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クロスボーダー~外資系若手バンカーの葛藤~ 最終章 クロスボーダー 後編

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前回までのあらすじ〉
外資系投資銀行のドイチェガン証券株式会社投資銀行部門(IBD)で働く小川克貴。克貴がアサインされていた教育系企業、ドリーバのM&A案件は紆余(うよ)曲折の末、成功した。だがそれは、バンカーの父・冨神貴毅のおかげだったこと、さらに同期の高嶺が自分の異母兄弟だということを知る。克貴は彼を探しに渓谷まで行き、自分たちの関係を伝えた。

〈著者Profile〉
ショー・ターライ
国立大学を卒業後、外資系投資銀行に入社。退職後は起業家として活躍している。
▶Twitter:@ShowTurai_Novel

 
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注:この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。

最終章 クロスボーダー 後編

「なあ、このままここに朝までいないか?」と高嶺は言った。克貴は驚いたが、すぐに笑った。高嶺からの初めての歩み寄りだった。

無数の生物たちの息遣いが聞こえるような夜の時間が訪れた。しんとした空気の中、無限の世界を感じさせるような星空が飛び込んでくる。

「寒いな」と克貴は言った。

ごぞごそとかばんをあさり、高嶺は褐色がかったボトルを取り出した。

「飲むか?」と高嶺は目を細めながら一口飲んで見せた。

「ああ」と克貴はそのボトルを受け取った。

「こうやって飲むのも初めてだな」と高嶺はしみじみと言った。

「なかなかの度数だな」と克貴は笑った。

克貴はかばんから水筒を探しだした。「割っていいか」と言い終わらぬうちに克貴はそのウイスキーを手のひらに注ぎ、水筒の氷水を混ぜた。

「それ俺もやっていいか」と高嶺は同じようにしながら克貴に言った。克貴は自分の手のひらに割った液体を載せながら、高嶺にも氷水を注いだ。

「儀式みたいだね」と克貴は言った。

「兄弟の?」と高嶺ははっきりとそう言った。

そして克貴と高嶺は手のひらの酒をこぼさぬよう腕をクロスさせた。克貴は高嶺の、高嶺は克貴の口元へ杯にした手のひらを持っていった。

手の温もりで氷水は溶けつつあり、口の中で完全に溶けた。

「儀式だったな」と高嶺はしみじみと言った。

「そうだな」と克貴は眉を上げて高嶺を見据えた。

「克貴のことはなぜか意識せずにはいられない同期だった。他の同期とは違った。オフィスを去ってから、キャリアが終わり、すべてが終わったと思っていた。もう決定的な隔たりができて、戻れないのだと思った」と高嶺は低い声で言った。

「同期という関係はずっと変わらないし、僕らが兄弟だということも変わらない」

「克貴が兄弟で、冨神貴毅が父親という事実に衝撃を受けながらも、どこか受け入れている自分がいる。生と死、キャリアの分岐点、父、兄弟と出会い直した一日だった」と高嶺は静かに言った。

そして2人は並んで寝ころんだ。

朝日が光の粒となって2人を照らした。

夜を越え、他人から同期へ、同期から兄弟へ、ボーダーを越えたのかもしれない。

「俺のバリュエーションは、お前に負けているかもな」

「まだ分からないさ、将来価値はこれから作っていけるからな」と克貴は言った。

「ただ俺はもうレールから外れてしまった」と高嶺は言った。

「僕らは事業計画通りに生きているわけじゃない。血の通った人間だし、ときには迷いもするし、感情のまま動いてしまうことだってある。レールなんて誰かが通ったことがある道。それだけのことさ」

「これからのことは何も決まっていないんだ」

「選択肢が広がっている分、オプション価値は上がっているともいえるよ」

「ゼロになるかもしれないけど」と高嶺が弱々しく笑った。あの高嶺が弱音を吐いている。克貴はそれがうれしかった。今までの高嶺は決して克貴にできないところを見せなかったし、どんなときでも優位に立とうと必死だった。それなのに。

「まだ僕たちは始まったばかり。今日の自分が人生で一番若いのだから。投資銀行だけがキャリアの正解じゃない。まだ知らないだけで可能性は無限大だよ」

「そうだな」

高嶺はどこかすっきりしたような清々しい表情をしていた。

おもむろに克貴は上品な赤紫色の封筒を取り出した。

中身は2枚の名刺と、父からの手紙だった。1枚はしつらえの良い上質な和紙を使った名刺だった。もう1枚はカラフルで今にも動き出しそうな名刺だった。

それによると、その名刺の持ち主である2人はそれぞれ業界で有名な会社の社長で、父の大学同期らしかった。1人は男性、1人は女性だった。一度、克貴と高嶺、その2人の社長と4人で会ってみるといいとのことだった。

父にも学生時代があり、自分たちと同じように青春時代があったのだ。なかなか想像はできなかったが、そう思うと感慨深かった。

男性のほうが経営している会社は、企業としての新たなコンセプトを作るという業務内容らしく、企業がこれまでしてきたことや彼らの哲学をまとめ直し、未来の方向性を発信していくものだった。買収や合併した2つ以上の企業間のつながりをドラマティックに言葉で定義していくコンサルティングがメインらしい。

女性の方は、企業イメージをブランディングする会社で、PRのアイデアの斬新さが評価されているらしい。街を巻き込んだり、異なる業界のコラボレーション企画だったり、映像、インスタレーション、体験イベントなどさまざまな手法を用いてブランディングをする会社だった。

この2人はよくタッグを組んで仕事をしているらしい。

時には父が担当していたM&A案件の成立後、彼らへパスし、3人で動かしていたようだった。

克貴はPMI(※)まで提案しなければM&Aはサステナブルではないと感じていたところだった。

高嶺に意見を聞くと、彼は企業と企業をつなげ、新たなかたちを作っていくことに引かれているらしい。

そしてM&Aなどを通して、企業の経営層と関わることは続けたいとのことだった。

「会いに行こう」

谷から抜け出そう。この渓谷を上る。階段が封鎖されている。整備された道は閉ざされている。

ならば、ない道をいこう。道を作ろう。高嶺は足をすべらせた、でも克貴が手を伸ばした。

高嶺は一瞬手をひっこめた。だが最終的に克貴の手を取った。そうして2人で谷を上がりきると、目の前に湖が広がっていた。

谷上の景色は渓谷に降りる前と同じはずなのに、見たことがなかった。

朝まで夜通しで語り合い疲れ果てた身体を二人して地面に投げ出した。

眼前には水鏡に映った空が境界もなく広がり、果てしなく光芒(こうぼう)が放たれていた。

※PMI Post Merger Integrationの略。M&A後の経営統合プロセスのこと。新経営体制・新経営ビジョンの構築、実現に向けた計画策定、人事・経理・ITシステムの統合などを指す

(完)ご愛読ありがとうございました。

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