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(写真:本人提供)
特集「あなたはいつまで働くのか」の第3回で話を聞くのは、株式会社経営共創基盤の共同経営者・塩野誠さん。塩野さんはこれまで、偉大な人でも一夜にして大金を稼ぐようなことがあると働かなくなり、その結果として衰え、“ださく”なってしまうのを幾度も目にしてきた。そのたびに悲しい思いを抱きつつ、「食うに困らない立場になった人たちには、もっと世界を変えるような面白いことをしてほしい」と感じてきたという。【丸山紀一朗】
1. 世界は簡単に変わる。ロールモデルなんてくそ食らえだ
2. 「ワークライフミックス」のほうが価値が出せる世の中になってきた
3. 「とんちんかんなことをいう人になってしまった」。それを見るのは悲しい
4. 性別や年齢、国籍などで「特別扱い」するのはやめよう
世界は簡単に変わる。ロールモデルなんてくそ食らえだ
――「いつまで働くのが幸せか」という問いに対して、どういう考えを持っていますか。
塩野:大前提として、いつまで働くのがいいかは人それぞれでいいと思います。
また、外資就活ドットコムやLiigaの読者に一番伝えたいのは、「ロールモデルなんてくそ食らえ」ということです。どんどん変わる未来において、これまでの成功体験を語る人をロールモデルにする必要はない。偏差値のような1つの指標で競争しているわけではないので、いろいろなスタイルがあっていいのです。
――世界はどんどん変わるので、いつまで働くかに対する自分の考えも変わりうるということでしょうか。
塩野:はい。例えば私は2003年に戦略コンサルティングファームからベンチャーキャピタル(VC)に移籍したのですが、周りのみんなに「え、何で?」とか「終わったな」とかいわれました。しかし今は戦略コンサルからVCというキャリアを選ぶ人は少なくありません。世界は簡単に変わります。
また、今から10年ほど前、コンサルタントとして「AI(人工知能)のプロジェクトをやりましょう」と企業を回ったのですが、その多くが「何ですか、そのSFみたいな話」と全く取り合ってくれませんでした。今は完全に状況が変わった。私は、そういうふうに世界が手のひら返しをしてくる渦中にずっといた。そしてある意味、ずっとばかにされ続けてきました。
もう一度いいますが、世界は簡単に変わる。社会人になると「学力テスト」で競争しているわけではないので、個々の自由な生き方が選べます。社会自体も数年で大きく変動するので、「いつまで働くか」を今計画しても大体その通りにはいかない、という前提で考えたほうがいいです。新型コロナウイルスの影響で、2020年の1年間だけでも世界は大きく変わってしまいましたし。
「ワークライフミックス」のほうが価値が出せる世の中になってきた
――塩野さんの場合は、そもそも「働くこと」とそれ以外をあまり分けていないのでしょうか。
塩野:そうですね。私は「ワークライフミックス」でこれまで生きてきました。生活者としての好奇心や肌感覚もビジネスに生きますし、あえてその間を分断するようなことはしてきませんでした。オンとオフがあいまいな暮らしというか。そのほうが世の中的にも価値を出せるようになりつつあるかなと思っています。
例えば、企業の経営者が「今こそデジタルトランスフォーメーション(DX)だ」といっているとして、その人が「TikTok」も使ったことのない人だとおかしいじゃないですか。また、「このアプリ超遅いから即削除」といったような世界を肌感覚で分からない人が、DXをいくら叫んでもしょうがない。こういう意味で、生活とビジネスが混ざっている人のほうが価値を出せるのです。
――「いつまで働くのか」という問いは、塩野さんにとっては「いつまで生きるのか」と同義ということでしょうか。
塩野:そう思います。
ちょっと具体的な人の話をします。ヘルシンキの同僚に74歳のベンチャーキャピタリストのレジェンドがいます。その年齢ですが、20代の起業家について語り、スタートアップや最先端のテクノロジーについて議論している。彼がこれまでかかわったファンドの数は40~50にも及びます。5カ国語話せて、母国語で初めて仕事をしたのは60歳を過ぎてからという。またすごくお金持ちというわけではないものの、フィンランドの伝統的なライフスタイルの通りに、小さな島を所有・開拓していて、その島からオンライン会議に入ってきます。
これを聞くと、「次元が違う」と思う日本人が多いでしょうし、私もそう感じています。私は「ああ、自分って何もできないな」と思いますが、彼からすると小国で生まれた人間として生き残るためには当たり前だったという感覚のようなのです。
それを考えると、超大国の日本で社会保障に守られながら「働かない」とかいっているのがばかみたいに思えてきて。健康なら働けるだけ働けばいいじゃんと思うようになりました。それは別にずっとフルスロットルで働くという意味ではありませんし、偉大な経営者を目指すというわけでもありません。変にロールモデルにこだわるのではなく、自分のいいと思う働き方をすればいいだけです。
――何がいい、何が悪いではなく、多様性を認識すると。
塩野:そうです、「あ、そういう人もいるんだ。すげー。こういうのもありなんだ」という話です。Twitterを眺めながら「コンサル○年目だとこれだけできなきゃ駄目だ」などと思っているのは、すごくばからしいなと。そういうサラリーマンにならないために、日本の大企業ではなく、あえてコンサルを選んだのではないでしょうか、といいたいですね。
「とんちんかんなことをいう人になってしまった」。それを見るのは悲しい
――年齢を重ねるにつれ、働くことの意義は変わってきましたか。
塩野:何のために働くかなど、20代のころは考える暇がありませんでした。がむしゃらに働いて生き残るというだけで。ただ、20代で頑張って働いたことはとても重要でしたね。たくさん叱責をされて挫折もしたことで、後から振り返れば20代で大きく成長しました。また自分の体力、知力的な限界が分かったので、仕事に向かう力をコントロールできるようにもなりました。
――その後は何のために働いてきたのですか。
塩野:コンサルタントというプロフェッショナルとして、クライアントのためにやると決めたことは必ず達成するという、プロとしてのプライドで働いてきたのだと思います。その一時のモチベーションに左右されず、常に一定以上のパフォーマンスを出し続けるプロフェッショナリズムの持ち主が社会に必要とされ続け、長生きできると思います。
――不労所得だけで生きていったり、遊んで暮らしたりといった生活を選ばないのはなぜですか。
塩野:お金に関しては人それぞれでいいとは思いますが、働き続けないとすぐに衰えてしまうと思っています。私は、一夜にして大金持ちになった若い人を何人も見てきました。そうした人が全然働かなくなり、別荘やいい車を買って、ゴルフ場に好きな人といるだけになってしまいます。もうちょっと何か面白いことをやってほしいですよね。もう少し世界を変えてほしいじゃないですか。せっかく食うには困らない立場なのだから。
働いて、闘っていないと「ださくなる」と思っています。偉大な人でも、働き続けないと「とんちんかんなことをいう人になってしまったな」となる。それを見るのは悲しいです。あと、働かないで毎日好きな相手とお寿司を食べても、たぶんおいしくないでしょう。いろいろな人を見て感じるのは、「やってやったぜ」という日々の張り合いがないとやはり衰えてしまうのだろう、ということです。
――あるスキルは若いほうが高かったり、その逆だったりというように、加齢に伴って、人の能力は変わると思いますか。
塩野:うまくきれいに年齢を重ねる、すなわちその年齢に応じた経験を積むべきですが、それってけっこう難しいことです。例えば学生時代や20代にそこそこばかをやっておいたほうがいい。仮にやらずにきた人が、その後に権力を持ってしまうと、その権力を携えた状態でばかをやってしまってつらい目に遭うこともあるので、結果的に本人にとってよくないですよね。
また、早回しでキャリアを進めるのはいいことだと思います。自分の例でいうと、私がライブドアでニッポン放送を買収しようとしたのはまだ29歳のときでした。調達額は800億円という規模。普通に考えたら20代で大手テレビ局グループを買いにいかないですよね。だから年齢は関係ありません。仕事でもプライベートでも、何でも新しく感じられて楽しいと思えるような感性が鋭い時期に、また体力もあるうちにやっておかないと後悔することは多いですよ。
――それは例えばどういうことですか。
塩野:25歳のときの100万円と、50歳での100万円は、価値が違いますよね。私は、時間があって、体力もあって寝ないで平気だった学生時代の自分に100万円を貸してあげられたらなと思います。金がすべてではないですが、本当に好きなことだけができて自分のことだけを考えられる貴重な時期に、「機会」を提供したいということです。
例えば部下を持つようになれば、部下が遅刻して来たり連絡が取れなかったりするとマインドシェアが奪われますし、家族ができれば子育て、親の介護といったことも発生します。そう考えると、自分の好きな勉強をして、好きな本を読んで、好きな映画を見て、自分に「栄養補給」できる時間は、本当に数年しかないといっても過言ではないのです。その人生の中のものすごく短い期間を、ぼーっと生きてしまうと後で泣きます。
性別や年齢、国籍などで「特別扱い」するのはやめよう
――日本で「働き方改革」といわれるようになって久しいですが、日本人にとって働くことの意義は変わってきているのでしょうか。
塩野:変わってきているとは思います。これまで、日本は中高年男性に最適な社会だったと思います。私自身が中高年男性なのでよく分かりますが、私たちの甘えが許されてきた社会と見ています。「仕事をしていないのにずっと正社員でいられる中高年男性」の存在が問題としてよく語られるように。
私の住んでいるフィンランドやスウェーデンなどには女性経営者や女性政治家が多いですが、そうした国々から見ると、「日本は仕事ができない人も雇っていけているって、ずいぶん余裕あるんですね」と思うでしょう。
しかし、最近になって企業側にそうした人を雇い続ける余裕がなくなってきた。日本も本来あるべき、「男性も女性も年齢も関係なく、その役割に適した人がその仕事をするという社会」に近づく方向性になっていることは間違いないと思います。
――フィンランドでは19年12月、サンナ・マリン氏が史上最年少の34歳で首相に就任しましたよね。
塩野:はい。フィンランドがすべていいわけではなく、駄目な部分もたくさんあります。ただ、34歳の女性が首相になれるというのは、すごく未来志向だなと思います。例えば70歳の首相と34歳の首相を比べると、34歳のほうが基本的には長く生きるので、どうしても未来志向の政策を考えるようになるでしょう。そこに対して国民の信頼が集まっているのです。
しかし、若ければいいという話ではありません。「多様でいい」という話なのです。私は先ほど話した74歳のレジェンドがチームにいて、20代、30代、40代、50代のメンバーと一緒に全員フラットに議論しています。国籍もバックグラウンドもバラバラですが、皆、面白くて素晴らしい新たなテクノロジーを見つけようと活動しています。これが多様であるということなのだと思います。
――そういった多様性が認められる社会にするために、日本における障害は何がありますか。
塩野:あえていえば、まずはマスコミやメディアが「美人経営者」とか「バリキャリ女性」「イクメン」といったような言葉を使うことをやめるべきだと思います。そうした言葉遣いは、彼ら彼女らを“普通の人たち”とは違うものとして扱ってしまっていることになる。そういう特別扱いをするのではなく、「それって普通だよね」という認識を醸成していくことがむしろメディアの役割なのだと思います。
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