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「あるべき」から「自然」への進化
「こんな時に仕事のモチベーションが上がって、逆にこの出来事でモチベーションが下がって・・・」
こんなことを若手社員が言ったら、一刀両断していたのが、ディー・エヌ・エー(以下、DeNA)の代表取締役会長・南場智子さんです。プロフェッショナルたる者、責任を持って仕事に取り組む以上、モチベーションの浮き沈みを口に出すなと。
しかし、それは過去の話。今年に入ってから、南場さんは「進化」しました。
これまでプロフェッショナルとして「こうあるべき」という姿を最優先し、周囲にもそれを求めてきた南場さん。その彼女が今は、「人間として自然」な姿を受容することが、仕事の上でも重要だと言います。2回の連載で、その「進化」の深層と未来のDeNAの姿に迫ります。【丸山紀一朗】
1. マッキンゼーのあの日から、ずーっと言わなかったこと
2. 合理性やロジカルさだけでは、未来は切り開けない
3. 「人をジャッジ」することは危険
4. 自ら「一旦立ち止まる」こともできるように
※【進化版・南場智子氏に迫る(下)】「南場さん、DeNAを一体『何の会社』にしたいんですか?」はこちら。
マッキンゼーのあの日から、ずーっと言わなかったこと
――「今年に入ってから南場さんが変わった」と、各所で噂を耳にします。一体、どうしたのでしょうか?
南場:特に変わってないですよ。ただ、少し進化した部分はあるかな。
例えばプロフェッショナリズムについて、でしょうか? マッキンゼー時代に徹底的に叩き込まれ、自分にも他人にも高いスタンダードを求めていました。
マッキンゼー時代、自分にはモチベーションのアップダウンがあるがどうしたら良いかと先輩に相談したら、怪訝な顔で私を見て、「その問題は自分で解決してね」って冷たくスルーされたことがあります。
そこでハッとした私は、その日からずーっと、自分の体調について、ひいてはモチベーションが上がるだの下がるだのってことは、絶対言わないようにしてきました。
――社員など周囲にもそれを求めていましたよね?
南場:はい。若手が「モチベーション」などと口にしたときには、「給料返せ」って言ってました(笑)。
――でも、それが変わったと。
南場:そうですね、自分ではやっぱり口にはしないと思うけれど、周囲や自分のモチベーションに配慮するようになりました。だって実際には、モチベーションが高いときも低いときもあるじゃないですか。体調のアップダウンもある。口にするかどうかは別として、認めて対処してもいい。
体調が悪い人がいれば助ける。その人がありがたいと感じたら、自分の調子の良い時に他の人を助ける。やっぱり人間は人間であると認めて、そのダイナミズムの中で助け合ったほうがしなやかで自然なんです。
マッキンゼーに10年以上いた私は、これに限らずプロフェッショナリズムで凝り固まっていたと思います。なんというか、プロフェッショナリズムの「仮面」を絶対剥いではいけない、みたいな感じ、ありましたね(笑)。
でも、実際は、プライベートと仕事が不可分のときが、人間、一番良い仕事をしますよね。調子の良し悪しだけじゃなくて、人の興味や関心も、個性も、もっと自然に仕事にべったり出てきていいかもしれない。
合理性やロジカルさだけでは、未来は切り開けない
――そのお考えに基づくと、人材の多様性も今までより認めていくということになるでしょうか?
南場:そこが重要なポイントです。これまでも多様性が重要だと信じていました。多様な個性が集まっているほうが、組織って強いんですよ。特に変化に強い。粒のそろった均一な人材が集まっていると、決まりきった方向に向かう時は強いが、ショックに弱い。自明なことです。
だからこれまでもDeNAは、意識して様々な個性を集めてきています。けれども、組織の総体としては、かなりロジカル。多分トップがそうだからかな(笑)。なんでも徹底的に、これでもかというくらいロジカルに議論するし、意思決定も、感覚的ではなく、合理的な判断を諦めません。
これは必ずしも悪いことではないです。成功の確率を1%でも上げるためにとことん細部まで詰めるし、高速PDCAのプロセスを回し、ブルドーザーのように実施します。ゲーム、エンタメサービスのユーザーにとっての面白さも、とことん精緻なロジックで組み立てようとする。
この姿勢がなければDeNAはここまで発展してきていません。日本でもトップのレベルだと思います。
ただ、これだけだと時代を切り開く存在であり続けることができるのか? 私たちは、世の中にDelightを届けたい。Delightとは、驚きを伴う喜びのイメージです。「驚き」はロジックの延長線上にはないよね。
――これまでは積極的に価値を認めてこなかった人も受け入れていくと。
南場:いや、実は、すでにチームDeNAには様々な人が集まっているんです。たくさん。必ずしも数字や論理が強い人ばかりではなく、感覚が優れていたり、人の心をつかむことができたり、面白いことを考えつくのが得意だったり、夢に溢れていたり、飛躍した考えができる人。たくさんいます。ただ、会社のプロトコルがロジックに偏っていて、ロジカルな人の方が伸び伸びしている。
ロジック以外の強みを持つ人も、更にのびのび実力を発揮できるように、強みを認めて個性を最大限解き放したいです。
今まで強かった論理性や合理性を失わずに、エモーションや感覚の部分も開放していく。合わさると強いですよね。例えば、「すごく直感的に発案された事業を、すごく論理的にやる恐ろしい集団」と言われたいです(笑)。
――昔は、「会議で発言して、新しい視点を提供してくれないと、存在価値がない」といったこともおっしゃっていたかと・・・。
南場:そうです、そういった私の姿勢も、論理的に話すことが上手な人がノリやすい組織を作ってきたのではないかと思います。もちろん、違う角度の視点を提供してくれる人は重要ですが、それができない人でも、その人の得意なことって必ずあるはず。個々人の強みを生かしていきたいのです。
「人をジャッジ」することは危険
――それでは、良い人材かどうか、あるいは仕事ができるかどうかの判断基準も変わってきているのでしょうね。
南場:人をジャッジするというのは、危険なことですね。DeNAはそもそも採用の「エントリーバリア」が非常に高く、そこを突破して入ってきた人なわけで、全員爆発的な可能性を持っています。
――創業時から、そうした考え方で組織運営をしていましたか?
南場:どちらかというとジャッジするメンタリティが少し強かったかな。今、そうではないリーダーになろうと宣言しています(笑)。
DeNAは来年3月4日に設立20周年を迎えるのですが、この節目に私もアップデートしようと、宣言しました。社内報にインタビュー記事も載せたのですが、ある若手社員から早速フィードバックが来て、言っていることとやっていることが違う、とならないように、本気で頑張ろう、とクギを刺されました(笑)。
そのメールは秀逸ですよ。「最近一緒に仕事をする機会が増えて分かったが、南場さんはこだわりが異様に強い。相手にも自分の基準を求めすぎる」と指摘されました。彼はDeNAで上司に恵まれてきたと言います。「ハッパをかけるだけでなく、同時に共感や寄り添いができるマネージャーとこれまで仕事をして成長してきた」と。
南場も成長せよ、ということです! 毎日このメールを読み返して頑張ろうと思います!
――南場さんがアップデートされることで、経営判断が甘くなってしまうことはないでしょうか?
南場:それは社内でも必ず起きる議論で、誤解されがちなポイントだと思います。ですが、甘くなることは全くないのです。むしろ逆だと思います。目標やビジョンのレベルを下げる必要は一切なくて、逆に2倍に上げていい。
「ユニークだな、さすがDeNA!」と思われる仕事をしたい。大きな喜びを世の中に届けたい。そういったビジョンを達成するためには、「すべての人のどんな強みも無駄にしない」という決意が必要です。一つの強みも無駄にしている余裕はないのです。
自ら「一旦立ち止まる」こともできるように
――南場さんが進化した理由やきっかけは何なのでしょうか?
南場:一つはやっぱり家庭に入っていた時期があったことです。2011年から約5年半、家庭を優先した時代があって、そこで私の中のOSがアップデートされたかな。諸々、これまでもアタマでは分かっていたのですが。
――ただ、仕事復帰されてからすでに数年経っていると思います。その後すぐの変化ではなく、なぜ今年に入ってからの変化だったのでしょうか?
南場:復帰して早々は、我々が対処しなければならない課題がたくさんあり、その対応に追われていたからです。その対処が一定程度進んできたため、今年に入ってようやく、ブランク明けの私の目が、世の中に向けて開かれるようになった、ということでしょうか。
あと私、今年の5月に、一人で1週間、インドに行って瞑想をして来ました。プライベートで後悔することがあり、だんだん気が重くなってきたためです。仕事も含め、いろいろなことと一旦距離を置く機会を作りました。
実際、行ってよかった。自分が、大きな世界の中の一つのピースに過ぎないと感じる時間を持ち、気付きもありました。普段忙しい日々を送っていると、じっくり考えるとか立ち止まるといったチャンスがなかったので、この何十年かで初めての機会でした。インドでも、どうしても野球の試合だけは見ちゃいましたけどね(笑)。
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