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5大商社複数内定者である私が分析したところ、日本の総合商社ビジネスは、三菱商事、三井物産、伊藤忠商事による「三強時代」が到来しており、2024年度の利益規模でいずれも8000億円を超える一方で、その戦略は大きく異なっており、産業横断型統合を目指す三菱商事、垂直統合と地域深耕を追求する三井物産、消費者起点のアプローチを徹底する伊藤忠商事といった、それぞれの戦略から、サプライチェーンマネジメントの複数の成功モデルが見えてくるのです。本シリーズの第2回では、この三強企業がなぜ異なる戦略を選択し、それが現在のビジネスモデルにどう反映されているのかを詳しく分析します。
第1回:総合商社の歴史とサプライチェーン進化論
▶ 第2回:三菱商事・三井物産・伊藤忠商事 ─ 三強の戦略分析(この記事)
第3回:中堅・小規模商社の戦略
第4回:グリーンサプライチェーンと環境対応
第5回:デジタル変革がもたらすサプライチェーン革新
第6回:地政学リスクと経済安全保障
第7回:サプライチェーン・レジリエンスと未来展望(最終回)
三菱商事:産業横断型統合とグローバル事業経営モデル
業界トップの地位と事業構造
三菱商事は2024年3月期の連結純利益が9434億円と、総合商社の中でも圧倒的な規模を誇っています。その戦略の核心は「産業横断型のサプライチェーン統合」にあり、同社の特徴を理解するには、まずその事業構造を知る必要があります。三菱商事は10の事業グループに分かれていますが、それらは単独で機能しているのではなく、複雑に連携し合っているのです。
天然ガス、総合素材、石油・化学ソリューション、金属資源、産業インフラ、自動車・モビリティ、食品産業、コンシューマー産業、電力ソリューション、複合都市開発という10の事業グループは、一見するとバラバラの事業のように見えますが、三菱商事の真骨頂は、これらを有機的に結びつけることで生まれるシナジーにあるのです。
スコープの経済性による優位確保
例えば、天然ガス事業で培った大規模プロジェクトマネジメントの能力は、産業インフラ事業での発電所建設に活かされ、LNG輸送で使用する専用船は、時に化学品や石油製品の輸送にも転用されます。こうした資産の相互利用により、個別事業の効率性が高まるのです。サプライチェーンマネジメント理論では、これを「スコープの経済性」と呼び、複数の製品やサービスを同じインフラや知識基盤で提供することで、単一製品に特化するよりもコスト優位を得られるという考え方があるのです。三菱商事は、この原理を巧みに活用しているのです。
ハンズオン経営による実行統制
同社のグローバル事業経営モデルの象徴が、約1700社にのぼる連結対象会社であり、これらは単なる投資先ではなく、三菱商事のサプライチェーン戦略を具現化する実行部隊と位置づけられています。特に注目すべきは、これらの事業会社に対する「ハンズオン経営」のアプローチであり、ハンズオン経営とは、単に資金を出すだけでなく、経営陣を派遣し、戦略立案から日々のオペレーション改善まで深く関与する経営手法なのです。
三菱商事は、各事業会社の取締役会に自社の人材を送り込み、グループ全体の戦略と整合性を取りながら、個別事業の最適化を図っています。具体的な事例として、ローソンへの関与を見てみましょう。三菱商事は現在、ローソンの筆頭株主として、同社の経営に深く関与しています。コンビニエンスストアという小売の最前線を持つことで、三菱商事は消費者の嗜好変化をリアルタイムで把握できます。この情報は、食品産業グループが展開する食材調達や加工事業にフィードバックされ、商品開発に活かされているのです。
さらに興味深いのは、ローソンの物流網と、三菱商事が他の事業で構築した物流インフラとの統合です。食品配送の帰り便を利用して他の商材を運ぶことで、物流コストを削減する。これは、サプライチェーンマネジメントにおける「バックホール最適化」と呼ばれる手法で、物流業界では古くから知られていますが、異なる事業分野間で実現するのは容易ではありません。三菱商事は、多様な事業を持つがゆえに、この最適化を大規模に実行できるのです。
資源・エネルギー分野での統合戦略
資源・エネルギー分野での三菱商事の強みも特筆に値します。同社は世界各地に資源権益を保有していますが、重要なのは単に権益を持っているだけでなく、その開発から輸送、販売まで一貫したバリューチェーンを構築している点です。
オーストラリアのブラウズLNGプロジェクトを例に取ると、三菱商事は上流の天然ガス田開発に参画し、液化設備への投資も行い、さらにLNG輸送船も保有し、最終的には日本やアジアの電力会社への販売まで手掛けています。この垂直統合により、各段階での利益を取り込むと同時に、全体としての供給リスクを管理できるのです。
もし上流開発だけに関与していれば、生産した天然ガスの買い手が見つからないリスクがあります。逆に販売だけに関与していれば、供給源が確保できないリスクがあります。しかし、バリューチェーン全体を押さえることで、これらのリスクを内部化し、コントロールできるようになります。これは、サプライチェーンマネジメント理論における「取引コストの内部化」として説明できます。
新規事業創出への積極的姿勢
三菱商事のもう一つの特徴は、新規事業創出への積極的な姿勢です。同社は近年、次世代エネルギーやデジタル分野への投資を加速させています。特に注目されるのは、水素サプライチェーンの構築です。
水素は、脱炭素社会の実現に向けた鍵となるエネルギー源として期待されていますが、その製造、輸送、貯蔵には多くの技術的課題があります。三菱商事は、オーストラリアでの褐炭を原料とした水素製造プロジェクトに参画し、液化水素の海上輸送技術の開発にも関与しています。さらに、日本国内での水素利用インフラの整備にも取り組んでいます。
これは、まだ存在しない市場に対して、サプライチェーンを一から構築する試みです。製造、輸送、貯蔵、利用という各段階の技術開発と事業化を並行して進め、システム全体として機能させる必要があります。個別の技術だけでなく、それらを統合するシステム設計能力が問われるのです。
デジタル分野では、三菱商事はMC Digital社を設立し、グループ全体のDXを推進しています。単なるIT化ではなく、デジタル技術を活用した新たなビジネスモデルの創出を目指しており、例えば、物流データの解析により最適な配送ルートを提案するサービスや、需要予測AIを活用した在庫最適化サービスなど、サプライチェーン効率化を外部企業にも提供する動きが出てきています。
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