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地頭とは、どこでも、どのような時代でも生き抜いていけるだけの素地―。こう定義する教育評論家の石田勝紀さんは、よく地頭をスマートフォンやパソコンのOS(基本ソフトウエア)に例える。OSが低スペックだと、新たなアプリケーション、つまり知識やスキルをインストールしても、効果は最大化されない。時にはインストールすらできない……。
石田さんによると「地頭はOSのように、アップグレードしてパフォーマンスを上げられる」のだという。特集「『地頭がいい』とは何か」の第5回。これまで4000人以上の教育に携わり、また今後ビジネスなどで「地頭がもっと求められる」とも語る彼の言葉から、高学歴の学生や若手社会人がさらなる高みを目指す上でのヒントを探る。【藤崎竜介】
1.地頭=OSのスペックが足りない人は、日々を「ボーっと生きている」
2. OSのスペックを決めるのは、抽象と具体を結びつける力
3. 地頭がいいハイパフォーマーは、よく「遊び」よく「観る」
4. OSにAndroidやiOSがあるように、地頭にも「種類」あり。それを知るために違う世界をのぞき込む
地頭=OSのスペックが足りない人は、日々を「ボーっと生きている」
――著書などで、地頭はOSにあたると説いています。なぜでしょうか。
石田:スマホやパソコンなどのコンピューターは、よく人間の脳に例えられたりしますよね。そのように、脳のパフォーマンスの違いをコンピューターの性能差になぞらえて考えると、すごくしっくりくるんです。
国語、数学、英語といったいわゆる勉強はアプリにあたり、一般的な教育によってインストールされます。ただ、それらが簡単にインストールされる子と、反対になかなか頭に入らない子の両方を数多く見てきました。
――その違いが地頭、つまりOSの性能ということでしょうか。
石田:そう考えています。OSが高スペックなら、あらゆるアプリに対応できますよね。逆もまたしかりです。
――ちなみに処理速度、つまり頭の回転の速さみたいなものはCPU(中央処理装置)といったところでしょうか。
石田:そんな感じでしょうね。処理速度の方は先天的要素が強く、高めるのは簡単ではありません。対して地頭は日常の習慣などで鍛えられるんです。
問題はこのOSをアップグレードするためのトレーニングが、一般の教育現場であまりなされていないことです。
――著書では、小中学生が主な対象になっていますが、20歳以上でも地頭を鍛えられるのでしょうか。
石田:もちろんです。日常の中でさりげない“マジックワード”を自他に投げかけることで、自身や周囲のパフォーマンスを高められます。対象年齢によって表面的な言葉使いは多少変わってきますが、内容は同じです。例えば、目的を確認する「何のため?」、原点回帰を促す「そもそも」、問題意識を呼び起こす「本当だろうか?」といった言葉ですね。
――そうした言葉を投げかけられると、いやが応でも……。
石田:いやが応でも考えますよね。ポイントはそこです。私がOSと表現しているものは、平たくいえば自発的に考える力です。地頭のいい人、OSのスペックが高い人は、無意識のうちに自問自答する傾向にあります。
NHKの番組「チコちゃんに叱られる!」でチコちゃんに問われると、皆すぐに考え始めますよね。あれを、絶えず自分の中で自動的にやっている感じです。
逆にいえば、その他の多くの人たちは日々考えているようで、実は自問自答している時間がさほど長くない。つまり番組でチコちゃんに叱られる出演者らのように、「ボーっと生きている」わけです。
OSのスペックを決めるのは、抽象と具体を結びつける力
――地頭を鍛えるとは、自問自答する習慣をつけるということですね。
石田:はい。そのために、既に述べた「何のため?」などのほかには、「なぜだろう?」「要するに?」といったマジックワードが有効だと考えています。
1:「なぜだろう?」(「原因分析力」をつくる)
2:「どう思う?」(「自己表現力」をつくる)
3:「どうしたらいい?」(「問題解決力」をつくる)
4:「要するに?」(「抽象化思考力」をつくる)
5:「たとえば、どういうこと?」(「具体化思考力」をつくる)
6:「楽しむには?」(「積極思考力」をつくる)
7:「何のため?」(「目的意識力」をつくる)
8:「そもそも、どういうこと?」(「原点回帰力」をつくる)
9:「もし〜どうする(どうなる)?」(「仮説構築力」をつくる)
10:「本当だろうか?」(「問題意識力」をつくる)
――それによって考える力が鍛えられると。自発的に考える力、理解を進めるためにもう少し分解して表現すると、どんな力といえますか。
石田:「疑問を持つ力」(=自問)と「まとめる力」(=自答)の2つ、これらが地頭の正体を端的に表したものだと思います。特に後者が、OSのスペックを決める本質的な要素だといえます。
――その、まとめる力とは。
石田:別の言い方をすると、抽象化したり具体化したりする力ですね。ロジカルに物事を考える上で、必須の力です。特に大事なのが、抽象化することですね。抽象度を高めれば、全体像が見え、本質的な問題を認識・解決しやすくなります。マジックワードの話でいうと、「要するに?」を投げかけ続けることで鍛えることができます。
――抽象度が上がると問題解決につながるとは。
石田:あくまで単純化した例ですが、仮にAさんがチワワを飼っていて、近所で飼育について相談できる人を探すとします。
チワワにこだわっていると、近くで唯一同種を飼っているBさんしか目に入ってきません。それで少し抽象度を高めてチワワではなく「小型犬」として考えると、トイプードルを飼っているCさんが対象に入ってきます。さらに抽象度を高めると、今度は小型犬から「犬」となり、ゴールデンレトリバーを飼っているDさんも対象に入ります。
――視野が広がり、解決に近づくと。それで答えが見えにくければ、また少し具体度を高めたりすればいいわけですね。
石田:ちなみに、抽象度が高まると些細(ささい)な争いが減っていきます。チワワという枠の中だけで考えていると具体的な差異が目に入り、「どっちがかわいいか」などと比べがちですよね。小型犬や犬が対象範囲になった時点で、そうした比較は生じにくくなります。
学校などで起きるイジメや差別についても、同様のことが言えます。子どもは抽象化して考えることに慣れていないので、どうしても具体的な差異に目が向きやすくなるんです。
本質的には変わらないにもかかわらず、です。
――なるほど。大人の世界でも、争いや差別の多くは、本質的には無益かもしれませんね。
石田:そうかもしれませんね。話は変わりますが、個人的には自転車に乗れるようになるのが早い子と遅い子の差も、抽象と具体を結びつける地頭の働きによるものだと思っています。前者は「自転車で走る」という抽象度の高いゴールと、「サドルにまたがる」「左足でこぐ」「右足でこぐ」といった具体的動作が頭の中で結びつく一方、後者は一つ一つの動きをバラバラに認識するのではないかと。
――地頭は、素早くコツをつかむ要領のよさみたいなところもありそうですね。
石田:そうともいえますね。複数の具体的事象から共通項などを見出して、抽象度が高い次元で「まとめて」考える力ですから。
地頭がいいハイパフォーマーは、よく「遊び」よく「観る」
――教育のほか経営にも携わる中で、大人でも地頭のよさが際立つ人を見ているのではないでしょうか。
石田:そうですね。私が仕事や趣味などで接する優れた経営者やその他のリーダーたちは、他業界からヒントを得てイノベーションを起こす人が多いですね。
――自分の業界と他業界を抽象化して共通点を見出し、応用していると。
石田:はい。学問やビジネスにおける過去の偉人たちも、思いもよらないところから着想を得て、革新を生んだりしていますよね。そうした応用は、抽象度の高い思考から生まれるものです。
先ほど仕事や趣味といいましたが、私が知っている賢い人たちは、趣味つまり「遊び」にもすごく熱心です。それこそ、業界の枠を越えて遊んでいますね。そこで得たものをビジネスに応用して、ハイパフォーマンスにつなげているようです。
一般には、仕事と趣味の「両立」という表現をよく聞きますよね。ただ両立という言葉が出てくるのは、抽象度の高い思考ができておらず、双方が完全に別物扱いになっているからではないか、と思います。
――石田さん自身はどんな趣味を。
石田:幸運にも著名なシンガーソングライターのバックコーラスに参加させてもらっています。そこで共に歌うコーラス仲間には上場企業の創業者をはじめ、経営者が数多くいるんです。彼らの視点の鋭さなどに刺激を受けるのはもちろんですが、コーラスに注ぐ熱量のすごさも印象的です。
――趣味にも本気で取り組む。いわゆるハイパフォーマー、ここでいう地頭がいい人たちに共通することでしょうかね。他にはどんな共通点を感じますか。
石田:旅行などに一緒に行くと、すごく「観ている」ことにいつも驚かされます。
――「見る」ではなく「観る」。観察するということでしょうか。
石田:ええ。彼らは皆、変わったデザインの造形物などを見かけるとすぐに歩み寄っていき、「なんでこういう形なんだろう」などと自問を始めたりします。
――先ほど出た自動的に自問自答する習性ですね。
石田:その通りです。あとは、レストランなどで「この料理にはどんな食材を使っているの」などと店の人にたずねたりとか。観察して、問いかけて、時にアクションを起こすことで強い記憶にすることも、彼らの特徴ですね。
そうやって多分野の情報をサンプルとして集めて、共通項を見出し、時に自身の経営に生かす。帰納や演繹(えんえき)を絶えず繰り返している感じです。
OSにAndroidやiOSがあるように、地頭にも「種類」あり。それを知るために違う世界をのぞき込む
――石田さんは著書などで、今後はこれまで以上に地頭の力が求められる、と主張されています。なぜでしょうか。
石田:AI(人工知能)のような技術革新もありますし、新型コロナウイルスの影響などで企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)も加速しています。かつてないほど変化の激しい時代です。
例えば江戸から明治に時代が移る中、草鞋(ぞうり)を作っていた職人の一部は靴作りを覚えて商売を続け、それができなかった職人の多くは淘汰(とうた)されました。
求められるスキルや知識、つまりこの「地頭=OS論」でいうアプリは、今後次々と変わる可能性があります。なので、それらをインストールするための素地となるOSを高レベルに保っておくことは、大事なのではないかと思っています。
そうすれば、どこでも、どのような時代でも生き抜いていけるはずですから。
――既に地頭を鍛える方法の紹介がありました。他方で外資就活ドットコムやLiigaのユーザーは、その多くがある程度地頭がいいとされる若者たちです。そうしたユーザーが少し前に話に出たトップ層の経営者やビジネスパーソンに近づく、もしくは追い越すための助言はありますか。
石田:努めて、自分の知らない世界をのぞくことですね。それも、自分が属する世界から遠ければ遠いほどいい。趣味でもいいですし、日常のちょっとした心がけでもいいと思っています。例えば、普段男性とばかり話している人は女性と話すようにする、若者とばかり話している人は年配者と話すようにするとか、その程度のことでもいいんです。
――違う世界との共通項からビジネスのヒントなどを得るためでしょうか。
石田:それもありますが、ここで強調したいのは違った種類のOSを知ることの大切さです。私の考える地頭、すなわちOSには、これまで話してきた通りスペックの違いがありますが、同時に種類というものもあります。例えばAndroidとiOSが違うように、ビジネス系の地頭とアート系の地頭では構造や働き方が異なります。
ビジネス、アート、プログラミングなど異なる専門性を持つ人たちが協調してイノベーションを生む時代なので、違う種類のOSを知ること、共感することはとても大事だと思います。
繰り返しになりますが、些細な心がけでもいいんです。身近な例を付け加えると、帰宅の際にいつもと違うルートを選ぶとかですね。いわゆるルーティンから外れることで、違う世界を垣間見るきっかけになるはずです。
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