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クロスボーダー~外資系若手バンカーの葛藤~ 第十章 透明な一線 後編

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前回までのあらすじ〉
外資系投資銀行のドイチェガン証券株式会社IBD部門に新卒で入社した、小川克貴。ロンドンでの研修を終えた克貴に教育系企業・ドリーバのM&A案件が動き始めたという知らせが。克貴は先輩の町田とドリーバが伸ばすべきリカレント教育の分野でどのような戦略を使うべきかについて議論しはじめる。

〈著者Profile〉
ショー・ターライ
国立大学を卒業後、外資系投資銀行に入社。退職後は起業家として活躍している。
▶Twitter:@ShowTurai_Novel

 
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注:この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。

第十章 透明な一線 後編

「ロングテール戦略(※1)によって今まで用意していなかったマイナー商品も扱い、顧客獲得の漏れをなくすことがAmazonの場合はできている」

「でもそうすると、僕が言っていた興味があるコンテンツを幅広くそろえれば売上が拡大するという考え方は間違っていないということになりませんか?」

町田さんは克貴の思考の糸がこんがらがっているのを楽しんでいるようだった。

「筋は良いが、ロングテール戦略には欠点がある」

「どんな欠点ですか?」と克貴は前のめりになって尋ねた。

「コンテンツ制作が大変なわりに、大きな売り上げにつながりにくいニッチなものもそろえないといけないなので、コストパフォーマンスがよくない。検索機能が充実していなければコンテンツの数が多すぎて、収益を生むメインコンテンツが埋もれてしまい、売上が下がってしまうリスクがある」

「たしかに。小売りに関しては在庫リスクもありそうですね」

「在庫というのは良い観点だ。ロングテール戦略が注目されたのは在庫を減らせるようになったからさ」

「どうしてでしょうか?」

「オンライン化が進んだからだよ。注文を受けてから商品を発注することもできるし、品ぞろえのための需要予測も進んだ。そもそもリアルの店頭だと棚の数にも限界があり、大量の多品種を扱えない。だがオンライン化で全部在庫がなくなるわけではないし、ニッチなものはなかなか売れない。そもそも売上の基本的な法則を知っているか?」

「売上の法則? お客さんのニーズを把握していることでしょうか」と克貴が言うと、町田さんはおままごとをする小さい子どもを見るように笑った。

「それも大事だが、今俺が言おうとしていたのはパレートの法則だ。80:20の法則とも呼ばれるが、知っているか?」

「科学的な根拠があるものじゃなくて、それっぽいだけの経験則的なものですよね?」と克貴はふてくされたように言った。

「非合理で偏った経験則はナンセンスだが、これは馬鹿にできない。例えば、売上の8割は2割のエース社員や顧客によってもたらされているといったものだ。もちろん必ず2割というわけではなく、論旨としては一部の要素で全体の大半が構成されているといっている」

「多くの場合、売り上げ構成に偏りがあるということですね」

「つまり、基本的には売れ筋の商品に絞ってマーケティングをすることが経済合理性に適っているということさ」

「おっしゃることはわかるんですが、パレートの法則を適用するとしたら先ほどのAmazonのようなロングテール戦略は、方向性としては逆じゃないですか?」と克貴は首をかしげた。

「Amazonは検索システムが充実しているからさ。何もしなくても消費者が向こうから見つけてきて買ってくれるからだよ。それに経済合理性に欠けるからこそ、資本体力がないとこういうラインアップは実現できない。他の会社では非合理的な労力になってしまうのでオプションとして取れない。だからこそロングテール戦略を取れるということそのものが、優位性の表れなのさ」

「なるほど……」と克貴は押し黙った。

ふと視線を外すと、透明なガラス張りの会議室から仕事場のにぎやかな様子が見えた。慌ただしく電話口で叫んでいるらしき人や、カタカタと音を立てるようにキーボードを打ち込む人、プリンターから出力される大量の印刷物を運んでいる人、パソコンをのぞき込みながら激論を飛ばし合っている人。音は聞こえないが、これが仕事場なのだ。

働く風景から視線を戻し、手元を見ると、町田さんの話を聞きながら必死に書いていたメモが目に入った。その紙は殴り書きの崩れた字であふれかえっていた。別の時間を取ってまとめ直さないとな、と克貴は思った。

空気が微細に揺れたと同時に、ガチャッと音が鳴った。

高嶺が顔をのぞかせた。

「会議中失礼します。モーガン土井さんがおふたりを呼んでいます」と高嶺がはつらつとした声で言った。その様子を見ただけで克貴はどこか先を越されているような劣等感を覚えた。

「高嶺くん、ありがとう。すぐ行くよ」と町田さんは笑顔で手をあげた。

「じゃあカツ、行こうか。きっとドリーバ案件の話だから」

口を一文字に結んだモーガン土井が会議室の奥の席に座っていた。心なしか扉はいつもより大きな音で閉まった。

「M&Aの件について話がある」と腹に響くような低い声をモーガン土井は発した。

「コンペの詳細が決まりましたか?」と町田さんは応えた。

「日付が確定した。ちょうど1カ月後の水曜日だ。またグローバルチームを含めチームメンバーも確定だ。精鋭で挑むぞ」とモーガン土井は町田さんに向けて言い、克貴を一瞥(いちべつ)した。

視線に耐えかね、克貴は思わず下を向いた。

「力不足かもしれませんが、精いっぱい頑張ります」と克貴はかすかに震えた声で言った。

「力不足なやつは要らないからな」とモーガン土井は吐き捨てるように言った。

克貴はビクンとして縮こまった。

「カバレッジで提案を持っていくのと、案件を本格的に獲りにいくこととは、求められる水準がまるで変わってくる。今回は特に成功させたいから町田くんに入ってもらった。そこで君を継続してアサインするかを聞いた」とモーガン土井は町田さんに目線をやった。

「はい、ぜひ小川くんを案件に入れてほしいとお伝えしました」と町田さんは真摯な様子で言った。

克貴は思わず胸が熱くなった。

「案件にアサインするにあたって、言っておかなければならないことがある」とモーガン土井は克貴の方を向き直った。

「はい」

「町田くんに君の評価を聞いたが、他人思いで、努力家で頑張っているらしいな。だが、そんなことは当たり前だよ。今までの仕事ぶりを見ていると、君にはスケールを感じない。言われたことはやっているが、自分ができることはこれくらいだと、勝手にボーダーを決めている。諦めている態度が透けて見えるし、先を見据えられていない。実に小さくまとまっている。そんな人間に期待できるのかね、町田くん?」

克貴は胸がえぐられるような気持ちになった。機嫌が悪そうなことを割り引いても、モーガン土井の言っていることは的を射ていた。

何か町田さんが言い返してくれていたが、克貴の耳にはうまく入ってこなかった。

「それにな、他人思いだっていうのも表面的だよ。奥底の部分で人の言うことを聞けていない。俺が指示したときも反抗的な目をしていたし、聞いているように見えるが人を信用することができていない。ほら、今だってそうだ。本質的に信頼するということから遠ざかっている。他人との関係にも“譲れないボーダー”を引いてしまっている」とモーガン土井は言い放った。

言葉もなかった。いきなり正面から頭をたたかれた感覚だった。バラバラになった仮面の破片は克貴の心に突き刺さった。

ふたを開けてみれば、内実はそうだったのかもしれない。

たしかに克貴には人に対して深く関わることを避けているところがあった。それは父の不在が関係していた。父にすら気にかけてもらえなかったのだから、心を寄せた人もいつかは自分のもとから離れていってしまう気がしていた。

いつしか深く傷つかないよう、当たり障りなく他人と接することを覚えた。

いままでも克貴に関わろうとしてくれていた人たちは確かにいた。だが克貴は彼ら彼女らを表面的な笑顔で遠ざけていたのかもしれない。

コーヒー店員の葵もその一人だった。学生時代に出会っていたが、親密な雰囲気になりそうな一時を経て、距離を置いたことがあった。

だから人の話もいつも割り引いて聞いていた。他者からもらった言葉や気持ちも少し離れて眺めるだけで、自分の中に受け入れることはなかった。

あくまでも克貴は自分の仮面がはがれないようバランスを取っている、だがモーガン土井にはそれが透けて見えていたのだ。

ロンドン研修を経て成長していたつもりだったが、それは知識や経験が増えただけで、内面が成長したわけではなかったのだ。
※1 ロングテール戦略 人気商品だけに依存せず、ニッチで多品種な商品によって売上を作り上げる戦略

第十一章 切り札 前編につづく。2022/11/11更新予定です)


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