「心の声に耳を傾けて」ジョブ型とメンバーシップ型を経験した起業家が、就活生に伝えたいこと
2022/08/16
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“ジョブ型”を意識した新卒採用や人材育成を取り入れる企業が、日本国内でも増えてきている。そのような中、“メンバーシップ型”を維持する企業と比較し、どちらの働き方が自分に合っているか、悩む学生も出てきているのではないだろうか。
そうした学生に対し「明確な人生のテーマがあるならジョブ型を。そうでないなら、まずは心の声に耳を傾けて」と助言するのは、ユニファ株式会社の代表取締役CEO(最高経営責任者)土岐泰之氏だ。特集「”ジョブ型”時代の就活とキャリア」第8回では、“ジョブ型”企業と“メンバーシップ型”企業の双方での就業経験に加え、採用側の視点も備えた土岐氏に、学生が知っておくべき働き方の差異を、具体的に語ってもらった。【斎藤公也】
◇ジョブ型とは何かについては、こちらの記事を参照ください
※内容や肩書は2022年8月の記事公開当時のものです
1.「ジョブ型的発想」を持ちつつ総合商社へ “配属リスク”を避けたく文書を作成するも…
2.「経営者になるためのスキルを体系的に学びたい」とコンサルに転職
3.事実や論理だけではない。「情理」も課題解決には必要
4.ジョブ型に寄せすぎるのはよくない。上位ポジションほど求められる「多能工」的な働き方
「ジョブ型的発想」を持ちつつ総合商社へ “配属リスク”を避けたく文書を作成するも…
――新卒で、住友商事に入社します。住友商事を選ばれた経緯を教えてください。
土岐:学生の頃から、起業や企業経営に携わりたいと考えていました。ただ、「人生のテーマ」というものが見えていなかったため、特定の業種に絞った就職活動をしていませんでした。経営者になるための経験を積むことができる企業や業種、という観点で就活をしましたね。
――詳しく教えていただけますか。
土岐:業種でいえば、総合商社、コンサルティングファーム、金融業界を中心に応募しました。それらに加えて、ある外資系メーカーのマーケティング職にも応募しました。総合商社はリアルなビジネスを「泥にまみれて」一定程度経験できるため、経営者を目指すには適しているのではないかと、当時の私は考えました。総合商社の中でも、住友商事に入社を決めたのは、日本国内の小売業界の勢力図を変えるビジネスを手掛けていたからです。西友と米ウォルマートの資本業務提携を仲介していたのが、住友商事でした。
――ということは、今でいう「ジョブ型」や「メンバーシップ型」という働き方を当時から意識されていたということですか。
土岐:「手に職を付ける」といった、「ジョブ型的発想」を持っていたのは事実です。外資系メーカーのマーケティング職に応募したのは、経営者になった時に、顧客視点に立脚した戦略を策定し、売り上げを伸ばす施策などを打ち出すには、マーケティングの知見が必要と考えたからです。
――ですが、「メンバーシップ型」といわれる総合商社を選ばれています。
土岐:自分の「柱」となるスキルや専門性を持つ必要はあると思いつつ、経営者を目指すには、選択肢を狭めず、幅広い経験を積まなければならないと考えました。
――実際に、小売業界の担当になりましたか。
土岐:いえ。配属されたのは、スタートアップ投資案件を扱う部門でした。配属される部門を選べないリスクがあるのは、わかっていました。そのため、大学の友人とともに、小売業界担当を希望する理由や事業計画などを記した文書を会社に送り、何とか小売担当にしてもらおうと考えました。結局、配属されたのはその友人でした。
――希望に沿わない部門に配属され、どう感じましたか。
土岐:失敗したな、とは思いました。ですが、結婚式場やハウスウエディングといった、小売業界に近い業種を運営している投資先企業があったため、スタートアップ投資と小売に近い業界、両方を経験できたのは、とても貴重だったと思います。
「経営者になるためのスキルを体系的に学びたい」とコンサルに転職
――外資系コンサルティングファームに転職します。理由を教えてください。
土岐:投資先企業の経営が行き詰まった時に、自分の非力さを痛感しました。また、入社して4~5年経った頃、総合商社が備える資金力や信用力を十分に使いこなせる上位の職位に就くには、長い時間を要すると感じるようになりました。
自分が10年在籍したとしても、それらを活用できているのか、疑問を持つようにもなっていました。
少しでも早く経営者になるためのスキルを体系的に学びたいという思いが強まり、コンサルティングファームへの転職を決めました。
――コンサルの中でも、ローランド・ベルガーに入社したのはなぜでしょうか。
土岐:ローランド・ベルガーが、欧州を発祥とするコンサルティングファームだからです。本拠を構えるドイツには、BMWなど世界的なブランド力を有する企業が数多くあります。
ローランド・ベルガーは、それら企業のブランド戦略のプロジェクトを担っていました。
私は、ビジネスで最も難しいのは、人の心を動かすことだと考えています。企業が顧客など人の心を動かしていくには、ブランドをいかに構築していくかが重要です。ビジネスの肝となるブランド構築に関わるローランド・ベルガーでは、面白い経験ができるのではないかと考えました。
――実際に働いてみて、コンサルの働き方は想像と違いましたか。
土岐:ある程度想像はしていましたが、資料作成の方法や論点整理の手法などのキャッチアップに苦労しました。ただ、クライアントの幹部と議論をして本音を引き出したり、本質的な課題を見つけたりするのは得意で、評価もしてもらいました。
事実や論理だけではない。「情理」も課題解決には必要
――コンサルは「ジョブ型」、総合商社は「メンバーシップ型」と分類されます。働き方が大きく異なる業界で活躍するには、ご自分の中に「軸」のようなものが必要なのではないかと感じます。
土岐:そうですね。経営者を目指すという「軸」の他、「納得感」も重要だったと思います。
携わるプロジェクトの意味や社会的意義について、自分なりに納得感を持って仕事をしたいという思いは強かったです。意思決定をするにも、自分をしっかり説得できるだけの材料を根拠としていきたいと考えていました。
今から考えれば、起業のきっかけにもなる、子育てといった家族に関わる要素が、最も大きな「軸」といえますが、さまざまに試しながら、意思決定をしてきた結果といえると思います。
――総合商社やコンサルで携わった、印象的だったプロジェクトがあれば教えてください。
土岐:あるオーナー企業の後継者や経営陣選定、組織改編のプロジェクトは印象的でした。社内における出世や勢力争いなど、人間の「情理」に関わる課題が多く、ファクトやロジックだけでは解決しがたかったからです。企業を経営する立場になってみると、とても貴重な経験をさせていただいたと思います。
――なぜでしょうか。
土岐:経営者として、クライアントである保育業界の皆さんの思いと、当社のメンバーの思いを融合して、保育業界の課題解決につなげていかなければならないからです。ファクトと論理、情理を均衡させて、事業を進めていきたいと思います。
ジョブ型に寄せすぎるのはよくない。上位ポジションほど求められる「多能工」的な働き方
――土岐さんにとって、「ジョブ型」と「メンバーシップ型」のどちらがよい働き方でしょうか。
土岐:成長という観点で両方を経験してみて、両方にはそれぞれの利点があると思います。ただ、日本国内でキャリアを構築していこうとするときには、ジョブ型に寄せすぎるのは、将来のキャリアを狭めかねないと考えています。
ビジネスは特定の職種だけで遂行できるわけではありません。上位のポジションになればなるほど、「多能工」的であるべきですし、物事を多面的に見る必要があると考えています。
我々のようなスタートアップ企業では、何か特定の業務ができればいいというわけではありません。「家族の幸せを生み出す あたらしい社会インフラを世界中で創り出す」というパーパス(存在意義)といった、目に見えず抽象的ではあるけれども確実に存在する「軸」を踏まえて、カルチャーを作り、組織を動かしていく必要があります。
――一方で、特定の職種でキャリアを積む「ジョブ型」を志向する学生も目立ち始めています。
土岐:当社でも、高い専門性が求められる業務は多いです。ですが、一貫して特定の職種に携わるかというと、そうではありません。一定期間、その職種を経験したら、他の職種を経験してもらいます。
ジョブ型を志向しながら、パーパスに共感してくれる応募者を集めるのは、挑戦的な取り組みではあります。
我々が根本的にやろうとしていることは、経営を理解するということです。経営を理解するというのは、顧客や組織を理解して、稼げるビジネスモデルを構築することです。そのためには、さまざまな職種を通じて顧客や組織の理解を深めていく必要があります。
先程お話しした、ファクトとロジック、情理を考慮してオーナー企業の課題解決をした時のように、持続可能性の高いビジネスモデルをつくるための解像度を深めている修行、言い換えれば、本当の意味における「骨太」のスキルを磨くという挑戦をしています。
その観点においては、ジョブ型とかメンバーシップ型という分類自体が、あまり意味がないように思います。
――学生が実際に企業を選ぶときに、どんなことを心掛けた方がいいでしょうか。
土岐:最終的には、「自分の心が動く方向」となるかとは思いますが、重要なのは、どんな観点で動いているか、です。
人生のテーマがあるのであれば、ジョブ型を志向すればいいと思います。
ですが、自分が何者か、分かっている学生は多くないと思います。人生のテーマなども明確ではないかもしれません。道標になるのは、好奇心をかきたてられるかどうかです。就職偏差値などの情報に惑わされず、自分の本当の心の声に耳を傾けた方がいいと思います。インターンや起業などを活用して、心の声を聞いてみてください。
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