「コンサル経験はスタートアップの“現場”では生きない」 最年少で昇進した25歳は6日間考えて退職を決めた~戦コン出身起業家図鑑(8)
2019/12/09
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特集「戦コン出身起業家図鑑」、第8回の今回登場してもらうのは、A.T.カーニーに新卒で入社した大平裕介さん。日本法人史上最年少(当時)でアソシエイトに昇格するなど、目覚ましい活躍をした後、起業に踏み切った。そんな大平さんも、学生時代は「やりたいことを明確化できなかった」という。【藤崎竜介】
1. やりたいことを決めきれなかった学生時代
2. 「とりあえずコンサルへ」では失敗する
3. 南の島での5日間で起業を決意。目標はイーロン・マスク
4. 元コンサルvs元リクルート、スタートアップの現場で生きるのは・・・
5. 胸に残る南場氏の問いかけ 「お前は何をしたいんだ?」
やりたいことを決めきれなかった学生時代
――就職活動を始めた当時、「将来やりたいこと」は明確にありましたか?
大平:就活を始める前にいくつかのスタートアップ企業をお手伝いし、事業の立ち上げを経験しました。人材ビジネスで就活関連メディアなどに携わったのですが、それで「人材やメディアをやりたい」などと意志が固まったわけではなく、単純に「ビジネスって面白いな」と感じました。
――明確化してはいなかったと。
大平:そうですね。とはいえ、「社会人になっても熱くなれるものを持ちたい」という気持ちは漠然と抱きました。スタートアップで働いていた時に南場智子さん(ディー・エヌ・エー代表取締役会長)と話す機会などもあり、起業家たちの熱い心に惹かれていましたから。
就活では、まず「熱い人はどこにいるか」という観点で企業を探していたので、当然スタートアップやメガベンチャーにも興味を持ちました。
――それにもかかわらず、ファーストキャリアに戦略コンサルのA.T.カーニーを選んだのは意外です。
大平:スタートアップでの経験をすごく楽しんでいたので、周囲の人たちにも不思議がられました。コンサルを選んだのは、自分の見ている世界はまだまだ狭すぎると思ったからです。
ビジネスは課題を持つ人たちを助けるものだと思うのですが、当時の私は「メディアを使ったことがあるからメディアに課題を感じる」「学生だから就活の課題が分かる」といった程度の問題意識しかありませんでした。経験が圧倒的に不足していたわけです。
特にBtoB領域には、学生が知らない世界がたくさんあります。それらを幅広く知らずして、今後数十年働く自分にとってのベストな領域は選べないと思いました。
それで、浅くてもいいから広くビジネスの世界を知ることができるプレイヤーはどこにいるか、と考えた時、外資系のコンサルが最良だという結論に至りました。今考えても、良い選択だったと思います。
――コンサルが幅広いビジネスに触れられる場と知ったきっかけは何でしたか?
大平:当時手伝っていたスタートアップの仕事で外資系コンサルの方と知り合いになり、食事などの席で自動車産業の将来について意見を交わす機会がありました。
私は車の販売やマーケティング、デザインについて主に考えたのですが、その方と話すうちに自動車産業には素材メーカーや加工業者、運送業者などを含む多様なプレイヤーが関わっていることが分かってきて、自分はビジネスの表面的な部分しか見ていないことを痛感したのです。
――A.T.カーニーでは「広くビジネスを知る」という目的を果たすことはできましたか。
大平:色々なことが明確に見えるようになりました。一番良かったのは、直接会うカウンターパートが、社長や役員の方だということです。経営層が感じる課題は、実は社内の人でも分からないほど深いものだったりします。そういうものに、若くして触れることができました。期間は短かったですが、高濃度だったと思います。
学生だったら、今私が手掛けているような経費削減のSaaSプロダクトなんて絶対に作ろうと思わなかったはずです。そういう意味で、目的はかなり達成されたといえます。今の事業が成功したら完璧に達成されたことになり、A.T.カーニーには頭が上がらなくなるでしょうね。
「とりあえずコンサルへ」では失敗する
――やりたいことが決まっていないからコンサルに行くという学生も多いようです。
大平:気持ちはすごく分かります。それに、A.T.カーニーで採用の面接官もやっていたので、そういう学生に数多く会いました。
2パターンいると思います。1つ目は、とにかく考え抜いた人ですね。本当に悩んだけれども、学生だと知り得ないことがたくさんあると気づき、「何をやればいいか分からない」となる。
例えるなら、運動部への入部を希望するとして、部活見学をした後、「見るだけでは、どれが自分にとってベストなスポーツか決められません。だから一度やらせてください」となるパターンです。これについては、理解できます。活躍できるフィールドを選ぶためにコンサルに行くというのは、理にかなっていると思います。
――大平さんに近い考え方ですね。
大平:はい、近いですね。反対に、思考停止状態でコンサルを志望する学生も一定数います。漠然と「とりあえずコンサルへ」みたいなフワッとした考えだけで志望するパターンです。
それだと、コンサルは考えるのが仕事なので、「入社しても辛いだろうな」と思ってしまいます。考えるのを途中で止めて、結論を先延ばししているからです。
「コンサルで何を確かめるの?」と聞いて明確な返答がない人だと、結局コンサルに入っても答えは見つからず、気がついたらなんとなく事業会社に転職する、みたいなことになりがちです。
面接官をやっている時は、この2パターンの違いを読み誤らないよう心掛けていました。
南の島での5日間で起業を決意。目標はイーロン・マスク
――A.T.カーニーで約3年働いた後、起業されました。どんなきっかけがあったのでしょうか?
大平:いつかは起業するとずっと思っていました。ただ、初めてそれを真剣に考えたのは、2018年秋のことです。考え始めてから6日間で事業構想を固め、意思決定しました。
当時、福岡での常駐プロジェクトに携わっていて、約10人のメンバーですごく楽しく仕事をしていました。結局プロジェクトは1年くらい続き、メンバーとは家族みたいな関係になりました。
それで、ある日ふと思ったのです、「このチームを終わらせたくない」と。でもプロジェクトベースでチームを形成するコンサルでは、無理な話です。その時ですね、「コンサルを卒業したい」と初めて明確に思ったのは。
――それが6日間の1日目でしょうか。
大平:はい。それで、今どうすべきかをすぐに1人で考えたくなり、時間をもらい、翌日にグアムへ飛びました。
――いきなりグアムですか。
大平:福岡からだと割と行きやすいですし(笑)。現地では携帯電話の電源も切り、ホテルで延々とノートにやりたいことを書き続けました。結果、2つのことが見えてきました。
1つは「自分の組織だ」と思えて、自分が好きなタイプの人たちが集まるチームを作り、ビジネスをしたいということ。別に会社でなくてもいいのですが、とにかく期間限定でない自分のチームを作りたいと思いました。
――2つ目は。
大平:猛烈に燃えている人を応援したいということです。自分が燃えるのも好きですが、私は燃えている人を応援することにも燃える人間です。これら2つは譲れないことが明らかになりました。
実は、その2つを一番実行できているのは誰かと考えた時、真っ先に浮かんできたのがイーロン・マスク(米テスラの最高経営責任者。米スペースXも率いる)の名でした。彼は自分の好きな領域で事業をやり、仲間をポジティブに評価し、さらに気に入った他の経営者に積極的に投資しています。
イーロン・マスクをベンチマークにするといっても、いきなり宇宙事業をやるのはハードルが高い。ただ最初は小さな事業でも、結果的に彼みたいに世の中に大きな価値をもたらすことはできる。そう考えていくと、「これは会社員じゃできないな」と気づきました。「自分で資本を持ってやるしかない」と起業に行き着いたのが4日目ですね。
――残りの2日間は。
大平:起業するといっても、具体的に何をやるかが決まらないと、始まりません。その時、A.T.カーニーでの経験がすごく生きました。在籍中ずっと思っていたのが、コンサルを必要としているのは高額のフィーを払える大企業だけではないということです。
例えば、スタートアップからも大企業と同様の課題を聞いたりします。それらにもコンサルの価値を届けるには、労働集約型から脱却してプロダクト化する必要があります。なので、自分が関わったプロジェクトの中でプロダクト化しやすくスタートアップや中小企業に届けやすいものは何かを考えた結果、たどり着いたのが今のLeaner Technologiesの事業です。
――計6日間でそこまで決めたわけですね。
大平:帰国するころには、考えがだいぶクリアになっていましたね。グアムに行くときは、本当に白紙の状態でしたから。
――ちなみに他の起業アイディアもありましたか。
大平:ありました。マーケティング、新規事業、中期経営計画の策定などを支援するアプローチです。ただ、それらはプロダクト化が難しいと思いました。
――事業会社に転職するという選択肢もあったのではないでしょうか。
大平:はい。実際、スタートアップのCOOやCFOとしてお声がけいただいて、楽しそうだとは思いました。ただスタートアップで働いた経験があるので分かるのですが、やっぱり創業者でないと自由にメンバーを選ぶわけにはいきません。そこは妥協したくなかったので、思い切って起業することにしました。
元コンサルvs元リクルート、スタートアップの現場で生きるのは・・・
――ところで「コンサルタントのスキルはスタートアップで生きない」という人もいます。実際ご自身で起業されて、その点どう感じますか。
大平:正確に言うと、“ほとんど”生きない、ですね。全く生きないではなく。
実は今、リクルート出身の人たちがどんどん当社に入ってきてくれています。あと、A.T.カーニーからは、田中英地がCOOとしてジョインしました。それで、コンサルの能力のどこがスタートアップで生きるか、逆に何がないから「コンサルはスタートアップでは使えない」と言われるかが、明確に分かるようになりました。
会社を立ち上げて大きな成果を得るのに最低限必要な3つの能力があると思っています。1つは明確にビジョンを描く力。2つ目はビジョンと現実のギャップを事細かに分析し、どうギャップを埋めるかの戦略を明らかにする力。3つ目が、戦略を実行して“どうにかする”力です。
3つ目が特に重要だと思います。コンサルの人たちはビジョンが描けて分析もできるけど、“どうにかする”ことは、やってこなかった人たちです。リクルート出身の人たちは2つ目の力で私や田中に及ばなくても、3つ目の力はずば抜けています。
つまりコンサル出身者と事業会社出身者は、力を発揮できる“場”が違うということです。なので「コンサルの力はスタートアップの『現場』では生きない」が正しい表現ではないでしょうか。
――新卒でコンサルのようなアドバイザリー業務を選ぶか事業会社を選ぶかは、大きな違いですね。仮に大平さんに子供がいて就職活動中だったとしたら、どんな助言をしますか?
大平:漠然と「どうしたらいい?」と聞かれたとしたら、真っ先に「自分でもっと考えろ」と言います。繰り返しになりますが、とにかく自分で考え抜くことが大事ですから。もしも、考えた上でコンサルと事業会社の2択で聞かれたとしたら、コンサルを勧めるでしょうね。
ビジネスとはそもそも、誰かの問題を解決してお金をいただくことだと捉えているので、世の中の困りごとを知らずして、良いビジネスは作れないと思います。20歳前後で、「何をすればいいか分からない」みたいなことを言っているということは、つまり解決したい問題、もしくは解決すべき問題に対して感度が不十分ということです。
それならば事業会社よりコンサルの方が、活躍できるかどうかは別として、良い経験を積めると思います。
胸に残る南場氏の問いかけ 「お前は何をしたいんだ?」
――戦略コンサルへの入社と退職、そして起業を経験している身として、学生に伝えたいことは何ですか?
大平:コンサル志望でも起業志望でも、一番大事なのは明確な目的意識を持つことです。やりたい仕事が分からないからコンサルに行くという考え自体は、すごく理解できます。ただそこで大事なのは、コンサルで何を経験すればやりたいことが分かるか、を考え抜いた上で明確にしておくことです。そして、その目的意識に頻繁に立ち返り、自分の言動がブレていないかを確認することも重要です。
思えば、南場智子さんをはじめ、学生時代に接して尊敬できると思った人は共通して「お前は何をしたいんだ」「目的は何なんだ」「何のためにそれやってるんだ」といったことを絶えず聞いてきました。ブレていないかや、後悔しないほど考え抜いているかを確かめるのでしょうね。
私自身、A.T.カーニーに入る時や起業する時は、さまざまなことを考え、悩み抜きました。だから後悔していません。そして、これからも悩み考え続けながらビジネスを前に進めていこうと思っています。
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