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新卒でマッキンゼー・アンド・カンパニーに入った後2005年に渡米し、以降プロダクトマネージャー(PM)などとして、Meta(旧Facebook)やeBayをはじめ、いくつものTech系企業を渡り歩いている河根拓文さん。特集「一流のプロダクトマネージャー」第2回では、15年以上シリコンバレーで活躍する彼の言葉をつづる。
先進的なTech系企業が集まる米国西海岸のPMについて、「ここ10年くらいで大きく変わりました」としつつ、今後も「3つの変化があると思います」と見据える河根さん。長年の経験を基に、現地のPM事情と「これから起きること」などを語ってもらった。【藤崎竜介】
*1 参考:Udemyにおける河根さんの紹介ページ
※内容や肩書は2023年11月の記事公開当時のものです。
1. 本質を突き詰めると、PMのやることは、どの会社でも「大きくは変わらない」
2. 新卒マッキンゼーから米国でPMへ。一時は立場が「確立されていない」ゆえの苦難も
3. Metaで経験した「カオス」なプロダクトづくり……独自文化はエンジニアが優秀だから!?
4. 金融、小売りに製造業――。米国ではあらゆる業態でPMが活躍
5. ジェネラリストのPMはいらなくなる!? 米国で予想される、専門性重視への回帰現象
本質を突き詰めると、PMのやることは、どの会社でも「大きくは変わらない」
――米国の西海岸でいくつものTech系企業を経験している河根さんですが、今所属しているDrivemodeではどんな役目を担っているのですか。
河根:EV(電気自動車)など、次世代自動車向けのソフトウエアのプロダクトマネジメントをするチームにいて、責任者を務めています。Drivemodeは2019年にHondaグループに入ったので、ホンダが北米を中心に展開するEVなどに対応するソフト、主にはモバイルアプリが我々にとってのプロダクトです。
――では、ホンダ側と協業する機会も多いのですか。
河根:密に連携しています。自動車の設計開発を担う技術者やビジネス系の人など、さまざまな人を巻き込みながら仕事をする感じですね。
――過去の在籍先でも、PMの仕事をする上でエンジニアやデザイナーなど多様な人たちと連携してきたと思いますが、違いはありますか。
河根:ハードウエアの技術者と仕事をすることはほとんどなかったので、それができている今の環境は刺激的だと感じます。例えば、バッテリーの容量や部品の耐久年数など、いろいろなことを考える必要があるんです。
◆インタビューはオンラインで実施
――どんな仕事に時間を割くことが多いですか。
河根:大きく分けて4つですね。1つ目は、UX(ユーザー体験)の設計と、それを実現するための要件出しです。ダイヤグラム(*2)などを書いて自ら推進する時もあれば、チームメンバーが設計したものに助言してサポートすることもあります。
*2 線図、図表
2つ目はビジネス的な戦略の構築と伝達。要は、市場で勝っていくためにプロダクトの方針を定め、それをホンダ側などの関係者に伝えて、時には内容を調整しながらチーム内外で認識の共有を促す仕事です。
――関係者が多い分、重要かつ大変な仕事に聞こえます。
河根:そうですね。さまざまな関係者にプレゼンテーションして合意形成することなどが、結構求められます。
――3つ目は。
河根:外部環境の理解です。市場に関するリサーチ情報を読み込んだり、競合のアプリを使ってみたりしながら、インプットすることに時間を割きます。
あとは、チームマネジメントですね。業務プロセスを作ったり、メンバーのスキルアップを促したり、それから役割分担を決めたりもしています。
――他社のPMと、業務内容の違いは感じますか。
河根:少しずつ違いはあります。ただ、そういう「何をやるか」はあくまで目的を成し遂げるための手段なので、PMの本質的な部分ではないと思います。
――PMの本質的な部分とは。
河根:まずはユーザーに、他社が提供できない価値をもたらすことです。その上で、事業体として収益を得られるように導いていく。そのために、やるべきことは全てやるのがPMです。例えば、戦略が不十分ならそれを考えますし、リソースに制約があるなら最適な配分を検討します。
――では本質を突き詰めると、どの会社でもPMがやることはあまり変わらないと。
河根:大きくは変わらないと思います。あらゆる業種・業態の会社でPM、もしくはPMに近い役割を担ってきましたが、根本的には似たようなことをやっている印象がありますから。
新卒マッキンゼーから米国でPMへ。一時は立場が「確立されていない」ゆえの苦難も
――ところで、河根さんが米国に渡ったのは2005年ですよね。
河根:はい。新卒で入ったマッキンゼーに数年勤めた後、MBAを取得するため米国に行き、UCバークレー(カリフォルニア大学バークレー校)に入りました。修了後、そのまま現地で就職したわけです。
――マッキンゼーに戻る選択肢もあったのでは。
河根:はい。迷いましたが、東大の大学院時代にVR(仮想現実)の研究をしていたこともあって、Tech領域への興味が強く……。家族の賛同も得られたので現地に残って、eBayに入りました。
――その時からPMの職だったのですか。
河根:いいえ。eBayの途中からPMに近い役を担って、つまり“片足を突っ込んだ”のですが。本格的にPMをやるようになったのは、2013年に参画したAnchorFreeの在籍時ですね。
――職種が変わるのは大変でしたか。
河根:職種が変わったことによる苦労は、あまりありませんでした。それこそ本質を突き詰めると、コンサルタントとPMの仕事も似ていると思いますしね。
ただ、AnchorFreeでPMになった当初は、別の意味で大変でした。
――なぜでしょうか。
河根:社内でPMのポジションが確立されていなかったからです。当時のAnchorFreeは一般的なプロダクトマネジメントのようにPMが主導役になるわけではなく、経営陣が「これをやるべきだ!」と発したら、戦略があいまいなまま、エンジニアがなんとかそれを実現させようとする状態だったんです。
結果としてバグが頻発して、かつ事業も伸び悩み……。それを打開すべく、エンジニアと議論を重ねたり、戦略を考え直したりしながら成果を出して、少しずつ信頼を勝ち取っていきました。
Metaで経験した「カオス」なプロダクトづくり……独自文化はエンジニアが優秀だから!?
――AnchorFreeに続いて数社で勤務した後、2022〜23年にMetaのPMを務めていますよね。どんな仕事を担っていたのですか。
河根:プロダクトマネジメントリードとして、他のPMらのマネジメントなどを担う立場でした。担当していたプロダクトは、Facebook Messengerです。
――他社と比べて特徴的なことはありましたか。
河根:良くも悪くも「カオス」な仕事の進め方だったのが、印象的です。あれだけ大きな会社だと、組織形態や仕事のアサインのプロセスなどが整っていることが多いと思いますが、そうではなくて……。
クモの巣のように張り巡らされた人のつながりをたどりながら、メンバーをかき集めてチームを作る感じでした。
あと、そうやってリソースを確保したらチーム内でプロジェクトの意義を共有して、「とにかく結果を出そう!」みたいな感じで一気に進み始めるんです。要件定義が割とルーズだったとしても、スピードが優先されます。素早くリリースして、後から修正をかけていくことが多かったですね。
――スタートアップ的ですね。
河根:たぶん、世界中から優秀なエンジニアが集まっているから、あれだけの規模でも成り立つんだと思います。エンジニア1人1人が自立していて、ある意味勝手に進めていく面もある。一方のPMは、戦略の部分に集中することが多かったです。
ただこれは僕が関わっていたFacebook Messenger周りの話で、Meta全体がそうなのかは、分からないというのが正直なところです。
金融、小売りに製造業――。米国ではあらゆる業態でPMが活躍
――15年以上も現地にいる中、PMを取り巻く状況の変化は感じますか。
河根:ここ10年くらいで大きく変わりました。まず、PMが職種の1つとして、明確に定義されるようになりました。仕事の方法論もある程度確立されて、最近ではPMについて教えるスクールも出てきています。
定義の中身についても、かつては人や企業によって捉え方が異なることが多かったですが、最近は一定の方向に収斂(しゅうれん)してきています。要は少し前に述べた「ユーザーに価値を提供して収益を生むために、やれることは全てやる人」みたいな考え方です。
――他にも変化はありますか。
河根:米国ではTech系以外の企業も、PMを採用するようになってきています。例えば金融、小売り、製造業といった業態の企業です。サービスや製品を速やかに形にして、リリースし、その上で改善を重ねていくというスタートアップっぽい運営方法が、多分野に広まったからだと思います。
――PMについて、日米の違いは感じますか。
河根:PMの定義について、日本は米国ほど共通認識が確立されていない感があります。日本で、プロジェクトマネージャーと区別するためPdMと呼ばれたりするのは、そのためかもしれませんね。米国でPdMという呼び名を聞くことは、あまりありません。
ジェネラリストのPMはいらなくなる!? 米国で予想される、専門性重視への回帰現象
――PMの仕事はどうなっていくと思いますか。これから起きることについて、見解を聞かせてください。
河根:大きく3つの変化があると思います。1つ目は、PM以外の人がPMっぽいことをやるようになる流れです。例えばエンジニアがPMを兼ねるみたいなケースが、特に小さいプロジェクトなら増えると思います。
理由はPMの方法論が確立されて、かつ今はAI(人工知能)の助けも得られるからです。
――PMのコモディティー化(汎用化)、言い換えると民主化みたいな流れでしょうか。
河根:はい。少し前にAirbnbが「旧来のプロダクトマネジメント機能を廃止した」と表明した(*3)のも、そうした傾向の表れではないかと思っています。
*3 共同創業者でCEO(最高経営責任者)のブライアン・チェスキー氏が、2023年6月に開かれたイベントで発言
――2つ目は何でしょう。
河根:1つ目と矛盾するように聞こえるかもしれませんが、特定のタイプの事業ではPMが今まで以上に求められるようになると思います。
――特定のタイプの事業とは。
河根:規模が大きい事業、複雑な事業、先行きの不確実性が高い事業などですね。こういったビジネスだと、高度なプロダクトマネジメントが求められて、かつAIによるサポートも容易ではない。なので高い能力を持つPM人材は、そういう事業体に流れていくのではないでしょうか。
3つ目は2つ目と密接に関わるのですが、PMにはより高い専門性が必要になる、という流れです。PMがコモディティー化する中、組織内で認められて実際に価値を出すために、何らかの専門性が必要とされるようになるのではないかと思います。
元々PMは、エンジニアリングの知識など専門性が必須とされていたんです。それが5年くらい前からは、「そうではなくて360度見ることができるジェネラリストがPMの理想像」みたいな感じになっていきました。
今後予想されるのは、ある意味“揺り戻し”の現象です。例えば機械学習モデルのトレーニングができるPMとか、より“尖った”人材が重宝されるのではないかと感じています。
――なるほど。そのような“尖った”専門性以外では、どのような力を持った人がPMとして成功しやすいと思いますか。
河根:好奇心と積極性がある人が成功しやすいのは、間違いないと思います。積極性は言い換えると当事者意識、でしょうか。そういえばMetaが重んじる価値観の中に、「Nothing at Facebook is Somebody Else's Problem」(*4)というものがありました。UdemyのPM講座でも述べたりしているのですが、プロダクトを成功に導く上で、とても大事な考え方だと思います。
*4 「Facebook には他人事など存在しない」の意
あとは、難しい意思決定をする際の胆力があるかどうかも、ポイントになります。腹をくくって、決め切る力ですね。いろいろな意見がある中、最終決定がPMに委ねられることは、結構あるんです。場合によっては、その決断によって、一部の人たちに嫌われてしまうこともある。それでもプロダクトの成功のために、覚悟を決めて決断を下すことが求められる仕事です。
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