間の売上を求める」「日本に存在するカフェ」と考えてください。
2つの大原則: 複数パターンを考え、ボトルネックを意識して決定する
さて、例題を解説していく前に、まず、「大原則」を2つ示しておきます。例題の中で、まずは大原則を解説しながら、その他の原則を補足・追加していきます。
※この大原則は、抽象的な表現が多いため、理解しにくいです。詳細は、例題の中で説明していきますので、何となく意味をつかんでいただければ充分です。
大原則1: 必ず“両側”から考える(需要と供給より)
まず、1つではなく、“複数”パターンの分解式を考案できていないと、より良い式の分解方法を選択することは、現実的に困難です。この時、“両側”という全く異なった視点から考えることで、性質の大きく異なった複数の分解式が導出しやすくなります。
なかなか、抽象的な表現が難しいのですが、以下のようなイメージを持っていただけるとよいかと思います。
➢ 「消費者(需要)」 or 「企業(供給)」
➢ 「ボトムアップ」 or 「トップダウン」
➢ 「現場目線の積み上げ(ボトムアップ)」 or 「経営目線による分解(トップダウン)」
今回は、特に「消費者(需要)」 or 「企業(供給)」という視点をベースに解説していきます。
大原則2: 各項目の数値における、曖昧さや制限を考える
さて、「大原則1」で様々な目標数値の分解式を洗い出した後に、どれがより良い式かを選択する必要があります。この時の原則は、「曖昧さが大きすぎる(⇒計算が難しい)項目を含まない」というのが重要な判断基準です。
また、曖昧さを含まず、計算しやすい数値であるためには、「イメージしやすい、なじみのある項目である」ことや、「極端に小さい値でない」ことも必要です。以下、見ていきましょう。
需要(消費者目線)の場合
詳しくは、このあと「例題1」で解説しますが、特に「母数」にあたる項目の曖昧さが大きく、範囲を明確に定義できない時、この「需要」によるアプローチが難しくなります。
典型的な例は、「商圏人口」です。商圏は、範囲が明確でなく、難しいアプローチといえるでしょう。逆に、母数が、「日本人口」などのように、明確に定義できるものであれば、この「需要」による計算がしやすくなります。
また、「母数」以外の項目(利用率や単位あたり利用数など)については、「極端に小さい値になる」場合、イメージが難しくなるため、数値の曖昧さが大きくなります。「50%か10%か」をイメージして間違える可能性は低いですが、「0.5%か0.1%か」などの小さい値になるほど、イメージを的確に実施し、数値を予測することが難しくなります(どちらの例も、5倍の違いがあるため、最終結果に与える影響が同じです)。
以上のように、「母数が曖昧」な場合や、「極端に小さい値を定義しなければならない」場合は、別の切り口を考えた方が良いでしょう。
供給(企業目線)の場合
くわしくは、「例題2」で解説しますが、まず、供給視点が適している場合も、やはり曖昧さが大きな項目が存在しない事が重要なのは変わりありません。
また、供給サイドが適しているか否かは、「供給量のMAX値を明確に制限」できる部分を起点として、計算式が作成可能か否かにかかっている傾向があります。
例えば、一店舗のカフェであれば、「席数」や「レジ数」を超える商品・サービスの提供は難しいでしょう。
他には、「映画館」のフェルミ推定の場合であれば、同じく「席数」が供給制限になります。海外旅行・航空機なども、「空港数」「滑走路数」などの、明確な供給制限があります。
これらの供給の上限をベースに、供給側の稼働率を計算していくことで、計算の議論がしやすくなります。
大原則の解説は以上です。このような原則を読んでも、なかなかイメージがわきにくいと思いますので、早速例題をベースに確認していきましょう。
例題による解説:基礎編
では、早速、例題による解説に入っていきます。基礎編で使用するのは、以下の2問です。
まずは、フェルミ推定にて、最もよく出題される、「市場規模(全体の総計)」と「単位あたりの売上金額」を解説します。この2問は、フェルミ推定の基礎といえますので、確実に抑えておきたい問題です。
対象のテーマとして「カフェ」を利用しながら、考え方を確認していきます。
【例題1】 カフェ市場の売上
早速、カフェ市場の規模を推定するにあたって、「大原則1」で述べたように、「需要」と「供給」のそれぞれの側から、計算式を立てていきます。
目標数値の分解式:需要(消費者)視点の場合
消費者の需要から行くのであれば、消費者の全体数・母数である、「日本人口」を起点とするのが良いように思われます。
そのうえで、日本人口の各員が、どの程度カフェにお金を利用しているのかを考えていくとよいでしょう。たとえば、以下の様に分解できます。
・市場規模 = [客数] × [客単価]
・客数 = [日本人口] × [利用する人の割合] × [1人あたり利用頻度]
目標数値の分解式:供給(企業)視点の場合
企業や業界による供給から考えるのであれば、「店舗」を起点に考えるのが、イメージがしやすく、良いように思えます。まず、「市場規模」を「全店舗の売上合計」と言い換えて、以下のように分解できるでしょう。
・市場規模 ⇒ [全店舗の売上合計]
・[全店舗の売上合計] = [店舗数] × [1店舗あたりの売上]
ちなみに、「レジ数」や「席数」で考えた方がいるかもしれませんが、上記をより細かく分解していけば、「レジ数」や「席数」にたどり着くため、「方向性レベル」で見れば同じ回答といえるでしょう。
※注:あくまで、消費者として感覚の持ちやすいものを、式の分解の起点にする
「原材料の供給量」や「出店可能物件数」などから考えることも、理論的には可能です。しかし、「供給・企業」サイドから考えるといっても、大半の人にとって、カフェに対する接点は「消費者として」だけです。「原材料」や「出店可能物件数」は、完全に「業界」の話であり、消費者としてカフェに接しているだけではわかりません。
フェルミ推定は、あくまで、「知っている範囲の知識や経験から、論理的に数値を推論」する計算方法です。そのため、式の分解自体も、ある程度知っているものを切り口としないと、分解した項目に数値を設定することが困難です。企業目線とは言っても、「店舗」のような、消費者から見えやすい視点を考えるのが妥当でしょう。
分解式の妥当性判定: 需要と供給のどちらが適切か
さて、上記の「需要」と「供給」による分解を評価してみましょう。
供給側の項目は、「店舗数」の推定が厳しい
まず、「1店舗あたりの売上」ですが、これは、次に計算する「例題2」の問題そのままです。フェルミ推定の問題となるくらいなので、計算は可能と判断してもよいでしょう。
では、「店舗数」はどうでしょうか。これについては、なかなか数値を置くのが難しいと思われます。まず、2,000店舗なのか、それとも20,000店舗なのか、感覚的に置くことが難しいでしょう。つまり、「非常に曖昧な数値」となります。
そうなると、店舗数の項目を細かく分解して、数値を精緻に予測していくことになりますが、この分解の方法が問題になります。結論としては、細かく式を分解することで、曖昧さを減らすのは困難かと思われます。
また、後ほど解説する「例題4」に、まさしく「カフェの店舗数」を推測するフェルミ推定がありますが、ここでは、
・店舗数 = 「市場規模」 ÷ 「1店舗あたり売上」
で計算しています。今回の計算項目は、「市場規模」ですので、完全にループしています(もしくは、店舗数はより上位概念といえるでしょう。分解ではなく、集約という、逆の方向に行っています)。
また、詳細は例題4で解説しますが、店舗数を他の分解方法で計算することは、「イメージしやすさ」の点から、あまり妥当とは言いにくいです。
以上のように、「市場規模を推定するために、店舗数を推定する」ことは、なかなか難しそうです。
需要側の項目は、どれも大きな問題はない
まず、「母数」を考えてみましょう。これは、「日本人口」が該当するでしょう。これは、約1億2千万人という、明確かつ一般常識的な数値が存在しています。つまり、「範囲を明確に制限できる、曖昧さが小さい」ため、良い「母数」の設定といえるでしょう。
次に、「カフェを利用する人の割合」や「利用頻度」についても、曖昧さは大きくなく、計算しやすい数値といえるでしょう。自分の身の回りの人の様子からイメージしやすい数値です。また、カフェ利用率は感覚的に考えて、それなりに高い数値(1%などの低い数値ではない)と思われるため、その意味でも曖昧さは小さいでしょう。
最後に単価ですが、カフェの単価は、「ドリンクがほとんど、一部食事なども頼む人がいる」といった単純なものであり、数百円程度と推定されます。こちらも「曖昧さは小さい」といえます。
さて「例題1」と「例題2」の結論をまとめて述べるため、例題1の解説を一旦ここで止めて、今回の解説内容をまとめます。
今回の記事の要点を改めてまとめると下記3点です。
- 式の分解の切り口を考えるコツは、「需要」と「供給」の“両側”を意識すること
- 式の分解の起点は、消費者として感覚の持ちやすいものにせよ
- 曖昧さの大きすぎる項目を含まない分解式を採用せよ
次回のコラムでは、基礎編のもう一つの例題である「【例題2】 とあるカフェ1店舗の売上」の式の分解アプローチと、この基礎編のまとめの解説を行っていきます。併せてご覧ください。
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