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「54カ国から構成されるアフリカは社会課題が複雑。だがその分、解決した時のインパクトが大きい」。そう語るのはモルガン・スタンレー、イスラエルとパレスチナに本拠を置く国際機関を経て、「Double Feather Partners」を立ち上げた武藤康平氏。同社はコーポレートアドバイザリービジネスや現地ベンチャー企業への投資を通じて、アフリカの社会課題解決に取り組んでいる。
同氏によると、アフリカならば、マクロな成長を先回りして捕えることで社会課題を解決すると同時に、長期的なリターンを得るチャンスがあるのだという。
「社会貢献は“稼げる”か」第5回は、同氏にアフリカにおける社会課題解決型ビジネスの実情と可能性について話を聞いた。【南部香織、橘菫】
1. 多様性に富むアフリカ。複雑に絡み合う社会課題こそがビジネスチャンス
2. 事業が社会の役に立てば、その企業は社会から求められ長期的に成長する
3. 社会課題解決ビジネスが自分を犠牲にするというイメージは払拭したい。そのために利益を出す
4. 魚を与えるのか、釣り方を教えるのか。マクロな視点で捉えることが大きなインパクトを生む
多様性に富むアフリカ。複雑に絡み合う社会課題こそがビジネスチャンス
――アフリカで社会課題を解決するビジネスを行う魅力は何でしょう。
武藤:2点あると思っています。1つは複雑に絡み合った社会課題の解決という高度に難しいミッションに挑戦できること。もう一つは長期的な経済成長を見込んだベンチャー投資にまだ参入できるチャンスが残されていることです。
アフリカは54カ国から構成されています。多様性に富み、各国で独特の通貨や市場慣習があり、伸びている分野も違う。アフリカ全体を見ながらも、それぞれの地域の状況やニーズを同時に把握しないといけないんです。そこに、貧困を筆頭に、教育、医療などの社会課題が複雑に絡み合っている。
そういう意味で既存のフレームワークから外れた考え方をしないと課題解決が難しい。複雑な課題にチャレンジすることは投資銀行でもありましたが、直接世界が抱える社会課題の解決という難題に挑む醍醐味(だいごみ)はなかなか味わえません。
――具体的な例があれば教えてください。
武藤:アフリカには多くの出稼ぎ労働者がいますが、彼らのほとんどは貧困層であるため銀行口座を持っていません。家族に送金するには代替ルートで高額な手数料を払っていました。
仮に銀行口座を持っていても、例えばケニア・シリングからルワンダ・フランへの送金などといったマイナー通貨間の為替取引はコストも時間もかかります。アフリカだけでも41通貨もあります。
そこで、今まで大きな為替コストがかかっていたところを、ビットコインなどの仮想通貨を用いて米ドルに変換せず、かつ銀行セクターを通さずに送金作業が一瞬でできるというスタートアップが出てきています。一部の会社は日本の大手金融機関からの出資も受けています。
これは、アフリカの複雑な社会構造を逆にビジネスチャンスに変えているということです。何十種類も通貨があるというハードルをテクノロジーで越えれば、一気に大きな市場を獲得できます。
――複雑だからこそ、潜在的に大きなチャンスがあるわけですね。
武藤:はい。革新的なビジネスやイノベーションは先進国のみではなく、最も困難かつ過酷で複雑な環境において起こることも多いと思います。
かつて日本を代表するグローバル企業を生み出した偉大なる先人起業家の多くも、日本社会が最も困窮していた時代にチャンスを見出した方々だと感じています。
事業が社会の役に立てば、その企業は社会から求められ長期的に成長する
――アフリカの社会課題をビジネスで解決しようと思ったきっかけを教えてください。
武藤:国際社会のルールを作っている国連という組織に興味を持ち、高校時代から「模擬国連」という国連の討論を学生が模倣するディベートサークルに所属し、大学時代には日本代表チームに選ばれました。討論のリサーチを進める中で、さまざまな過去のデータから当時著しく成長していた中国のポジションの次につくのは、インド、そしてその次はアフリカだろうという仮説を自分なりに持ち始めました。
さらにアフリカは、貧困問題が深刻なだけではなく、食料、医療、エネルギー、紛争などの社会課題も複雑に絡み合っていると分かり、その解決について考えたいという思いで中東・アフリカの開発をテーマにしているゼミにも入りました。
アフリカは2050年まで右肩上がりに人口が増え、GDP(国内総生産)も伸びるので、それに伴ってさまざまなニーズが増えていくことが予測でき、社会課題解決とビジネスが両立するフェーズが訪れるのではと考えたわけです。
――Double Feather Partnersは具体的にどのような事業を行っているのですか。
武藤:大きく分けて3つあります。1つ目はアドバイザリーです。いわゆる投資銀行が行っているような業務で、アフリカの現地企業やグローバル企業に対して資金調達や事業戦略への助言をしています。
2つ目は、ベンチャーキャピタル(VC)投資です。現地の成長しており、かつ社会課題を解決するスタートアップに対して投資をしています。必ずしも社会起業家というスタンスでなくても、複雑な社会課題をビジネスアイデアとテクノロジーで解決する力を持ったところを対象としています。
3つ目は、アクセラレーションプログラム(新興企業への出資や支援を行うプログラム)の運営です。ケニアにて日本の政府系機関である国際協力機構(JICA)とアクセラレーションプログラムを運営しています。シリコンバレーの500 StartupsというVCとも連携し、ケニアから産業構造の変革と社会課題の解決を担うスタートアップを選抜。事業拡大と成長資金の調達などを徹底的に支援しています。その次は南アフリカ共和国に拡大予定です。
――事業の収益を維持するために工夫していることはありますか。
武藤:3つの事業の収益を、期間で分けて考えていることでしょうか。アドバイザリーが短期、アクセラレーションプログラムが中期、VC投資が長期です。収益源と収益タイミングを事業ポートフォリオ内で分けることでリスク分散させ、安定して長期的な成長を目指すためです。
一番重要視しているのは、VC投資ですが、その利益を回収できるのは7~10年後です。そのため、短・中期的には、投資している会社に対してしっかりと支援をしていくということが必要です。
具体的には、短期で経営財務を含めた専門的なアドバイスや知見を共有し、さらに中期で事業拡大をハンズオンで支援し、顧客やビジネスパートナーを世界中からつなぎ、投資家を探すなどの付加価値を提供しています。結果として長期のリターンの向上に寄与します。ポートフォリオ化した複数の事業を丁寧に組み合わせることが、収益化の一つのポイントですね。
――ビジネスで社会課題を解決するというスタイルに難しさは感じませんか。
武藤:本来、その2つを両立するのは極めて難しいと思います。伝統的には国際機関やNPO(非営利団体)、NGO(非政府組織)が社会課題に取り組んできました。また、NPOやNGOで寄付を募り、そこから事業を行う団体もあると思います。本来社会課題の解決にはさまざまな役割の組織が力を合わせて取り組む必要があるものです。
私たちの場合は、たまたまビジネスという形で事業を行っているにすぎません。まだまだ駆け出しの新参者ではありますが、アフリカでゼロから事業を立ち上げ、組織が自走可能な状態になるまでだけでも、いくつもの想像を絶するような壁を乗り越えていかなければなりませんでした。投資銀行のアナリスト時代の苦悩とはレベルが違います。覚悟がなければすぐに心が折れてしまいます。
ビジネスで社会課題を解決するのは確かに難しいことではありますが、本質的には、事業がしっかりと社会の課題解決に貢献し、社会の役に立つことができれば、その企業は社会から求められ、支えられ、そして長期的に成長すると考えています。
社会課題解決ビジネスが自分を犠牲にするというイメージは払拭したい。そのために利益を出す
――現在、所属するメンバーは何人ですか。
武藤:今12人です(2021年3月取材当時)。近く15人ぐらいにはなりそうです。
――ソーシャルセクターは給与が一般的な企業に比べ低いと思われる傾向にあります。
武藤:弊社の場合、今は事業拡大のフェーズなので限られたリソースの中、いかに自分よりも優秀なメンバーに同じ船に乗ってもらえるかがカギとなります。
そのため、基本的に自分の給与は抑えて、その分を良いチームメンバーを採用するために使っています。事業が軌道に乗るまでの最初の2年間ほどは自分の給与を新卒で入ったモルガン・スタンレー1年目の4分の1ほどまで下げていましたが、これはどの分野で起業をしても大抵の人が通る道かと思います。
――ということは、メンバーの皆さんの報酬はそれなりに高いということでしょうか。
武藤:日本の一般的な会社員と比較するとかなり高いと思います。社内スタッフには私以上の水準の人もいます。
――メンバーの報酬について何かこだわりはありますか。
武藤:社会課題解決にビジネスでチャレンジする、いわゆる社会起業家のような立場の人々が、自分の給与を大きく下げたり、生活水準を犠牲にするというイメージは払拭したいと思っています。
そのためには、企業の成績表でもある利益をしっかり出すことが重要です。利益を出し、かつみんなが一緒に成長して、共に大きな課題にチャレンジできる環境を作れるかどうか。それが達成できるということを証明していきたいと思っています。
ただやはり、この分野に携わる人たちは、お金よりもむしろ自分の人生で何をやり遂げたいか、自分のミッションやパッションを共有できる場かということを重要視しています。逆に目的を共有できなければ、仮に高給を提示しても、見向きもしてもらえません。
魚を与えるのか、釣り方を教えるのか。マクロな視点で捉えることが大きなインパクトを生む
――ソーシャルセクターの事業をしている団体が、収益を上げて事業を安定的に回すためにハードルになりやすいことは何だと思いますか。
武藤:おそらく今までの伝統的な社会課題解決のフレームワークは、ミクロなものが多かったと思うんです。例えば、この地域に井戸がないから掘る、学校がないから建てるといったものです。
その場合、魚を得るために魚の釣り方を教えるのではなく、魚そのものを与えているにすぎません。根本的な課題は解決していないですよね。皮肉なことに、貧困状態が保たれていることが、ソーシャルセクターの利益につながる状態になりがちです。
つまり、目の前の課題を一時的に解決するだけでは、応用ができず、ビジネスとしてスケールしにくい。スケールしないところには人も集まらない。人が集まらないところにはお金も集まらないということになりやすいのではと思います。
――ミクロではなく、マクロな視点を持つことが重要ということでしょうか。
武藤:そうですね。例えば、アフリカにおいて、医療の問題は普遍的かつ、全体に関わる問題です。これを解決するために、ケニアのナイロビにあるヘルスケアの会社に投資するとします。
最初はケニアから始まるかもしれませんが、そこで導き出された解は、アフリカ全体、54カ国に応用できる可能性があります。もっというなら、世界の他の場所にも応用できるかもしれません。こういった途上国から先進国へ広がる、いわゆる“リバース・イノベーション”の視点が重要です。
普遍的な社会課題を定義することができれば、世界を市場として捉え、結果として世界をよりよくすることができると考えています。弊社ではそんな世界に貢献するさまざまな会社の成長を陰で支える社会基盤のような役割を担えたらと思っています。
(写真はすべて株式会社Double Feather Partners提供)
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