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MAU(月間アクティブユーザー数)が2000万人を超える(*)など、人気ITサービスとして定着したフリマアプリ「メルカリ」。そのUX(ユーザー体験)設計で、データ分析の力を発揮しているのが新卒3年目の夏目航太さんだ。
学生時代、コンサルティングファームでデータ分析のインターンを経験しつつ、「もっとユーザーに向き合う仕事がしたい」と、メルカリを選んだ夏目さん。その狙い通り、同社ではユーザーインタビューなどデータ分析にとどまらない仕事を担い、ある意味PdM(プロダクトマネージャー)的な観点からUX改善に寄与する。
特集「データサイエンティストとは何者か」第1回では、そんな彼が関わる新規出品者増を目指したプロジェクトに触れつつ、人気サービスのUXに関わる若手データ分析人材の働きぶりに迫る。【藤崎竜介】
*メルカリのプレスリリースより
1. インターンでコンサルと事業会社のデータ分析を経験。米国留学ではPythonスキルを磨く
2. 時には小規模に実装してUX改善を促す、「PdM的」なデータ分析ポジション
3. データ分析チーム発の提案型プロジェクトが、7割近く
4. 過去の失敗を生かした出品者拡大プロジェクト。勝因はデータ分析を「最初からしなかった」こと
5. 検討段階から“がっつり”関わり、“じっくり”考える。プロダクト志向のデータ分析人材に向く環境
インターンでコンサルと事業会社のデータ分析を経験。米国留学ではPythonスキルを磨く
――現職に就いた理由として、学生時代にメルカリ子会社のインターンでデータ分析に携わったことが大きいようですね。そもそもなぜ、そのインターンを志望したのでしょうか。
夏目:実はその前に小さなコンサルティングファームでデータ分析のインターンをやっていて、「より大きな分析チームを経験したい」と思ったのが、主な理由です。
そのファームではデータ分析の歴史が浅く、分析担当者がある意味自己流でデータを扱っている感じでした。世の中全体でデータサイエンスはもっと進んでいると感じていたので、多くの専門家が集まっている環境で学びたいと思いました。
それと、単純にメルカリの愛用者だったということもあります。頻繁にアプリを使いつつ、「この部分のUXは改善できるのでは」みたいな問題意識もありましたね。
――インターンでの体験が、その後の就職につながったわけですよね。どんなことが印象的でしたか。
夏目:事業会社でデータ分析に携わることのよさですね。既に述べたようにメルカリというプロダクトが好きなので、その成長に直接寄与するのが楽しいと感じました。
エンドユーザーに向き合える点も、事業会社のメリットです。コンサルだと、クライアントとの調整にかける労力も大きそうですし。
――インターンの頃からデータ分析をやっていたとのことですが、大学で関連することを学んでいたのでしょうか。
夏目:統計学を学んでいました。あとは東南アジアの社会・経済も研究していて、その中でインドネシアの方々を対象にアンケート・集計などをしていました。これらは今の仕事に生きています。
――カリフォルニア大学デービス校への留学経験もありますね。渡米の目的は。
夏目:統計学の勉強です。既に日本でも勉強し、またコンサルのインターンで実務を経験していましたが、もっと深く突き詰めたいと思いました。Pythonを本格的に使うようになったのは、留学時代です。
時には小規模に実装してUX改善を促す、「PdM的」なデータ分析ポジション
――ではメルカリ入社後の話に移りたいと思います。インターンをやった理由の一つにデータ分析のチームが比較的大きいことがあったと聞きましたが、今所属するチームの規模や構成はどのようなものでしょうか。
夏目:チームには十数人が所属しています。メンバーのタイプは大まかに3通りあり、1つが私のようなアナリストです。2通り目がインフラを整えるエンジニアで、パイプラインの整備などを通じてデータを使いやすくしてくれます。
3通り目がリサーチャーでUXR(UXリサーチ)などを担います。それぞれの人数はアナリスト、エンジニア、リサーチャーの順で多いですね。
――新卒と中途ではどちらが多いですか。
夏目:今は中途の人が主体です。彼らの前職は、データ分析に力を入れている他の事業会社が多いと思います。
――メルカリの中にはデータ分析に関わるチームがいくつかあると聞いています。その中で所属するチームは、どんな役割を担っているのですか。
夏目:データ分析を通じて、アプリのUXと、クーポン配布などキャンペーンの効果を改善することが役目です。私は主にUX改善を担っています。
仕事の特徴は、データ分析で終わるのではなく、UX改善に向けた施策まで深く関与する点だと思います。分析を基に「こうすべきだ」というだけだと物事が動かないこともあるので、時には自分で小規模に実装して改善結果を示し、施策の実行につなげることもあります。ある意味「PdM的」な立ち位置ですね。
――ちなみに、他にはどんなデータ分析関連のチームがあるのでしょうか。
夏目:機械学習を専門にするチームがあります。プロダクトに機械学習技術を実装することが、その主な役目です。またグループ全体だと、メルカリのUS事業と決済サービスを担うメルペイにはそれぞれ独自のデータ分析チームがあります。
データ分析チーム発の提案型プロジェクトが、7割近く
――具体的な業務としては、どんなことに時間を使うことが多いですか。
夏目:使う時間でいうと、大まかに①作業が50%、②ミーティングが25%、③考えることが25%といったところでしょうか。作業はデータ分析のほか、A/Bテストの検証やユーザーアンケートの集計なども含みます。
――25%を占める「考えること」とは。
夏目:UX周りの課題がどこにあるかを洗い出すことです。箇条書きなどにして、必要性や対策の実現性などを考えます。それが基でプロジェクト化することも結構あります。
――データ分析側が起点になってプロジェクトになることもあるんですね。
夏目:はい。今、主に関わっている2つのプロジェクトも、こちら側の提案に基づくものです。そういうものだと、1年超の長期プロジェクトになることが多いですね。
――他方で事業部門などからの依頼に基づくプロジェクトもあるわけですよね。
夏目:そうですね。データ分析ができる人のいないチームから相談・依頼を受けて、協力する形になります。そういうプロジェクトだと、短くて数日とか短期になることが多いですね。
――データ分析側から提案するプロジェクトと、依頼に基づくプロジェクトの量を比べると、比率はどれくらいになりますか。
夏目:大まかに提案型が7割、他部門からの依頼型が3割といったところだと思います。これはメルカリの特徴かもしれません。
――他社と比較して、ということですよね。
夏目:ええ。他社でテータ分析に携わる人を個人的に知っていますし、またデータ分析に力を注いでいる企業との共同勉強会にも参加するのですが、依頼型の仕事が多いと聞きますから。
――それ以外でメルカリのデータ分析チームについて特徴的なことはありますか。
夏目:細かい話だと、A/Bテストはできるだけ精緻に行おうとしています。そのためのフレームも、段々と改善されてきていますしね。
過去の失敗を生かした出品者拡大プロジェクト。勝因はデータ分析を「最初からしなかった」こと
――主に2つの長期プロジェクトに関わっていると聞きましたが、どんな内容のものなのでしょうか。
夏目:そのうちの1つについて話をします。テーマは新規出品者の増加です。メルカリはMAUが2000万人を突破するなど着実にユーザー数が伸びていますが、一方で出品をしたことがない人が、まだまだいます。
この課題に対応するため、2021年春にプロジェクトが立ち上がって今も取り組んでいます。
――プロジェクトメンバーはどのような構成ですか。
夏目:私が所属するチームからは、私とリサーチャーの2人。あとは他部門のPdM担当1人、デザイナー1~2人ですね。それから、必要に応じてエンジニアが協力してくれます。PdMの人が専任として、プロジェクトをリードする感じです。
――どのように取り組みを進めているのでしょうか。
夏目:出品の未経験者にとって(出品の)ハードルになっている要因を特定して、UX改善でそれを取り除こうとしています。なので、その要因について、さまざまな仮説をブレスト的に出すところから始めました。続いてユーザーアンケートを行って、どの仮説が確からしいかを検証しました。
――どんなアンケートですか。
夏目:出品未経験者と経験者の両方に、共通の質問を投げかけるものです。内容は利用状況やサービスの理解度に関するもので、両者の回答の違いが目立つ質問は、出品のハードル要因と因果関係があるだろう、という考え方に基づいています。
それによって仮説を10個くらいに絞り込みました。
――続いて何をしたのでしょうか。
夏目:A/Bテストを行いました。つまり仮説に基づく改善策を施したバージョンと従来版の比較です。10個くらいの仮説全てに対して実施しました。アプリのどの部分に改善策を施すかは、ログデータの分析を基に決めました。
――そこでようやくデータ分析が出てくるわけですね。
夏目:従来とは違うプロセスです。これまでは最初からログ分析をして、すぐに大きなインパクトを出そうとしていましたから。
今回は結局、「配送方法が分からないから出品しない人が多い」という仮説を採用して、「らくらくメルカリ便」など配送方法の認知・理解が深まるようなUX設計に改良しました。結果、初めてUX改善で新規出品者を増やすことができました。
――プロセスを変えた理由は何でしょうか。
夏目:過去の失敗です。UX改善による新規出品者の増加はメルカリが何年も挑んできたテーマで、私も別プロジェクトで試みたことがあります。しかしながら、今「初めて」成功したといったように、なかなかうまくいっていませんでした。
先ほど述べたように最初から大きなインパクトを出そうとした結果、仮説検証を丁寧に行わず、仮説の優先順位が最適化されていなかったんです。
――今後につながるプロセス変革かもしれませんね。
夏目:そうですね。今回のプロジェクトで学んだこととしては、一番大きいと思います。今回のようなプロセスがよさそうだとは過去にも思っていたのですが、周囲の理解をうまく得られなくて実行できていませんでした。なので今後はこの成果を材料にして、今回のような方法論をカルチャーとして根付かせられたらいいと思っています。
検討段階から“がっつり”関わり、“じっくり”考える。プロダクト志向のデータ分析人材に向く環境
――この記事特集では、データサイエンティスト、データアナリスト、機械学習エンジニア、データエンジニアの中で、自身がどの辺りに位置づけられるかを答えてもらっています(下図参照)。夏目さんの場合はいかがでしょうか。
夏目:ビジネスにかなり近い位置なので横軸は左端で、機械学習は使わないので縦軸は下端ですね。既に述べたように機械学習は社内に専門チームがありますし。
――夏目さんの場合は、この図に収まらないというか、もう一つUXという軸が明確に存在する印象を受けます。
夏目:そんな感じでしょうね。今後のキャリアやスキルアップという意味でも、主にUXの部分を突き詰めていきたいと思っています。特にUXRのスキル・経験はもっと得たいですね。具体的にはユーザーインタビューやアンケートの設計などです。
ユーザーの生々しい声のような、構造化されにくいデータから結論を導き出すことに面白さを感じます。
――ではメルカリでデータ分析に携わることの魅力は、どんなところにありますか。
夏目:提案型が7割くらいといったように、依頼ベースの仕事が比較的少ないところです。なので、プロダクトの課題に対するアプローチを検討する段階から“がっつり”関わり、“じっくり”考えることができます。
分析だけではなく、プロダクトをよくするためにさまざまなことをやるので、私のようにプロダクト志向が強い人にはいい環境だと思います。
あとは、基本的に売買プラットフォーム1本で勝負するワンプロダクト企業なのも、特徴ですね。データ分析に携わる社内の全員がある程度同じ方向を向いているので、知見の共有がされやすくなっています。
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