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どうもどうも、「何者」である。いよいよ日本シリーズが始まった。ソフトバンクホークスvs横浜DeNAベイスターズという近年まれに見る珍カードでの対決のせいで何者も仕事の手をついつい止めてリアルタイムで見入ってしまう。球界を賑わす球団の運営会社が軒並みITベンチャーというのは、これも中々感慨深いものだ。
ビジネスマンとは何か?
そんな話はさておき、コミュニティでちょっと興味深い内容を見かけたので言及したい。
コミュニティで「GDやワークでクラッシャーにかち合った時どうするか」みたいな話題が出ており、その最中「いやーでもクラッシャーって案外アイデアマンだったりするから、皆物事の整理するタイプばっか居て議論が膠着するよりはクラッシャーがいたほうが良いよな」みたいなことを言っている人がいた。
まあこのセリフ、理解できないでもないが若干情けない話で、結局アイデアを捻出する力を、論理力のない好き勝手言う人にアウトソーシングしているだけであるのだ。随分前のGDについてのコラム(「グループディスカッションをクラッシュさせるのは誰なのか~必ず否定する東大生vs.論理的思考が出来ない他大生」)で、「一定以上の論理的思考力」の必要性は説いたが、それはあくまで必要条件であって十分条件ではない。早い話が、エラそうに中途半端なロジカルシンキングを振りかざしてアイデアを外部委託する暇があるなら、アイデアも出せて論理的思考も出来る両刀使いに自分が成れ、という話である。
少し話が大きくなるが、ビジネスマンとはなんだろうか、と問いたい。これが言葉でわかっていても頭でわかっていないのが多くの高学歴の悲しいところだ。
ビジネスマンとはひとえに、「より多くの顧客に満足してサービスを買ってもらう」という一点のみを考えて生きていく人種である。ああだこうだ言いたい気持ちはわかるが、これが根底にして唯一の我々ビジネスマンを評価する軸である。
この「より多くの顧客に満足してサービスを買ってもらう」を換言すると「顧客の心にどれだけ漸近できるか」とも言えるわけだ。この一点において、我々ビジネスマンは一生心を砕き続けることになるわけであるが、これをロジカルに紐解いていこうと着実に論理構造を組み立てて行くのがいわゆるフレームワークなのだ。フレームワークは自らを究極の客観に落とし込み、人間を群として眼差し、ある意味どんな顧客に対してもチューニングしてフォーカスできるツールであるといえる。
一方で何事にも一長一短があるもので、フレームワークで時間を費やして導いた「ある市場」におけるソリューションが、その市場を深く知っている人からすると「それはそう」みたいなあまりにも当たり前である話をしているだけであったり、「そんなんできるわけないだろ」という市場の実際に則さないものだったりするわけである。
何が言いたいのかというと、フレームワーク一辺倒である思考法は、「その道のプロ」に聞けば一発でわかるような話や、「それで?」というような話を(論理的ではあるのだが)ちんたら出しているだけだったりするということだ。
実際のビジネスの現場でも起こりうるこの現象は、学生のワークにおける「で、分析はできたけど何したら良いかわからん・・・アイデアマンがいたらなあ・・・」という例の膠着状態に似る(というより、そうした学生が社会人になり、大した経験も積まずにクライアントを取る立場になってしまうから連続性がある現象ではあるのだが)。こうした現象がいわゆる「アイデア力」の欠如からくることはもはや明確だ。
クライアントや業界の先行企業はこうした難しい環境の中で悪戦苦闘しているのであり、あとから来た「自称:考えることを仕事にしている人」らがしこたま時間を掛けて「難しいっすw」という自明な結論を出されることに、1mmも価値は見出されないのだ。やたらソリューションという語が出回る昨今の業界であるが、中々ここに対してのクリティカルな“ソリューション”を持っていらっしゃる方は少ない。
アイデア力とは何か?
では結局アイデア力ってなんなの? と思う読者は多いだろう。
さっきまでの話の続きだが、フレームワークは「その道のプロ消費者」に聞けば一発でわかるような話を理論づけているだけのケースも多いと言ったが、実際自分が「その道のプロ」になってしまうと、話がかなり早いのではないだろうか。
実際我々のような「考える事」が仕事の人間は、その業界に長く身をおいてじっくりプロになる時間なぞ無いのだが、プロとまで言わないまでも「その道の物知りアマチュア、セミプロ消費者」くらいになっておくとチマチマフレームワークを使わなくても「あ、そりゃそうでしょ」とスイスイユーザーの心に寄り添えるわけである。無論、その先論理思考を積み重ねねばならないタイミングは訪れるだろうが、早い段階で深淵なユーザーのこころの揺れ動きにまで到達して議論ができるので、ある意味適切な近道だ。
さらに、我々は「考える事」を職にしている存在であるから、一つ何かの市場の「物知りアマチュア、セミプロ消費者」になっておくと、その市場におけるユーザー心理を自分のものとしながらパターン認識し、近似する属性を持つサービスにも応用していけるのである。これがいわゆる「アイデア力」の萌芽である。
社長が最年少上場を果たしたゲームの攻略情報サイト・コミュニティを運営するGameWithなどはこの典型で、社長をはじめとした社員達があまりにもゲームが好きなものだから、ユーザーに彼ら以上に寄り添える人がおらず、競合という競合もいないという独占状態にあるわけだ。こうしたゲーム好きな社員たちはフレームワークなど使わずとも「ユーザーの心に寄り添い、誰よりも適切なUXを形成できる」のである。
こうしたアイデア力の萌芽を手にすると、理解が及ぶサービスの(市場の)領域がにわかに増え始める。こうした学びが力に変わっていく時間は楽しくてしょうがない。ここまでくると「ギア2」(ワンピースネタで失敬。何者はジャンプ大好き少年である)とでも言うべき次のアイデア力の扉が開かれる。
それは一見近似しないと思われている市場領域Aと市場領域Bに、「いざ自分がその市場Aと市場Bを好きになって購買している(先述したセミプロ状態)からこそ気づく奇妙なシナジー」に気づける瞬間が訪れるのである。
例えば諸君は「クラスター」という、VR空間上で皆で一つの部屋を共有できるサービスをご存知だろうか。このサービスの肝は、「共有できるVR空間の部屋の中でミュージシャンやアーティストのライブを上映する事を前提としてサービスの構築が行われている」という点である。VRコンテンツはそもそも没入型の体験に向いている、という性質を持つが、個で没入させるコンテンツは単発になってしまったり、ユーザーがそのサービスに滞留する時間がどうしても少なくなってしまう。が、没入という一見「個で」楽しむことばかりに目が行きがちなVR空間に「ライブ」という、「集団」で「没入」できてしまうイベントをかけ合わせるとどうだろうか。
実際何者もクラスターに潜ってみて、もしかすると今後ミュージシャン等のライブは、このプラットフォームにすべて乗っかって行くのではないかと思ってしまう程、そこで提供されている体験は上質で、感動した。この施策の上ではコンテンツは多彩になり、ユーザーがそのサービスに滞留する時間が長くなっていくわけで、VRコンテンツの既存常識を×ライブ空間という発想で見事に打ち破ったのである。クラスターの出資元を見ると大手音楽レーベル企業や昨今ライブストリーミングアプリで業界を席巻したメガベンチャーが居るから、そうした「VR×ライブ」というアイデアの掛け合わせが生まれた背景が伺えるというものである。これぞ「ライブ空間演出のプロ」と「VR空間設計のプロ」が織りなす最高のシナジーというもので、先の一例なわけである。
そして、この先が到達するにして一番むずかしいポイントであるのだが、アイデアは既存の何かと何かを掛け合わせるだけでなく、そこに強烈な「スタンス」を取ることが真のアイデア力であり、いわば「ギア3」のアイデア力であるのだ。
自身が良きビジネスマン、良きマーケッターであろうといろいろな業界に顔を出し、知見を吸収し、様々なサービスを利用していくうちに、人間は必然的にそこに「エゴから来る嗜好性」を見出す。つまり、最初は研究の目的で様々なサービスに触れようと客観的に情報収集をするのだが、気づくといつの間にか自分の「好み」にもとづいて情報収集し、あまつさえ独自の価値観のようなものが出来上がっていくのである。これがサービスにおける「スタンス」の根底的な力であり、このスタンスが宿るサービスはスケールする可能性を秘めていると言っていい。
「スタンスを取る」~その具体例:メルカリ
あまり抽象的でもいけないので具体例をあげよう。
もはや知らぬ人もいなくなったメルカリというサービスは、実はこの「スタンス」が強烈に打ち出されたサービスだったと何者は分析している。
今でこそフリマといえばメルカリ、そろそろフリマアプリを総称してメルカリと呼ぶ人も現れそうな勢いの当アプリであるが、当初は「フリル」というフリマアプリの後発の存在であった(フリルが12年7月、メルカリは13年7月、実に約1年遅れである)。
このフリルというアプリが伸び悩んだ最大の原因はユーザーを当初女性限定にしてしまったことにある。これがユーザー拡大を頭打ちにし、男女の制限なく(メルカリは4~5割のユーザー男性比を保っている)門戸を広く取ったメルカリにいわゆるネットワーク外部性をしっかりと握られ、軽やかに抜き去られていったのである(この他にも売上をシームレスに購入に回せるUXが用意されていたことももちろんあるのだが)。
これはフリル運営陣が悪いのではなく、当初「フリマ」という言葉に心を動かし使用するまでに至るユーザーは大方女性であろう、という固定観念があったためである。実際オフラインでのフリマというと、昔はスーパーの前の広場に主婦がでばってきて、夫や子供、自分の古着や、ちょっとしたハンドメイドの衣料品を売っている場所というイメージが強かったからやむなしであろう。だから今ではメンズもフリマを使うのは当然のようになっているが、こうした「当然の文化」はメルカリが創りだしたものであって、ちょっと前までは特になかった文化なのである(そりゃ楽天オークションやモバオクなどは昔からあったが、ここまでC2Cとしてマスに広がったサービスはメルカリ以前は存在しない)。
こうして突如として人々を夢中にさせ、生活の一分になるプロダクトは創始者の強烈な「スタンス」を取っていることが多い。多くの分析の仕方があることはわかるが、メルカリにおいて突出していた「スタンス」は、何者は「エンタメ色」であると結論付けたい。
「何者」がメルカリに遭遇したのは大学1年生になりたての2014年4月であった。アプリローンチから約9カ月、まだまだ今ほどメルカリはブイブイしておらず、『週刊SPA!』などのゴシップ雑誌に「今密かなブーム! フリマアプリで小銭稼ぎ!」などの特集が組まれるくらいの認知度であった時だ。なんとなく小銭がほしいから、なんとなくお買い得なものがあれば・・・程度の動機でアプリをダウンロードした何者は、5分ほどメルカリを弄って、夢中になってしまった。
初見の印象は、「どんどん新しい商品が流れてくる!」ということ。これはある程度検索ワードで商品を絞っていても同じことで、昨日まで自分がほしいと思ったものがTLになくても、明日にはあるのではないか、という期待感を煽った。更には、自分が商品をそこに出品すると一時的ではあるがTLのトップに自分の商品が載るのだ。
このある種の即売会にも似たリアルタイムでかつ最新順で商品を並べるやり方は、おそらく何者だけではなく多くのユーザーの「毎日みたい!」という心をくすぐり、DAUを急上昇させただろう。ぶっちゃけフリマで「毎日みたい!」という状況はちゃんちゃらおかしな話で、そんな毎日買う必要があるものがあるはずないのだ。しかし、ユーザーは毎日、買いもしないが見てしまい、そのうち必要のないものでも欲しくなって買ってしまう。そしていらなくなったものはついにメルカリで売ってしまう。それでまた得た売上でメルカリで商品を買って・・・そんなサイクルが完成していたのだ。
何者はこの後メルカリで転売ヤーとしてしこたま稼がせてもらうのだが、それは自分のスキル云々というよりメルカリが急激なグロースを経た時期に商品数多い売り手ユーザーであったからにほかならない。
話は逸れたが、毎日購買するわけでもないのについつい毎日みてしまうメルカリユーザーを生んだのは、この商品がTLでリアルタイムに流れてくる機能が持つ圧倒的「エンタメ性」であると何者は思う。これは創業者の山田進太郎氏が元々楽天オークションを立ち上げに参加し、この市場が持つ潜在的な大きさ(当時はまだまだこんなにもC2Cなものになるとはおそらく山田氏くらいしか思っていなかったのではあるまいか)に気づき始めていたことに起因し、更にその後山田氏はウノウという会社で「まちつく!」を始めとしたゲーム制作の会社をバイアウトするまで経営するが、その時の「ゲームならではの盛り上げ方」の手法がメルカリにはたくさん盛り込まれている。
例えばリアルタイムのTL陳列もそうだし、イチイチ売上をポイント換算させないでそのまま購買へ使わせる仕組みもそうだ。また、一時期「メルカリを友人に紹介したらお互い○○円プレゼント!」という施策が打たれたが、いかにもソシャゲらしい。
こうした数々の施策がプロダクトに「ついつい毎日使ってしまうエンタメ性」を付与し、単なるフリマからシェアリングエコノミーの先端文化となるモードを作ったのである。これこそ綿密かつ論理的にUXを設計しつつ、「俺はこういう価値観を新たに提案したいと思う」という強力な「スタンス」が現れていると言えるだろう(こう書くと筆者何者がメルカリの回し者に思えてしまうだろうが、別に金を貰っているわけでもないし就職するわけでもない。単純に凄いから凄いと言ったまでである)。
日常生活でできるアイデア収集の習慣
こうした「ユーザーの心理への寄り添い」から「既成の概念の掛け合わせ」に始まり、最後に「スタンス」へ収束する「アイデア力」は、散々偉大なプロダクトらを例に挙げて見てきたように、創り手の様々な市場への博識と、それを深く洞察する確かな知性で成立する。故にこんなものが一長一短で身につくはずはなく、一生かけてなんとかなるかどうかな話ではあるに違いないのだが、最後にせめても、筆者「何者」が普段未熟ながら心がけている日常の中でできるアイデア収集の習慣を最後にお伝えしておきたい。
(1)CMや看板広告など、ありとあらゆる広告を舐めるように見る
これは縁あってお知り合いした、日本で知る人ぞ知る伝説の広告マンの一人に教わった勉強法である。その広告一つ一つに込められた、「こういう製品だと思ってほしい」というメッセージを絶え間なく自分の中で咀嚼して、蓄積しろ、とその方はおっしゃっており、今日までかかさず習慣化している。あまりにも含蓄が深い言葉だったので先頭に列挙した。
(2)とりあえず買ってみる
ハードで言えば任天堂switch・ドローン・Oculus RiftやApple Watch、ソフトで言えば最新App等、ああだこうだ批評して見せる前に黙って金を払って買って使用する事をおすすめする。見たことも触ったことも無いものに事業可能性がある! とかない! とか議論することは無意味だし、何より世に疎い者がビジネスマンをやっていることほどナンセンスなことはない。別にITに絡むものでなくてもいいけど、とりあえず買え。
(3)趣味や自分が「面白い、興味深い」と思ったことを深掘りする
別になんだっていいのだが、「僕/私はこれが好き!」というものが無い人は何をやってもだめなので、こういうものがない人はなんとか自分が好きなものを発見しよう。こうした「好き」が先述の「スタンス」のきっかけになったりする。
(4)ニュースは読め
日経でもNews picksでもthe bridgeでもtech crunchでもグノシーでもなんでも良いので、できるだけ世情を広く吸収しよう。個人的に新聞は購読料が高い上に情報量が少ないので上記アプリの斜め読みで十分事足りると思う。
(5)上記(1)~(4)について議論できる友人を持て
これが正直いちばん大切なのだが、情報に対する解釈や意見を持つような(1)~(4)の作業を一人で行うことほど寂しいことはない。意見や解釈は、持ち寄って戦わせてアウフヘーベンしたり自らの非を認めたりすることで進化するのだから、一人でうつうつとしていても価値は半減以下である。
どうであったであろうか。これを書いているのは深夜5時。何者としては、実に6,500文字の出血大サービスである。しんどいが、中々やり遂げたような感じがするから結構いい記事になっていると思う。しっかり読んでくれると嬉しい。
次回は「ミドルベンチャーって実際どうなん?」というのをミドルベンチャー内定者たちのヒアリング交えて書いていきたいと思う。今日はこんなところで寝かしてほしい(どうせ8時半起きだが・・・)。ではでは。
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