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「ゲームAIの世界はフロンティアだらけ」スクエニ・三宅陽一郎さんが語る「知能を作り出す面白さ」

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ゲームとAI(人工知能)。最先端のエンターテインメントとテクノロジーが交差する刺激的な世界。その最前線で20年近く格闘してきたスクウェア・エニックスのリードAIリサーチャー・三宅陽一郎さんは、ゲームAI研究の第一人者として広く知られている。ゲームAIの面白さはどこにあるのか。どんな人材が向いているのか。AIに大きな注目が集まる中、三宅さんに「ゲームAIの醍醐味(だいごみ)」を聞いた。【亀松太郎】

 

〈Profile〉
三宅陽一郎(みやけ・よういちろう)
スクウェア・エニックス AI部 ジェネラル・マネージャー/リードAIリサーチャー。博士(工学)。
京都大学で数学を専攻、大阪大学(物理学修士)、東京大学工学系研究科博士課程を経て、2004年にフロム・ソフトウェアに入社。2011年にスクウェア・エニックスに移る。現在は同社のAI部門を率いながら、東京大学生産技術研究所特任教授、立教大学大学院人工知能科学研究科特任教授などを兼務。

※内容や肩書は2023年8月の記事公開当時のものです。

シューティングゲームに夢中になった少年時代

――いまでこそ「AI」という先端テクノロジーの分野で活躍している三宅さんですが、もともとは文学青年だったとか。

三宅:そうですね。高校時代は、かたときも本を離さず、ドストエフスキーやトルストイ、ゲーテなどを浴びるように読んでいました。あとは、哲学と数学の本ですね。いわゆる「活字中毒」でした。

――しかし京都大学に入ったころ、異変が起きたんですね。

三宅:なぜか日本語の文字を頭が拒絶するようになって、一時的に読めなくなってしまったんです。英語は大丈夫だったので、英語の小説を読んでいたんですが。J.R.R.トールキンの『ザ・ロード・オブ・ザ・リング』とか。

――そんな事情もあって、大学では数学と理論物理学を専攻した、と。

三宅:主専攻が数学で、副専攻が理論物理学という感じです。大学院は、大阪大学の修士課程で実験物理学を専攻し、その後、東京大学の博士課程で超伝導工学を研究しました。もともとは研究者になることを目指していましたが、博士過程を満期退学して、就職することにしました。

――2004年に就職したんですね。

三宅:入社したのは、フロム・ソフトウェアというゲーム会社です。現在は『ELDEN RING』(2022年)というゲームで世界的に有名ですね。僕はその前の『クロムハウンズ』(2006年)や『Demon’s Souls』(2009年)といったゲームのAI開発・設計を担当していました。その後、2011年にスクウェア・エニックスに入社しました。

――大学院での研究を経て、ゲーム会社に就職したということですが、そもそも、三宅さんとゲームの接点はどこにあったんでしょうか。

三宅:ファミコンですね。小学校のとき、初代ファミコン(1983年発売)が登場して、それまで野原で遊んでいたのに、ファミコンで遊ぶようになりました。友達とみんなでゲームをして楽しかった、という記憶があります。

――最も面白かったゲームは。

三宅:『ゼビウス』(バンダイナムコエンターテインメント/1983年)ですね。子どもなりにショックを受けました。ゲームとして面白いと同時に、すごく奥深い世界感があったので。『ドラゴンクエスト』(スクウェア・エニックス/1986年)のようなRPG(ロールプレイングゲーム)も好きでしたが、ゼビウスのようなシューティングゲームをより好んでプレイしていました。ドラゴンクエストが出るまでは、シューティングゲームの方が圧倒的に多かったですから。

ゲーム業界なら「知能」と「自動生成」の両方を研究できる

――その後、高校や大学でもゲームを続けたんでしょうか。

三宅:いえ、中学・高校・大学では、ゲームをほとんどやっていないんです。ただ、大学院の修士課程のとき、PlayStation 2が発売されて、またゲームに興味を持つようになりました。

――それは、なぜですか。

三宅:それまでは、ゲームとテクノロジーが結びついていないと感じていたんですが、PlayStation 2が登場してゲームの3D化が本格化すると、いろいろな技術に関する記事が出るようになりました。僕は大学院で物理の解析やプログラミングをしていましたが、「これってゲームと関係があるんじゃないか」と思ったんですね。

――なるほど。

三宅:そのころの技術記事はコンピュータグラフィックス(CG)がメインでしたが、「AIもゲームで活用できるはずだ」と。そう思って、自分で勝手に研究して、人工知能学会で発表したりしていました。いまから思うと、2000年代初めはAIが下火で、人工知能学会の大会会場も寂しい感じでしたね。

――当時、あまり注目されていなかったAIに、三宅さんが興味を持ったのはなぜでしょうか。

三宅:もともと文学や哲学が好きで、「知能とは何か」「人間とは何か」というテーマに強い関心がありました。そして、大学院の研究のためにプログラミングを学ぶうちに、プログラムで「知能」を作ってみれば、いろいろわかるんじゃないかと考えるようになりました。

その当時は、フッサールやメルロ=ポンティなどの現象学を1人で勉強していたんですけど、「知能」というのは、生物を取り巻く「環境」とその中で自らを保全したい「個体」との境界に生まれるのだ、という考えを持つようになりました。ならば、プログラムを書いて、環境と個体のシミュレーションをすれば、知能を生み出せるはずだ。そう考えて、自分で研究を始めたんですね。

――そうなんですね。

三宅:それと同時に、仮想空間における植物の「自動生成」にも興味がありました。いまでいうところの「生成AI」ですね。プログラムの世界では、情報を「処理」するという言葉が使われますが、僕はあまりそういう方向が好きではなくて、プログラムを使ってさまざまなものを「生成」するほうが面白いと思っていました。

――何かをクリエートするほうに興味があったんですね。

三宅:この「知能」と「自動生成」の両方ができるのがゲーム産業だった、というわけです。

何百万人が「自分が作ったAI」を動かしてくれる

――2004年にフロム・ソフトウェアに入社したときから、AIの研究をするということだったのでしょうか。

三宅:はい。ちょうどフロム・ソフトウェアがAIのリサーチャー(研究者)を探していたんです。当時のゲーム業界では非常に珍しく、世界で初めてだったかもしれません。周りの同僚からは「なんで来たの?」と不思議な目で見られていました。

――でも、会社がAIリサーチャーを求めていたわけですよね。

三宅:クロムハウンズというゲームのAIシステムの開発がなかなか難しかったので「AIに詳しい人を募集しよう」となったと聞きました。ただ、募集は1枠。AIリサーチャーの募集がトレンドになるのは、2010年代になってからです。

――そんなころにパイオニアとして入社した、と。

三宅:最初は「AIを研究しているのは、会社でも1人、業界でも1人なのでは?」という感じでしたね。あとで、ほかにもAIを研究している人がいたとわかりましたが、当時は本当に孤立していて「陸の孤島」のようでした。

――ゲーム会社でのAI研究というのは、大学での研究と違うのでしょうか。

三宅:まず決定的に違うのは「大学にはゲームがない」ということです。ないから既存のゲームの研究をするか、自分で単純なゲームを作るしかない。逆にゲーム会社は、何十人、何百人という体制でゲームを作ります。自分では作れないような3次元の複雑なゲームを作っている。その中でAIの研究ができるというのは、まれなチャンスであり、同時にすごく楽しいことです。

――研究を取り巻く環境が、大学と全く違うわけですね。

三宅:僕が入社したのはゲームAIの黎明期だったので、「自由に作ってみろ」と任せてくれた。デザイナーとエンジニアとAIリサーチャーという3人でチームを組んで、ゲームのAIを作るのは本当に楽しかったですね。僕が作りたかったのは、キャラクター自身が考えて行動するゲームですが、それは最初の仕事であるクロムハウンズである程度は実現できました。

――大学でできなかったことが、ゲーム会社では実現できた、と。

三宅:大学でのAI研究は手法の研究なんです。このアルゴリズムを変更したら、効率が10%改善するとか。そういう試みの積み重ねで、手法を発展させていく。これはこれで重要なことです。しかしAI全体を作る機会は限られます。でも、ゲームの世界では、1個の「自律型知能」を丸ごと作り上げることができる。また、それを求められている。こんなことができる産業は、ほかにあまりありません。しかも何百万人ものプレイヤーが、自分が作ったAIを動かしてくれる。これは、非常に興奮することですね。

――そんなゲームの世界で、AIはどう進化してきたのでしょうか。

三宅:実は、ゲームの世界では、AIが使われているかどうかは、2番目のことです。重要なのは、プレイヤーがキャラクターの行動をどう感じるか、ということです。たとえば適当に乱数でモンスターを動かしても、プレイヤーがそこに「知能」を感じればそれでいい、という側面があります。実際、1980年代まではそれでもよかった。ところが、1990年頃から徐々にゲームキャラクターに知能が求められるようになり、さらの90年代半ばからゲームが3Dになって、以前の方法が通用しなくなったんです。

――そこで、三宅さんのようなAIリサーチャーが必要となったわけですね。それから20年ほど経ちましたが、現在のゲームAIはどんな状況なのでしょうか。

三宅:いまのゲームを支えているAIの技術は2000年から2012年ごろにかけて形成されました。そこから現在まで、AIの適用範囲はオープンワールド(広大な世界を自由に動き回れるゲーム)へ向けてスケールアップしていますが、それほど大きな技術的進歩はありませんでした。一方、ゲーム業界の外では、AIのディープラーニング(深層学習)が注目を浴びて、第3次AIブームが起きた。その影響が最近、ゲーム業界にも及ぼうとしています。

「ゲームAIの世界」に向いている人材とは

――第3次AIブームは2012年ごろから加速したといわれていますが、ゲーム業界にすぐ波及しなかったのは、なぜでしょう。

三宅:AIには、記号主義とコネクショニズム(*)という2つの大きな流れがあります。ゲームAIの主流は記号主義ですが、ディープラーニングはコネクショニズムの一つなんです。なぜ、ゲーム業界がディープラーニングをすぐに採用しなかったかというと、ゲーム開発者がコントロールするのが難しいからです。

* 記号主義は、コンピューター上で知識を記号を使って論理的に表現し、それを操作することで人間のような知能が人工的に実現できると考える立場。一方、コネクショニズムは、脳においてニューロンが接続(コネクション)して、さまざまな経験や学習を踏まえて情報を処理していることをコンピューター上で再現しようとする立場

――ディープラーニングの場合、AIの思考過程がブラックボックス化してしまって、ゲーム開発者が想像しないような結果がもたらされる可能性があるからですよね。では、最近になって、ゲーム業界もディープラーニングを取り入れようという潮流が生まれているのは、なぜですか。

三宅:たとえば、格闘ゲームの敵の動きを作り上げるとき、「プレイヤーが操るキャラクターの拳がこの位置にあるときはキックする」というようなパターンを考えるとします。記号主義のプログラムでも、100個ぐらいのパターンは作れますが、1000個を超えてくると難しい。そこで、ディープラーニングでAIに自分で学習させようということです。

――ただ、ディープラーニングを採用すると、ゲームの結果をコントロールできないリスクが出てくるわけですよね。

三宅:そうですね。なので、ある限定された領域はディープラーニングに任せつつ、それ以外の領域は記号主義でコントロールする。そのような形で、記号主義とディープラーニングを融合させようという方向が目指されています。

――ゲーム業界に興味がある人たちに向けて、ゲームAIの面白さを伝えるとしたら。

三宅:ゲーム開発の現場では、ゲームAIが日々進化していることを体感できるし、自分の手で進化させることもできる。それから、自分が作ったAIを何百万人もの人々に使ってもらえる。そして、ゲームという作品を作って、世に残していける。こんな仕事ってほかにあるかな、と思います。

――逆に、ゲームAIの仕事の大変な部分はなんですか。

三宅:この仕事に従事するかぎりいつでもパイオニアなので、いろいろ迷って、いろいろ失敗しないといけない。迷うのが仕事みたいなところがある。でも、迷ったこと自体が評価されるわけではないので、成果を上げる必要があります。早く失敗して、早く成功にたどりつかないといけない。これができる人でないと苦しいかもしれません。誰もまだ実現していないことに挑むパイオニアとしての苦しさがある代わりに、その道の第一人者になれる可能性がある仕事です。

――三宅さんからみて、どんな人にゲームAIの世界に入ってきてほしいと思いますか。

三宅:一言でいうと、こだわりが強い人。たとえば、「モンスターの鳴き声はこうでなければいけない」とか、「歩き方はこうでなければいけない」とか、なにかについて強いこだわりを持てる人がいいですね。まだ若い産業で、キャリアパスも決まっていない世界ですから、「自分はこれがやりたい!」というこだわりがあるフェティッシュな人が向いていると思います。

――パイオニアのしんどさと面白さがある世界なんですね。

三宅:若い人にとって、いまは大きなチャンスです。ゲームにディープラーニングを取り入れるために、ゲームAIの技術をリセットして、仕切り直しをするというタイミングが到来している。ゲームAIの技術を再構築するためにたくさんの仕事がある。ゲームAIの世界はフロンティアだらけですね。

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