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現在、明治大学大学院で金融論を教える経済アナリストの小田切尚登さんは1980年代から約30年間、外資系の金融機関で働いてきました。ユニークなのは、アメリカ、ドイツ、イギリス、フランスという異なる国を拠点とする銀行を渡り歩いたことです。しかも投資銀行部門のほか、審査部からバックオフィスまで多様な職種を経験しました。外銀のさまざまな面を見てきた小田切さんに、「変な人でも生きていける」という外資系金融機関の内情を聞きました。(取材・構成:亀松太郎、撮影:橋本美花)
あまり深く考えず「外資系金融機関」の道へ
――小田切さんは1982年に東大法学部を卒業し、アメリカを代表する金融機関であるバンク・オブ・アメリカ(バンカメ)に入社したということですが、当時は外資系に進む人は珍しかったのではないでしょうか?
小田切:珍しかったですね。日本の大企業や官僚の道へ進めば安定した道があると思われていた時代です。なぜ、わざわざリスクが高い選択をするのか、と。でも、私はそんなに深く考えていなかった(笑)。日本の大企業でみんなと同じことをしなくてはいけないのが嫌だった、というのもありました。外資系のほうが自由みたいだな、と。
――外資系の中でも金融機関を選んだのは、なぜでしょうか。
小田切:正直にいうと、そんなに真剣に考えたわけではないんです。「金融は一流」というイメージがあって、なんとなくたどり着いた感じでした。当時、バンカメは世界で一番強いと言われていた銀行で、東京支店で新卒採用があると聞いて受けました。同期は4人いて、東大が2人、慶應が2人でした。
――実際に入社してみたら、どうでしたか?
小田切:バンカメは研修にとても力を入れていましたね。カリフォルニアに世界各国の若手社員を集めて、数カ月間、合宿で研修することもありました。大学院のような授業と試験があり、金融の知識やノウハウを学びました。私は帰国子女でもなければ留学経験もなかったので、外国人とのコミュニケーションの仕方を学ぶという点でも有意義でした。
――バンク・オブ・アメリカの東京支店では、どんな業務を担当したのでしょう?
小田切:いろいろな種類の業務を担当しました。外資系の銀行はフロントオフィス、バックオフィス、ミドルオフィスと部門が分かれていますが、フロントもバックも経験しました。フロントは兵隊で、株式や債権を売買するトレーダーなど、お金を稼ぐセクションです。外資系金融機関の花形で、ものすごい高給取りもいました。バックは事務処理部門で、日本企業と給料も変わりません。外銀の場合、フロントとバックは人種が全然違うんです。
――その後、ニューヨークに転勤したんですね。
小田切:ニューヨークの投資銀行部門に3年間いました。当時はバブル経済のピークのころで、日本からの投資を呼び込むだけでうまくいったんです。M&Aや不動産の仲介が仕事で、日本の企業や金融機関に投資先を紹介していたんですが、非常にいい時代でしたね。M&Aは少人数のチームで動いて、売り手と買い手をつなげます。うまくいけば、数パーセントの手数料が払われるわけですが、何千億円という取引では投資銀行の利益は十億円とかになる。それに関わる社員のボーナスも巨額になるという構図です。
外資系銀行は「クビ」もごく普通の出来事
――外資系銀行は高収入の一方、ハードワークで競争も激しいというイメージがありますが、そのあたりはどうでしたか?
小田切:激務でしたね。競争が激しく、殺気立ったような環境でした。そこでめげてしまうと、厳しい仕事です。ニューヨークにいたときは、同僚が書いた「小田切はこんなことをやっていてけしからん」というメモを見たこともありますよ(笑)。性格が悪い人も多いんですが、結局は会社の収益にどれだけ貢献するかが大事。結果を残す人が生き残る実力本位の世界です。
――日本企業の風土とは、だいぶ違いますね。
小田切:違いますね。日本の銀行はフロントでいくら成績がよくても、同期はみな同じような給料だったりしますよね。外資系の場合は、儲けた分の一定の割合がボーナスとして自分に返ってくる。そういうインセンティブがあります。その一方で、クビも多いのですが・・・
私もバンカメでは、リストラの対象になりました。当時所属していた東京支店の審査部が廃止されることになって、退社することになりました。特にアメリカ系の会社は、クビはごく普通の出来事です。
――クビがあるのはシビアだと感じますが・・・
小田切:クビといっても悪いことばかりではなく、退職金のプラスαがあるので、何度もクビになって喜んでいる人もいるくらいです。外資系といえども日本法人の場合は法的に解雇が難しいので、金銭的な補償が手厚いんですね。
クビになっても、転職先があれば問題ありません。それで人生終わりというわけではないんです。そして、実力があれば、必ず行き先がある。外資系の金融機関は狭い世界なので、ヘッドハンターが見ていて、力がある人に声をかけてくれます。
ヨーロッパ系とアメリカ系の社風の違い
――バンク・オブ・アメリカの退社後は、どこに転職したのでしょうか?
小田切:1996年にドイツのヒポ・フェラインス(現ウニクレディト)という銀行に入りました。しかし、少し物足りなさを感じました。アメリカのトップのバンク・オブ・アメリカは、金融のノウハウが最も進んでいたんですね。結局、数カ月で退社し、イギリスのバークレイズの東京支店に移りました。バンカメの元上司が支店長をやっていたんですね。
――バークレイズでは、どのような業務を担当したんですか?
小田切:日本の金融機関の審査ですね。1990年代後半で、バブル崩壊の後遺症が残っていたころです。日本の銀行が信用力が落ちていて、どの銀行と取引すべきかをリサーチしていました。バンカメできっちりと研修を受けた経験が生きましたね。
――バークレイズはイギリスですが、ヨーロッパ系とアメリカ系では社風などに違いはありましたか?
小田切:世の中のグローバル化が進み、ヨーロッパ系とアメリカ系の差がなくなってきている印象はありますが、多少は風土が違いますよね。アメリカ系は「とにかく儲けなければダメ」というスタイルなのに対して、ヨーロッパ系は教養も大事にする。バークレイズでは「休みの日は必ずギリシャに行って遺跡を発掘する」と言っていた同僚がいました(笑)
――バークレイズの後、フランスのBNPパリバに移ったんですね。
小田切:パリバでは、株のアナリストをやりました。フランス人は「金がすべてと考えている」とアメリカのことをバカにしている一方で、日本のことは「独自の伝統文化がある」と認めてくれている面がありました。ただ、傾向としては、ヨーロッパの銀行もだんだんアメリカ化していっていると思いますけどね。
外資系金融機関で求められる「資質」とは?
――これまでの経験を踏まえ、外資系金融機関で働いていくうえで必要な能力や資質はあるでしょうか?
小田切:重要なのは、英語をベースにしたコミュニケーション能力と何かのスペシャリティを持つことだと思います。
英語で外国人といかにコミュニケーションを取るか。特に文書でメッセージを伝える「書く力」が重要です。たとえば、アメリカ英語はストレートに表現しますね。日本語のように回りくどい言い方はしない。世界のビジネスの中心にいるアメリカのコミュニケーションのルールは知っておいたほうがいいと思います。
ただ、英語力だけでは足りず、何かのスペシャリティを持つことも重要です。私の場合は、企業を分析する力が強みとなりました。バンカメで身につけたスキルが、バークレイズでの審査業務や、BNPパリバでの株式アナリストの仕事に生きました。
――精神面でのタフさも重要でしょうか?
小田切:気が弱くなく、潰されないというのも重要でしょうね。同僚の中には、精神的に参ってしまった人もいました。外資系は個性的な人が多い世界なので、それに押しつぶされないことです。逆にいえば、変な人でも生きている。それがいい面でもあります。
――外資系のコンサルタントと金融機関の違いはありますか?
小田切:私からみると、コンサルタントも同じような仕事をやっているという印象です。実際にコンサルタントと金融機関の間の転職は多いですしね。金融の人は、扱う金額が大きいし給料も高いので、自分たちのほうが偉いと思っている節はあるかもしれません。
――就活生が外資系金融機関の会社を比較するときに、チェックすべき点はどこでしょうか?
小田切:まずは人間性でしょうか。外資系は採用を決めるまでに何回も面接をしますよね。直属の上司や人事部長など、いろいろな人の判断で決まります。それぞれの会社ごとにカルチャーがあるので、人間関係が良好で自分に合っていそうな会社かをチェックするといいと思います。
さらに注目するとしたら、教育制度ですね。研修がちゃんとしているかどうか。外資系は社員間の競争が激しいので、なかなか部下の教育に注力できませんが、ゴールドマンサックスやシティバンクなどアメリカの大手は日本法人の規模も大きく、研修制度が充実している印象がありますね。
――最後に外資系の金融機関を志望している就活生に向けて、何か一言もらえませんか。
小田切:日本の会社はレールがあって、その上に乗っていればいいですが、外資系はそういうわけにはいきません。自分が何をしたいのか、自分の頭で考える必要があります。専門性を身につければ、自分のやりたいことができるのが外資系です。いろいろな面白い人もいて、刺激を受けながら働けるいい環境だと思います。
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