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以下は26卒で三井物産のインターンで優勝し、そのまま内定をいただいた私が、一緒に就職活動を進めていた友人と一緒に作り上げた、三井物産インターンシップ対策(新規事業案)です。本番同様、1テーマにつき3日間の準備期間を儲け、練り上げたものです。三井物産のインターンシップはお題ガチャと呼ばれるぐらいに、自身に割り当てられる事業部のビジネスの難易度がそのままインターンの難易度に反映されます。そのようなお題ガチャを限りなく排除するために過去のインターンシップで出題された問題及び想定問題に対し、全ての事業部を網羅する形で用意しました(資源、エネルギー系のみ)。三菱商事のケース面接とはちがい、三井物産はインターンなのでリサーチが可能です。徹底的な構造化と論点と仮説設計、及びリサーチによる検証力に差が出ます。
模範解答に使うでもよし、事業部のビジネスをさらに深く知るのでもよし、自由に読んでください。
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第0章:事業スキーム概要
MITSUI Clean Arc Malaysia ("Mi-CAM")は、マレーシア・サラワクの水力および太陽光発電を基盤とした完全再生可能エネルギー電力を活用し、大型電炉による脱炭素製鋼ハブを構築する三井物産主導の戦略的事業構想である。この事業は、インドネシア新首都ヌサンタラをはじめとするASEAN地域の急速に拡大する高級鋼材需要に対し、従来の高炉製鋼では実現困難な低炭素鋼材を安定供給することを目的としている。
0-1 なぜ今"Clean Arc"なのか
CO₂削減インパクトの論理的必然性
鉄鋼産業は世界のエネルギー起源CO₂排出量の約7パーセントを占める最大級の産業セクターであり、国際エネルギー機関は2050年までに50パーセント以上の削減を求めている。この削減要求の背景には、パリ協定の1.5度目標達成のために産業部門全体で年率4.2パーセントの排出削減が必要という科学的根拠がある。
従来の高炉-転炉法(BF-BOF)では、コークスを用いた還元反応により1トンの鋼材製造に対し約2.0-2.3トンのCO₂が発生する。これに対し、電炉法(EAF)では主原料をスクラップとすることで、製鋼プロセス自体のCO₂発生を大幅に抑制できる。スクラップ中心の電炉では排出原単位が0.58-0.65トン-CO₂/トン-鋼材まで削減され、さらに電力源を再生可能エネルギーに完全転換することで0.3トン以下への半減が実証されている。
この技術的優位性が今まさに経済合理性を持つ理由は、カーボンプライシングの本格導入にある。EU国境炭素調整メカニズム(CBAM)では、2026年から鋼材輸入に対し炭素含有量に応じた課金が開始される。1トン-CO₂あたり100ユーロと想定すると、高炉材と電炉材の間には最大170-200ユーロ(約220-260ドル)の競争力格差が生じる計算となる。
需要側構造変化の定量的分析
ASEAN地域における鋼材需要の構造変化は、二つの大きな要因によって加速している。第一に、インドネシア新首都ヌサンタラの建設プロジェクトである。インドネシア政府の公式計画によれば、2024年から2045年にかけて段階的に32万平方キロメートルの新都市が建設され、初期段階だけで950万トンの鋼材が必要となる。このうち平鋼・形鋼を中心とした構造用鋼材が全体の85パーセントを占め、品質要求の高さからインドネシア国内供給では対応困難とされている。
第二に、ASEAN全域での経済成長に伴う鋼材消費の拡大である。東南アジア鉄鋼工業会(SEAISI)の予測では、域内粗鋼消費は年率4パーセント台の成長を続け、2030年には2.1億トンに達する。この成長率は中国(1.5パーセント)、先進国(0.5パーセント以下)を大きく上回る水準である。
重要なのは、この需要増加が単なる量的拡大ではなく、質的転換を伴っている点である。建設・自動車・家電産業において、サプライチェーン全体での脱炭素化が取引条件となりつつあり、従来の安価な高炉材では調達要件を満たせなくなっている。
電力コスト優位性の構造的持続性
サラワク州の電力コスト優位性は、単なる一時的な価格差ではなく、地理的・政策的な構造要因に基づいている。同州はバクン・ムルムダムをはじめとする大型水力発電群で5.9ギガワットの安定電源を確保し、産業向け電力を0.06リンギット/キロワット時(約0.013ドル/キロワット時)で供給している。この価格は東南アジア最低水準であるだけでなく、中国沿岸部の工業用電力(0.08-0.12ドル/キロワット時)をも下回る。
さらに重要なのは、この価格優位性が持続可能である理由である。第一に、水力発電の燃料費はゼロであり、石炭・ガス価格の変動影響を受けない。第二に、マレーシア政府は2035年に再生可能エネルギー比率40パーセントを法定目標として掲げ、追加の太陽光発電所建設を推進している。これにより、昼間の太陽光と夜間・雨季の水力を組み合わせた24時間安定供給が可能となる。
電炉製鋼における電力費は製造コストの30-40パーセントを占めるため、この電力コスト優位性は直接的に製品競争力に転換される。1トンの鋼材製造に必要な約500キロワット時の電力において、サラワクと他地域の電力価格差は1トンあたり20-30ドルのコスト優位をもたらす計算となる。
三要素同時成立の希少性
脱炭素圧力、巨大需要、超廉価クリーン電力という三つの要素が同時に整った地域は、世界的に見ても極めて限定的である。北欧では廉価な再生可能エネルギーは豊富だが需要地から遠く、中東では安価エネルギーはあるが再生可能ではない。中国では需要は大きいが電力の脱炭素化が不十分である。サラワクは地理的にASEAN需要地に近接し、かつクリーンな電力を安価に供給できる世界でも稀有な立地条件を有している。
この認識から、三井物産にとって今がクリーン大型電炉ハブ着手の最適タイミングであるという戦略判断が導き出される。競合他社が同等の条件を整えるには、電力インフラの新規建設、政府との関係構築、需要家ネットワークの形成に最低でも5-7年を要するため、先行優位を確立できる可能性が高い。
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