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sponsored by モルガン・スタンレー
2019年12月17日、モルガン・スタンレーが主幹事の一社となり、freee株式会社のグローバルIPOを実現した。日本のSaaS(Software as a Service)企業では初となるグローバルIPO、その裏側には数多くのイノベーティブなチャレンジがあったという。
今回話を聞いたのは、カバレッジバンカーとして案件全体のコーディネーションを担った川崎淳之介氏、トランザクション・マネジメント・グループでリスクコントロールを取り仕切った野本正子氏、資本市場統括本部で主に投資家とのコミュニケーションを推し進めた藤井大輔氏、そしてモルガン・スタンレーの投資銀行部門からfreeeのファイナンス統括執行役員へと転身した原昌大氏の4人。
グローバルIPOの狙いや背景に加え、モルガン・スタンレーならではのサポートや、投資銀行のバンカーに求められるスキルとスタンスについても語ってもらった。
※内容や肩書は2022年6月の記事公開当時のものです。
グローバルでの知見をベースに、独自のアイデアを生み出していく
――freeeさんは2019年12月に国内のSaaS企業初となるグローバルIPOを実現されました。その時の主幹事の一社がモルガン・スタンレーだと伺っていますが、当時のことを少し振り返っていただけますか?
原:まず、freeeは会計ソフトや人事労務のクラウドERP(基幹システム)をスモールビジネス向けに提供している会社です。いわゆるSaaSビジネスということになりますが、SaaSの本場は北米を中心とした海外なんですね。
だからこそ海外の投資家にfreeeのビジネスモデルが認められるかを確認したかったし、彼らのフィードバックを得ながら成長していきたいと考えていました。なぜIPOでグローバルを選んだかというと、日本だけでなく海外の、SaaSを熟知した投資家からアドバイスをもらいたかったからという思いに尽きますね。
freeeとモルガン・スタンレーの付き合いという意味では、IPOの約2年前に上場プロジェクトのキックオフを行っており、そこからサポートしていただいています。私自身は、キックオフの時はまだfreeeに入社する前で、実はここにいるお三方と同じくモルガン・スタンレーに勤務していました。
――モルガン・スタンレー側で、freeeさんを担当していたということですか?
原:そういうわけではありません。私の担当は別の業界でした。たまたまfreeeから採用の話をもらってマネジメントと話してみたところ、これは面白い会社だと思い転職を決意したという経緯です。入社したのは上場の半年ぐらい前でした。
――上場にあたってモルガン・スタンレーがパートナーに選ばれた理由を、カバレッジバンカーである川崎さんはどう捉えていますか?
川崎:プロジェクトをスタートした2017年はまだSaaSという領域も今ほど注目されていなかったのですが、freeeさんの話を聞いたり我々なりに調べたりした結果、間違いなく日本を代表するスタートアップになっていくだろうという確信を持っていました。
原さんの話にもあった通り、先方は世界中の投資家を視野に入れておられたようですし、我々としてもこれからの日本経済をけん引する存在になっていただくために、グローバルIPOに向けたチャレンジをしていきましょうとご提案していたので、そのあたりが選んでいただけた要因なのかなと感じています。
原:アメリカをはじめとしたグローバルでのネットワークや知見を持っているモルガン・スタンレーの存在は非常に心強いですし、海外の事例をただなぞるのではなく、独自のアイデアを数多く提案してくれることもポイントです。
川崎さんとはモルガン・スタンレー時代も同じフロアで仕事をしていたのですが、発行体サイドに移って案件を依頼する立場になり、改めて相当勉強している人なんだなと驚きました(笑)。
イノベーティブな取り組みには、適切なリスクマネジメントも欠かせない
――「独自のアイデア」というのは、例えばどういったものなんでしょうか?
川崎:まず前提としてお伝えしておくと、我々が一方的に提案したというよりは、freeeの皆さんと深く議論させていただく中でいくつかの方向性が見えてきたという流れです。カバレッジバンカーというのは顧客企業の窓口であり、プロジェクト全体をリードしていく立場なのですが、中長期にわたって真剣に意見交換できたのは非常に貴重な経験だったと思っています。
独自の取り組みとして一つ挙げられるのは、それまで日本のSaaS企業がほぼ公開してこなかったKPIの開示です。単に売り上げとコストを記載したP/L(損益計算書)ではなく、ARR(年間経常収益)やその内訳としてのカスタマー数とカスタマーあたりの平均単価、解約率などを開示したのは日本初だったのではないでしょうか。
原:SaaSビジネスの先進国であるアメリカでは、ここまで開示するのがスタンダードなんですね。細かい数字を出すことは競合企業に参考にされてしまうリスクもあるのですが、海外の投資家さんに前向きに検討してもらうためには不可欠な施策だったと考えています。IPO前に実際に訪問した投資家の方からも、「freeeの開示なら、アメリカのSaaS企業ともフラットに比較検討できる」と、非常にポジティブなリアクションをいただきました。
野本:freeeさんは、急成長中のスタートアップとして先行投資に注力している時期だったので、決算上は赤字での上場になりました。そうすると、黒字を積み重ねてきた企業とは異なる指標、しかもSaaS企業にとって重要なポイントとなる数字を開示して、将来の可能性を信じてもらう必要があるわけです。
ただ、現在のARRや解約率が、未来永劫そのまま継続するという保証はどこにもありません。そこで私たちトランザクション・マネジメント・グループでは、案件に関するドキュメンテーションやリーガルチェックを、弁護士などの各関係者と連携して実行しました。
万が一目標数値を達成できなかった時にはどんなリスクがあるのか、そういったリスクをどうやってヘッジしておくのか。無謀なチャレンジにGOを出すことはできませんし、法律家が「できません」ということを鵜呑みにしてクライアントの機会を奪うわけにもいきません。イノベーティブな案件であればあるほど、適切なリスクマネジメントも重要なファンクションになってきます。
freeeさんのIPOではIOI(Indication of Interest)という手法もほぼ日本で初めて取り入れたのですが、国内外における開示の整合性をどう整理するのかも重要な論点でしたね。
「本当に実現できるのか」と思われるほどの挑戦も、責任を持ってやり遂げる
――IOIについても詳しく教えてください。
藤井:そこは私からご説明します。私の所属する資本市場統括本部は、freeeさんの魅力をどんな投資家にどうやって伝えていくか、最終的にいくらの価格を付けるのかといったところをサポートしていくチームです。
平たく言うとマーケティング戦略ということになりますが、これは上場のタイミングだけで完結するものではありません。半年から1年ほどかけて、ベストなターゲットやストーリーを練り上げていきます。投資家の中にも先進的な方もいれば、周りの動きを見ながら投資の有無を決めるフォロワータイプの方もいるので、それぞれに合ったアプローチが求められる。そこで取り入れたのが、IOIという手法です。
IOIとはIndication of Interest、つまり興味の表明ですね。どんな投資家が、freeeさんの新規株式に興味を持っているのか。上場に当たっては対象企業の事業内容や条件をまとめた目論見書を作成するのですが、その表紙に、freeeさんに関心を持っている著名な投資家の名前や、その投資家がどれぐらい株を買う予定かといった情報を記載したのです。
狙いはもちろん「あの人が買うなら」という安心感を持ってもらうこと。海外ではいくつか事例がありましたが、日本ではfreeeさんが初めての試みです。日本と欧米では法規制も違うので難しい部分もあったのですが、野本や弁護士とともに慎重に進めていきました。
原:藤井さんから電話でご提案いただいた日のことは今でも覚えています。最初は本当にできるのかと疑問もありましたが、最後までやり切ってもらって大変感謝しています。前例はないし壁も多いし、普通に考えたらこのアイデアは出ないでしょう。当社が前例にとらわれず新しいことにチャレンジするのが好きな会社だと分かっていただいた上で、提案してくださったんだろうと思っています。
藤井:そうですね、新しければいいというものでもありませんが、西海岸のグローバルチームと「何かクリエイティブなことはできないか」とフランクな議論をしている中で出てきたアイデアです。もちろん実現可能性をきちんと検証した上でお電話させてもらいました。freeeさんの事例が登場した後は、日本でもIOIを取り入れる企業がいくつか出てきています。
――国内SaaS企業初のグローバルIPOという事例の中に、さまざまな日本初のチャレンジがあったのですね。
原:IPOだけでなく、上場から約1年半後に実施した海外公募増資も日本では珍しい要素が含まれていました。将来のM&Aに向けて資金を準備しておくことが主目的の取り組みです。当社の規模では、資金が必要になったタイミングで動き始めても金融機関から大規模な借り入れを実現するのは難しいですから、将来の待機資金を公募増資で調達するという手法を採用しました。お三方には、上場後の追加の資金調達や投資家とのコミュニケーションについても頻繁にご相談しています。
川崎:モルガン・スタンレーとしては、IPOのサポートだけをやっているわけではありませんからね。長期にわたってクライアントのグローバル成長をご支援できることもこの仕事の大きなやりがいです。
年齢はまったく問題ではない。誠実で、知的好奇心の溢れる人へ
――発行体サイドに移った原さんから見て、モルガン・スタンレーの強みはどんなところだと思いますか?
原:まずはグローバルレベルでの業界やプロダクトの知見を持ったバンカーが密に寄り添ってくれること。IOI一つとっても、グローバルでの経験やノウハウを持った方でなければ思いつくことさえできないでしょう。業界やプロダクトに関する深い知識を有しているチームがすぐ近くにいてくれるというのは、非常に心強いですね。
あとは、メイン担当者だけでなくジュニアバンカーの顔が見られることも安心感につながっています。証券会社によっては川崎さんぐらいのシニアの方しかクライアントと直接話さない会社もあるのですが、モルガン・スタンレーはそうではない。複数人で対応してくれる方が、プロジェクトの最中で急にコンタクトを取りたいときでも連絡がつきやすいですし、若手であっても責任感を持って仕事をしてくださっているんだと実感します。
野本:詳細な調べものなどはジュニアバンカーが担当することも多いので、逆に彼らの方が詳しく話せることもあるわけです。直接クライアントと接することで責任感も持てますし、学んだことを自分の言葉に咀嚼してご説明する経験は、育成という意味でも大変有意義だと考えています。
川崎:上場前に原さんと海外の投資家を回った時も、当時のジュニアバンカーも一緒に行きましたよね。
原:岩田さんですね、とても頼りになる方です。一度「この人は信頼できる」と思えば、直接こちらからご連絡するようにもなりますし、年齢やタイトルは問題ではありません。
――モルガン・スタンレーの求める人物像や、この仕事に向いている人の特徴を教えてください。
藤井:膨大な知識が求められる上に、ものすごいスピードで情報を処理しなければならないので、知的なタフネスは必要だと思います。それを辛いと感じるのではなく、新しい領域に取り組むことを楽しめるような好奇心旺盛な方に来てもらえるといいですね。
野本:そういう挑戦を楽しむためには、一人で物事を抱えないことが大切です。モルガン・スタンレーはフラットな組織ですし、いつでも気軽に質問してきてほしい。分からないまま時間を過ごすよりも、今すぐ聞いて前進する方がお互いに健全ですよね。年次が上の人間も、忙しいからといって突っぱねることは決してありません。
原:モルガン・スタンレーに入って間もないころ、野本さんに質問しに行ったら、こちらの予想以上に時間をかけて丁寧に教えてくださったことを覚えています。
川崎:私は若いうちから圧倒的な成長を遂げたい人が向いていると思います。簡単な仕事ではありませんが、だからこそ乗り越えた時には成長できる。ジュニアでも任される範囲は大きいですし、幅広く経験しながら成長したい方はぜひご検討ください。
原:大事な要素はほとんど言ってもらったので、発行体サイドからの意見を一つだけ補足すると、誠実性は投資銀行で働く際の必須要件だと思います。企業が証券会社に相談する内容には、かなり機密性の高い情報が含まれるので。これからも、信用できるバンカーの方とインタラクティブに議論しながら共に成長していきたいですね。
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