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LINEヤフーの寶野結斗さんは、日本で約9500万人のユーザー(2023年6月末時点)を抱えるLINEの、プロダクトマネージャー(PM)を務めている。これまで「LINEスタンププレミアム」「メッセージスタンプ」「エフェクトスタンプ」や「リアクション機能」などを手掛け、現在は生成AI(人工知能)を使った新規プロダクトを担当している。
特集「一流のプロダクトマネージャー」第9回では、PMの仕事の醍醐味(だいごみ)や求められるスキル、寶野さんが描く「一流のPM像」などを紹介する。【大井明子、北川直樹】
※内容や肩書は2023年11月の記事公開当時のものです。
1. ユーザーリサーチから生まれた、LINEのリアクション機能
2. ユーザーの要望をそのまま「のむ」のは、NG
3. 担当プロダクトのユーザーを「街の中で見かけたりすると本当にうれしい」
4. 優れたPMは「途中でやめる」決断もできる
5. 上司に「AとB、どちらがいいでしょうか」と聞いてしまうPMは……
ユーザーリサーチから生まれた、LINEのリアクション機能
――新卒でLINE(当時)に入社したようですが、これまでにどんな業務を担当しましたか。
寶野:2018年に企画職として入社し、最初はプランナーとして、LINEの公式オンラインストア「LINE STORE」のユーザーインターフェース(UI)の改善などを担当しました。半年経ったころに一部の機能を任されるPMになり、2年目の初めごろにLINEスタンプの定額使い放題サービス「LINEスタンプ プレミアム」のPMになって、初めてサービス全体を担当するようになりました。
その後、いくつかのプロダクトを担当し、今は生成AIを活用した新規プロダクトのPMを務めています。
――PMの役割をどう捉えていますか。
寶野:プロダクトの目指すべき方向性を考えたり、仕様や多くの人に使ってもらうための戦略などを取りまとめたりします。プロダクトを成功に導くために必要なことはすべてやるので、業務内容は非常に幅広いです。
――具体例を基に、どんな仕事をしているのか、教えてください。
寶野:2021年に、LINEのメッセージにアイコンでリアクションできる機能を追加したのですが、これを例にとると、まずプロダクトのどこに課題があるかを見つけるところから始めました。
ユーザーリサーチをしたところ、「反応したいメッセージがあっても、会話が進んでしまって反応のタイミングを逃してしまう」といった課題があることがわかりました。それを解決するためにどんな方法がいいかを考え、一つひとつのメッセージに対し、感情を表すアイコンで反応を示すことができる、リアクション機能に行きつきました。
続いて「ユーザーにどう操作してもらうか」「アイコンは何種類にするか」といった仕様を固めました。
こうした分析や企画のフェーズが終わったら、実際に作っていくフェーズに移ります。デザイナーやエンジニアとミーティングを行い、目的や仕様を説明したうえで、「ここはこんなふうにした方がいいんじゃないか」などと議論しながら、より細かな仕様を決めます。
そこからデザインや開発のプロセスが動いていくので、スケジュール管理などのプロジェクトマネジメントも行います。
デザインや開発が一通り終われば、動作などをテストするQA(品質保証)を行い、機能のリリースになります。
リリース後はデータを分析しながら、当初の目的が達成できているかを検証したり、さらに改善策を練ったりします。
ユーザーの要望をそのまま「のむ」のは、NG
――もともとPMになりたかったのですか。
寶野:初めからPMの仕事に就けるとは思っていませんでしたが、学生の頃から企画の仕事に関心がありました。商品やサービスの企画というのは、身の回りの課題を見つけて、それを解決することで生活が便利になり、たくさんの人に喜んでもらえる仕事ですから。
それから、私は「なぜこのプロダクトを作るのか」という目的に対して、納得感を持って仕事をしたいと思っていて、そこがモチベーションになるのですが、企画職はまさに、そこを考え抜くのが仕事です。学生時代にはインターンとして、開発やデザインなども経験したのですが、やはり自分には企画が合っていると思いました。
――「なぜこれを作るのか」という目的を明確化するのは、手掛けるプロダクトの根幹に関わりますし、責任も重いですね。
寶野:実際、PMの仕事の中で、一番重要で難しいポイントだと思います。目的の多くは、「課題を解決するため」なのですが、この課題を設定することが本当に難しい。どれだけ良い改善策やグロース戦略を考えても、根本となる課題設定が間違っていたら、ユーザーが求めていないものをリリースすることになってしまいます。
――そのために、どんな努力や工夫をしていますか。
寶野:データをしっかり分析し、「ここに課題があるんじゃないか」と仮説を立て、その仮説が正しいか、仮説に対する解決策が正しいかを確かめるために、ユーザーインタビューをしたりしています。
ユーザーの声を聞くことは重要なのですが、だからといって、ユーザーの言葉をうのみにしないように気を付けています。もちろん、言葉は大切ですが、行動をしっかり見て、言葉の背景にあるものも意識するようにしています。
例えば、「○○の機能がほしい」と言われたからといって、すぐにその機能を提供しようとするのではなく、「その機能がほしいと言っている理由は何なのか、何に不便を感じているからそう言っているのか」まで突き詰める。すると、必ずしも解決策は、ユーザーが言っていた機能の提供ではないことがわかったりします。
ただ、100%の確証を持って課題をつかむためには、時間もリソースもかかります。限られた情報を基に、どうしたらユーザーに価値を提供できるのかを考え、推論に基づく形でリリースすることもあります。そのさじ加減も難しいですね。
担当プロダクトのユーザーを「街の中で見かけたりすると本当にうれしい」
――デザイナーやエンジニアなど幅広い役割の人たちと仕事を進める中、難しさはどんなところにありますか。
寶野:たいてい関わる人は50人くらいになるのですが、PMはその“ハブ”(結節点)になります。国籍も年代も職種も幅広いので、いろいろな意見が出てきてまとめるのは大変です。でも、そうやっていろいろな意見が出てこなければ、発見できるはずの課題が見つからなかったり、不具合を見逃したりしてしまう可能性が出てきてしまうので、健全なことだとも思います。
ただ、前提として、目的や目指す方向性をそろえるようにしないと、チームがバラバラになってしまいます。そこさえそろっていれば、たくさんの意見が出てきても、それぞれの意見のメリットやデメリットを整理し、何とか解決策に向かえます。
――PMの仕事の、おもしろさや魅力は、どんなところにありますか。
寶野:自分がPMとして設定した課題や解決策が正解だったのかどうかが、ユーザーの行動としてすぐに表れるのはおもしろいです。
それから、これはLINEというサービスに携わっているからという面が大きいのですが、自分が担当したプロダクトをこれだけ多くの人に使ってもらっているというのは、責任は重いですが、やりがいも非常に大きいです。自分が担当したプロダクトを使っている人を、街の中で見かけたりすると本当にうれしいですね。
――それはプレッシャーになったりはしませんか。
寶野:もちろん緊張感はありますが……あまり自分にネガティブに働くようなプレッシャーになってはいないように思います。
「これでどれだけユーザーに喜んでもらえるだろうか」というワクワク感や、「もっと良くしていくにはどうしたらいいか」を考えるおもしろさの方が大きいです。
優れたPMは「途中でやめる」決断もできる
――寶野さんの考える、「一流のPM像」はどんなものでしょうか。それは、一般的なPMと、どう違うのでしょうか。
寶野:データがある程度そろっていて、方向性もはっきりしている状態だと、「次に何をやるべきか」は明確なので、個人の差はあまり出ないように思います。
でも、もっとあいまいな状況……たとえば誰もやったことがない領域に挑戦する時や、ものすごく大きな規模のプロジェクトを進める時などは、差が出てくるでしょうね。そうした場面でプロジェクトをどう進めるべきかを考えて、周りを導くことができる人が、すばらしいPMだと思いますし、自分もそうなりたいです。
――そうなるためには、どんなスキルや経験が必要だと思いますか。
寶野:なるべく、失敗は早いうちに経験しておいた方がいいと思うので、どんどん挑戦したいです。物怖じせずに挑戦する姿勢が、非常に重要だと思っています。
あいまいな状況下でどんな行動を取れるかは、過去にどれくらい失敗したか、どれくらいPDCAを回してきたかにかかっているように思うんです。もちろん、過去の失敗経験とまったく同じ状況が起きる可能性は少ないでしょうが、そういった経験は必ず生きてくると思います。
――「一流のPM」として、思い浮かぶ人はいますか。
寶野:何人か思い浮かびますが、一つ印象に残っているエピソードがあります。
前に関わった新規プロダクトがあって、比較的時間をかけて開発していました。しかし実現のための難度が高く、想定よりリリースが延びてしまったのです。そんな中、当時のプロダクト責任者が、世の中のニーズの変化とプロダクトの開発状況をみて、最終的に開発を中止し、新しいことにトライしようと決断しました。
当時は「開発に長い時間をかけたし、努力がムダになってしまうのはもったいない」と思いましたし、正直、くやしい思いもありました。でも、今振り返ってみると、適切な判断だったと思います。
いったん始めたことを中止するのは勇気がいりますし、ものごとを客観的に見て判断する力や、それをメンバーに説明して理解してもらう力が求められます。
新しいプロダクトを生み出すのであれば、周囲の合意を得やすいですが、進めてきたものを途中でやめる場合は、そうはいきません。メンバー全員に中止を納得してもらえるよう説明しなくてはならず、本当に難しい。新しいプロダクトを作るのと違って、そう頻繁に経験できることではありませんが、こういう時にPMの力量が出ると思いました。
上司に「AとB、どちらがいいでしょうか」と聞いてしまうPMは……
――ほかに、PMに求められる力はありますか。
寶野:新しい情報を感知する力は重要だと思います。世の中の動きを見ていると、だいたい10年くらいのサイクルで大きな変化が起こっています。10年前のトップ企業と、今のトップ企業は、随分顔ぶれも変わっていますが、新しい情報を感知して、それに対して適切なタイミングで新しいプロダクトをリリースしてきた会社が生き残っています。
ですから、何か新しい動きが出てきたときに、それをしっかり検知し、抵抗なく試したり取り入れたりできる力を持つことが、PMにも求められていると感じます。
それから、人と仕事をするので、コミュニケーションは重要です。そこさえできていれば、ほかのスキルは後からついてくるものだと思います。
――PMは、どんな人が向いていると思いますか。
寶野:プロダクトを成功させることに対して全責任を負うので、そのためにどんなアクションが必要かを、自分で考えて進める必要があります。ですから、誰かに言われたことをやるだけでなく、何が必要かを自律的に考えて進められる人ではないと、難しいのではないでしょうか。
例えば、AかBかで迷ったときに、上司に「AとB、どちらがいいでしょうか」と聞いてしまった時点で“PM的”ではないように思います。「AとBそれぞれのメリット、デメリットはこういうものがあり、自分としてはAがいいように思うんですが、○○さんの意見も聞かせてもらえますか」と、自分でしっかり考え、意見を持っている人の方が向いていると思います。
――今後やってみたいことはありますか。
寶野:これまで、単体の機能やサービスを見てきたので、将来は複数のサービスを担当して、もっとマクロな視点でものごとを見てみたいです。そうやって視野を広げていくと、あるサービスでの経験が、別のサービスに応用できたりすることも増えるような気がしています。
【インタビュー撮影・佐伯航平】
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