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企業にとって、社運を賭けた非連続な行為といえるM&A。そのアドバイザーともなれば、企業の行く末を左右する極めて重要な役割だ。今回は、債券や株式の引受けなどの資金調達部門やトレーディング部門を持たず、M&Aのアドバイザリー業務を主軸とする「独立系」と呼ばれる米系投資銀行・ラザードフレールのマネージングディレクターである秋山健太氏にM&Aアドバイザリー業務の魅力や投資銀行を目指す学生へのアドバイスなどを聞いた。
4年間にも及ぶ長丁場の案件を経て、クライアントは「戦友」に
「幾重にも絡み合う蜘蛛の糸を丁寧に解きほぐしていくようだった」。秋山氏がこう話すのは、とある国内の大型経営統合案件だ。国内企業同士の統合案件でありながら海外株主の利害も複雑に絡む案件であったため、世界各国の大企業や株主・投資家との交渉をM&Aのプロとして手掛けてきたラザードの豊富な経験が買われ、リードアドバイザーに起用された。
秋山氏が本件の状況を「蜘蛛の糸」と形容したのは、利害の一致しない多数の関係者が関与する案件であったためだ。当事会社はもちろんのこと、前述の海外株主をはじめとする両社の主要株主らを含め、各々が財務アドバイザーや弁護士を起用し様々な主張を展開していたため、案件の着地点が見いだせない状況が長く続いたという。
ディールヘッドとして秋山氏が本件に関与したのは丸4年。長丁場のM&A案件を数多く手がけてきた秋山氏のキャリアの中でも特に長引いた案件だ。その過程では、海外拠点の株主を説得するべく所要時間僅か24時間余りの弾丸出張を敢行したり、祝日に案件関係者がホテルの一室に参集して缶詰めの交渉をしたり、連日社長を含む経営陣と膝詰めの議論をおこなったり等々、案件の戦略的重要性に加え、検討・交渉期間が長期に渡ったこともあり、このようなエピソードにも事欠かない。
長丁場の案件においては、クライアントである当事会社の中でも人事異動等でプロジェクトから外れるメンバーもいる中、秋山氏は検討当初から最後まで案件に関与し続けたため、案件チームの中でも数少ない初期からの経緯を熟知する存在として社内外から頼られる存在となる。「道のりの険しい長丁場の案件に共に取り組んだことで、クライアントのプロジェクトチームや他のアドバイザーとの距離が縮まり、苦しさや喜びを分かち合う『戦友』となった」。
M&Aの案件においては、検討開始から公表・クローズに至るまでその規模にかかわらず、広範かつ綿密な検討を踏まえた上で難しい決断を立て続けにおこなわなければならないため、クライアント企業にとっては「非常事態」とも言える状況だ。
そんな「非常事態」をクライアントのプロジェクトメンバー、投資銀行、法律事務所、その他アドバイザーらが一丸となって駆け抜けるため、一件毎に異なるドラマが生まれる。「こんなにエキサイティングな仕事は他に見つからない」。ルーティーンや決められた筋書きの存在しない、アドレナリンが出るような刺激が秋山氏の原動力になっているという。
クライマックスは取締役会でのプレゼンテーション
本件に限らず利害関係者の多い案件においては特に、ディールの条件の中で各関係者の優先事項が異なる。「上場企業であれば市場に対する責任を負うため買収価格などの経済条件は当然重要ではあるが、それだけでは案件は成立しない」。
従業員の士気や取引先への影響といった、ソフトイシューと言われる要素も国内の大型統合案件では特に重要だ。クライアントのCEOをはじめとするトップマネジメントとの議論に直接関与することで、「肌感覚としてこうした条件の重要性を認識することができた」。その道何十年という修羅場をくぐりぬけてきた大企業の経営者と直接仕事ができるということは間違いなくこの仕事の醍醐味であり、アドバイザーとして次の案件の糧にもなる。
クライマックスは案件最終局面でのクライアントの取締役会。アドバイザー陣の代表として秋山氏はクライアントの取締役会に対して、交渉経緯の説明や財務的見地からの意見を述べる役割を任された。「4年間の努力の締めくくりとして、取締役会の方々をはじめ、プロジェクトメンバー全員が納得できるような、説得力とインパクトのあるプレゼンテーションをいかにおこなうか」。連日の対応で睡眠不足だったにもかかわらず、取締役会前夜は全く眠れなかったという。
共同アドバイザーから移籍の打診
外資系投資銀行では若いうちから大企業の意思決定の中枢に入り込むため、チャレンジが大きい分、仕事のやりがいもそれ以上に大きい。
秋山氏がM&Aバンカーとしてのキャリアをスタートさせたのは、新卒で入社した大和証券SMBC(現・大和証券)。M&Aを取り扱う部門に配属となり、「案件数も豊富で経験を積ませてもらった」。もともとクロスボーダー案件に興味を持っていたが、その転機は入社後すぐにおとずれる。
秋山氏が大和入社後初めて関与した案件の共同アドバイザーとなったのがラザードだったのだ。大和の社員でありながら、同じプロジェクトメンバーとしてラザードのオフィスに出入りし、ラザードの社員とともに案件に取り組んだ。案件もひと段落した頃、ラザードのプロジェクト責任者から「お前、クロスボーダーに興味があるんだって。だったら、こっちへ来いよ」と打診されたという。
共同でプロジェクトをやったおかげで「ラザードの強みも理解できており、どういうスタイルで仕事をするか、よく見えていた。そのため隣の部署に移ったような感覚で、入社後のサプライズは一切なかった」と振り返る。
なぜ、クロスボーダー案件が面白いのか。「クロスボーダーの案件においては予定調和的な合意は望めない。なれ合いの通用しない世界のため、一つ一つ自分で案件を成就させていくための道筋を見出していくところに醍醐味がある。エキサイティングな仕事をできると考えた」。世界各国にM&Aバンカーを擁し、あらゆる国・地域の案件を手掛けるラザードは、クロスボーダーを志向する秋山氏にとっては願ってもいないプラットホームだった。
こだわりの全社的なプロ気質
ラザードは、いわゆる「バルジブラケット」と呼ばれる他の外資系投資銀行と異なり、融資や株式・債券の引き受けといった資金調達機能を持たず、M&Aや財務リストラクチャリングのアドバイザリー業務が唯一のプロダクトだ。そのため、クライアントの経営陣に対して利益相反なく「何が正しいか」、「どうあるべきか」のみを追求したアドバイスを提供することができ、このことが難しい決断を前にした経営者がアドバイスを求める先としてラザードを選ぶ大きな理由の一つになっている。
その中でもとりわけラザードが得意とするのが「クロスボーダーにおけるM&Aアドバイス」。日本企業が関与するクロスボーダーM&A案件における助言実績ランキング(リーグテーブル)では、2016年に約450億ドルで首位に立った。グローバル全体で見ても、2018年度の関与案件実績額はおよそ4,400憶ドルと6位につけており、M&A専業の投資銀行としては唯一、例年安定的にグローバルTop10の常連として名を連ねている。
数々の著名なディールの経験やM&Aに関する深い専門知識を有しているのはもちろんのこと、「グローバル案件のM&Aの難しさを熟知していることに加えて、クライアントにとって正しいことを言い続けることによる、長期的な信頼関係の構築」と秋山氏はラザードの強さについてこう話す。
「クライアントと密な信頼関係を作り、自らがキャリアの中で経験したことをクライアントに還元し、貢献しているという実感をやりがいとしている人が多い」という。ラザードには70歳を超えてもなお、第一線で活躍しているバンカーがいる。他社であれば一線を退き経営層のポジションにつくか、あるいは引退をしている年齢だが、ラザードにはこういった「ディールのプロ」を生涯貫くバンカーを組織として抱え、その力を最大限活用するカルチャーがある。
そのためM&Aのプロとして常に第一線で仕事を続けたいがために他社から移籍してくるバンカーも存在する程だ。「経験がものを言う世界のため、キャリアを積んでいく過程で常に周りに学ぶべき先輩・同僚がいるというのもラザードの魅力」。
こういったラザード全社を貫く「プロフェッショナル気質」は東京オフィスがクロスボーダーのM&Aを手掛ける際にも大きな力となっているという。どの外資系投資銀行の東京オフィスも「グローバルプラットフォーム」を自社の強みとして挙げる中、ラザードのグローバルでの連携は際立っており、クライアントへの質の高いアドバイス提供に繋がっている。これは「グローバル・ワンファーム」として常にクライアントに対して最良のアドバイスを提供するというラザードのカルチャーによって支えられていると言えるだろう。
優れたM&Aバンカーの要件と長く続けるための秘訣とは?
優れたM&Aバンカーとはどんな人か。「常にアンテナを高く張り巡らせていて、感度が高く、登場人物の利害や感情を把握した上で、自らの意見を言える人」と秋山氏は話す。M&Aに同じ案件は、一つとしてない。どの案件でも「クライアントと交渉の相手方の双方をきちんと理解し、自らのジャッジメントに基づきアドバイスを提供する必要がある」。
「アドバイザーは分析結果や選択肢を提供して、結論を出すのはクライアント」と考えるアドバイザーも多いというが、「これではアドバイザーではなく評論家」と秋山氏は強調する。「こういう条件であれば、やるべき・やめるべき、を自らの意見として自信を持って言えるかが分岐点」という。
毎年、多くの優秀な学生が投資銀行を志して就職活動に励んでいる。秋山氏は学生に対して「単なる短期間でのスキル習得のみを目的としてこの業界に入り、すぐ辞めてしまうことはおすすめできない」という。
もちろん投資銀行に入社した若手が財務・会計の知識やモデリング・資料作成のスキルなどを短期間で急速に身につけていくのは確かではあるものの、「クライアントの経営陣と議論を重ねて解を導き出していく経験や、自らが先陣を切って丁々発止の交渉や駆け引きを主導してゆく経験をするためのスタートラインにせっかく立っておきながら、その果実を得る前に業界を去ってしまうのは非常に勿体ない」。
では、どういう人が長くM&Aバンカーを続けているか。秋山氏は、「特定のパターンがある訳ではないが、こだわりを持ち、何かしら傑出したところを持っている人。必ずしも天才やエリートだけが生き残っている訳ではない」と話す。相対するクライアントも様々であり、あるクライアントにはあまり評価されていないが、別のクライアントからは非常に高く評価されているというケースもある。「『バンカーはこうあるべき』という固定観念を持たず、自分のスタイルを確立できた人が長く続けているのではないか」。
M&Aバンカーとして成長するためには、キャリアの早い段階から、仕事は上司が作り出しているのではないと認識したほうがよいという。若いうちは上司が設定したレールを走り、業務をこなしていればよいかもしれない。だが、年数が経つごとに、「自分で仕事を作っていく必要性が高まってくる」。
「自らがクライアントと真摯に向き合い、クライアントの利益のために考え抜くようにならなければ、いつまでも『使われる』立場から抜け出せず、長続きしない。自走し始めてようやくこの仕事の真の楽しさが見えてくる。それが出来るようになれば、これほどエキサイティングな仕事は見つからない」。秋山氏は話す。
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