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学生は「私は成長したいです」と目を輝かせ、企業は「うちには成長できる環境があります」と誇る。
一見、美しい響きを感じさせるこれらのセリフだが、そもそも「成長」とは一体何か。人によって、この言葉の示すものは大きく異なるのではないか。採用面接の場や自身のキャリアを思い描くとき、定義をあいまいにしたままこの言葉を使ってはいないか。
こうした疑問について、経験豊富なプロフェッショナルたちはどう考えるだろうか。「成長」の正体に迫る。
第1回は、早稲田大学大学院から新卒でモルガン・スタンレー証券(現・三菱UFJモルガン・スタンレー証券)に入社した星直人さんに聞く。星さんは、学生が就職活動時期に自分のやりたいことが見つけられないのは、受験戦争の弊害が一因ではないかという。その真意とは――。【丸山紀一朗】
1. 目的は「楽しい人生を送ること」。「成長」はその手段として必須
2. リスクを取る機会が若いうちに多くあるのがプロフェッショナルファーム
3. その企業で本当に「自分のゴール」へ近づけるか。それが問題だ
目的は「楽しい人生を送ること」。「成長」はその手段として必須
――星さんは就活前後の学生時代、「成長したい」という気持ちはありましたか。
星:はい、当然ありました。ただそれだけではなく「仕事を楽しみたい」そして「成長したい」という2つの軸が存在していました。人生の中で最も長い時間を投じる仕事という活動で、いくら成長できたとしても楽しくなければ人生は豊かなものにならないという感覚でした。
楽しいと思ったことをやりつつ、その興味の対象が変わった場合でもそれにアクセスできるような力を身につけないといけない。その意味で成長しなければと思っていました。
――では「楽しむ」というのが主ですね。
星:そうです。目的は人生を楽しく充実した形で送ることであり、何の仕事をするかだったり、成長したりというのは手段です。
ただ、成長した結果の実力があるからこそ、自分にとってベストな職業や働き方を選ぶ立場になることができる。あくまで手段ではありますが、成長も必須です。
――すでに「成長」という言葉が何度も出てきていますが、星さんはそもそも「成長」をどう定義しますか。
星:成長とは、自分の目的、すなわちゴールに近づくことだと考えています。そのゴールからずれたところに進んでしまうと、本当の意味での成長とはいえない。
僕はモルガン・スタンレーで採用にもかかわったことがあります。そのとき、学生によっては、この成長という使い勝手の良い言葉が独り歩きしていた感覚があります。
「成長したい」と皆さん言う。それは正しいと思います。でも、どの会社でも、どんな業種でも成長の機会は絶対に存在します。大事なのは「どこに向かって」成長するのか、です。
――星さんのゴールは何だったのですか。
星:まずキャリアのファーストステップとしては、ファイナンシャルアドバイザー(FA)のプロフェッショナルになる、でした。そこに向かって段階を踏んでいくのが成長だったと思います。
やはり人によって成長の定義は異なるはずなので、それをフワッとさせたままではよくないと感じていました。
――とはいえ、学生の段階でゴールを設定するのはなかなか難しいです。
星:それは偏差値偏重型の受験戦争の弊害の影響が大きいと思います。大都市でいえば中学受験でもそうですが、大学でも皆頑張って偏差値の高い順に受験する傾向があります。
でも就活になった途端にその基準がなくなる。しかし何となく偏差値に似たような尺度を引きずって就職までしてしまう。実際には偏差値みたいなものは、幸せとか楽しさといった尺度とは全く別のものですよね。
どの業界・企業に進むかでその後の人生が大きく変わるにもかかわらず、これまで人生の方向性を真剣に考えてこなかった人が多いため、自分のゴールに関する解像度が上がらないわけです。
――星さん自身はどうしていたのですか。
星:僕は「世の中全体を100と仮置きした場合に、学生時代に自分が知っていることは楽観的に考えても10とか15くらいの範囲でしかない」と認識していました。その段階でも、例えば、一生をかけてこの研究がしたいとか、メーカーに入社してこのプロダクトを作りたいとかの確たる方向性が定まっていれば幸せですが、僕には見つかっていなかった。
そこで、今後の人生の方向性がある程度固まってしまう選択は避け、その時に自分が楽しいと思ったことをやりつつ、成長を目指すという判断をしたのです。自分が「30」とか「40」まで知っていったときに初めて気付く好みのキャリアに、常にチャレンジしやすくなるような選択をしました。
――だからこそ、先ほどの「FAのプロフェッショナルになる」は、「キャリアのファーストステップとして」のゴールだったのですね。
星:そうですね。まずは、自分が楽しいと思って、かつ、明確なエッジを持ちつつ、将来のキャリアを展開できるコーポレートファイナンスのプロフェッショナルであるFAになり、しっかり力をつけるのがいいと思ったのです。
とはいえ僕も、我ながらダメな学生でした。学部時代は全然勉強せず、就活時期になっても自分の軸が定まっていなかったので、流された意思決定をすることを避けて、大学院に進みました。
こうしてモラトリアムを延ばしたのですが、頭で考えるだけではなく実際に経験してみようと思い、投資銀行や戦略コンサルティングファーム、ヘッジファンドなどでインターンシップをしました。その中で一番面白いと感じて、カルチャー的なフィット感があったのがモルガン・スタンレーでした。
リスクを取る機会が若いうちに多くあるのがプロフェッショナルファーム
――自分なりの価値観で企業やキャリアを考えるというのは、優秀な学生でも簡単なことではないですよね。
星:自分の重要視しているものが何かが分からないと、ずっと「隣の芝生は青い」という状態が続きます。いつまでも他の人や仕事に目移りしてしまう。
就活でも「外資系投資銀行と戦略コンサルと商社を受けています」といった学生がいると、「うーん、この人何がしたいのかな」と正直思いました。一般に内定獲得が難しいといわれている業界に挑んでいるだけで、各業界の仕事内容やキャリア形成は全然異なるのになと。
私は今40という年代が徐々に近づいていますが、同年代で活躍したり本当に仕事を楽しんでいたりする人たちは、他人の作った価値観ではなく自分ならではの価値観をベースに活動している気がします。
――外資系投資銀行やコンサルといったプロフェッショナルファームでも「圧倒的なスピードで成長できる」「若いうちから成長可能」などのうたい文句が見受けられます。プロフェッショナルファームならではの「成長」とは何を指すのでしょうか。
星:一般論として、リスクや負担が大きいほど、成長する機会があると思っています。もちろん例外はあると思いますが、基本的には自分でリスクを取ったり負担のかかることをしたりすれば、それだけのリターンがあるというのが世の中の原理原則です。
ここでいうリスクを取る機会が早い段階で多くあるのが、投資銀行やコンサルだと思います。
――一般的な日系大企業とは異なるということですね。
星:多くの日系大企業ですと、社員数も採用人数も多く、トレーニングや下積みの期間が長い。数年単位でジョブローテーションがあり、そのたびに多くのインプットがあります。するとリスクをとって、アウトプットを始めるのが30代半ばから後半というケースもある。
ところが例えば外資系投資銀行だと、入社した瞬間から皆プロフェッショナルとして扱われる。つまりインプットは当然のこととして、アウトプットを求められます。少数精鋭でやっているので、1人が育つのを5年も10年も待っていられない。
だからチャレンジする姿勢があれば、成長する機会が多くある環境なのは間違いないです。その分、終身雇用ではないので、すごく大変なことは言うまでもありません。
――モルガン・スタンレー時代に「成長できた」と感じた場面はどういうときでしたか。
星:同じ話にはなりますが、仕事で苦しんでいるときや大変なときですね。そういうときにリスクを取って行動するから、成長するのだと思います。
本当につらいときに、逃げずにやりきる。自分がどのポジションであっても、上司を含めた他責にせず、このプロジェクトは自分が絶対に成功させるのだという強い気持ちを持つ。自分のクオリティーによってこのプロジェクトの成否が変わると考え、仕事にコミットできた場合に、大きく成長できるのでしょう。
――特に日系証券会社などと比べると、外資系投資銀行での成長は何が異なるのでしょうか。
星:大前提として、どちらが良い悪いというものではありません。その上で、僕の大学時代の親友の1人に、東京大学大学院を出て、新卒で野村證券のM&A部隊に入り、海外の有名大学でMBA(経営学修士)を取って、今は同じようにスタートアップのCFOをやっている、非常に優秀な人がいます。
僕は彼を心からリスペクトしており、優劣は存在しないという前提で、僕との違いが何かを考えると、彼のほうがインプット優先の時代が長かった点があるかなと。そのため、知識面を含めて社会人としての土台がどっしりしているところがあると思います。
一方で僕は少人数の部署でずっとプロジェクトに取り組み、1年目からお客さんの前でプレゼンテーションする機会も多かった。場慣れもありますし、大きなプロジェクトを1人で仕切るといったプロジェクトマネジメントや交渉力という観点では、一定の強みがあると感じます。
――日系証券会社の人のほうが「社会人としての土台がどっしりしている」という点を、もう少し説明してもらえますか。
星:逆に外資系の人の説明をしますね。あくまで私の印象なので、これが絶対的に正しいわけではありませんが、外資系投資銀行にはコミュニケーション能力を含めて基礎的な能力が高い人が多く、何でもそつなく対応できます。
ただ、専門知識のインプットが少ないために、その中身を深く探っていくと、実はそこまで深みがないケースも存在します。地頭が良く、口がうまい、みたいな人です。
外資系ではいきなりアウトプットが始まるので、自主的なインプットを怠っている人は、お客さんを前にすると空中戦のようになってしまうというか。プレゼンはそれっぽいけど、実は専門的な内容はきちんと理解していないという人もいるのが実態だと思いますね。
いずれにせよ、どちらが良い悪いという視点ではなく、自分にフィットしている会社を選ぶことが大事だと思います。
その企業で本当に「自分のゴール」へ近づけるか。それが問題だ
――モルガン・スタンレーで働く中で自身のゴールは変わってきましたか。
星:僕が重要視していることは、ビジネスプロフェッショナルとして高い付加価値を示し続けること。言い換えると、企業価値最大化に貢献できる人材であり続けることです。前職の場合はバンカーとしてM&Aという手法を使ってそれを実現してきました。
一方で、これは僕が転職した背景でもありますが、前職だと金融の領域に絞った施策がどうしてもメインになります。
しかし企業価値最大化のためには、その状況次第では、もしかすると営業戦略やマーケティング、ブランディングといった施策も重要かもしれない。1つの専門領域だけではなく、複数の視点から企業価値最大化に貢献できる人材になりたいと強く考えるようになりました。
――1年ほど前にユニファのCFOに就任しています。プロフェッショナルファームでの成長とスタートアップにおける成長に違いは感じますか。
星:アドバイザーなのかプレーヤーなのかの違いは本当に大きいです。教科書的にはよくいわれることで、頭ではわかっていたつもりですが、こればっかりは実際にやってみないと全く分からない。この断絶は大きいと感じました。
前職をはじめアドバイザーは、理路整然と正しいことを説明するのが仕事です。僕がプレーヤーの立場になって思うのは、その通りに実行するのは非常に難しいということです。そんなに簡単じゃないことのほうが多くて。
「理想と現実」の「現実」も踏まえて、バランスを取りながら意思決定していくのがプレーヤーの難しさであり、面白さでもあり、成長につながるところだと考えています。
――「全ての人は成長したいと考えている」というのは真実だと思いますか。
星:そんなことないのではないか、と思います。
僕は地方出身なのですが、地元の人々を見たとき、彼らは、一般的な意味での「成長したい」という思いが強いかというと、それよりは「楽しく良い人生を送りたい」という感覚のほうが合う。実際、僕の投資銀行時代の友人よりも、彼らのほうが生き生きと人生を送っているなと思うこともあります。
――例えば外資系投資銀行で成長している人よりも、でしょうか。
星:はい。外資系投資銀行やコンサルに入って、すごくつらそうだった人も何人も見てきています。そういう人はおそらく、そこでの仕事を本当にやりたいとか楽しいと思っていたわけではないのでしょう。「難関な職業だから」「かっこいいから」などといった理由で入社してしまった傾向が強い印象です。
それでも高校、大学受験では競争に勝ち抜けた人なのだと思いますが、プロフェッショナルファームでは、更に優秀な人たちとの競争になる。今までエリートだと思っていた自分が“one of them”になる瞬間が来るわけです。
そのとき、メンタルが耐えられるか否か。本当に自分が楽しいと思えることとしてその仕事に取り組めていれば頑張れますが、「就活偏差値」みたいな尺度で競争し続けてしまっている人には耐えられないでしょう。
このように自分のゴール設定を間違えたままプロフェッショナルファームで働くと、本当にただ単に苦しくなるだけです。逆説的ではありますが、「外資就活ドットコム」のユーザーの皆さんに対してだからこそ、お伝えしたいですね。
――改めて、星さんなりの「成長」の定義を整理して教えてください。
星:「広義の成長」と「狭義の成長」があります。前者は自分を起点にしてベクトルがどこでもいいから絶対値として伸びていくこと。例えば僕がパン職人になってパンのこね方を覚えたら、それは「広義の成長」だと思います。
でも僕が本当はM&Aバンカーとして一流になりたいと考えているのに、パン屋で修業したとしたら「狭義の成長」にはつながらない。いくら修業を積んでも一流M&Aバンカーにはたどり着かないので、ベクトルの方向が間違っていますよね。
人生を広く見る場合には「広義の成長」も日常を豊かにしてくれるので大事な要素だと思いますが、キャリアに限っていえば、自分のゴールに向かって近づいていくという「狭義の成長」が大事だと考えています。
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