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多くのプロダクトマネージャー(PM)が活躍し、時に「国内屈指のPM輩出企業」とも評されるメルカリ。特集「一流のプロダクトマネージャー」初回でスポットを当てる栗林フリッツ幹雄さんは、同社の米国法人でPMのリーダー役を務め、フリーマーケットアプリ「メルカリ」における出品者数の増加など、いくつもの成果を生んできた。
そんな栗林さんも、メルカリに参画した当初は「開発について学ぶことが多くて、大変でした」と振り返る。エンジニアやデザイナーなど多方面のプロフェッショナルと密に連携するPMの仕事は、時に難しさも伴う。
栗林さんによると、PMは「他者から信頼を得る力、要は人としての魅力みたいなものも求められる仕事」。彼の成功や失敗のエピソード、独自の“PM論”などから、その意味が見えてくる。【藤崎竜介】
※内容や肩書は2023年11月の記事公開当時のものです。
1. メルカリのPMは、改善サイクルの「始まりから終わりまで」関わる
2. 失敗が教えてくれた、仮説構築が必須な理由
3. メルカリ参画期の苦境を乗り越えられたのは、「優しくしてくれたエンジニア」のおかげ
4. PMは「1人では何もできない」から、周りへのリスペクトが大事。でも任せっきりにすると……
5. プロダクトマネジメントには「科学と感性の両面」が必要
メルカリのPMは、改善サイクルの「始まりから終わりまで」関わる
――PMとして、どんな仕事に携わっていますか。
栗林:アプリ「メルカリ」の米国版で商品を買う「バイヤー」向けの機能を改善するチームに所属して、そのチームでPMの責任者を務めています。例えばユーザー登録をしやすくしたり、おすすめ商品が適切に表示されるようにしたり、あとは検索機能の性能を高めたりとか、さまざまな改善を日々施しています。
――商品を出品して売る人向けの機能は、担当していないということですか。
栗林:そこは別のチームが担っていますね。ただ、過去には出品者担当のチームで仕事をしたこともあります。
――基本的な仕事の流れは、一般的なPMと変わらないのでしょうか。
栗林:そうでしょうね。大まかに4つのフェーズで考えています。
1つ目は問題定義。プロダクトについて解決したい問題が無数にある中、1つを選び出して取り組む対象にします。
2つ目は仮説構築です。選んだ問題の原因について仮説をいくつか打ち立てて、検証や議論を経て筋が良さそうなものを選定します。それから、選んだ仮説に基づいて戦略、つまりアプローチを決めます。
3つ目が、施策のフェーズですね。策定した戦略に沿ってエンジニア、デザイナー、マーケターなどと話し合いながら具体的な施策を決めて、リリースまでプロジェクトをマネジメントします。
リリース後は、検証を行います。データアナリストらと協力しながらA/Bテストなどの結果を分析して、効果を検証します。
――その1サイクルに、どれくらいの時間をかけますか。
栗林:案件によりますが、だいたい1カ月くらいですね。7~8件のプロジェクトが並行して進むことが多いです。
――特に時間と労力を割くフェーズは。
栗林:たいてい、最初の問題定義と2番目の仮説構築ですね。時間でいうと、両方とも1サイクルの中で3割くらいずつ費やしています。
――他社との比較で、メルカリのPMの特徴はありますか。
栗林:米国のある巨大Tech企業から移ってきた人の話だと、その会社のPMは、問題定義など上流の仕事に専念するので、施策への関与度がもっと低かったようです。一方、少し昔の話かもしれませんが、日本ではPMが施策により深く関わる印象があります。
あくまで僕が知る限りの話ですが、メルカリはそれら2つの中間だと感じます。PMが1サイクルの始めから終わりまで関わるものの、施策フェーズでは仕様作りやマネジメントに徹することが多い。つまり実行は、エンジニアやデザイナーといったプロフェッショナルに任せるわけです。
失敗が教えてくれた、仮説構築が必須な理由
――多くの時間を割く問題定義と仮説構築について、気をつけていることはありますか。
栗林:問題定義で大事なのは、優先順位を明確にすることです。PMとしてプロダクトのことを四六時中考えると、改善したいことはいくらでも出てくるんです。でもリソースが限られる中、全てやるわけにはいかない。なので、データ分析を行ったり直感を働かせたりしながら、できるだけ大きな効果につながる問題を優先的に選び出すようにしています。
――仮説構築については。
栗林:経験が浅いと、これを省いてすぐに施策を考えがちですが、得策ではありません。必ず仮説を打ち立てて、その上で戦略を定めてから施策のフェーズに入るようにしています。
――なぜでしょうか。
栗林:そのほうが、論理の通った筋の良い施策になるからです。共通の戦略に基づきつつ、さまざまな角度から複数のアイディアを出せますしね。それに一度うまくいかなくても、仮説に立ち返ったりすることで、打開策を見つけやすくなります。
◆インタビューはオンラインで実施
――失敗を経験しつつ、そうした考え方をするようになったのでしょうか。
栗林:その通りです。例えば米国版のメルカリに出品する人を増やすため、アプリの画面上の文言をいろいろ変えたのですが、なかなか成果が出ないということがありました。
――「なぜ出品者数が伸びないのか」に対する仮説を打ち立てないで、やみくもにいろいろな施策を試してしまったと。
栗林:ええ。その分、いい施策にたどり着くまで時間がかかりました。
メルカリ参画期の苦境を乗り越えられたのは、「優しくしてくれたエンジニア」のおかげ
――ところでPMとして働くようになったのは、いつからですか。
栗林:前職のイグニスに参画した2011年です。なので、10年以上この仕事をやっていることになりますね。イグニス時代はPM兼デザイナーみたいなことをやって、この時期にUX(ユーザー体験)の知見をかなり得ることができました。
――デザイナーを兼ねたのは、どういう背景からでしょう。
栗林:単純に、コスト面の制約が理由ですね。2013年から4年ほどイグニスの米国法人の社長を務めたのですが、現地で優秀なデザイナーを雇うための予算上の余裕がなかったんです。でも、UXの面で質の低いものは出したくなかった。なので、デザインツールの使い方などを独学で覚えて、自分でもやるようになりました。
大変でしたが、今思うとすごくよかったと思います。
――なぜでしょうか。
栗林:UXのような特定領域の強みを持つことが、PMにとって大事だからです。エンジニアリングに強い人、ビジネス面が得意な人、分析に長けた人など、PMにはいろいろなタイプがいます。そうやって特徴を持っていると、組織の中で価値を出しやすいんです。
実際、米国版のメルカリでUXについて大きな改善が必要になると、多くの場合、僕がプロジェクトを担うようになっています。
――「UXに強いPM」としての個性が、イグニス時代に確立されたわけですね。
栗林:はい。一方で開発への関与度は低くて、エンジニアにかなり任せきっていました。
なので2017年にメルカリに入ったころは、開発について学ぶことが多くて、大変でしたね。サービスの規模が前職より段違いに大きいので、サーバーとクライアント(*)の関係性とかをしっかり理解する必要もあって……。
*サーバーはITサービスの供給側のコンピューター、クライアントはユーザー側のコンピューター
――ではメルカリ入社当初は、苦労も多かったと。
栗林:きつかったですね。最初の大きな仕事として、米国版のAndroid用アプリを作り直すプロジェクトの責任者を務めたのですが、今述べたサーバー周りの知識が追いついていなかったので、毎日泣きそうになりながら仕事をしていました。正直、エンジニアのいうことをほとんど理解できず……。
当時、僕のことを「使えない」と感じていた人もいたと思います。でも1人、優しくしてくれるエンジニアがいたんです。その人に「すみません、さっきの会議の内容を僕にも分かるように説明してくれませんか」みたいな感じで頼み込んでいました。それを数カ月続けて、少しずつ苦労しなくなっていきましたね。
PMは「1人では何もできない」から、周りへのリスペクトが大事。でも任せっきりにすると……
――苦戦しつつも、キャッチアップできたわけですね。
栗林:そうですね。「エンジニアリングの深い知識がないと、PMにはなれない」と捉えられることもありますが、それは違うと思います。もちろん、僕の例のように学ぶことは必要ですが。
――キャッチアップする上で大事なことは。
栗林:当たり前かもしれませんが、素直に教えを乞うことに尽きます。若手、特に新卒で入って数年以内の人なら、それはやりやすいはずです。
――そうやって学ぶべきことも多いPMは、難度の高い仕事ではないかと思います。栗林さんはPMの業務のどのようなところに、難しさを感じることが多いですか。
栗林:「自分1人では何もできない」ところですね。オーケストラの指揮者みたいな存在と、たとえられたりもします。注目が集まる立場ですが、ピアノを弾くわけでも、ヴァイオリンを弾くわけでもない。1人でタクトを振っていても、音楽は鳴り響きません。
PMもエンジニア、デザイナー、マーケターといったプロフェッショナルがいないと、仕事が成り立ちません。そして、自分は彼らほどの専門性がないにもかかわらず、彼らをリードしてプロダクトを成功に導かなくてはいけない。
なので、他者から信頼を得る力、要は人としての魅力みたいなものも求められる仕事です。逆に、偉そうな態度で周囲と接してしまって、うまくいかないPMも結構います。
――周りへのリスペクトが大事であると。
栗林:ええ。ただ難しいことに、エンジニアやデザイナーの意向を尊重しすぎて任せっきりにすると、あるべき方向性からズレたりするんです。時には彼らが出してきた解決案に対して、「ごめんなさい、これは違うんです。なぜなら……」と反論しなければいけない。そういう時は苦心しますね。
プロダクトマネジメントには「科学と感性の両面」が必要
――PMの面白さは、どこにあると感じますか。
栗林:専門性を持ったプロフェッショナルと議論を交わすのは、とても面白いですね。“脳汁”が出るというか、知的好奇心がすごく満たされる仕事です。
例えばマーケティング施策を考える際、自分でも「こういうやり方がいいのでは?」と考えつつマーケターに相談するのですが、“その道のプロ”から出てくる案は、想定をはるかに上回っていることが多い。なので、毎日刺激を得ながら仕事をできています。
あと、施策への反応がすぐ分かるのは、気に入っている点です。時には、新機能がリリース翌日にSNS (ソーシャルネットワーキングサービス)で酷評されていたりもしますが……。でもITサービスはすぐに修正できるので、そういう場合は即座に打開策を考えます。このスピード感は、自分に合っていると感じます。
――PMはいろいろな職務を担いますが、短くまとめると、どんな仕事だと捉えていますか。
栗林:よく「プロダクトの成功に対して責任を持つ人」といわれますよね。それには同意します。
その上でさらに掘り下げると「科学と感性の両面から考えつつ、ユーザーのために解消すべき問題を設定して、チームを引っ張りながらそれらを解決することによって、プロダクトを成功に導く人」と表現できるのではないかと思います。
――科学と感性の両面が必要なのですね。
栗林:そう思います。科学、つまりデータの分析は当然大事ですが、感性、要はユーザー心理の部分もおろそかにできません。
――今後PMとして、どんな方向性でレベルアップしていきたいと考えていますか。
栗林:ユーザーリサーチの力を高めたいですね。米国ではユーザーリサーチャーという専門職が一般化していて、プロダクトマネジメントの重要な要素として認知されています。
――ユーザーリサーチ力の必要性を感じる場面が、多いのでしょうか。
栗林:その通りです。例えばユーザーインタビューをする際、本音を引き出すための質問の仕方ってあるじゃないですか。実際、僕がインタビューをする場合と専門職の人がやる場合では、得られる情報の質が結構違うんです。
データ分析のほうが手っ取り早いので、それによって得られる定量的な情報にフォーカスしがちですが、定性情報も欠かせません。
――「感性」の部分ですよね。
栗林:はい。自分にはまだ足りないので、高めていきたいですね。それができれば、PMとしてもっといい仕事ができると思います。
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