こんにちは、ライターの野原うさぎです。
「あなたよりすごいヒト、紹介してください」シリーズの第五弾は、九州大学大学院の古澤美典さん。ロボットに魅せられ、日本を飛び出し世界で挑戦する彼女が、常に新しいチャレンジを続けられる動力源に迫りました。
自分の将来の夢が見つからない、夢はあるけど一歩踏み出す勇気がない、という方に贈るインタビュー記事です。
目次
ロボットに魅せられて、世界へ
――「ロボコンに青春をかけた”ロボジョ”がいる!」という噂を聞きつけ、編集部からコンタクト。やっと古澤さんにインタビューが叶いました。九州大学の修士課程在籍中とのことですが、活動の内容を教えてください。
専攻としては文系と理系の間、人間がデザインに対してどういった感情を持つのか、ブランドを認知するとはどんな事象なのか・・・といったことを科学的にアプローチする、認知心理学のような分野です。
私はその学部のなかで「ロボット」、とりわけ「ロボコン」に情熱を傾け、それらが社会全体や、技術の発展に与える影響について研究しています。
学外でも、“ものづくり”をキーワードに様々な活動をしており、そちらのほうが私がやっていることとしてはイメージが付きやすいかも知れません。
(1)国際ロボコン「ROMBOMASTER」ベスト16進出

ROBOMASTER 2018出場時のチームメンバー。試合会場全体がライトアップされ、”カッコイイ”雰囲気だ
「エンジニアは世界一かっこいい」という信念のもと、中国のDJI(商用ドローン業界最大手、その世界シェアは70%以上といわれている)という企業が主催して行われているのが、「ROBOMASTER(ロボマスター)」というエンターテイメントロボットバトル。
複数台のロボットを用意し、相手チームと対決。自陣を守りながら相手チームのロボットを討つという、基本ルールは明快な対戦ゲームです。
2018年に、Fukuoka Niwakaという社会人チームの結成に加わり、中国・深センで行われた世界大会に出場。昨年は初出場ながら、国際リーグ準優勝。さらに本戦ではBEST16まで勝ち上がることができました!(出場全200チーム中)
(2)LEGO MINDSTORMS LEGO MINDSTORMS キット監修・開発

古澤さんが監修した「書く♪ 描く♪ 楽しい! ロボライター」
「LEGO® MINDSTORMS®(教育版レゴ® マインドストーム®)」は、基本セットに入った全541個のパーツの組み合わせとプログラミングによって自由にロボットが作れるキットです。
この製品の日本正規輸入代理店であり、普及活動にも取り組んでいらっしゃる株式会社アフレルさんにお声掛けいただき、このキットを使った子ども向けのキット「書く♪ 描く♪ 楽しい! ロボライター」を監修・プロデュースさせていただきました。
イラストの手前にあるペンを使い、絵や文字を書くことができるロボットで、「座標」「ベクトル」といった概念を楽しみながら学べるのが特徴です。実は座標やベクトルという考え方は、身の回りの家電などでも応用されているのですが、実際にロボットキットを組み立て、プログラミングすることで親しみながら学べるよう工夫しました。
限られたパーツで、実力のある子でも手応えを感じてくれる適度な難しさを実現しなければいけないという難易度の高いお題でもありました。しかし、自分自身も高校時代にMINDSTORMSを使ってロボットを作っていたこともありましたし、このような形で再び関わることができたのは大変うれしかったです。
(3)「ものらぼ工房」オーナー
大学の近くに、高齢化に伴い空き家が生じている地域があると聞き、何か自分の経験と知識を生かして地域に貢献することはできないかと考えました。そこで、“誰でも使えるものづくりスペース”として活用することを発案し、「ものらぼ工房」をオープン。オーナーに就任しました。
大学生の手だけで床や壁の全面リフォームも実施。5〜6名のメンバーをまとめながら、3カ月かけた改装工事はとてもいい経験になりました。今では同じ九州大学の学生だけではなく、地域の住民のみなさんに開放したり、ワークショップを開催したりしています。
――興味深いエピソードばかりですね。まずは国際的なロボコン、「ROBOMASTER」の大会について詳しく聞かせてください。中国深センで行われた世界大会に日本チームとして初めて出場されたということですね。
私たち「Fukuoka Niwaka」は、唯一の日本チームです。結果としては初出場ながら全200チーム中BEST16まで勝ち上がることができ、日本の代表として現地に爪痕を残してこれたと思っています。
また、大会期間中には自分たちの戦績以外でも多くの発見がありました。
特に、現地中国の学生の能力と熱意には圧倒されるばかり。日本ではまだ中国のものづくりを正当に評価できていない人が多いかもしれませんが、彼らはすでに「模倣」の域を出て「創造」の集団に変化しています。
それを象徴するように、競技を安全かつ効率的に進行するためのジャッジシステムがオリジナルで開発されているなど、日本のロボコンよりも技術・投資の両面ともに数段進んでいるという印象を受けました。
また、民間企業であるドローン最大手のDJIが主催しているのも大きな特徴。この大会で好成績を残すとDJIをはじめとする中国企業への就職の糸口になる他、大学の単位として認められるなど、優秀なエンジニアを育成・採用することに国中のテクノロジー系企業が一丸となって注力しているのが印象的でした。
日本の大会でも、企業協賛はよくありますが、優勝したらその会社にスカウトされる・・・といった話は、あまり聞いたことがありませんから、中国がどれだけ貪欲に技術者を育成・確保しに動いているかということですね。
それでも、日本を代表して出場した私たちが簡単に負けるわけにはいきません。初出場、しかも外国から来たチームということで初戦ではナメてかかられていた私たちも、勝ち進むうちにだんだんと周囲から認めてもらえるようになっていきました。
実はこの大会は私にとって初めてとなる2週間の海外滞在だったのですが、つたない英語や中国語でも、技術者同士でコミュニケーションをするのは刺激的。時には翻訳アプリなども活用しながら、ロボットに対する意見や感想を交換し、時には助け合いながら、魔法のような時間を過ごすことができました。
ものづくりの道に進むきっかけは、中学3年生で味わった初めての「挫折」
――そもそも、なぜ古澤さんは「ロボット」にここまで魅せられたのでしょうか。大学に入ってからロボコンに出会ったのですか?
ひらがなを習う前、2歳ごろからパソコンを触り始めていました。家中のリモコンを分解して遊ぶ幼稚園児だったそうで、ものづくりへの興味関心はこの頃からあったのだと思います。
当時にしては珍しく、母がプログラムを書ける人だったのでその影響もあったように思います。特に直接プログラミングを習う時間があったわけではありませんが、自由にパソコンを使いながら、分からないことは母に質問して解決していましたね。
その後、中学では吹奏楽部で取り組んでいたサックスに熱中、ロボットやものづくりからは離れることになります。しかし、高校受験に失敗してしまって・・・。その志望校は県内随一の進学校だったため一生懸命に勉強していましたし、その学校の吹奏楽部に入って文武両道の高校生活を夢見ていた当時の私は、人生初の挫折にとても落ち込み、半ばやけくそになっていました。
この経験から、人生が計画通りにいかないと悟った私は、どうせだったら今まで思い描いていたものとは全く違う高校3年間を過ごしてみようと、高校で選んだ部活は吹奏楽ではなく「マルチメディア部」。ゲーム制作やラジコン競技、無線、ボーカロイドなど「機械・電気情報・ものづくり系の活動であれば、好きなことをやってOK」という、緩くも濃い場所に出会うことになります。
その部室で、たまたまホコリを被ったロボットを発見。何代か前までロボット競技で全国大会に出るような先輩もいたそうなのですが、その後は希望者がおらずに忘れ去られていたのです。それをきっかけに、再度ものづくりの道に目覚め、次第にロボット競技にハマっていきました。
大学もロボットについて学べる学部に進学し、大学のロボコンチームに所属。ますますこの世界に没頭していくことになります。

古澤さんは、メカニック兼ロボットのオペレーター(操縦者)として活躍。写真は、試合に出場するロボットの通信やモーターに異常がないか、最終チェックしているところ
――なぜ、次々に新しいチャレンジができるのですか? 機会に恵まれず、夢があってもなかなか飛び込めないという学生もいるので、何かアドバイスがあればお願いします。
チャンスやきっかけというのは、どこにでもあるようで、だからこそつかむのが難しいのだと思います。私はたまたま良いご縁に恵まれて運が良いとは思いますが、自分からも積極的にアクションするようにしています。
例えば、先ほど紹介したLEGO MINDSTORMSの監修については、学部2年生の時にたまたまアフレルさんとご一緒する機会があり、「MINDSTORMSに関するプログラムで、何かご一緒できたらうれしいです!」と積極的にアピールしたことがきっかけ。
今注力しているROBOMASTERも、Twitterでチームの活動を見つけて、自分から参加したい旨を連絡。メンバーとしてジョインするに至ったという経緯があります。
――失礼ながら、良いお話が一方的に舞い込んでくるラッキーガールなのかと思っていましたが・・・実際にお話を聞くと、自分で営業して“仕事”を取りに行っている。戦略家なんですね。
生来の目立ちたがり屋ということもあり、「個人の名前を売るにはどうしたらいいか?」ということは常に意識しています。
ロボコンの活動だけでは、チーム名は有名になっても自分の名前は覚えてもらえません。平行して個人の活動もやっていかなければなりません。最近では少しずつその成果が実り始め、講演会やワークショップのご依頼も増えており、うれしい限りです。
今はSNSなどで面白そうな情報を見つけたら世界のどこからでも繋がれる時代。ちょっとしたきっかけで新しい世界が開ける可能性があります。
「自分のことに誰か気づいてくれないかな・・・?」と、受け身で待っていても、誰も声を掛けてはくれません。自分の活動を発信したり、興味関心を表明したりするのは非常に大切です。自分から動いた人にチャンスが訪れるというのは、私のような研究活動だけではなく、就職や進学にも通じることですよね。
また、インターネットの発達によって情報を手に入れるのが簡単になった反面、情報が過ぎ去っていくのも一瞬です。「チャンスの神様には前髪しかない!」そんな精神で、思い立ったらすぐその前髪をつかむ。これが私の基本姿勢です。
自分にしかできない、「ものづくり×伝える」活動をしたい
――そういったチャンスをつかむため、普段から心がけていることはありますか?
意識的にしているのは、人とつながること、休みの日を作ること、の二つです。
まず、人とつながるといっても、特段難しいことはしません。名刺交換のあとはお礼のメールを送るとか、相手にとって価値ある話ができるよう普段から自分の知識や技術を磨いておくとか、当たり前のことをやっているだけです。
また、研究に没頭すると周りが見えなくなり、寝食をおろそかにしてしまうタイプの私は、定期的に「休みの日」を設けるようにしています。心身を休めて健康を維持するという側面もありますが、面白そう! と思えることが見つかった時に、フットワーク軽く動けるよう、常に自分の予定にバッファを用意しているんです。
どんな人でも時間的・精神的な余裕がないと、新しいチャレンジができなくなってしまいます。授業やバイトに就活が重なって忙しい方も多いと思いますが、そんな時こそゆっくりお風呂につかって、リラックスする時間も大切です。

本選前、国際リーグ突破時の古澤さん
――新しいことをするには想像以上にエネルギーが必要だと思うので、自分の心や体に余裕が必要だ、と私も思います。このように、挑戦をし続ける今後の古澤さんの目標を教えてください。
ROBOMASTER 2019で優勝!
なんといっても、Fukuoka NiwakaチームのメンバーでROBOMASTERで1位をとること。国外の大会ということで、部品の調達方法や会場の様子など現地にいってみないと分からないことも多く、昨年は苦労しました。しかし、もう前回大会時にきちんと情報収集をしてきましたから、来年は初優勝を狙いたいですし、できると確信しています。
ものづくりを「伝える」活動
同時に、ものづくりの楽しさ、科学の奥深さを皆さんに伝える活動をより拡大したいと思っています。もともと、人前でしゃべることや文章を書くことは得意だったのですが、最近では一般向けのワークショップや講演で一般の方に科学やものづくりの楽しさを伝えることが叶い始めています。
同時に、今年度よりFukuoka Niwakaの広報にも就任。広く私たちの活動をお伝えすることで、日本国内でたくさんのロボコンチームが立ち上がり、一緒にROBOMASTERにエントリーできる日を心待ちにしています。
より未来の話だと、現在は研究者を志望していますが、実際には会社で働いているかもしれないし、起業しているかもしれない。その時の自分の好奇心が赴くままに進路を決めていきたいと思っています。
しかし、これまでの活動を通して、先ほど「情報を発信する」「ものづくりを伝える」というのを軸にするという想いは固まってきました。
研究者や技術者は、良い技術を持っているのに情報発信が苦手でその凄さが伝わらず、もったいないということが多いのです。技術と発信、両軸で経験のある私が、そんな方々の助けになり、より多くの人に「伝える」というポジションを開拓していけたら・・・そんな風に思っています。
――最後に、外資就活ドットコムを使っている就活生に伝えたいことはありますか?
私も皆さんと同じように将来への不安はあります。特に現在の日本では博士課程やポスドクが研究だけで生活していくには厳しい状況にあり、修士課程卒業以降の身の振り方に迷うこともあります。
しかし、先ほどお話したように積極的に自分を売り込んでいけば、監修の仕事などでお金を得ながら研究者を続けるという選択肢もあるのではないかと思えるようになってきました。
それもすべて、自分から動いてチャンスをものにしてきたから。積極的に行動することで、状況は好転していくと思います。まずは自分から手を挙げること、そこから始めてみてはいかがでしょうか。
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