投資銀行&FAS&総合商社 最低限押さえておきたいファイナンスの知識第2部:企業価値評価の実務

投資銀行&FAS&総合商社 最低限押さえておきたいファイナンスの知識第2部:企業価値評価の実務

2025/07/03

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eyecatch

こんにちは。総合商社、プロフェッショナルファームを中心に就活をし、各業界から複数の内定を獲得した者です。3回に分けてファイナンスの知識を紹介しています。投資銀行業務やM&A実務において、企業価値評価は最も重要なスキルの一つです。第2部では、理論的な基礎知識を実務に応用する方法を詳しく解説します。

企業価値(Enterprise Value)と株式価値(Equity Value)の違いから始まり、具体的な評価手法の比較、マルチプル分析の実践的な活用方法、そして最も高度なDCF分析まで、プロフェッショナルが実際に使用している手法を体系的に説明します。また、類似企業分析の実務的なテクニックや、それぞれの評価手法の長所・短所についても深く掘り下げます。

これらの知識は、投資銀行のインターンシップ、ケースにおいて即座に活用できる実践的な内容となっています。単なる理論の暗記ではなく、「なぜその手法を使うのか」「どのような場面で有効なのか」という実務的な判断力を養うことができます。ぜひしっかりと学習し、選考に備えてください。

第6章:企業価値評価の高度な理論

㉘企業価値(Enterprise Value)とは?

企業価値(Enterprise Value, EV)は、現代ファイナンス理論における最も重要な概念の一つで、企業の事業そのものが持つ本質的価値を表します。これは企業の営業活動から創出される価値であり、資本構成(負債と資本の組み合わせ)の影響を除去した純粋な事業価値を示します。

企業価値の経済的意味: 企業価値は、企業の全ての資金提供者(債権者と株主)に帰属する価値の総合計を表します。これは、企業が生み出すUnlevered Free Cash Flowの現在価値の総和として理論的に定義されます。

基本算式: Enterprise Value = Equity Value + Net Debt Enterprise Value = Equity Value + Total Debt - Cash and Cash Equivalents

企業価値の重要性:

1 資本構成中立性 : 異なる資本構成を持つ企業間の比較が可能
2 買収価格の基準 : M&A取引における企業の真の取得コスト
3 事業価値評価 : 純粋な事業の収益創出能力を評価
4 投資意思決定 : 投資効率性の評価基準

企業価値は、企業が債務を全て返済し、現金を全て回収した場合に買収者が支払うべき実質的な価格を表すため、「企業の真の価格」とも呼ばれます。この概念は、投資銀行業務、プライベートエクイティ投資、戦略的投資判断において不可欠な指標となっています。

㉙株式価値(Equity Value)とは?

株式価値(Equity Value)は、企業価値から債務を控除した後の株主に帰属する価値を表し、株主の投資利益を直接的に反映する重要な指標です。

株式価値の定義と算出:

1 市場価値による算出 : 株式価値 = 株価 × 発行済み株式数(時価総額)
2 企業価値からの導出 : 株式価値 = 企業価値 - Net Debt 株式価値 = 企業価値 + Cash - Total Debt

株式価値の経済的意味: 株式価値は、企業が全ての債務を返済した後に株主に残る残余価値を表します。これは、企業清算時に株主が受け取る理論的な金額、または株式投資家が企業の将来キャッシュフローから得られる価値の現在価値を示します。

株式価値の特徴:

1 レバレッジ効果 : 企業の財務レバレッジの影響を受ける
2 残余請求権 : 債権者への支払い後の残余に対する権利
3 市場変動性 : 市場の期待と感情に敏感に反応
4 配当・キャピタルゲイン : 株主還元の原資となる価値

実務的応用: 株式価値は、株式投資判断、株主価値経営の評価指標、ストックオプション価値の算定基準として広く活用されます。また、企業の資本政策(配当政策、自己株式取得、資本構成の最適化)の効果を測定する基準としても重要な役割を果たします。

㉚企業価値(Enterprise Value)を計算するときの調整項目は?

企業価値の正確な算定には、標準的な算式に加えて、企業の個別事情に応じた調整項目を考慮する必要があります。これらの調整は、企業の真の事業価値をより正確に反映するために不可欠です。

現金類似項目(企業価値から控除):

1 有価証券(Marketable Securities) :
- 容易に現金化可能な投資有価証券
- 主たる事業活動とは独立した財務投資
- 市場価値での評価が適切

2 関係会社株式(Investments in Associates) :
- 他企業への戦略的投資
- 持分法適用会社への投資等
- 事業価値とは別個の価値源泉

負債類似項目(企業価値に加算):

1 優先株(Preferred Stock) :
- 固定配当が約束された証券
- 経済的実質は負債に類似
- 償還条項の有無により評価方法が異なる

2 未積立年金債務(Unfunded Pension Obligations) :
- 年金資産が年金債務を下回る部分
- 将来の現金流出要因
- 企業の隠れた債務として認識

3 非支配持分(Non-Controlling Interest) :
- 連結子会社の企業価値のうち親会社以外に帰属する部分
- 親会社株主に帰属しない価値

完全版算式:

企業価値 = 株式価値

・有利子負債
・優先株
・未積立年金債務
・非支配持分
・現金及び現金同等物
・有価証券
・関係会社株式

これらの調整により、企業の実質的な事業価値がより正確に算定され、同業他社との比較やM&A価格算定の精度が向上します。

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