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外資系のトップ企業を目指す学生の間で、屈指の人気を誇るコンサルティングファーム「マッキンゼー・アンド・カンパニー」。東大大学院出身の石井てる美さんは、最難関の採用試験を突破して戦略コンサルタントとして働き始めたものの、1年4カ月で退社し、お笑い芸人に転身したという異色の経歴の持ち主です。
昨年のアメリカ大統領選の時期には、ヒラリー・クリントン候補のモノマネで話題になりました。「マッキンゼーで学んだことが今の仕事にも生きている」という石井さん。学生時代の就活体験とマッキンゼーに向いている人の分析、外資系を目指す就活生へのアドバイスを話してもらいました。(取材・構成:亀松太郎、撮影:橋本美花)
「ダメ元で受けたら、受かってしまった」
――マッキンゼーには2008年に入社したということですが、ものすごい難関だったのではないでしょうか?
石井:ダメ元で世紀のモテ男、たとえばキムタクさんに告白したら、意外にもOKがもらえたという感じですね(笑)。マッキンゼーという会社は、学部時代のサークルの先輩が行ったので、そこで知ったんですが、東大の中でも異次元の扱いをされているという印象はありました。ただ、なにがなんでも行きたかったというわけではなく、周りと同じように受けてみたという感じ。外資系のコンサルって選考時期が早いので、練習がてら受ける人も多いですよね。
――他のコンサルティング会社も受けたんでしょうか。
石井:受けましたが、内定をもらったのはマッキンゼーだけです。ボスコンなんか、筆記試験で落ちていますよ。
――コンサルの仕事に興味を持ったきっかけは、なんでしょう?
石井:私は東大の文科3類に入ったんですが、途中で理系に転向して、工学部の社会基盤学科に進みました。大学院の修士課程まで行きましたが、自分は専門性がないと思ったんですね。法律や経済に詳しいわけでもないし、構造計算やプログラミングができるわけでもない。
一方で、私は英語の勉強や海外へ行って異文化の人と交流することが好きでした。大学院1年のときにはアジア開発銀行のインターンシップでフィリピンに行きました。そこでリサーチをやったんですが、自分で仮説を立ててそれを検証するために、資料を読んだり人にインタビューをしたりしながら情報を集めて整理していく。そのとき「コンサルタントのやっていることって、こういうことなのかも」と思い、「私にもできるんじゃないか」と考えたんですね。
――インターンの経験が大きかったんですね。他の業種は志望していなかったんでしょうか?
石井:総合商社や海運会社も興味がありましたね。私の就活の軸は3つあって、(1)自分が成長できる(2)国際的に活躍できる(3)世の中に貢献できる、というものでした。この3つにあてはまり、さらに学生の間で人気企業だったのが、総合商社や外資コンサルだったんですね。
就活を始めたときは、どちらかといえば、コンサルよりも総合商社のほうが志望度は上でした。でも結局、早い段階でマッキンゼーの内定が出たので、他は受けるのをやめました。
面接官の名前を覚える「裏技」で選考突破
――就職活動はいつから始めたんでしょうか?
石井:修士1年の冬ですね。12月までフィリピンでのインターンに行っていたので、少し遅れたスタートでした。でも「夏からスタートしている他の人たちよりも、自分はよほど貴重な経験をしているぞ」という自負はありましたね。1月から本格的に就活を始めましたが、2月か3月にマッキンゼーの内定が出たので、すぐに終わりました。
――他の人に比べると、随分と短い就活だったんですね。
石井:そうですね。あっという間でした。でも、就活で苦労しなかった分、入社してから大変な目にあいました。人生はよくできているものだと思います(笑)。
――マッキンゼーの選考過程について、具体的に教えてもらえますか?
石井:まず、エントリーの後に、マーク式・記述式の2種類の筆記試験がありました。記述式では、「小学校で学級崩壊が起こっています。あなたならどうしますか?」という問題などが出ました。樹形図を書いて問題を分解し、どこにテコ入れするか、どう解決したらいいかを解答しました。
続いて、採用担当者による簡単な面接があり、志望動機などを確認されました。面接に出てきたのは、その後『採用基準』という本がベストセラーになった伊賀泰代さんでしたね。
それをクリアすると、次はコンサルタントによる面接を受けました。いわゆる「ケース面接」ですね。最近は違うようですが、私のときはシンプルなフェルミ推定でした。「A社の一年の新車販売台数は何台だと思う?」「美容院の売上を上げるにはどうしたらいい?」といった問題が出ました。
――ケース面接の対策はしていたんですか?
石井:フェルミ推定の有名な本に少し目を通したくらいですね。出る問題と解答の仕方を確認しました。ケース面接では、正しい数字を出すことが求められているのではなく、思考のプロセスやコミュニケーションの仕方を見られているんだなと思いました。面接官に厳しく詰められても、諦めずに思考を前に進める力があるか、間違いは素直に認め協力的に問題解決を進められるかどうか。解がないのがビジネスの世界なので、答えが思いつかない状況でどう対応するかが大事なんだろうと考えて、面接に臨みました。
――面接の手応えはありましたか。
石井:正直、マッキンゼーに受かるはずないと思っていたので、最後に「いい経験になりました。ありがとうございました」と言って部屋を出たんですよ(笑)。でも、今ふりかえってみると、筋は通っていたかなと思います。
志望動機を話すときも、裏付けとなる経験をしっかり話しました。「私は頭の回転は速くないですが、人と違うアイデアを出すのは得意です」と言うと、「具体的に何かやったことはありますか?」と聞かれたので、高校時代の文化祭の実行委員長の経験まで引っ張り出したり。質問に答えられなくて困るということはなかったですね。
一つ、テクニック的なことをあげると、面接官の名前を覚えるようにしていました。これは海外インターンで学んだ教訓です。アメリカ人のインターン生がセミナーの終わりに「Thank you Mr.誰々」と相手の名前をちゃんと言っていて、素敵だなと思ったんです。マッキンゼーの面接では、冒頭で面接官が自己紹介をして、志望動機やケース問題などで1時間ほど経ったころ、相手の面接官の名前を出してみたんですが、相手の意表をついたんじゃないかな、と。
コンサルタントはお客さんあっての仕事なので、そういうコミュニケーションのスキルも大事だと思うんですよね。
マッキンゼーに受かりやすい人の特徴とは?
――実際にマッキンゼーに入ってみて、「こういう人が受かりやすい」というポイントはあるでしょうか?
石井:マッキンゼーにいるのは、自分の意見をちゃんと持っている人ですね。そして、自分の意見を通すために、ちゃんと主張できる人。もちろん周りとの調和も大事にしながらです。もっと言うと、等身大の自分をさらして勝負できる人が受かりやすい、と言えるかもしれません。
あと、マッキンゼーの特徴としてよく言われることですが、リーダーシップですね。リーダーシップがある人しかいない(笑)。みんな、それぞれのコミュニティでリーダーをやってきた人ばかりでした。マッキンゼーでチームを組むと、全員がリーダー経験があるので、統率を取りやすいと言われますね。
――これもよく聞くのですが、マッキンゼーは「地頭がいい人」ばかりでしたか?
石井:地頭がいいことは最低条件かもしれません。でも、それだけでは足りず、「地頭×何か」ですかね。さきほど述べたコミュニケーション能力やリーダーシップなどですね。私の場合は「頭の回転は速くないです」と告白していましたが、面接官にこう言われたのを覚えています。「コンサルタントは『明日、宇宙にロケットを飛ばせ』といった無理難題を解くわけではない」と。
私は、大人になってからの「頭の良さ」とは、いろいろなことに興味を持てる力じゃないかなと思っています。コンサルタントは数カ月ごとに取り組むプロジェクトが変わるので、その都度、異なる分野に詳しくならないといけない。新しいことを抵抗なく吸収できる人が向いている仕事だと思います。
最初は激務でも、仕事が楽しかったが・・・
――実際にマッキンゼーに入社した後は、どのような業務を担当したのでしょうか。
石井:コンサルティングファームでは、チームを組んでプロジェクトを進めます。一番上にパートナーという、たまに来て意見をいう人がいて、その下にチームを率いる中間管理職のマネージャーがいます。さらに、その下にアソシエイトとビジネスアナリスト。私は新卒社員だったので、一番下のビジネスアナリストでした。
最初に担当したのは、航空会社のプロジェクトです。「格安航空にどう対抗するべきか」という課題に対する戦略を考えました。たとえば、どの都市と都市の間をどれだけ飛行機が飛んでいるのか、調べないといけない。私はその地図などを作る役割で、パワーポイントで資料を作っていました。自分が作った資料を見て、クライアントが喜んでくれたときは嬉しかったですね。
――コンサルタントの仕事は激務だと聞きますが・・・
石井:激務といえば激務でしたね。プロジェクトが忙しいときは、深夜2時に帰れたら早いほうでした。クライアントミーティングの前日などは、朝の4時や5時までかかって準備していたこともあります。でも、その時間までいるのを強制されているわけじゃないんです。入社したばかりで資料を早く仕上げる方法がつかめず、自分の担当箇所がなかなか終わらなかったので、仕方ないんですね。
朝は9時に出社して、ずっと資料作り。最初は余裕が無くて本当にお茶する時間もありませんでした。オーバーランチミーティングといって、お昼を食べながら話し合うこともありました。「石井さん、もっと早く食べないとダメだよ。早く食べるのもコンサルタントの仕事だよ」と上司に言われました。あるいは、資料作成しているときに、「石井さん、スピードが普通の人になってるよ」と言われたり。
とにかく毎日忙しくて、睡眠時間も短かったんですが、最初のころはやるべきことが見えていたので、それほど疲労感はありませんでした。仕事はすごく楽しかったです。
――ところが、途中から歯車が狂ってしまったんですよね。
石井:そうですね。いまから思えば、もっと肩の力を抜いて仕事に向き合えれば良かったんですが、1年目の私はそれができなかった。一緒にプロジェクトを担当することになったマネージャーとの相性が悪かったこともあるんですが、仕事で一つつまずくたびにすごく落ち込んでしまい、自分で自分を精神的に追い込んでしまいました。
――石井さんの著書『私がマッキンゼーを辞めた理由』には、そのときの苦しい体験が詳しく書かれていますね。精神的にボロボロになってしまい、食事が全然のどを通らなくなってしまったとか・・・
石井:入社2年目の4月には、本当に追い込まれていて、出社する途中で「車がひいてくれたらいいのに」と思ったほどです。しばらくして、辛かったプロジェクトから解放されて、少し冷静に考えられるようになったとき、こう思ったんですよね。
「生きるために仕事をしているのであって、仕事のために生きているわけじゃない。そもそも私の人生なのに、なにやりたいこともやらずに死にたくなっているんだろう、バカじゃないの」と。
「マッキンゼーに行ったからこそ、芸人になれた」
――それで、もともとやりたいと思っていた「お笑い芸人」の道にチャレンジしてみようと決めたんですね。結局、マッキンゼーは1年4カ月で退社されたわけですが、一番学んだことはなんでしょうか?
石井:「鈍感力」が一番大事だということです。言い換えると「忘れる力」。「ミスしたけど仕方ない次がんばろう」と笑い飛ばして次へと気持ちを切り替えられるメンタルが必要なんです。マッキンゼーにいたころの私は失敗するたびに落ち込んでいましたが、いま思えば無駄なことでした。
優秀な人ばかりに見えるマッキンゼーの同僚も、ふたを開けてみれば、みんな大変な思いをしているんですよね。失敗するのがいけないのではなく、それで落ち込んでしまって、立ち上がらないのがいけないんですね。失敗は成功に一歩近づいた証拠なんだから、落ち込む必要なんてないんです。
――マッキンゼーなどの外資系企業を目指す就活生に向けて、何かアドバイスはありますか。
石井:他人の軸ではなく、自分の軸を持つことですね。マッキンゼーは定期的に評価され、ある一定の期間内に昇進できなければ長くはいられない会社でした。いわゆる「Up or Out」の世界。でも、結果を残している人ほど、そんな評価に振り回されてない気がします。自分ありきでやっている。
私はマッキンゼーにいたとき、いつも「失敗しちゃいけない」と緊張していたんですが、すごく優秀な先輩に「なんでそんなに堂々と仕事できるんですか」と聞いたことがあります。すると、その先輩は「ここだけじゃないと思ってるからね」とさらっと言ったんです。他人の顔色をうかがったり、媚びたりするのではなく、自分の軸がしっかりとしている強さは、マッキンゼーのような組織で仕事をしていくうえで、とても重要だと思います。
――いまは「お笑い芸人」という全く違う仕事をしていますが、マッキンゼーの経験は生きているのでしょうか?
石井:マッキンゼーでの経験は、貴重な財産になっていると思いますね。世界最高峰の組織がどんなふうに仕事をしているのかを知ることができたのは、かけがえのない人生経験でした。お笑いの世界は「マッキンゼー」という名前を知らない人ばかりで、全く違う世界ですが、マッキンゼーで経験したことがさまざまな場面で役に立っています。
「自分の軸で生きなければダメだ」と振り切ることができたのも、マッキンゼーのおかげです。その意味では、私はマッキンゼーに行ったからこそ芸人になれた、とも言えるわけです。もし学生に戻れるなら、またマッキンゼーを受けると思います。
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