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「米国で起きたことは数年遅れて、日本でも……」。そんな一節を耳にすることは、少なくない。特にTech領域などで米国企業が世界を席巻するようになった2010年代以後は、あらゆる面で同国の先進性が際立つ。
では就職活動は、どうか。米国のトレンドで、この先日本に波及しそうなものはあるのか。
特集「就活進化論」第3回では、米国の就活の特徴をいくつか取り上げつつ、日本の就活の先行きを占う。【藤崎竜介】
1.給与の公開が必須の地域も……米国の就活で大前提となる、極端なまでの「透明性」
2.「新卒」の概念が希薄な米国。通年採用が広がる日本も、そうなる!?
3.米国企業は長期インターンに参加した学生でないと、面接すらしない場合も……
4.全米で利用が広がる“新種”の就活ツール「Handshake」は、日本にも来るか
給与の公開が必須の地域も……米国の就活で大前提となる、極端なまでの「透明性」
雄大なハドソン川を見下ろすように、高層ビルに居を構えるウォール街の金融企業。そしてダウンタウンやブルックリンなどで、エコシステムが増殖するスタートアップ――。
金融からTechまで、有力企業を多く擁す米国ニューヨークが、世界経済の要の一つなのは言うまでもない。
2022年11月、この地で新たな法が施行され、世界から視線を浴びた。
通称、Salary Transparency Law(給与開示法)。これにより、ニューヨーク市で一定数以上の人を雇う場合、求人時に年収の下限と上限を示すことが必須になった。
こうした法制化は極端な例だが、もとより米国では、給与水準に関する情報共有が日本より盛んだ。glassdoorやLevels.fyiといった就活ツールで多くの企業の給与が暴露され、最近では企業側がLinkedInなどにジョブディスクリプション(JD)を載せるにあたり、公式に対象ポジションの年収額を明示するケースも少なくない。
米国では学生も社会人も、このような給与に関する「高い透明性」、文字通りTransparencyの下、就職活動に勤しむ。
「(米国では)『この企業のこのジョブ(職種)に就いて、この水準の給与を得たいから、こういうスキルを得よう』みたいな流れになりやすいんです」
こう評すのは、過去にニューヨークで起業し、また米国Quoraの日本担当エバンジェリストも務めた江島健太郎さん(外資就活ドットコムの別の記事より)。米国での給与に関する情報の透明性は、将来のキャリアストーリーを描きやすくしているという。
「これから日本でも、透明性が高まるかもしれませんね」
こちらは、日米両国で就職活動を経験したshoshiminさん(*1)の言葉だ。
*1 日本出身で現在は米国で金融系企業に就業中、名はハンドルネーム。ブログはこちら、Twitterはこちら
米国もかつては今ほど給与に関する情報の透明性が高くなかったが、次第に非公式な形で共有される例が増え、結果Salary Transparency Lawのような公のルールが定まるまでに至ったという。
日本でも、米国ほどではないがTwitterやOpenSalaryといった場で給与情報が発信されるケースは増えている。それを踏まえると、shoshiminさんの見立てが的外れとは言い切れない。
「新卒」の概念が希薄な米国。通年採用が広がる日本も、そうなる!?
企業、さらにはポジションごとの給与水準に関する情報が豊富で、それらを基にキャリアの選択がなされることが多い米国。ではそうした大前提の下、現地の若手人材、中でも学生はどのように就職活動を進めるのか。
「(自身はMBAからの現地就職なので)学部生の就活は人から聞いたりする話ですが、日本みたいな、学生がある時期に一斉にリクルートスーツを着始める感じではないようです」
前出のshoshiminさんは、日米の違いをこう指摘する。日本の新卒採用は、企業が毎年限られた期間に募集し、学生がそれに合わせて一挙にエントリーする形が一般的。片や米国の場合は、やや様相が異なる。
学卒の人材を年1回まとめて採る、いわゆる新卒一括採用が日本ほど大々的に行われていないからだ。
「学卒で入れるジュニア系のポジションについては、常に募集している企業が多い印象です。日本での中途採用に、少し近いかもしれませんね」と、shoshiminさんは付け加える。
それゆえ米国の大学では、金融など選考時期に一定の傾向がみられる業界はあるものの、日本の学生と比べ自由なスケジュール感で就活を進める人が多いという。
また、shoshiminさんがいう「学卒で入れるジュニア系のポジション」は、募集対象が学生だけとは限らない。つまり学生はしばしば、大学卒業済みで未就業の人や、経験1~3年程度の若手社会人と椅子を争うことになる。
近年は日本でもソフトバンクやリクルートなど、応募を受ける時期を限定しない「通年採用」で新卒人材を採る大企業が出始めている。経済団体などがこうした取り組みを促す(*2)現状を踏まえると、この先新卒採用の通年化が進み、米国のように「新卒」という概念が希薄になる可能性も否めない。
*2 日本経済団体連合会(経団連)が2019年4月に、通年採用を拡大していく方向で大学側と合意(詳細はこちら)
米国企業は長期インターンに参加した学生でないと、面接すらしない場合も……
「ある意味、就活は入学した直後に始まる感じですね」
こちらは米国東海岸の名門大学に通う、ある現役学生が抱いた実感だ。対して、日本の名門校にいて入学直後から就活を意識する人は、珍しいようにみえる。この違いは、どこから来るのか。
要因の一つが、既に述べた「学生がしばしば既卒者とジュニア系ポジションを争う」という構図だ。この構図の下、米国だと新卒で就職する人もある程度即戦力になることが求められ、選考では「何ができるのか?」の具体的内容が問われる。そして学生は、そうした問いへの解を用意する必要に迫られる。
だからこそ在米学生の多くが、企業のインターンシップに意欲的に取り組むという。
「1年生の時はボストンのスタートアップ、2年生の時はGoogle、3年生の時はPalantir Technologiesのインターンに参加しました」
ハーバード大学留学を経てシリコンバレーのスタートアップ、Asanaに就職した山田寛久さんは、こう学生時代を振り返る(Asanaは退職済み。山田さんのインタビュー記事はこちら)。米国では実務経験を積み就活に生かすため、大学1年生の時からインターンに参加するのが、“普通”だ。
在米学生のインターンについて、shoshiminさんはこう話す。
「今の職場に新卒で入ってきた若手について言うと、ほぼ全員が学生時代に、業界や実務の面でこの仕事と関連のある長期インターンを経験していると思います」
このコメントからも、米国で新卒就職する際の、インターンの重要性がうかがえる。
本選考の前に長期インターンに参加していないと、よほどの加点要素がない限り書類選考を通さない企業もあるのだという。
「私が見ている企業だと、現実的には4年生が始まる直前の夏に参加する長期インターンが、本選考に組み込まれている感じですね」(前述の東海岸名門校在籍者)といった声すら上がる。
そしてもちろん、インターンで活躍が認められた結果、そのまま入社に至る例も枚挙にいとまがない。
日本に目を移すと、政府がインターンと新卒採用に関する経済界への要請を一部緩和した(*3)のは、記憶に新しい。それを踏まえるとこの先、伝統的な日本の大企業なども、よりインターンを重視するようになるかもしれない。
*3 インターンに関する経済界への要請を、インターンで得た情報を採用などに活用できるよう2022年6月に改正(詳細はこちら)
全米で利用が広がる“新種”の就活ツール「Handshake」は、日本にも来るか
世界中から集まる優秀な人材が席を争い、かつ即戦力になることが求められる在米学生の就職活動。そんな厳しい“戦い”において、一助となるのが次々と現れる就活ツールだ。
「LinkedInはマストでしょうね。これがないと、始まらないというか」(同)
日本では社会人を中心に利用が広がるLinkedInだが、米国では学生の間でも普及度が高い。求人検索やエントリー(応募)の際だけでなく、志望する企業の社員と接点を作るためにLinkedInを使う学生も、少なくない。
また、ビジネス系のカリキュラムでLinkedInのアカウントを学生に作らせる大学も、あるのだという。
このLinkedInに迫る勢いで利用者を増やしているのが、学生と企業をマッチングするオンラインプラットフォーム「Handshake」だ。
特徴は、大学のキャリアセンターと連携して利用する学生の情報を取得している点。企業側は学生一人一人の専攻や研究内容など、大学だからこそ持てる細かく信ぴょう性の高い情報を得て、採用に活用できる。
学生にとっては、キャリアセンターが持つ情報が生かされるので、登録など利用開始に伴う手間の少なさがメリットだ。
既に述べたように米国では新卒でも即戦力性が求められるため、企業はインターンの経験に加えて、専攻や研究内容も重視する。従って、そうしたアカデミック領域の実績などを効率的に企業にアピールできるツールとして、Handshakeは大学と学生の双方から支持されている。
スタンフォード大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)など多くの名門校が、このプラットフォームを利用しているという。
Handshakeの運営元は2022年にドイツ企業のTalentspaceを買収するなど、グローバル展開を試みている。日本でもこのツールが広まる可能性は、あるだろうか。
「何ができるのか?」の具体的内容より将来のポテンシャルを重視する日本の伝統的な新卒採用なら、研究内容などをアピールできるHandshakeのような存在は必要性が薄いかもしれない。
ただ昨今、潮目が変わりつつある。
AI(人工知能)関連など専門性が高い技術系の職種では、日本企業もアカデミック領域の実績を重んじ始めているからだ(関連記事はこちら)。それに技術系の職種以外でも、社員に特定領域の専門性を求める「ジョブ型」雇用が日本で広がっていることを踏まえると、潜在的な需要があるともいえる。
Handshakeが日本に来るか、それとも似た別のツールが広まるか……。いずれにせよ、実現しても驚くにはあたらないのではないか。
1.給与水準に関する情報の透明性が高い
2.新卒一括採用が日本ほど大々的に行われない
3.新卒で就職するには長期インターンで実績を積むことが重要
4.多くの学生が1~2年生の時から長期インターンに参加
5.学生もLinkedInを積極的に活用、Handshakeの利用も増加中
米国における就職活動の特徴は、無数にある。この記事では、その中で今後日本に影響する可能性があるものを取り上げた。新卒での就職時のほか、この先転職を考える時なども含め、将来的に参考になる情報として心にとどめておくといいかもしれない。
米国の優秀な学生は、どんなファーストキャリアを選ぶのか。名門大学のうち、卒業生の就職先について情報公開している2校のデータを紹介する。
1つ目は、理工系の名門として名高いマサチューセッツ工科大学(MIT)。
2022年卒の就職先を見ると、調査対象になった学部卒生の34%、院卒生の22%がInformation/Computer Technology(情報・コンピューター技術)領域の企業に進み、分野別で最も比率が高い。2位はProfessional, Scientific and Technical Services including Consulting(コンサルティングを含む、科学・技術領域などの事業向けサービス)領域で、同学部卒生の16%、院卒生の25%が就職した。
そして3番目のFinance and Insurance(金融・保険)領域、4番目のHealth Care, Pharmaceuticals, Medical Devices(ヘルスケア・製薬・医療機器)がそれらに続く。
もう一つの大学が、ペンシルベニア大学。ビジネス系の教育に定評がある同大学ウォートン校の学部卒生だと、2021年度に受講した学生の52.96%がFinancial services(金融サービス)の企業を選択。続いて同22.37%のConsulting(コンサルティング)が2位、同11.47%のTechnology(テクノロジー)が3位となっている。
いずれも大学の個性が色濃く反映され、また分野の区分も統一されていないため、これらのデータが米国全体の現状を正確に表しているとは言い難い。それでも、IT、金融、コンサルティングが依然として優秀層の有力な進路であることは見て取れ、その点で日本と大差はなさそうだ。
ただ足元で進む気候変動、エネルギー供給の不安定化、先進国の高齢化といった流れを踏まえると、今後はエネルギー、ヘルスケアといった分野がより存在感を増しても、おかしくない。
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