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中国通信機器大手のファーウェイ(華為技術)が、Tech系の新卒人材に年収4000万円を提示――。そんなニュースに世が驚いたのが、2019年のこと。そして今も、高い技術力や専門性を持つ若手のエンジニアやデータサイエンティストをめぐり、世界中の企業が争奪戦を繰り広げる。
国内でそうしたTech系人材の採用で先行するのが、DeNAやサイバーエージェントといった一部のメガベンチャー。新卒人材に中堅社員級の報酬を提示するなど、年功序列の風習にとらわれない柔軟な採用戦略で、優れた人材を確保してきた。
昨今はそれ以外の日本企業も機械学習を研究する学生に好待遇を示すなど、争奪戦は激しさを増す。
特集「就活進化論」第4回では、Tech系人材の採用で上の国内2社を追う、有力企業に光を当てる。【藤崎竜介】
1.高難度な選考で即戦力エンジニアを狙う、マネーフォワード
2.GMOの「新卒年収710万円プログラム」で入社する、機械学習に通じた“エース候補”
3.日立など伝統的な日系大手もTech人材に熱視線。高報酬以外で何を“売り”にするか
高難度な選考で即戦力エンジニアを狙う、マネーフォワード
「Tech系の学生の採用は、どんどん競争が激しくなっています」
金融系ITサービスを手掛けるマネーフォワードで新卒採用部長を務める田中馨さんは、こう現状を明かす。2023年11月期売上高に最大で前期比38.0%増の296億円を見込むなど、拡大を続ける同社にとって、プロダクト開発を担う若手の採用は優先度の高い重要課題。しかしながら多くの企業が開発周りの新卒採用を強化しているため、“ライバル”は数限りない。
「エンジニアだと、候補者によってインターンシップや開発の経験、スキルのレベルなどにバラつきがあるのも難しいところです」と、田中さんは付け加える。
◆田中馨さん
そうした状況下で同社が始めたのが、ハイレベルなエンジニア系の新卒人材を迎え入れるための採用枠「エンジニア職 エキスパートコース」だ。この枠で入社する人の想定年収は、約700万円から。他の新卒エンジニア採用枠だと年収は約500万円からなので、待遇の差は大きい。
「いわゆる即戦力として、入社初日から力を発揮していただきたいと思っています」と、田中さんはこの枠で入る人への期待度を表す。
応募資格については、「国際学会等で査読付き論文を第一著者として通した実績」「技術コンペティション、技術コンテストでの入賞などの実績」など、ハイレベルな要件を設定(詳細は下部に記載)。分野は問わず、「それぞれの領域で高い専門性に到達している人が対象になります」(田中さん)という。
【エンジニア職 エキスパートコースの応募要件】
(採用サイト内の文言を掲載、同サイトはこちら)
<書類選考>
・国際学会等で査読付き論文を第一著者として通した実績
・企業や民間の団体から給付型奨学金の受給を受けていた人
・国費外国人留学生
・技術コンペティション、技術コンテストでの入賞などの実績
特別な枠だけに、選考のハードルは高い。VPoE(Vice President of Engineering)による面接やコーディングテストなどを通じて、即戦力になれるかを慎重に見極めるという。
GMOの「新卒年収710万円プログラム」で入社する、機械学習に通じた“エース候補”
マネーフォワードと似た取り組みで注目を集めるのが、通信や金融など幅広いサービスを展開するGMOインターネットグループだ。同社は2022年度に「No.1&STEAM人財採用~新卒年収710万円プログラム~」(*1)を新設。該当する新卒人材に最低2年は年収710万円以上を保証する、思い切った採用戦略を打ち出している。
*1 Tech系だけでなくビジネス系の職種も対象
このプログラムで同社がTech系人材に求めるスキルは、「機械学習/深層学習、コンピュータサイエンス、ソフトウェアエンジニアリングのエリアにおいて、査読付き論文の投稿、または研究会での発表経験といった優れた実績」や「ハッカソン・プログラミングなどの技術コンテストで入賞経験」など(詳細は下部に記載)。方向性やレベル感は、マネーフォワードの要件と似ているように見える。
【新卒年収710万円プログラムでTech系人材に求めるスキル】
(ホームページ内の文言を掲載、引用元のページはこちら)
◎機械学習/深層学習、コンピュータサイエンス、ソフトウェアエンジニアリングのエリアにおいて、査読付き論文の投稿、または研究会での発表経験といった優れた実績をお持ちの方
◎ハッカソン・プログラミングなどの技術コンテストで入賞経験のある方
◎長期インターン・アルバイトなどで優秀な実績のある方
◎勉強会や技術イベントでの発表・運営経験のある方
2023年4月には、このプログラムで採用した初の新卒人材が入社する。その中の1人が、データサイエンティストとして同社に入る、Aさん(*2)だ。
*2 名は同社の意向などにより匿名表記
「他の内定先と比べて、給与がかなり高いのはやはり魅力的に映りました」と、入社承諾の経緯を振り返るAさん。GMOインターネットグループがさまざまな事業を展開しているため、多分野の膨大なデータに関われる点にも引かれたという。
◆Aさん
海外出身のAさんは、日本の国立大学の大学院で5年間、機械学習で風力発電を効率化する研究に携わってきた。大学で研究を続ける選択肢もあったが、「技術の力で直接的に人の役に立つような仕事がしたい」といった思いから、企業への就職を決意。就職支援サービスを通じて新卒年収710万円プログラムを知り、応募した。
「総合的にレベルが高い人ですね。大学での研究内容が実践的で、データサイエンスで実社会の課題を解決しようとしている点もとても魅力的です」
こうAさんを評すのは、彼の配属先であるグループ研究開発本部でマネージャーを務める、稲守貴久さん。
入社後については「(GMOインターネットグループには)金融、広告をはじめ、さまざまな事業領域のデータがあるため、新しいテーマをどんどん見つけて、チャレンジしてもらいたいと思っています。あと、データサイエンス以外についても学べる環境なので、幅広く吸収してほしいですね」と期待を寄せる。
日立など伝統的な日系大手もTech人材に熱視線。高報酬以外で何を“売り”にするか
マネーフォワードやGMOインターネットグループのようにTech系人材向けに特別枠を設ける動きは、伝統的な日系大手の間でも広がっている。その一例が、日立製作所だ。
同社が設けているのが、Tech領域の研究開発職やデータサイエンティストなどに特化した新卒枠「デジタル人財採用コース」。データサイエンティストなど対象となる職務への配属を確約し、また給与について具体額は公開していないものの「学歴別一律の初任給額ではなく、個別に設定することを可能とします」(プレスリリースより)としている。
【デジタル人財採用コースにおけるデータサイエンティストの必要要件】
(新卒採用サイトの登録者が閲覧できる募集要項の文言を掲載、同サイトはこちら)
◆他の職種については別途要件を設定
以下のいずれかの知識・経験があること
・統計学の知識・経験がある (統計検定2級以上保有が望ましい)
・機械学習の知識・経験がある (Kaggleシルバーメダル(ソロ)以上やデータ分析コンテストので入賞経験ありが望ましい)
・構造化データ(RDB等)やデータ加工の知識・経験がある (SQL、Hadoop、Pythonなどの利用経験が望ましい)
あれば望ましい:
・AI・機械学習分野でのインターンシップの経験あり
・ディープラーニングの利用経験あり (画像認識・物体検出など)
現に研究開発やビジネスなどの現場では、若手のデータサイエンティストらが増え始めているという。
2020年入社でAI(人工知能)・データ分析の専門組織「Lumada Data Science Lab.」に属する小幡拓也さんと清水目拓馬さんは、インフラや金融機関向けの事業などで生じるデータの分析を担当。数カ月単位のプロジェクトに幾度も参画し、データサイエンスの知見・スキルを生かして、さまざまな事業を側面支援している。
ともに大学では、プログラミングスキルや時に機械学習のアルゴリズムを用い、データ分析に携わっていたという2人。小幡さんは、「修士1年の夏にインターンに参加して、日立がデータサイエンスに力を入れていることを知り、かつ社内に蓄積されたデータで面白いことができそうだと感じて興味を持ちました」と就活当時を振り返る。
◆小幡拓也さん
入社後は「研究と違って、ビジネスの現場から得られるデータは整っていないことが多いと感じました」(小幡さん)、「データをきれいにする泥くさい作業が結構あって、そこは衝撃でしたね」(清水目さん)といった壁に直面しつつも、新たな経験を通じて成長を実感できているという。
◆清水目拓馬さん
Tech系人材の採用に乗り出す、国内企業。だが既に述べた通り、競争は激しい。グローバルではGAFAや中国IT大手などが財力や知名度などを武器に“青田買い”を続け、国内に目を向けるとDeNA、サイバーエージェントといった先行組の優位は変わらない。
「Tech系の学生を対象に、ブランド力をもっと高める必要があります」と、マネーフォワードの田中さんは自社の課題を挙げる。
難しいのが、差別化だ。多くの企業が特別枠を設けて好待遇を示す中、どうやって独自の魅力を打ち出すか。
「技術面でレベルが高い人がいると、やっぱり魅力的に映ります。“学べる環境”は大事ですね」
日立の小幡さんは、こう指摘する。
優秀なTech系人材を引き付ける要素は、高報酬だけとは限らない。彼・彼女らの知的好奇心や向上心などをくすぐる好環境を、どれだけ作り、打ち出せるか。激しさを増す争奪戦における、焦点といえるかもしれない。
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