Appleを辞める気はなかった31歳が北欧企業Woltへ転職した理由
2020/11/02

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特集「『日本第一号』たちの未来志向」第6回に登場するのは、「Wolt」の日本第一号社員・新宅暁さん。Woltは世界23カ国、100都市以上で展開しているフィンランド発のフードデリバリーサービス。日本では2020年3月に広島でサービスをスタート。現在は札幌、仙台でも展開しており、東京でも10月22日にスタートしたばかり。

新宅さんはこれまで、Twitterで広告営業、ユニクロやAppleではデジタルマーケティングに従事してきた。そんな彼があえて、日本ではまだ無名かつ、すでに競合も多いフードデリバリーを選んだのは、「大企業で働くのが合わなかった」から。その真意を探る。【南部香織】

〈Profile〉
新宅暁(しんたく・あきら)
Wolt Japan カントリーマーケティングマネージャー。
1988年生まれ。上智大学外国語学部卒。medibaに新卒入社し、広告営業を担当。その後、Twitter Japanに転職し、同じく広告営業に従事。ユニクロ、Apple Japanではデジタルマーケティングを担当。2019年11月にWolt Japanへ入社、マーケティングの責任者を担当している。




 

Appleを辞める気はなかった。だけど熱いメッセージに動かされた

――Wolt Japanに入社した経緯を教えてください。

新宅:LinkedInでメッセージをもらったんです。「今度日本進出を考えていて、社員を募集してるんだけど、マーケティングの責任者のポジションでどうですか」って。おそらくその時点では何人にもメッセージを送っていて、その中の一人だったとは思うんですが。

――その時はどう思われましたか。

新宅:実はWoltのことは知っていたんです。デンマークに行ったときに使ったことがあったので。そのときにいいサービスだと思ったのと、もともと北欧企業に興味もあったので、うれしく思いました。

ただメッセージをもらった時点ではAppleに在籍していましたし、辞める気はなかったんです。それに、フードデリバリーサービスはUber Eatsや出前館などすでに競合も多く、日本進出は難しいのではと感じていました。そこで、なぜ勝てると思っているのかを聞いたんです。

そうしたら、「カスタマーサポート」に重点を置いていて、日本人が求めるサービスのクオリティーにも対応できるというような、かなり熱いメッセージが返ってきたのです。自分でも調べてみて「確かに勝てるかもしれない」と思い、話を聞きにいくことにしました。

――日本第一号社員としての採用だったのですか。

新宅:そうは言われていなかったのですが、タイミングとして日本進出の初期メンバーであることは間違いないだろうと思いました。自分が日本第一号社員であることは面接を受けていくうちに知りました。

――最終的に入社を決意された理由は。

新宅:話を聞きにいったときに、創業メンバーに近い日本進出の責任者と話したのですが、当時20代後半くらいで私よりも若くて、聡明で、情熱もあって、とても刺激を受けました。それで面接に進んだら、そこでお話しした人たちもみんな魅力があって、一緒に働きたいと思いました。最終面接の段階ではもう迷いはなかったですね。

米国企業は「スケール」、北欧企業は「サステナビリティー」

――北欧企業に興味を持っていたとのことですが、その理由を教えてください。

新宅:学生の頃に、日本に留学する外国人たちをサポートするボランティアをしていて、デンマークの子を担当したことがありました。高校1年生の女の子だったのですが、その年齢にして自立心があり、思慮深く、人として尊敬できるなと思ったんです。

小さい時から「自分はなぜそう思うのか」ということを考えたり、家庭でディスカッションしたりする北欧の教育方針も関係しているのではないかと思います。本当に自分が幸福になるために、自分の頭で考えて、どう能動的に動いていくべきかということを教えているんですよね。

――彼女だけではなく、北欧の人にはそういう印象を受けますか。

新宅:そうですね。もちろん個人差はあると思いますが、いま北欧企業で働いていても、フィンランド人は思慮深くて優しい人が多いように思います。

それから、自分を実際の能力以上に見せるのを恥と思う感性があって、そういうところが日本人とも似ているかもしれません。ただ幸福を考えるとか、他人のことを考えるという部分については、見習うべきだとよく思います。

――新宅さんは米国企業でも働いていましたが、北欧企業とどういったところに違いを感じますか。

新宅:他の外資系企業からきたメンバーとも話すのですが、違いをよく表すキーワードがあります。米国企業は「スケール」、北欧企業は「サステナビリティー」なんです。

米国企業はいかにトップライン(売上高)を伸ばすかということを大事にする傾向があります。そのためにマーケティング投資をしたりとか、売れるように頑張ったりするわけです。これはこれで一つの考え方ですよね。

一方で、北欧の企業は「サステナブルじゃないと意味がない」と考えるんです。トップラインを伸ばしたとしても、お客様の満足度が低いのはよくない。大勢にとって満足度の高いサービスを作り上げた上で、ユーザー数を伸ばしていくという考え方がより強いです。ビジネスを考えるときに、満足度のところが常に強くフォーカスされる印象があります。

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「おもてなしフードデリバリー」を伝えるために。こだわったのはコミュニケーションと地域密着

――入社して最初にした仕事はなんですか。

新宅:2019年11月に入社したのですが、すでに2020年3月に広島でサービスをローンチすることは決まっていたので、入社3日目ごろに広島に行きました。広島では行政や関連会社の方々と面会をして、共有事項の確認などをしました。

そのあとフィンランドへ行って、Woltのことを学びました。各国でどういうふうに成功しているのか、Woltとはどんなブランドなのか、オペレーションはどういう仕組みになっているかなどです。

配達のオペレーション担当で同じタイミングで入社した日本人がいて、領域は別ですが、一緒にいろんなことをやりました。

――広島で最初に展開することになったのはなぜですか。

新宅:日本への進出はすごく慎重に進められていました。2年以上リサーチを続けた結果、勝てる自信を持っていたのですが、まずは東京進出の前に、本当にWoltというプロダクトがマーケットフィットするかということを確かめたかったのです。

そういう意味で広島は、私たちがヨーロッパで展開しているような、「人口100万人」都市に該当します。また、他社がまだ浸透しておらず、行政や関係会社の協力を得られるなど、いろいろな面でよい土地だと判断しました。

――広島でのサービス開始当初は、どのような仕事をされたのでしょう。

新宅:私はマーケティングの責任者なので、お客様の目に触れることはすべて携わっていましたが、代表的なものを挙げると、大きく2つあります。

ひとつは、カスタマーサポートをはじめとするコミュニケーションの部分です。先ほど申し上げた同時入社した者と、日本ではWoltのサービスを「おもてなしフードデリバリー」と表現しようと話し合ったんです。

――具体的にはどういったことを実現しているのでしょうか。

新宅:例えば、お客様からの問い合わせに対し、営業時間内であれば1分以内に対応しています。またそのコミュニケーションが分かりやすいか、親切かなど、ディテールにもこだわっています。

アプリ内のコミュニケーションでも、日本人に受け入れられやすい絵文字を使用したり、近しい友達のように感じてもらえるように接しています。

また、お客様の満足度は数字でも見ています。数字をもとに常に満足度を上げていく努力をしています。その結果、サービスの継続率は非常に高くなっています。

――もうひとつはどういった仕事でしょう。

新宅:もうひとつは、地元に密着したお店選びです。広島の方々が本当に喜ぶお店、本当に必要なお店をリサーチしました。

その結果、例えばベーカリーの「広島アンデルセン」さんなど今までフードデリバリーを一切やってこなかったお店にたくさん加盟いただくことができました。

コロナ危機下でサービスがスタート。手探りで進めていった

――展開していくうえで、大変だったことはありますか。

新宅:サービスを始めた20年3月が、新型コロナウイルスの感染拡大の影響でヨーロッパがロックダウンされるかもしれない、というタイミングだったんです。そういうわけで、来日していたフィンランド人が全員、帰国してしまいました。

つまり、日本はWoltで初めて、ローカルのチームだけでサービスをローンチしたことになります。ローンチを経験したことがない人たちばかりでやるのは手探りで、やはり大変でした。もちろんフィンランドからリモートでのサポートは手厚くありましたが。

――まだ無名のサービスは、当初は受け入れられにくい部分もあったのではないでしょうか。

新宅:それはありました。その点は、地元の方に愛されていて、かつ広島在住の方々、例えばサッカーJリーグのサンフレッチェ広島の関係者やプロ野球の広島カープの元選手ら、ローカルのインフルエンサーさんたちを巻き込んでいきました。

それからPRにも力をいれました。広島に2~3カ月ほぼずっといたので、現地のメディアの方々とじっくりとお話をしながら、かなりの数をPRで取り上げていただきました。そういった活動によって、徐々に認知されていったのだと思います。

また、いいサービスだということには自信があったので、1回使ってもらうことで、口コミで広がっていったのではと考えています。

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これまでもある意味、第一号社員として開拓してきた。それがいま、役に立っている

――これまでTwitterやユニクロ、Appleなどで働かれていますが、生かせた経験はありますか。

新宅:実はTwitterでもユニクロでもAppleでも、ある意味、「第一号社員」だったんです。日本第一号社員という意味ではなく、それまでなかった新しい部署の1人目でした。しかもそれぞれ少しずつ違うことをやってきています。

Twitterでは広告営業やプロダクトの戦略、ユニクロでは商品のデジタルマーケティング、Appleではいかにデジタルセールスを上げるかをリードしていました。

外資系かどうかにかかわらず、スタートアップでは1人でいろんなことをやらないといけないので、カバーできる領域が広いこと、一から組織をつくってきた経験は生かされたと思います。

ただ、私は大企業で働くのは合っていなかったと思います。ゼロからイチをつくることは好きですが大企業の場合、大きなプロジェクトに携わる喜びがある一方で、自分が影響を与えられる割合はおのずと少なくなってしまいますよね。

私は自分が社会へ影響をおよぼしたり、何かしら実現したという実感を強く持てる場所にいたかったのです。

――日本第一号社員にはどんな人が向いていると思いますか。

新宅:頭で考えるよりも、泥臭く行動できる人でしょうか。加えて、オープンマインドで謙虚な人のほうがいいかもしれません。

今までやったことがないことをやる場合がほとんどだと思うので、いろんな人から学んで、教えてもらうことにためらいがないほうがいいと思います。

マーケティングのポジションの場合は、世の中をこの商品やサービスで変えてやるんだという強い思いは絶対に必要ですね。

――今後の目標を教えてください。

新宅:ローンチしたばかりの東京での展開を成功させることです。なので、今は採用にも力を入れていて、社会人2~3年目の人や、インターンを採ったりしています。

Woltの日本進出とともに東京で成功することは大きな目標の一つでしたので、それに全力を注ぎたいと思います。

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【連載記事一覧】
【特集ページ】「日本第一号」たちの未来志向(全9回)
(1)ゴールドマンもUberも通過点。30代起業家が追い求めるのは、理屈よりも「ワクワク」の直感
(2)「海外の面白いサービスがいつ日本に来るかウオッチしていた」。東大時代から選択肢にあった「第一号」
(3)「Quora日本語版のトップライターになってしまった」。プロダクトへの愛で引き受けた日本第一号
(4)欲しいのは日本事業立ち上げで「何度も成功する自信」。Google卒業後、2度一号社員に挑む男の真意
(5)ヤフー日本法人第一号が繰り返す「興奮」と「飽き」。変わらぬ、事業立ち上げへの強い関心
(6)“無名”のフードデリバリーを支える、Twitter・Apple出身の31歳。大企業では「自分のもたらす影響力」に満足できなかった
(7)大手テレビ局員として抱いた「情報発信という特権」への違和感。TikTokに見出したメディアの未来
(8)自ら売り込んで日本第一号に。ゴールドマン出身の金融マンが燃やし続けた「ものづくり」への執念
(9)【解説】海外企業の見る景色。どこにある? 「日本第一号」になるチャンス

コラム作成者
Liiga編集部
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