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クロスボーダー~外資系若手バンカーの葛藤~ 第四章 真っ赤な洗礼 前編


前回までのあらすじ〉
外資系投資銀行のドイチェガン証券株式会社IBD部門に入社した、小川克貴。華やかな入社式や新人研修を終え、とうとう仕事の現場に放り込まれた。そんな中、克貴はオフィス内にあるコーヒー店で、幼なじみの葵と再会する。葵に家族のことを聞かれた克貴は、改めて自分が投資銀行に入った理由に思いを馳せる。

〈著者Profile〉
ショー・ターライ
国立大学を卒業後、外資系投資銀行に入社。退職後は起業家として活躍している。
▶Twitter:@ShowTurai_Novel

 
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注:この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。

第四章 真っ赤な洗礼 前編

ディレクターのモーガン土井のデスクに呼び出された。ディレクターはマネージングディレクターに次いで位の高いタイトルだ。その次がVP(ヴァイスプレジデント)で、VPまでがシニアバンカーと呼ばれる。その下がアソシエイトで、新卒はアナリスト。この2つがジュニアバンカーだ。ジュニアバンカーはほとんど下積み期間といってもいい。

デスクには棚が設置され、ずしりと重そうな分厚い本や資料が並んでいた。モーガン土井は、ワシのような鋭い目をして資料とパソコンを見比べていた。

「明々後日の正午までに、記載の2社のカンプロを作成すること。前回作成したカンプロを参考にすること」とモーガン土井は手元の資料を広げながら言った。

「すみません、カンプロとはなんでしょうか?」と克貴は訊ねた。

「そんなことも知らないのか」と強い口調でモーガン土井は克貴に吐き捨てた。

「申し訳ありません」と克貴は弱々しく言った。

「何でもすぐ聞くな。自分で調べる習慣もないのか。それでも分からなければ、町田にでも聞くこと」と言い残し、モーガン土井はパソコンに向き直った。

気圧された克貴は、唇をかみながら町田さんのデスクへ向かった。デスクに町田さんの姿はなく、克貴は周囲を見まわした。

オフィスの端一列にいくつものルームが配置されている。そのルームは最高位のバンカーであるマネージングディレクターの部屋になっている。本をずらりと並べている部屋もあれば、トゥーム・ストーンを所狭しと陳列している部屋もある。プロスポーツのグッズを壁一面に貼り付けている部屋もあれば、無駄なものを一切排した部屋もあった。

ヘッドの秘書と目が合った。ヘッドは投資銀行日本支社のトップだ。気まずく目を逸らそうとすると、何やら指さして口をパクパクさせていた。町田さんの居場所を教えてくれているみたいだった。

秘書が教えてくれた場所に行くと町田さんを見つけることができた。先ほど町田さんと話をしたミーティングルームだ。失礼します、とドアを開けた。そしてすぐさま音を立てないように閉める。重さのある扉で気を付けないと床と擦れる音がしてしまうのだ。

町田さんは携帯電話を首と肩で挟み、誰かと電話しているようだった。

うっすら漏れてきた電話の相手の声は聞き覚えがある気がした。相手に有無を言わせないほど圧が強く、どこか心に引っ掛かる声だった。一瞬の音声は、克貴の記憶に到達する前にかき消えていった。

町田さんは扉を閉める克貴を見つけると、手を上げ「あと1分待って」というジェスチャーをした。

電話が終わるのを待つあいだ、先ほどの秘書が近づいてきた。

「小川くん、会社は慣れた?」

秘書は慣れた口調で克貴に話しかけた。恐らく40代で、いかにも仕事ができそうなきりっとした風貌をしていた。

「おかげさまで。少しずつですが」

「いろいろと覚えていかないといけないことがあるから頑張ってね。部屋に入るのも確認してからじゃないとだめよ。機密情報を扱うことが多い場所だからね」

「はい」と克貴は反省しながら言った。

「同僚同士でも案件の話をしたら駄目だから厳しいわよね」

「同じ部署の同期にもですか?」

「そうよ。違う案件をしていたらね。インサイダー情報になってしまうから」

「ウォールだけで分けているのかと思っていましたが、思っていたよりも厳しいですね」と克貴は言った。

ウォールというのは情報の壁のことだ。一般にチャイニーズ・ウォール、ファイア・ウォールが有名で、克貴も研修で聞いたときにはこの厳ついネーミングに投資銀行らしさを感じ、心躍ったものだった。

同じ証券会社の中でも投資銀行部門とマーケッツ部門の間で徹底的に情報を分けて管理をしている状態のことをチャイニーズ・ウォールと呼ぶ。情報を分けるためには、そもそも場所を別にするし、ドイチェガンの場合はオフィスの階から別途になっている。

ファイア・ウォールとは証券会社と銀行の間で、業務を分離して管理されているという状態だ。そもそもグループ会社であっても一個一個のエンティティ(※)は独立した会社になっている。

「そうね。頑張って」と秘書は笑顔を見せながら、他の秘書たちの輪へ入っていった。

「カツ、入ってきていいぞ」と町田さんが手招きをした。

「失礼します。先ほどは不用意に入ってしまいすみませんでした」

「おう、気にしなくていいぞ。次から気をつけろよ」

「ところでさっき話していた人は誰だったんですか?」

「他社の偉いバンカーだよ。シンジケート関係さ。ところで焦った顔をしてどうした?」

「はい、モーガンさんからカンプロを明々後日までに作るように言われたんですが、どう進めればいいか分からなくて」と克貴は町田さんにすがるように言った。

「どんな指示を受けた?」

さっきまでの町田さんは顔つきが変わったようにみえた。仕事のスイッチが入った音が聞こえた気がした。

「参考資料に従って2社分作ること、とだけ」と克貴はくぐもった声で言った。

「資料を見せてみろ」と町田さんは言うと、克貴が渡した資料に瞬時に目を通した。

「オーケー、把握した。まず、カツはこのカンプロを何のために作成しなければならないか分かるか?」

「分からないです」と克貴は肝を冷やしながら言った。

「なあ、仕事を受けるときは、第一にその仕事の目的を確認することだ。ただでさえ新人で全体像が分かっていないんだから、せめて何をやろうとしていて、そのためにどんなプロセスが必要なのかを、カツ自身が理解していないと」

「すみません」と下を向いた。町田さんの指摘はもっともだった。モーガン土井に圧倒されて、それ以上質問ができなかったのだ。分かったふりをして、町田さんを頼ればいいやと思ってしまった。

「このカンプロはな、1社はこれから営業提案しに行く会社で、1社はその企業の競合だ」

「はい、2社の種類は分かりましたが、それでプロとして何をすればいいのでしょうか?」

克貴の分かっているような、分からないような表情をいぶかしんで町田さんは、「ああ、そこからか」と声を漏らした。

「さてはカンプロの意味がよくわかっていないな?」と町田さんは言った。

「はい、カンプロは完璧にプロフェッショナルな資料を作るという意味でしょうか?」と克貴は恐る恐るたずねた。

「ははは、単純だよ。カンパニー・プロファイルのことさ。要は会社概要を調べて資料に落とす作業さ」

「はい」と克貴は町田さんから学び取ろうと必死にメモを書きなぐった。

「参考資料があるだろ。このフォーマット通りに会社情報を集めて、加工するのがカンプロだよ。ほら、会社の基本情報、財務、株価、株主構成、製品・サービス、事業セグメント、戦略、アナリストレポートのコメントなどの情報があるだろ。これを調べて、グラフや表の形に加工していくんだよ」

「これ全部を一から調べてですか? めっちゃ多いですね、明々後日の昼じゃとても終わらなさそうです……」

「頑張ることだな。若手の仕事としては王道だから良い機会だよ。具体的に、どう調べたらいいか分からないところはあるか?」

「最低限、株価チャートの作り方はブルームバーグ研修に行ったときに教わりましたが、ブルームバーグ以外を使わないといけないことはありますか?」

ブルームバーグというのは金融情報を発信しているメディアだ。市場動向やレポートなど金融に関するあらゆる情報が、ブルームバーグ専用のPC端末上で閲覧することができる。

「当然、会社の基本情報は一次情報で集めてくることだな。つまり会社の公式ホームページのIR資料から引用しなくちゃいけない。株価なんかの市場情報や、アナリストレポートの評価なんかは別の媒体で調べろよ。ブルームバーグやファクトセット、トムソンロイター、キャピタルアイキュー、日経テレコンなど会社で使っているさまざまな媒体があるから、使いこなせるようにならないとな。あとで新卒集めて教えてやるよ」

「ありがとうございます」

「それとな、この参考資料作成に使用したエクセルとパワポも送っとくよ。コピーして使いな。で、分からないことがあれば遠慮なく聞いてこい」

「ありがとうございます。あの、もし町田さんが2社のカンプロを作るとしたらどれくらいでできるものなんですか?」

「まあ俺なら2社は一瞬だな。誰かが一服しに行って、弁当買ってくるうちには終わるだろうな。昔なんて一晩で50社のカンプロ作れなんて言われたこともあったしな」と町田さんは笑って答えた。

※エンティティ legal entity(法人格)を指す。投資銀行などでは支店・子会社・部門、など、現地の許認可や法規制に応じて別法人として設立・運営されている組織構造を指す。

第四章 真っ赤な洗礼 後編につづく。2022/4/29更新予定です)
 


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