「利益を社会に還元する」。そんな人財を育むことで世界は少しずつ前進する~「成長」の正体(7)
2020/09/01
会員登録すると
このコラムを保存して、いつでも見返せます
特集「『成長』の正体」の最後は、史上最年少の38歳で今年A.T.カーニーの日本法人代表に就任した関灘茂さんに聞く。今回はその後編。関灘さんの「人生の目的」に迫ることで、人や社会の成長とは何かを考える。【丸山紀一朗】
1. クライアント企業内の“創造と変革のリーダー”を育むことで、自らの目的に近づける
2. 「日本国民同士で助け合える状態」を作るため、大企業やベンチャーを支援する
3. 「目的ドリブン」の極み。勝ち負けの概念すらなかった
クライアント企業内の“創造と変革のリーダー”を育むことで、自らの目的に近づける
――中学生のときに経験した阪神淡路大震災が影響し、高校生のときに「経営」と出合って、それが関灘さんの人生の目的となったという話でした。働き始めてから、その人生の目的は変化したり、更新されたりしましたか。
関灘:変わらないのは、「結局は“個”が大事」という考えです。どのような“個”が、どのような思いを持ち、どのように行動するかによって、世の中に良い影響も、悪い影響も生じます。
企業にとって、どのような“個”を採用するかは、昔も今も重要と考えています。そのような考えもあり、私は入社1年目から自社の採用活動にも携わる機会をもらうことになりました。
当時は、自社の採用活動に関わることだけでも価値があると考えていました。10年以上のコンサルティング経験を経て、多くの経営者の方々のお話を伺うにつれ、クライアント企業における採用、その先にある“創造と変革のリーダー”の育成に貢献したいと強く思うようになりました。
――クライアントと仕事をする中でどういうことに気付いたのですか。
関灘:クライアント企業は日本を代表する企業ばかりで、優秀な方々がたくさんいらっしゃることに驚きました。しかし、個人として十分に成果を生み出せていない方もいるし、組織として海外の競合企業との競争に負けることもある。一人一人の頑張る方向性、頑張ってもらうための環境の作り方に改善の余地があるのではないかと思うことがありました。
頑張る方向性を決める人、企業という組織・環境を作る経営者やその候補となる方々が、“創造と変革のリーダー”としてリーダーシップを発揮することで、世の中はより良い方向に変わると考えるようになりました。
――そうした経営層を変えるにはどういう取り組みが必要なのでしょうか。
関灘:あるクライアント企業の経営リーダーの方々と、次世代経営リーダーを育むプログラムに取り組んでいます。数人の次世代経営リーダーが1つのグループとなり、複数のグループが集まることで、20人程度になります。この約20人のメンバーが、共に様々な刺激を得て、自走していくプログラムです。
世界水準の起業家や各分野の第一線の研究者との対話、未来・世界を俯瞰(ふかん)する視点・視座の獲得、自身の現在・過去・未来との対峙(たいじ)、社内外の仲間づくりなどを通じて、最終的に次世代経営リーダーとして自らが成し遂げたい創造と変革のテーマを見出します。
各クライアント企業に在籍する次世代経営リーダーの方々が20~30人の塊となり、それぞれの方々、そして企業の可能性を解き放つことで、会社が変わる、日本が変わる、世界が変わるエネルギーが生まれてきます。そして、日本を代表する企業となり、世界中の企業の経営のロールモデルとなっていく。
2050年までに、大企業20社、日本発のベンチャー企業200社がそのような存在になることに貢献できればと思っています。
「日本国民同士で助け合える状態」を作るため、大企業やベンチャーを支援する
――今の話は「世の中を変える」ための手段だと思いますが、関灘さんはどのような世の中にしたいと考えているのでしょうか。
関灘:そうですね。日本国民が互いにより良く助け合うことのできる状態を作ることに貢献したいと考えています。
日本国民の生活保障、生活に必要な社会インフラの再構築などには、財源が必要になりますが、これらは他国が用意をしてくれるものではなく、自国で用意をしなければならないものです。日本の生活者を守るのは日本の生活者の仕事です。
個々人が、自身から同心円状に広がる、自身の家族、友人、会社の仲間、その先の取引先、日本全体といった範囲の中に、助け合えるだけの余力を持った集団を擁する必要があります。
A.T. カーニーとしては、クライアント企業、日本を代表する大企業20社、日本発ベンチャー企業200社が世界の人々に対して価値創造とその提供をすることで対価を得て、日本に納税ができ、その税金でセーフティーネットが維持・強化されるサイクルを作ることに貢献できればと思います。
――外資系企業の日本法人代表が見据えるのは、意外にも世界というよりは日本のことなのですね。
関灘:多数の多国籍メンバーでのプロジェクトや、ワールドワイドパートナーミーティングというA.T. カーニーの世界中のパートナー陣が一堂に会しての議論などを通じて、世界の動きを感じられるようになってきました。
その上で、私は日本企業を応援したいと考えています。もちろんグローバルファームとして、各国オフィスは国内外のクライアント企業のために各国横断でのベストチームを組成していますが、各国の多くのコンサルタントは自国企業を応援したいとも考えています。
各国間の正当な競争があり、勝ち負けは出ます。相対的に貧しくなる国と豊かになる国ができます。しかし、世界的に大成功を収めた企業や人物が、自らの資金を提供して世界の医療インフラを整えるなど大きな助け合うサイクルが生まれてきています。
ハンス・ロスリングさんらの著書『FACTFULNESS』にもあるように、国民の所得水準が低い国々も長期で見れば、豊かさは上昇しています。このように豊かさを引き上げる力が働きつつ、各国の単位で資金が循環して、セーフティーネットが強化されます。富の奪い合いは起きながらも、富を得た企業や人物が、自国に、世界に利益を還元していきます。
こうした循環を成立させ続ければ、完璧な仕組みではないですが、少しずつ世界は前進し、より良く助け合うことができると思います。
――「結局は“個”が大事」というのは、その富を得た企業や人物の倫理や思想が大事であるという意味もあるでしょうか。
関灘:そうですね。最終的にビル・ゲイツのような人物が生まれないと困ります。未来のための宇宙への投資だけではなく、巨大な富を得た企業や人物による現在のための地球への投資も必要です。
想像し難いですが、極端に言えば、生活保障、生活に必要な社会インフラ、雇用の機会を生み出すことへの資金が循環しなくなると、中間層が減少していきます。結果、中間層向けの消費財・サービス市場が縮小し、それらの関係企業だけでなくその取引先企業の方々の所得も減少していきます。さらには全体の貧困化が進みます。
巨大な富を得たごく一部の人だけは宇宙にも飛び出し、優雅な生活ができるかもしれませんが、残る大多数の人は最低限の文化的な生活ができないといった最悪のシナリオに陥っていくのは避けたいところです。
ですから、巨大な富を得た企業や人物の倫理や思想は大事であると思います。自身や自社のためだけに再投資し続けるのではなく、世界市場で勝ち抜いた企業や人物が富を社会に還元することが欠かせません。
幸いなことに、日本には社会に利益を分け合う倫理や思想がある企業が多いと思います。最後は“個”に依存するので、どのような“個”を支援するのかが、我々にとって大事だと思います。
――「人が大事」という考えは昔から変わらないということでしたが、やはり「人以外」の重要性は相対的に低いということでしょうか。
関灘:はい。人か、人以外かといえば、「人しかない」と学生のころから思っていました。より多くの人たちが幸せである、昨日よりも今日が良いと感じられるといったことが、私にとって究極の目的の方向にある言葉です。一方で、物体としての地球が存続すること自体が大事だとは考えていないのかもしれません。
人が生きる環境として地球があったほうが良い、もちろん、地球は人以外の生き物にとっても。したがって、地球が持続可能になるような活動が大事だ、という順番で考えているように思います。上位概念には「物」ではなく、「人」があるのだと思います。
地球という空間も、国も、組織も、仕事も、全ては人のためにあるものであって、「究極は人が大事」と考えています。
「目的ドリブン」の極み。勝ち負けの概念すらなかった
――話は戻りますが、関灘さんは学生時代、学力における競争を勝ち抜いてきたと思います。どういうモチベーションで勉強していましたか。
関灘:できる限り試験で良い点数を取り、点数が高くないと入れない大学にいくことが「勝つ」ことなのだとすると、私は勝っていないです。その「勝ち」に、価値を感じられないようになってもいました。
中、高校生時代からの恩師によると、経営学が充実しているのは、一橋大学の商学部か神戸大学の経営学部ということでした。高校生のときに経営の書籍を読み進める中で、神戸大学の先生の本に面白いものが多いことに衝撃を受けました。
そして、高校1年生の終わりくらいに神戸大学経営学部の入試問題を解いて、入学ができると思いました。その時点で、できる限り試験で良い点数を取るための勉強の必要性を感じなくなりました。
そこからは、心理学、人的資源管理、マーケティング関連の書籍を読むことは楽しかったです。書籍を読むだけではなく、実際に働いてみたことも良い経験になりました。働くとは何か、経営とは何か、と考えるきっかけになりました。
――社会人になってから、仕事の領域で関灘さんを駆り立ててきたものは何でしょうか。
関灘:やはり、それは「人生の目的」です。
同僚に「こんなに目的ドリブンで生きている人を見たことがない」と言われたことがあります。目的が明確でないことには、取り組めない体質だと思います。
学生時代から手帳に書きためていることがあります。それは、何を楽しいと感じるか、面白いと感じるか、ワクワクするか、といったことです。そして、自分の人生の中におけるそれらの構成比が最大化されるように、活動してきました。
そして、「何を目的に生きれば後悔しないか」という問いに立ち返り、目的の見直しや明確化をするようにしています。
20歳のころには、手帳の最初のページに「富の再配分」と「機会の平等」という言葉を書いています。当時から60代まで、どのような貢献をする状態が良いかを記載しています。その状態が自分にとって本当に最高といえるかどうかは、今でも月に1回以上は考えています。
――手帳には具体的にどのようなことが書かれているのですか。
関灘:当時から手書きを続けていて、恥ずかしくて見せられません。「富の再配分」と「機会の平等」という言葉に始まり、「人生の目的」を具体的な言葉にして、その究極の理想の実現のために何をするか、どうするか、といったことを書き連ねています。
――自ら起業すること、経営者になることは考えなかったということでしたが、現在日本法人の代表になっています。経営者になりたいという思いは、少しはあったのですか。
関灘:いえ、そのころには「経営コンサルタントになりたい」と思っており、「経営者になりたい」とは思っていなかったです。経営コンサルティングファームの代表が何の役割をする人なのかを理解しておらず、なりたいとも思いませんでした。
当時は、経営コンサルタントとして力量のある人が代表になるのだろうとは思っていたので、「代表になったら」と言われるくらい、経営コンサルタントとして極めたいとは考えていました。大学4年生、ゼミの卒業時に、これからの抱負を漢字一文字で色紙に書くことになったのですが、その際は「極」という字を書きました。
――とはいえ、元々は経営者を支える側のほうがワクワクするということでした。今の立場でも楽しめているのですか。
関灘:はい。私は日本法人の代表ではありますが、自分の内発的な思いから「A.T. カーニーはこうならなければいけない」と考えて行動しているわけではありません。
クライアント企業の皆さんが成し遂げたいことや、社会としてなされたほうが良いことがあり、その実現を率いる“創造と変革のリーダー”の皆さんを支えるべく、A.T. カーニーを皆でより良い方向に変えることにワクワクしています。
そういう意味では、私自身は、私がよく会う素晴らしい起業家の皆さんの多くとは少し異なる考え方で、行動しているような気がします。あくまで経営コンサルタントであり、たまたま現在はファームの代表もやっています。現在も、クライアント企業の皆さんにも、A.T. カーニーのパートナー陣をはじめとする仲間にも恵まれて、楽しめています。
代表としての任期を終えた後も、いち経営コンサルタントとして楽しめると思います。
会員登録すると
このコラムを保存して
いつでも見返せます
マッキンゼー ゴールドマン 三菱商事
P&G アクセンチュア
内定攻略 会員限定公開
トップ企業内定者が利用する外資就活ドットコム
この記事を友達に教える