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特集「『成長』の正体」の2回目は、マッキンゼー・アンド・カンパニーのパートナーである櫻井康彰さんと山田唯人さんに聞く。2人は、「何のために成長するのか」を真剣に考えずにスキルだけを身につけていくと、気付いたときには自分の望んだ姿とはかけ離れた状態になる可能性を指摘する。自分なりの成長を考える重要性とは――。【丸山紀一朗】
1. 「何のための成長か」。後で変わってもいいから、イメージを持つ
2. 成長したいベクトルが定まれば、惜しみないサポートが受けられる環境
3. 無意識に他人と比べていたことに気付き、初めて「自分が何を成したいか」考えた
「何のための成長か」。後で変わってもいいから、イメージを持つ
――就職活動前後の学生時代、「成長したい」という気持ちはありましたか。
櫻井:僕は「めちゃくちゃ成長したい」という気持ちはなかったです。成長とは少し違って、世の中をよくしたいとは思っていました。そしてそのために、「強くなりたい」「大きなインパクトを出したい」みたいな思いはありましたね。
個人的には、「成長したい」とばかり言っている人は危うさを感じることもあります。
――具体的にはどういう危うさなのでしょうか。
櫻井:「成長」といったとき、何かしらの価値を生みたいといった前向きな思いが推進力となり、自分の能力を高めたいと考えるのは健全な状態でしょう。一方で、「どこでも食べていけるように」とか「つぶしが利くように」といった“逃げ”の動機から、成長したいと口にしている人もいると思います。
「成長しなければならない」と、自分を追い詰めてしまっている場合も少なくない気がしていて。僕は、別に成長しなくても、自分の好きなことをして生きていけるならそれでも構わないとも思います。「何のために」成長したいのか、を明確にするのが大事でしょう。
山田:私は大学でアメリカの会計士資格の勉強をして、2年生のときに取得しました。そのときには、日本企業のグローバル化を手助けしたい、そのために自分自身が力を付けたいとは考えていましたね。
その後、マッキンゼーのインターンシップで、同期から強い刺激を受けました。問題解決能力や人をリードする力が長けている人、圧倒的な努力をする人ばかりで。「こんなすごいやつらがいるのか」と。そうした同期との差を感じ、焦りとともにそのギャップを埋めたいと感じました。
――何のための成長かという点では、山田さんは「日本企業の手助けができるようになるため」かと思いますが、なぜその志向になったのでしょうか。
山田:学生時代に海外に行った経験などから、日本人が海外でより活躍する社会になればいいなと考えました。その一つの方法として、自分が日本の企業を海外に引っ張っていきたいと思ったのです。
櫻井さんの言った「何のための成長か」だったり、自分のやりたかったりすることというのは、時間を経て変わっていくものですよね。実際私も入社3~4年目くらいで、当時の思いとは全く違うことをやりたいという気持ちも醸成されてきましたし。しかし変わるとはいえ、初期的な「自分のやりたいこと」を持っていることは大事だろうと思います。
――「成長したい」とばかり言っている学生には山田さんも不安を感じますか。
山田:やはり「成長したい」と言っているだけの人には違和感を覚えます。おぼろげでもいいから“Why”の部分、すなわちなぜ成長したいのかについてイメージを持っておくといいと思います。
私の場合は会計士の勉強をしているときに、岩瀬大輔さんの『ハーバードMBA留学記 資本主義の士官学校にて』(日経BP)という本に出合って。「こうやって世界で活躍するビジネスマンになりたい」と思い、勉強へのモチベーションも湧いたのです。
このように自分にとっての兄や姉のような存在の誰かを見つけることで、自分のやりたいことやそこに到達するための方法、つまり必要な成長を具体的にイメージできるようになるのではないでしょうか。
成長したいベクトルが定まれば、惜しみないサポートが受けられる環境
――外資系コンサルを含めたプロフェッショナルファーム側も、「若いうちから成長できる環境がある」といったうたい文句を使う場面があります。プロフェッショナルファームでの成長とは何を指すのでしょうか。
櫻井:プロフェッショナルファーム全般かどうかは置いておいて、マッキンゼーでいえば、リーダーシップと問題解決能力です。この2つのスキルを伸ばすことに特化したプロフェッショナルファームといってもいい。役職が上がるほどこれらの力の伸び方は大きくなる気がしていて、ですから僕は今が一番成長幅が大きいと感じています。
なぜなら、マッキンゼーでは役職が上がると自分の裁量が加速度的に増加するからだと思っています。自分の判断で変えられる部分が増え、その分チャレンジできる幅や量も増えていく。
就活では一般的に「入社後数年で社会人としての力が付く」といったメッセージが多い気がしますが、マッキンゼーにおける成長はそれとは少し違います。やればやるほど自分のつかみ取れる機会が広がっていき、それがどんどん“見える化”されていくのを実感します。その「機会」が多過ぎて、消化不良にすら感じるレベルなのです。
山田:成長の要素には、そのベクトルと、そこに沿っての成長加速度の2つがあると思います。まずベクトルについて言うと、マッキンゼーではそれを定める機会がたくさんあります。業界軸でも機能軸でもあらゆる経験ができますし、仕事をする場所も日本に限らず国や地域の選択肢が多様です。
私は入社3~4年目くらいのときに参加させてもらったダボス会議で、偶然にも自分のベクトルが定まったと思っています。その場で世界の経営者や政治家が議論していた「サステナビリティー」という大きな課題と比べて、それまで自分の考えていた「日本企業の国際化を手助けしたい」という思いは小さいし狭いなと感じたのです。
そうして私は「サステナビリティー」に志向が定まったのですが、マッキンゼーはそこに向けて成長させるための後押しのスピードがすごい。その関心に沿ったトレーニングのためにイギリスのオフィスに移籍させてくれたり、関連する太陽光発電のプロジェクトにアサインしてくれたり。加速度的な成長につながるサポート体制が整った環境ですね。
無意識に他人と比べていたことに気付き、初めて「自分が何を成したいか」考えた
――「全ての人は成長したいと考えている」というのは真実だと思いますか。
山田:資本主義社会において、成長し続けることは必要だとは思います。コンサルティングファームでは、コンサルタントというプロフェッショナルとしての成長が、絶対に必要です。プロのスキルがないとクライアントに価値を提供できないからです。それは若手でも、ある程度シニアになっても同じで、生きている限り向上心を持ち続けるものだと思います。
櫻井:僕も山田さんと似ていて、基本的には真実だと思います。ただ、マッキンゼーの中にいると、成長とは「できなかったスキルが1つでもできるようになる」ことを指しています。新しい役割をこなしていくとか、わかりやすくできることが増えるということに目が行きやすいですが、それだけだと人間がつまらなくなるとも感じます。
すでにできていたことが少しだけ早くできるようになるとか、とても小さなことが改善できるようになったとか、ハードスキルではない部分の日々の成長というのも大事ですよね。
――学生時代に話は戻りますが、2人とも学力における競争を勝ち抜いてきたと思います。どういうモチベーションで勉強していましたか。
山田:私は先ほども話した書籍で知った岩瀬さんや、2~3歳上のあこがれの先輩のような人がまずはモチベーションになっていました。「こういう人になりたい」と、自分の心の火がつく瞬間みたいなものが1歩目としてあったと思います。
そして、その“火”を保ち続けるには仲間が必要だったと感じます。会計士の勉強をしたときにとても仲のいい友人が3人くらいいて、彼らと刺激し合ったことで頑張り続けることができた。彼らがいなければ火は保てなかっただろうなと思います。
櫻井:僕は少し恥ずかしいのですが、誰かに認められたいという気持ちしかなかったかなと思います。その誰かというのは、一番は親だった。ほめられたいとか、そういう素朴な思いがモチベーションでした。中学、高校、大学と学力でいうと偏差値という分かりやすい1つの物差しがあるじゃないですか。率直に言って、それにドライブされていましたね。
――そうしたモチベーションの源泉は、社会人になってからも変わりませんか。
山田:社会人になってからも私は変わらず「人」にドライブされていますね。マッキンゼーの中でも同僚と刺激し合うことでモチベーションが保たれているのだと思います。また先ほども話に挙げた、ダボス会議で会った世界で成功している人たちの存在も大きいと感じます。
櫻井:「誰かに認められたい」といった気持ちは、社会人になってからも若手のうちはけっこうあったと思います。「同年代の中で一番活躍したい」といった思いがあって、入社3~4年目くらいまでは無意識のうちに誰かと比べていた気がします。
山田さんのダボス会議の話に近いですが、僕はビジネススクールに行ったことで考え方が大きく変わりました。ビジネススクールには世界中から猛者が集まってきている。すでに自分で会社を立ち上げている人や、マッキンゼーの人も珍しくない。すると、「お前は何がしたいのか」という問いが常に突きつけられる状況になります。
そこで初めて、自分の成長ではなく、自分が何を成したいかを真剣に考えました。その時点で、誰かと比べるのはもうやめようと思ったのです。世界ではこんなに面白い人たちが自分のやりたいことをやっていて、途中でうまくいかなかったとしても、皆が「次はこうしたい」と語っている。それを見て、無意識に誰かと比較して生きてきた自分に気付きました。
――仮に成長のキャパシティーを「箱」の大きさに例えるとしたら、それは拡大し続けるものだと思いますか。
山田:櫻井さんが最初に言っていた「何をやりたいか」がまず大事だという話と、私が言った「ベクトル」の話。それらを箱の例えでいうと、自分はどういう形の箱を目指していくのかということだと思います。すでに「型にはまった箱」を大きくしたり、そこに水をためたりしていくよりも、そもそもの形を自分で考えるのが重要です。
それを考えずに盲目的に成長してしまうと、「気付いたときには自分がなりたい箱とは全く違う形になっていた」ということが起こる可能性がある。スキルをどんどん身に付けたはいいけれど、実は望んでいない姿になっていたという悲劇は避けたいですよね。
櫻井:山田さんの話を受けるようですが、人によっていろいろな箱の形があっていいと思います。ある人はこの力がずば抜けていて、この人はこの領域の専門家だ、といった具合に。マッキンゼーの先輩が言っていたことですが、全ての能力において100点の人よりも、ある能力に特化したメンバーが集まったほうが面白くなります。
ただ、その他の能力が5点くらいしかないのはさすがにまずいので、全てにおいて合格点は取れたほうがいい。それも考慮して、色々な能力を箱の高さや各辺の長さに例えると、よしとされるミニマムな箱の形はあるものの、それ以上であればどんな部分をどこまで伸ばしてもいい。決して他人と同じである必要はない、ということです。
マッキンゼーでは、そんなユニークなメンバーを重ね合わせて最大の価値を生み出すのが上の役職の人の役割だと考えられています。私自身も自分のチームのメンバーは、それぞれの強みを伸ばすやり方で育てています。
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