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グローバルな競争が激化する現在の社会で、優秀な学生や若手社会人は新たなチャレンジを求め、国境を超えたキャリアを目指している。そんな若者にとって、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタル(VC)である「Sozo Ventures」でマネージングディレクターを務めた松田弘貴さんは、一つのロールモデルといえるかもしれない。松田さんはどのようにして米国のVCでのキャリアを築いたのか。グローバルなVCで働くためにどんな視点を持つべきなのか。その鍵を探る。【亀松太郎】
◆インタビューは松田さんがSozo Venturesに在籍中の2023年3月に実施
1.東日本大震災をきっかけに「留学」を決意
2.予想外の展開で「シリコンバレーのVC」に入社
3.VCは「一流スタートアップ」に選んでもらう立場
4.必要なのは「知的好奇心」と「変化への耐性」
※内容や肩書は2023年5月の記事公開当時のものです。
東日本大震災をきっかけに「留学」を決意
――松田さんは大学時代から国際的な活動に興味があったそうですね。
松田:はい。2006年に慶応義塾大学商学部に入学したのですが、国際関係や外交に興味があったので、国際的な社会課題をディスカッションする学生団体に所属していました。その運営を通じて、さまざまな経験を積むことができました。
――大学3年生で就職活動を始めたとき、どんなキャリアを考えていましたか。
松田:当時はまだ、キャリアについて明確な方向性が見えていたわけではありません。当時日本で一般的だった終身雇用を前提とすると、これまで生きてきた20年間の経験と知識で、その後の40年間を選ばなければならない。それってすごく大変なことだな、と。そこで考えたのは、30歳の時点で、転職するにしても会社に残るにしても、自ら選択できるようにするということです。そのための条件は何かといえば、仕事の能力とネットワーク、それなりの収入なのかなと考えました。
――それで、コンサルティングファームに就職したということですね。
松田:そうです。2010年にコンサルティングファームに入社しました。グローバルな環境で仕事をしてみたいという思いがあったので、外資系のコンサルを志望し、アクセンチュアに入りました。
――入社4年後に留学したということですが、何かきっかけがあったんでしょうか。
松田:留学しようと決めたのは、2011年の3月です。そのころ、会社の海外研修でいろいろな国のメンバーと話す機会があって「自分の働いている世界は狭いな」と感じたんですよね。帰国してすぐに東日本大震災が起きて、「自分も何かしなきゃいけない」と強く思いました。そして、すぐに留学予備校に申し込んだ。ただ、仕事が忙しい中での英語の勉強と留学の準備は大変で、結局、留学を実現するまで3年かかりました。
予想外の展開で「シリコンバレーのVC」に入社
――留学したのは米国のカリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)ですね。そこからシリコンバレーのVCに入ったのは、どんな経緯だったのでしょう。
松田:私が留学したのは、UCSDの国際政策・戦略研究大学院(GPS)です。大学時代から関心があった国際関係の専攻です。VCについては、知識も関心もありませんでした。ところが、ある先輩から「三菱商事出身の中村幸一郎さんがシリコンバレーで立ち上げた面白いVCがある」と強く薦められ、Sozo Venturesと話をする機会がありました。当初、私は採用の面接と思っていなかったのですが、実はそうでした。その後、話がトントン拍子で進み、入社が決まりました。
――予想外の展開だったわけですね。
松田:VCに関する情報は世にあまり出回っていなくて、私も知らない世界でした。でも、面接で話を聞いてみると、イノベーションによって地域や国の競争力を高めていくという発想は、私の問題意識と重なるところがありました。私の場合、VCに関する先入観を持っていなかったので、かえって本当に何をしたいのか、自分の言葉で伝えることができました。いま思うと、それが採用につながったように思います。
――シリコンバレーのVCに入りたいと思っている人に、何かアドバイスはありますか。
松田:さきほども言ったように、VCの情報、特に海外のVCの情報は一面的なものしか流通していません。なので、頭でっかちになりすぎないこと、ステレオタイプな情報に振り回されないことが大切です。日本でもVCの業界が成熟していけば、いろいろなスキルを持った人材が必要となります。自分の特徴を生かして、起業家のためにどんな価値を与えられるのか、どう他人と差別化していくかという発想が重要でしょう。
――Sozo Venturesでは、どんな仕事をしているのでしょうか。
松田:VCといっても、いろいろなタイプがあります。一つは個人主義型というか、一匹狼のようなベンチャー投資家が集まっているタイプのファームです。もう一つはチーム型で、さまざまなスキルを持った人材が役割を分担しながら、チームとして価値を出すことを重視しているタイプのファーム。Sozoは後者のチーム型です。私はその中で、ファンドへの出資者(LP)とコミュニケーションをとりながら、どのようにしたら出資先であるスタートアップに価値を与えられるかを考えています。
――「出資者を通じてスタートアップに価値を与える」というのは、どういうことでしょう。VCの役割は、スタートアップに資金を提供することだけではないのでしょうか。
松田:スタートアップだけと向き合っているわけではありません。
VCの業界には、
(1)VCにお金を出資するリミテッドパートナー(LP)
(2)ファンドを運営するジェネラルパートナー(GP)
(3)スタートアップの起業家
という3つのキープレーヤーがいます。Sozoは(2)のGPにあたります。そして、Sozoの場合、出資者であるLPは企業年金や大学の基金に加え、日本のトップ企業が中心。一方、スタートアップは、米国を皮切りに、将来的にグローバルマーケットで戦えるポテンシャルを持った起業家ということになります。
VCは「一流スタートアップ」に選んでもらう立場
――なるほど、Sozoがファンドを運営するGPとして、LPとスタートアップ起業家をつないでいるわけですね。
松田:はい。その際に重要な視点は、現在の優れたスタートアップは資金調達が容易で、むしろVC(=GP)の側がスタートアップに選んでもらう立場にあるということです。この傾向はますます強まっています。グローバルマーケットで勝てる可能性を持った一握りのスタートアップに出資するためには、彼らが魅力を感じるような付加価値を提供できないといけません。Sozoの場合は、日本のトップ企業がLPであり、出資先のスタートアップが日本やアジアに展開したいときに強力にサポートできる点が強みになっています。
――そのような構造のなかで、松田さんは出資者である日本企業の側も担当しているということですね。
松田:VCというと、スタートアップの起業家の目を見て、その能力を見抜ける感性が重要だと思っている人もいるようですが、VCの仕事はそれだけではないということですね。外からは派手な業界に見えるかもしれませんが、実際は全然違うのです。
――日本企業と相対するとき、ポイントとなることはありますか。
松田:日本のトップティアの金融機関や保険会社、物流企業などがLPになっていますが、出資先のスタートアップが「日本で展開したい」となったときにすぐ動けるように、日本側の体制を整えておく必要があります。そのためには、出資者の社内の意識改革や仕組み作りも大事です。シリコンバレーと日本企業の間の「共通言語」を作っていく試みといえます。
――そのような松田さんの仕事において、前職のコンサルでの経験は役立っていますか。
松田:仕事を進めるためのベーシックなスキルや思考方法といった「筋肉」は、コンサル時代に鍛えたものが役立っている感じがしますね。留学先の大学院で専攻した国際関係も、いまのようにビジネスで地政学的な要素が重要になってくると、研究しておいてよかったなと思います。
――いまの仕事でやりがいを感じるのはどんなときでしょう。
松田:シリコンバレーで働くことで、グローバルに活躍している人たちと直接会って、学ぶことができるのがとても貴重だと感じています。たとえば、セールスフォースやZoomなど、一流SaaS企業に出資していることで有名なエマージェンス・キャピタルというVCがあります。その共同創業者のジェイソン・グリーンという人は圧倒的な成功者で、VC業界で尊敬されているカリスマ的な存在です。幸運にも、私は彼と同じスタートアップを担当し、取締役会で同席する機会に恵まれたのですが、まったく偉そうではないんですよね。ボランティアにも熱心です。こういう人を見ると、現状に甘んじることなく、自分も頑張らないといけないなという気持ちになります。
必要なのは「知的好奇心」と「変化への耐性」
――シリコンバレーのVCで働くには、どういう資質が必要でしょうか。
松田:まず、好奇心が強いというのは、すごく大事だと思います。VCの世界は新しいことの連続で、これから何が起きるかよくわからないわけです。正解がわからない中で、新しい領域に向かって、知的好奇心を持って挑んでいける人が向いていると思います。
――スタートアップに向く資質と似ているようですね。
松田:そうですね。もう一つは、変化に対するストレス耐性でしょうか。今年3月、多くのスタートアップが口座を持っていたシリコンバレー銀行が破綻するというニュースがありましたが、この件が示しているように、この業界は良いときと悪いときの変化が大きいんですね。そのたびに一喜一憂していたら、精神が持ちません。物事を冷静に客観視して、やるべきことを粛々とこなせるメンタルがないと、キツいのではないかと思いますね。
――仮にそういう資質があるとしても、日本の大学生の現状からすると、新卒でいきなりVCに入る人は少数派だと思います。松田さんのように別の業界を経験してからVCに転職するとしたら、どんな経験が役立つと思いますか。
松田:アメリカの例を見ても、新卒でVCに入社できるケースはまれです。将来的にVCを目指すのであれば、コンサルティングファームや投資銀行での経験はもちろん役立ちますし、大手の事業会社のようにしっかりした組織で働いた経験はどれも貴重だと思います。重要なのは、起業家に貢献できる経験や能力があるかという点です。そういった要素を持った人たちがVC業界に入ることで業界の成熟が進むでしょうし、VC業界の成熟が進めば、より多様な人材を受け入れる環境が整っていくでしょう。
――シリコンバレーにいる松田さんから見て、日本のVC業界はどう映っているのしょう。
松田:その国や地域でどれだけイノベーションが起こせるかは、VCの成熟度にほぼ比例していると思っています。だから、VCの成熟度を高めることがイノベーションの促進につながっていくはずです。そのためには、VCに資金を投入するLPも底上げしていく必要があるでしょう。投資契約や企業評価について、グローバル市場に合わせて標準化していくことも重要なポイントです。
――最後に、学生や若手社会人に向けたアドバイスはありますか。
松田:学生時代や就職直後の自分と他人との違いに、あまりとらわれすぎないことが大切でしょう。5年後や10年後の自分の姿は予測できないし、実際に働いているうちに自分もどんどん変わっていきます。将来、何をやっているか分からないぐらいのほうが面白いと思います。日本では、人と違うことにチャレンジすることが大きな差別化要素となります。リスクを恐れずに思い切って挑戦して、ユニークなキャリアを築くことができれば、自分にしかない価値を生み出せるようになるでしょう。
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