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地頭がいい人は物事の捉え方が全然違った――。そう語るのは東京大学経済学部の4年生で、『「考える技術」と「地頭力」がいっきに身につく 東大思考』(東洋経済新報社)の著者・西岡壱誠さん。
西岡さんは偏差値35から東京大学を目指し受験したが、2度不合格に。そこで東大に合格した人の勉強法を徹底的に分析し、まねしたことで、3度目にして合格に至った。東大に合格した人の際立った特徴は、暗記力や計算力が優れていることよりも、物事の捉え方が他の人とは全く異なるという点にあったという。
特集「『地頭がいい』とは何か」第3回は、西岡さんの経験から「地頭」という言葉の本質的な意味や、地頭を鍛える方法を探る。【南部香織】
1. 二次試験は“丸暗記”では歯が立たず。「このやり方ではいけない」と気づいた
2. 東大生は「目がいい」。同じものを見ていても得る情報量が多い
3. 「地頭がいい」は思考が深いこと。「頭がいい」は頭の回転が速いこと
4. 地頭力は会得できる「技術」だ。実践しながら本質を理解してほしい
二次試験は“丸暗記”では歯が立たず。「このやり方ではいけない」と気づいた
――偏差値35から、なぜ東大合格を目指そうと思ったのですか。
西岡:元々いじめられっ子で、勉強にしてもスポーツにしても常に中途半端。1度失敗するとすぐに諦めるような人間だったんです。
それを見ていた高校の担任の先生が、「西岡は自分の限界をすごく低く設定しているから身動きがとれなくて苦しいんだよ。一度その線を越えるために、ものすごく高い目標をつくったらどうか。 東大を目指してみては」と言ってくれたんです。
――とはいえ最初はどんなふうに勉強を始めたらいいか、分からなかったのでは。
西岡:はい。最初は1科目だけすごく頑張って、その成功体験を他の科目にも適用しようとしたんです。僕の場合は地理から始めたんですが、うまくいかなかったですね。
――具体的にはどんな勉強の仕方を。
西岡:いわゆる丸暗記です。勉強方法が分からないので、とりあえず片っ端から覚えていくというやり方をしました。それ自体は決して悪いことではなくて、実際にセンター試験では東大受験に必要な点数は取ることができました。ただ、二次試験は全く歯が立たなかったですね。
それを2回やって、ようやくふに落ちたんです。あ、俺ってバカなんだ、このやり方ではいけないんだって。それで東大に合格した人や、学習塾で成績がいい人に勉強方法を聞くことにしたんです。
東大生は「目がいい」。同じものを見ていても得る情報量が多い
――その方々の勉強方法はそれまでのご自身のやり方と、具体的にどう違いましたか。
西岡:勉強方法というより、物事の捉え方が全然違いました。一言でいうと、目がいい。
――「目がいい」とは。
西岡:どういうことかというと、同じものを見ていても得ている情報の量が違う。見ている景色の解像度が高いと言ったらいいでしょうか。
例えば、日本で売られているカボチャは日本産の他に、ニュージーランド産とメキシコ産があります。この2カ国でほぼまかなわれているんです。なぜだと思いますか。こういった問題は東大の入試にも出るんです。
――価格の問題などでしょうか……。
西岡:1年中食べるからです。カボチャは暖かい季節に育つので、1年中食べるためには、日本と季節が逆のニュージーランドから輸入しないと足りなくなってしまいます。メキシコは赤道直下の国ですから、年中暖かく、気候の変動が小さい。日本とニュージーランドが生産時期でないときはメキシコ産で補うわけです。
東大に2度落ちるまでの僕だったらカボチャの生産地を見ても、「ふうん、そうなんだ」で終わっていました。しかし東大生は、「なぜその国なのか」と考えて、他の情報と結び付けたり、違う視点から見たりして、思考を深めていたんです。
――カボチャを見ただけでも、そこまで思考している。
西岡:そうです。英単語を覚えるときも、同様です。例えば“term”という単語。これにはいろんな意味があります。第1ターム、第2タームといった期間を表す意味もあれば、専門用語という意味でテクニカルタームという言葉として使われるときもあります。それから、人同士の関係という意味もあります。
たくさんの意味があるので、覚えるのが大変そうに感じませんか。でもtermというのは「範囲の限定」というのが元々の意味なんです。第1タームは期間の範囲を限定しているし、テクニカルタームはこの範囲でしか使われない用語ということ。人同士の間柄を恋人や友達といったものに限定するから関係という意味もあるんです。
「全く違うように見える意味があるけれど元々の意味はなんだろう」という観点があって、すべてそこから派生していると分かれば、覚えるのは簡単です。それどころか、意味が分からなくても文脈から推測ができます。
――ただ暗記をするのではなく、「多義的であることには理由があるんじゃないか」と考えると。
西岡:はい。数学も同じです。数学は僕にとって当初は暗記科目でした。公式をたくさん覚えないといけないから。でも東大に入った友人に聞いたら、数学なんて覚えることは1つしかないよ、って言うんです。
例えば三角関数だったら、その概念さえ理解していれば、公式を丸覚えしていなくても、その場で思い出せるからです。
「地頭がいい」は思考が深いこと。「頭がいい」は頭の回転が速いこと
――西岡さんはそういったものの考え方を「地頭がいい」と考えているのでしょうか。
西岡:そうですね。僕は「地頭がいい」というのは思考が深いことだと思っています。1つの問題に対して、簡単に答えを出さない。
例えば、あるお店の売り上げが落ちているとして、その理由を考えたときにパッと思いつくのは、客足が遠のいたことだと思うんです。
だけど、それを簡単に答えとしないで、じゃあなぜ客足が遠のいたのか、時期をさかのぼって比較することもできるでしょう。そもそも本当に客足が遠のいたのかを考えることもできる。お客さんの数自体は増えていて、1人でたくさん買ってくれる上客が減ったのかもしれないといった答えもありえますよね。
――いろんな角度から見る力ということでしょうか。
西岡:はい。そしてさらにそれを深く掘り下げられる力ということだと考えています。
1つの事象に対して、簡単に思いつく答えで思考をとどめない。分かった気にならないで、問い続けられるということだと思います。
――単に「頭がいい」とは何が違うと思いますか。
西岡:やはり思考が深いかどうかですね。
僕の使い分け方としては、いわゆる頭の回転が速いと表現されるような場合は「頭がいい」。判断が速かったり、自分の考えをまとめるのが速かったりする場合です。暗記するのが速いのもこれに該当します。
――「地頭がいい」は深さで、「頭がいい」は速さ。
西岡:そうです。もちろん両方兼ね備えている人もいます。ただ、頭はいいけど、思考が深くない人もいると思っています。
地頭力は会得できる「技術」だ。実践しながら本質を理解してほしい
――3つの著書名の中に「読書」「作文」「思考」という言葉が出てきますが、それらは「地頭力」とどういう関係ですか。
西岡:読書と作文は「具体」であり「実践」で、思考は地頭力の土台となる「抽象」であり「本質」という関係です。
最初に地頭力の概念を理解したとして、それをうまく実生活で使えるかどうかは、また別の話じゃないですか。
――確かに、すぐに使いこなすのは難しそうです。
西岡:例えばテニスでも、ラケットをこう振ればこういう理屈でうまくいくと頭では分かっていたとしても、結局やってみないと身に付けられないと思います。
地頭力も、読んだり書いたりする実践から始めたほうが受け入れられやすいのではと考えて、『東大読書』『東大作文』『東大思考』の順番で出版しました。
――実践から始めて、本質を理解するということですね。
西岡:はい。でも、先ほどのテニスの例でいうと、試合に出て体を動かしているときに、「そうか、だからこのフォームがいいんだ」と突如理解することもある。
それと同じで、具体的に実践していくと同時に、抽象的なものが分かることもあるでしょう。だから必ずしも、順番にこだわっているわけではないです。
――つまり、地頭力は後から身に付けられるということでしょうか。
西岡:「地頭」と聞くと、先天的な能力というイメージがあると思うんです。それこそ東大に入るような人は元から頭がいいと思われている。
もちろんそういう人もいると思いますが、ではこの能力を後天的に身に付けられないかといったらそんなことはない。「技術」として会得できるということは言いたかった。僕も最初は分からなかったけど、できましたから。
――では地頭を鍛えたいという人に、今すぐ実践できるアドバイスはありますか。
西岡:まずは日常生活で100個、問いを作ってください。
例えば、牛乳を東京で買うと神奈川や栃木、茨城産のことが多いんです。それはなぜなのか。それから、コンビニが2軒並んでいたり、道を挟んで両側にあるなんてことがありますよね。それはなぜなのか。
実はやろうと思えばいくらでも問いはつくれるんです。そういったところから思考を深めていくといいのではないかと思います。
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