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クロスボーダー~外資系若手バンカーの葛藤~ 第十三章 絶句 前編

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前回までのあらすじ〉
外資系投資銀行のドイチェガン証券株式会社投資銀行部門(IBD)に新卒で入社した、小川克貴。教育系企業、ドリーバのM&A案件にアサインされた。コンペで勝ち、ドリーバの案件は正式にドイチェガン証券が担当することに。キックオフミーティングを終え、ドリーバの買収先企業とも話がまとまりつつあったが、突然その企業からの連絡が途絶えた。

〈著者Profile〉
ショー・ターライ
国立大学を卒業後、外資系投資銀行に入社。退職後は起業家として活躍している。
▶Twitter:@ShowTurai_Novel

 
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注:この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。

第十三章 絶句 前編

「別の敵が現れたっていうのはどういうことですか?」

「そのままだよ。別の買い手が現れたのさ。それもおそらくはこちらよりも条件が良い」

克貴は浮かれていた。コンペに勝ちさえすれば、それ以降は滞りなく進むものだとばかり思っていた。順調に進んで半年くらいで完了するのだろうと。

たとえ、案件特有の難しさや進行スピードの違いはあっても、敵が出てくることは想定していなかったのだ。

その唐突さは克貴の不安を膨らませた。これはあらゆることに当てはまるのではないか。

葵とも仲が進展しているように感じているが、それも突然別の男が現れて終わってしまうかもしれない。「かっちゃん」と呼ばれて、自分は特別だと調子に乗ってはいけない。他にも2人だけのあだ名で呼び合っている人がいるかもしれないのだ。

呼び名といえば、M&A案件でもプロジェクト名をはじめ、ステークホルダーには関係者にしかわからない名前をつける。秘密保持には徹底して取り組む一環だ。

ドリーバのM&A案件は、ナイトと名付けられた。ドリーバはスイート、買収先はハートと呼ぶことになった。これは投資銀行側にとって、キックオフ時の儀式みたいなものだ。今回のように、かわいらしいネーミングであることも珍しくない。

キックオフでは名前を決め、WPL(ワーキングパーティーリスト)と呼ばれる機密情報の共有を許可されている関係者リストを作成する。

こういった地道なタスクの積み重ねで、M&A案件は進んでいく。克貴はそうした一見地味な仕事が好きだった。自分が案件の一員である確かな実感を持てるからだ。

その案件がもしかしたらつぶれるかもしれない、というのは青天の霹靂(へきれき)だった。

ドリーバとの緊急ミーティングが開かれた。早朝のドリーバのオフィスは人気がなく、静かだった。

克貴は議事録を作成する役割で、議論に直接参加しなかったが、かなりぴりぴりした雰囲気を感じていた。

諜報活動のような情報収集が一つの肝になる。どうやら競争相手はこちらを大きく上回る条件を提示しているらしい。こちらも交渉額を上げないと話にならないかもしれない。

交渉条件をまとめ直した。

「EV/EBITDAマルチプルを8倍で交渉していましたが、15倍まで引き上げましょう」とM&Aヘッドがドリーバへ条件の変更を提案している。

EV/EBITDAマルチプルというのは、企業の事業全体の価値(Enterprise Value=EV)を償却前営業利益(Earnings Before Interest, Depreciation, and Amortization=EBITDA)で割ったものだ。M&Aのときに、企業の価値評価に使われる。

「要するに予算を上げろというのですか? 今以上の決裁になれば、弊社の上の承認も必要になります」

「承認してもらうにはどうすればよいでしょうか?」

「どう頑張っても2週間ほどはみてもらわないと。緊急の会議を設定して、そこで意見を上げてディスカッションをして、そこから社長陣との会議を設定して、それからの意思決定に1週間ほどかかるかと思います。頑張って半月で調整しますね」

「もっと早くできませんか?」

「これでも早い方だと思いますが……」

「大変かと思いますが、スピードが勝負なんです」

交渉条件のまとめ直しも難航した。こういった意思決定に日本企業は時間がかかりすぎるのだ。意思決定に2週間でも早いというのだから、M&Aをしようとする事業部で議論があり、その上のコミッティーでもまたひと悶着(もんちゃく)あるということだろう。

ドリーバとの緊急会議後、重苦しい空気の中オフィスに帰った。

すると、いつもとはどこか景色が異なっているような違和感を覚えた。何か分からないが、空虚で、重々しい空気感だった。

克貴は帰社して緊張がゆるんだのか、少しめまいを感じ、ふらついた。そして大柄な公認会計士のディレクターがいた角の席にまたぶつかってしまった。

「すみません、何度も……」と克貴は言葉が止まってしまった。

そこにあるはずのものがない。ぽっかりと穴があいたように消えている。

資料や本で溢れていたはずの席が、あまりにもきれいさっぱり片付いていた。最初から存在していなかったかのように少しの痕跡もなく。

大柄なディレクターの名札すら見当たらなかった。

隣の席で秘書の女性が段ボールにガムテープを巻いていた。

「この席はどうしたんですか?」と、克貴はおそるおそる作業を続けている秘書の女性に尋ねた。

「あー今朝ね、そういうことになって、今日からもういないのよ。上からのこういう指示はひときわ早いんだから嫌になっちゃう」とその秘書はコーヒーが冷めちゃったというくらいのテンションで克貴に答えた。

「え、もしかして……?」

克貴は徐々に事態を理解しはじめた。

「まあねえ、2年いて1度も案件が取れていなかったからね。ヘッドカウントが減らされたタイミングで、一番に名前が挙がったんだろうね。ほら、これから荷物をまとめて送らないといけないのよ。このディレクターはいっぱい本を持ってきていたから、重くて大変なのよ」と秘書の女性は平然と言った。

大柄ディレクターのクマのような優しい笑顔がちらついた。

克貴はこの世界の厳しさを改めて思い知った。しばらく声が出せなかった。

自席に戻り、あのディレクターについて思いをはせた。

若手と同じくらい夜遅くまで働き、自分で資料も作り、頑張っていた。

しかし今考えると、1人でやらざるをえなかったのかもしれない。実績がなく、案件もない状態で、リソースとしての若手をアサインしてもらえなかったのだろう。頭の良さや、過去の経験や資格だけではどうしようもない世界なんだなと戦々恐々とした。

翌朝、M&Aチームが招集された。机にはある情報が書かれた紙のリストがあった。

そのリストを見て克貴は絶句した。

何を考えているか分からない表情の町田さんがため息をついた。

「これは強敵だな……」と町田さんも頭を抱えた。

買収のライバルとなる企業とそのファイナンシャルアドバイザー(FA)が判明した。

第十三章 絶句 後編につづく。2023/2/24更新予定です)


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