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人生が有限な限り、いずれキャリアは終わる。では、それはいつか。未来は予知できないのだから、正確な解はない。ただ、「人生100年時代」といわれる中、転職や副業が当たり前になり、逆に終身雇用や60代定年など旧来の前提は揺らぐ。外資就活ドットコムとLiigaの会員アンケートで7割超が「日ごろから『いつまで働くか』を意識している」と答えたように、自発的にキャリアの終わりを考えざるを得ない時代でもある。
「いつまで働くべきか」―。“最終解”なき問いなのは承知の上、あえて、幸せな人生を送るための「引退論」を全8回の連載を通じて掘り下げる。【藤崎竜介】
1. 60代での引退は「資金面で不安」「45歳で資産2億円ほしい」……前代未聞の長寿社会を前に20~30代が思うこと
2. 7割超がキャリアの終わりを意識。結果に驚く現40代以上
3. 高まるアーリーリタイア人気、背景には欧米発の「FIREムーブメント」
4. 70歳を超えて働き続ける、“レイター”リタイア志向も3割超
5. 記憶力や思考速度は20代後半がピーク。その上で、いかに「非認知能力」を伸ばすか
6. 死に向かうのは避けられない。その前提で働く意義を考える
60代での引退は「資金面で不安」「45歳で資産2億円ほしい」……前代未聞の長寿社会を前に20~30代が思うこと
「現在、日本に生まれる子供の半分が100歳以上の人生を生きると考えられています」。
2017年9月、心理学者でベストセラー書籍「LIFE SHIFT」を記したリンダ・グラットン氏が日本政府の有識者会議でこう発言し、話題を呼んだ。「人生100年時代」―。この頃から、一般化した言葉だろうか。
高齢化は止まりそうにない。厚生労働省によると、2019年の日本人の平均寿命は女性87.45歳、男性81.41歳。今や日本は、人類が経験したことがない深度・規模の長寿社会に突入している。
本記事を形にするに先立ち、外資就活ドットコムとLiigaの会員に想定引退年齢や人生設計などを尋ねるアンケートを実施した。東京大学・早稲田大学・慶應義塾大学といった難関校の学生や、コンサル・金融・ITなどの企業に属する20~30代が主対象のこの調査でも、長寿命化を念頭に置いた回答が目立つ。
以下は、IT業界で働く20代の声である。
「(想定する引退年齢は)85歳、将来の貯蓄が足りなくなると思うから。今後、我々の健康寿命は延び、平均寿命はゆうに100歳を超えてくると予想する。自分は110歳まで生きる自信さえある。そこで従来のように60歳、65歳で引退してしまうと残りの40年近く働かない状態が続いてしまい、資金面で不安が残る」。
より早い時期の引退を考える人もいる。
30代前半で外資系コンサルティング企業に属する別の回答者は、「体力に余裕があるうちにリタイアして、夫婦でゆっくり時間を作りたい」と55歳での引退を想定。他方で、実現のための条件に「45歳で金融資産2億円、50歳で同3億円」を挙げるなど、貯蓄意欲の高さから長寿社会への意識が垣間見える。
7割超がキャリアの終わりを意識。結果に驚く現40代以上
同アンケートでは、「『いつまで働くか』を日ごろから意識していますか?」という設問を冒頭に据えた。
これに対しては、集計対象の70.2%が「はい」と回答。長寿命化や年金支給年齢引き上げの議論などを踏まえて人生設計する、ある意味「令和時代」の若手高学歴層らしい結果といえるだろうか。
そしてこの調査結果、一定年齢以上の人々は驚きとともに受け止める。
「結構(「はい」の回答率が)高いんですね。昔はもっと低かったかもしれません。少なくとも私は就職する時にほとんど意識していませんでした。将来の身の心配をする必要をその時点で感じなかったというか」。
こう語るのは、日系大企業を40代で退職し現在は個人投資家として生計を立てる、ろくすけ氏(名はハンドルネーム、ろくすけ氏のインタビューは連載第7回で掲載)。今や旧来型の就業観から解き放たれ不労所得生活を確立している同氏ですら、会社勤めを40代でやめることになるとは、学生時代には「想像もしなかった」という。
トヨタ自動車社長の豊田章男氏が、「終身雇用を守っていくのは難しい局面」と2019年5月に公の場で発言するなど、旧来の雇用慣習が揺らいでいることも、世代間の意識差に影響しているのかもしれない。
高まるアーリーリタイア人気、背景には欧米発の「FIREムーブメント」
既に述べたように、同アンケートでは想定する引退時の年齢についても問いかけた。
年代別で多いのは、全体の27.5%を占める「60代」という回答。その理由については「いわゆる定年といわれる歳だから」「60歳定年の通例に縛られて」「従来の定年+再雇用レベル」など、伝統的な雇用慣習を前提にした声が目立つ。
日本社会で長らく60歳定年が標準とされてきたことを踏まえると、“60代引退派”が多数を占めることに驚きはない。
ただ一方で、その60代を下回る年齢での引退を想定する人の多さも、見逃せないのである。アンケートでは40代以下での引退を望む回答者が全体の12.0%。同23.6%の50代を加えると、計35.6%に上る。
建設・不動産系の日系企業で開発に携わるある会員は、「がっつり働くのは40歳までを目標にしています。40歳からは投資メインで、システム開発は趣味程度というスタイルにシフトしていきたい」と回答。外資系金融所属の別の回答者は、「精神的・肉体的耐性が低下するため」との理由で、目標引退年齢を45歳に設定。40歳までに資産2億円を築いた上で、退職する青写真を描く。
こうした、いわゆるアーリーリタイア志向に一定の影響を及ぼしているのが、近年世界的に盛り上がる「FIREムーブメント」だ。Financial Independence, Retire Early、直訳すると経済的自立と早期引退―。
「FIREを達成」した欧米などの若手高学歴層がSNSやブログなどを通じ、「労働」に囚われない新たな生き方を発信、一部の10~20代から熱烈な支持を集める。
日本では前述のろくすけ氏や、三菱系企業を30歳で退職した穂高唯希氏らがFIREの実践者として知られる。
70歳を超えて働き続ける、“レイター”リタイア志向も3割超
先にアーリーリタイア志向について述べたが、逆に従来の慣習以上に長く働くことを望む人も、少なくない。アンケートでは、生涯働くことを想定する回答者が、全体の17.0%を占める。
日系IT企業に勤める30代半ばの会員は、「生涯働いていたい。働き、頭を使い、手足を動かすことで、生きる意味を見いだせる。それによって心身ともに健康でいられれば、結果的に長寿につながる」と回答。日系コンサルティング企業に所属する別の会員は、「仕事は趣味の一部」とする。
またアンケート回答ではないが、ゴールドマン・サックス、べインアンドカンパニーなどを経て現在は経営共創基盤(IGPI)の共同経営者である塩野誠氏は、「働き続けないとすぐに衰えてしまうと思っています」と断じる(塩野氏のインタビューは連載第3回で掲載)。
生涯働くことを考える人に、一般的な定年以上の年齢という意味で70~100歳での引退を想定する回答者を足すと、全体に対する比率は計34.4%と3割を超える。見ようによっては、人生100年時代を反映した結果とも受け取れる。
興味深いのが、20~50代での引退を望む層が35.6%、60代が27.5%、そして70代~生涯が34.4%と偏りなく“割れている”ことだ。価値観の多様化に加え、人生100年時代に「いつまで働くべきか」について、有力な解が定まっていないことの反映ともとれる。
記憶力や思考速度は20代後半がピーク。その上で、いかに「非認知能力」を伸ばすか
「精神的・肉体的耐性が低下するため」―。外資系金融所属のアンケート回答者が45歳での引退を望む理由をこう表現したことは、既に述べた。この人のように、自身の能力の変化と人生設計をひもづけて考える人が多いことも、今回のアンケートで明らかになった。
「(想定引退年齢は)65歳。知力・体力からみて、高付加価値を出し続けられるハードワークや能力の習得が可能なのは、60代が限界だと考えるから」。
上記は日系の金融系企業に勤務する20代の回答。
また、別回答ではこんな意見もある。
「仕事における能力のピークを過ぎて働き続けるのには疑問がある」。
この回答者は外資系コンサルティング企業勤務の20代で、35歳をめどに独立・起業し、40代後半で引退することを見据える。
加齢による能力の変化については、「老い」と脳の関係性などを研究する瀧靖之東北大学教授の見解も参考にしたい。
同教授によると、記憶力、思考速度、論理的思考力など「点数を付けられる力」は「認知能力」といわれ、一般に20代後半でピークに達した後、ゆるやかに減衰していくのだという。
同教授は、外資就活ドットコムとLiigaのユーザーに外資系のコンサルティングファームや金融機関の志望者・在籍者が多いことを踏まえ、「そうした人たちは認知能力が問われることが多いのかもしれません」と推し量る。
アウトプットの正確さやスピードが重視される、いわゆるプロフェッショナルファームの世界。認知能力に長けた若手が強みを発揮しやすい環境だと捉えると、最年少昇進のニュースがしばしば飛び交うのも、うなずける話である。
他方で、働く上で求められる力は認知能力だけではない。共感する力やコミュニケーション力など、主に他者と意思疎通する上で発揮されるものが「非認知能力」に分類される。
組織運営、コラボレーション、交渉などで問われる要素といえるだろうか。実は認知能力とは異なり、加齢に伴う変化の個人差が大きく、明確な「ピーク年齢」は明らかになっていない。
その上で瀧教授は、「脳の『可塑性(かそせい)』を最大限に発揮することで、加齢しつつも非認知能力を伸ばし、何歳でも成長できるんです」と明かす。ここでいう可塑性とは、脳が必要に応じ柔軟に変容していく性質だ。
脳が可塑性を発揮するのに重要とされるのが、好奇心とリアルな体験。「できるだけ多くのことに興味を持ち、実際に見聞きすることがすごく大事です」と、同教授は付け加える。
加齢と能力の変化については、経営者によるこんな声もある。
「立てられる仮説の数は減ってきました」「ただ一方で、仮説の精度は高まっています」。
語り手は20代でカカクコムを創業・売却し、不労所得生活を経て40代で再起業した槙野光昭氏(槙野氏のインタビューは連載第2回で掲載)。加齢で認知能力が失われる分、経験知や周囲との協業で補い、パフォーマンスを維持できているのだという。
死に向かうのは避けられない。その前提で働く意義を考える
いつまで働くべきか。冒頭記したように、“最終解”はない。一人一人が人生設計、加齢による変化、自身の「働く理由」などを考慮し、答えを見出すものといえるだろうか。
その働く理由。前出の槙野氏は「稼ぐため」と言い切り、マッキンゼー・アンド・カンパニー出身で現在は災害復興・地方創生活動を展開する藤沢烈氏は、「自分の描く社会観・世界観の実現に少しでも近づけるため」とする(藤沢氏のインタビューは連載第8回で掲載)。
アンケートでも、働く意義を聞く設問を設けた。
「生活のため」「社会をより良くするため」「資産を増やすため」「起業家を支えるため」「親として子供を社会に飛び立たせるため」「自由意志で生きるため」「人と出会うツール」……。
回答内容は十人十色で、紹介しきれない。目指す「ゴール」が人それぞれなのだから、多様性があるのはある意味当然だ。
「人生なんて死ぬためにあるんだよ(life is just to die)」
示唆に富む詩と“ドス”の利いた声が愛された歌手、故ルー・リードはかつてこう歌った。
確かに、生きている限り、死に向かい一直線に突き進んでいるのは事実である。
その上で、いつまで、何のために働くのか―。本記事に続く連載インタビューで、さまざまな人の就業観・人生観を紹介する。
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