大学3年生のキャリア観|就活生が描く未来・働き方・引退・老後
2020/12/04
#あなたはいつまで働くのか

description

特集「あなたはいつまで働くのか」の第5回では、前回に続きユーザーの声を紹介する。話し手は、外資就活ドットコム会員で就職活動中の学生2人。

一橋大学3年生の加藤良一さん(仮名)はコンサルティング業界に就職した後、30代で事業会社役員に転じ、55歳で引退する青写真を描く。片や都内私立大学3年生でIT業界志望の小森拓海(仮名)さんは、会社勤めは20代までで、30代以降は非フルタイムの精神科医および投資家として暮らすことを見据える。

旧来の常識にとらわれない、独自の考えを持つ2人が描く未来とは。【丸山紀一朗、南部香織】



 

高校生で「人生とは、最大限の幸福を得ること」だと考えた

〈Profile 1〉
加藤良一(仮名)
現在、一橋大学3年生。コンサルティング業界への就職を志望している。

――現在就職活動中とのことですが、何歳くらいまで働くかを意識していますか。

加藤:はい。55歳くらいまでには引退したいと考えています。もしも、もっと早くにお金が貯まれば、より早めに引退したいとは思っていますが。

――なぜ55歳なのですか。

加藤:私は「生涯幸福度=自由時間×使用可能金額」と定義しています。その中で、よく働く20~50歳あたりはお金を蓄え「使用可能金額」を増やすための期間、50歳以降は「自由時間」を多く設けてその時間を使う期間だと考えています。

――加藤さんの生涯幸福度の定義は、どういう背景で生まれたのでしょうか。

加藤:私は高校生くらいのときから「人生とは何か」を考え始めて、「最大限の幸福を得ること」だと思い至りました。そこでさらに、最大幸福を得るためにはどうすればいいかを考えた結果、この「自由時間×使用可能金額」の定義にたどり着きました。

米国の心理学者アブラハム・マズローの「欲求5段階説」が背景にあります。これは人間の欲求を、最も下層から生理的欲求、安全欲求、所属と愛情欲求、承認欲求、自己実現の欲求と5段階に分けたもので、これらの欲求をきれいに満たすことが私の幸福だと自分で納得しています。

そしてこれらを満たすためには、一部の欲求をのぞいてほとんどすべての欲求が、お金があればあるほど実現に近づけると考えています。またお金だけではなく、費やすことのできる時間が多いほど満たしやすい欲求もあります。これらのことから、生涯幸福度はお金と時間の2軸で評価できると思っているのです。

description

マズローの欲求5段階説の図式

――早めに多くのお金を得るためにもコンサルティングファームへの就職を志望しているのでしょうか。

加藤:はい、私の狙っているコンサルタントという職種であれば、早い段階で成長できて得られるお金も他の業界より多いと認識しています。しかし、自由時間が少ないのは間違いなさそうですので、定年年齢まで続けるような仕事ではないと思っています。

そこで、30歳くらいまではコンサルタントとして働き、多くの自由時間は望まずに高給を得ながらキャリアを積み、その後は50歳くらいまで事業会社の役員として、ある程度の自由時間を得ながら高給も維持する計画です。そうすれば、引退後も十分幸せに暮らせると考えています。

<加藤さんの想定タイムライン>
現在(大学3年生)…就職活動中。コンサルタント職を志望(結婚するか、子どもをもうけるかなどは予測不可能なため考慮せず)
就職後~30歳くらい…コンサルタントとして働く
30歳くらい~50歳くらい…事業会社の役員として働く
55歳以降…特に豪勢な生活は望まず、趣味などに没頭しながら神戸で暮らす

豪勢な老後は要らない。好きなものを食べ、趣味ができればいい

――55歳くらいまでにどのくらいのお金を貯める想定ですか。

加藤:7,000万円程度の資産をつくり、それに年金を合わせて生活していく想定です。

――なぜ7,000万円なのですか。

加藤:あくまで概算ですが、「月の生活費×老後の期間」で計算しています。日本の老後生活費は世帯当たり月平均で約24万円という総務省の調査があります。私はぜいたくに生きることを幸福とは感じないので、この平均値で暮らしていくとします。また、55~80歳の300カ月(25年×12カ月)を老後の期間とすると、24万円×300カ月で7,200万円という計算になります。

――引退後は豪勢な暮らしを思い描いているわけではないとのことですが、どのような生活を想定していますか。

加藤:神戸市にマンションを借りたり戸建ての家を購入したりして、悠々自適に過ごすイメージです。神戸は適度に静かで、買い物に困らないですし、より大きな都市の大阪にも近いためです。

引退後は仕事をせず、それまでに貯めたお金を使うことが幸せにつながると思っています。ただ、おいしい「食」と趣味ができる程度の普通の暮らしで満足です。これまでも好きなものを食べているときや趣味に没頭している瞬間が最も幸せだと感じてきたからです。長期の旅行や特別に高価な買い物などをしたいとは思っていません。

――改めて、これから社会に出るにあたり、働くことの意義として特に意識しているのは何ですか。

加藤:これは就活の選考の場などではいえませんが、率直にいえば、私は仕事を通じて他人を助けたり社会に貢献したりすることが、直接自分の幸福につながることはないと思っています。働く意義は、あくまで働く以外の自由な時間で最大限に楽しめるようにするためだと考えています。 description  

FIREによって、自分にとって大切なものを主体的に選び、自由に働きたい

〈Profile 2〉
小森拓海(仮名)
都内私立大学に通う3年生。卒業後は働きながら医学部受験を目指すことを考えている。同時に資産形成に努め、医師として働くころにはフルタイムではなく、アルバイトのような形で働くセミリタイアを模索している。

――なぜセミリタイアを考えているのですか。

小森:穂高唯希さんという30歳で大手日系企業を退職し、資産運用で暮らしている方がいるのですが、その方のブログでFIRE(Financial Independence Retire Early 経済的自立と早期引退)の概念を知り、共感したからです。

――なぜFIREに共感したのでしょうか。

小森:1つは長時間働くよりも家族や友人と過ごす時間を大事にしたいからです。また、これから新たにやりたいことがあるのも影響したと思います。

――1つ目のことについては、例えば「ホワイト企業」に勤めて、定時に帰宅するような形では実現できないのでしょうか。

小森:仮に、ホワイト企業に勤められたとしても、仕事内容や人間関係を主体的に選べないことのほうが多いと思います。それこそ、穂高さんもブログの中で似たようなことを書いていましたが、同調圧力の中で周囲と同じことを強いられるのは違和感があります。

――そのような考えを持った背景を教えてください。

小森:海外旅行を通して、今まで常識だと思っていたことが、海外でもそうとは限らないということをたびたび実感してきました。だとするならば、働くことに関しても、一般的な常識にとらわれなくてもよいのではと思います。

また、ギリシャを訪れたときに感じたことですが、国は財政破綻しているけれど、そこに住む人々は陽気で親切な人が多かったのです。経済的な豊かさが生活の充実感につながっていくとは限らないのではないかと。

私にとっては長時間働いてお金を稼ぐよりも、大切な人々と過ごす時間のほうが大事なので、その時間が早くほしいと思いました。

医師になってもフルタイムでは働かない。両親は「理解できない」

――先ほどの「これから新たにやりたいこと」とは何ですか。

小森:医学部に入学し、精神科医になることです。大学に入学する際には考えていなかったのですが、新型コロナウイルス禍で考える時間ができ、そう思うようになりました。

――なぜ医師なのでしょう。

小森:もともと「何者かになりたい」という思いは昔から持っていました。そういう意味でいずれなんらかの専門職につきたいと考えていました。

精神科医になりたいのは、まず子どものころから「人間」という生物に興味があったことが理由の一つです。それから、私自身メンタルが弱くて悩んでいた経験があるので、そういった人々の力になりたいという思いもあります。

――医師として働くならセミリタイアではないのでは。

小森:週5日フルタイムで働くとは考えていません。特に医師の場合、特定の病院に所属しないで、週3日などアルバイトのような形で働くこともできます。まだ明確に考えているわけではないですが、そのような働き方をイメージしています。 description   ――セミリタイアには生活していくためのお金が必要だと思いますが、どのように用意しようと考えていますか。

小森:株など資産運用を考えています。それから完全にリタイアするわけでないので、働いて得る収入もあると思っています。

――周囲の人はその考え方についてなにかおっしゃっていますか。

小森:両親には話しましたが、「理解できない」と言っていましたね。両親は共働きで楽しんで働いているからかもしれません。

――具体的なセミリタイアまでの計画を教えてください。

小森:あくまで理想ですが、下記のように考えています。

<小森さんの想定タイムライン>
現在(21歳、大学3年生)…就職活動をしながら、医学部受験に向けた勉強を開始
22歳…IT企業に就職。勉強は続ける
25歳…医学部受験・IT企業を退職
31歳…医学部卒業・セミリタイア
32歳以降…週3日ほど医師として働き、残りの時間は家族や友人との時間に使う

――いったん就職するのですね。

小森:はい。医学部受験までは会社勤めをする予定です。

――IT企業を志望しているのはなぜですか。

小森:やはり市場が成長している業界に入ったほうが面白そうだからです。個人的にはエンジニアをやってみたいですが、今の時点では適性があるかわからないのでこだわりすぎないようにしたいです。

――今セミリタイアのために行っていることはありますか。

小森:経済や金融の基本的な勉強をしています。お金を稼げるようになったら具体的な資産運用にも取り組みたいと思います。

また、医学部受験のために理系科目を集中的に勉強しています。今考えている人生設計はあくまで目標ですが、なるべく早くセミリタイアできるように頑張りたいです。 description


【連載記事一覧】
【特集ページ】あなたはいつまで働くのか(全8回)
(1)生涯現役? それとも早期リタイア? 「キャリアの終わり」を考える
(2)大事なのはいかに幸せに死ぬか―。「一生遊べる」資産保有者が、働く理由
(3)働き続けないと「ださくなる」。食うに困らなくなった人には、世界をもっと変えてほしい
(4)「45歳で区切り」「母のように生涯働く」 VC、コンサル在籍20代が語る“キャリアの終わり”
(5)始まる前に終わりを語る。就活生は「引退」をどう意識しているか
(6)「週5勤務は40代まで」「引退は考えない」 20代IT系ビジネス職のキャリア観
(7)「“もう一つの人生”を送れる」。アーリーリタイアした40代が眺める、会社員時代には見えなかった景色
(8)「自分だけのために働くのは“卒業”しよう」。元マッキンゼーの起業家は社会のために“働き続ける”

コラム作成者
Liiga編集部
Liigaは、「外資就活ドットコム」の姉妹サイトであり、現役プロフェッショナルのキャリア形成を支援するプラットフォームです。 独自の企画取材を通して、プロフェッショナルが必要とする情報をお伝えします。