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※こちらの記事は、弊社が運営する若手プロフェッショナル向けキャリアアップ支援サービス「Liiga(リーガ)」からの転載となっております。
はじめに
今回は金融業界での経験・人脈を生かして人材紹介を行っているエグゼリンク株式会社代表・李淳一氏へのインタビュー、第2弾です。
第1回では、リーマンショックや金融規制を受けた外資系投資銀行業界の動向について、ご自身がインサイダーだった経験を踏まえて話して頂きました。
その続きとなる第2回では、日系証券会社業界の動向や、日系企業と外資企業でのキャリアパスの違いとそれぞれの利点について、採用市場の動向も踏まえつつ、語っていただいています。
ぜひご覧下さい。
第1回「外資系投資銀行のリアル」
第3回「PEファンドに必要な「熱意」をはき違えるな」
日系証券会社の採用枠の拡大
―外資系投資銀行は採用枠を減らしており、転職のハードルが非常に高くなっているとのことでした。外資系投資銀行でキャリアを積みたいと考えている人はどうすればいいでしょうか。
2014年頃からからアベノミクスの影響もあって国内の日系証券会社、監査法人系FASなどコンサルティング系の会社が急速に人材採用拡大を始め、外資系が縮小傾向にある中、外資から出てくる人材の大きな受け皿となっています。
また大手国内証券では特にIBD部門のグローバル化と強化が図られ、野村證券のリーマン買収をはじめ、海外大手投資銀行や海外大手独立系投資銀行との提携などの動きが盛んで、社内の制度や年収体系、カルチャーも含めて急速なグローバル化が進んでいます。
これを踏まえると、外資系投資銀行を志望する方は合わせて国内大手証券会社の投資銀行部門なども検討すべきではと思います。
―日系証券会社はアベノミクスのおかげで採用枠を拡大しているのですね。
アベノミクスによる株価の上昇と連動している部分は大きいと思います。お話ししたように、国内証券会社では急速なグローバル化がすすめられてはいるのですが、やはり従来からの収益構造は続いていて、ここ数年の採用拡大の動きは日本株の上昇による収益拡大によるところが大きいと思います。今の市場の状況を考えるとまだまだ求人拡大は続くように思います。
「外銀の選考に落ちた」=「無能」ではない
―それでは結局、外資投資銀行の代替候補として有望なのは制度や組織、カルチャー面でグローバル化の進んだ国内証券会社だということですね。
そうですね。例えば証券会社買収時の経緯で米系大手投資銀行の人材が大量に異動してきた大手銀行系証券会社では、米系投資銀行のカルチャーも色濃く反映されていますし、現在も採用枠を増やしています。
給与体系も当該米系投資銀行出身者用に特別な体系を用意しており、それを専門性が高い人の中途採用にも当てはめています。この特定枠の中途採用は、もともとは外資系投資銀行にいた人のためです。
しかし、外資系投資銀行での経験のない人が特定枠で入社できないわけではありません。実際、私が数年前に転職をサポートした2名は、全くの投資銀行未経験者でしたが、特定枠への転職に成功しています。1人は会計士で、もう1人はFASでバリュエーションを務めていた方でした。彼らは社内で大活躍し2人とも今ではバイサイドに移っています。
このように段階を踏んでキャリアアップしていくことは非常に良いやり方だと思います。例えば、米系や欧州系大手投資銀行への転職がうまくいかず他にも外資系投資銀行を何社も断られ、「自分は無能なのだ」と自信をなくす人がいますが、そんなことはありません。能力以前に、そもそも採用環境がかなり変化しているのです。
―外資系投資銀行を狙うだけでなく、日系証券会社の特定専門枠を狙うこともキャリアの選択肢として十分に考えられる、ということですね。
特定専門枠でなくとも、日系証券会社で経験を積まれた方で、バイサイドや外資系投資銀行への転職をサポートしたことがあります。例えば2014年から翌年にかけて、某日系証券会社から、ある大手米系投資銀行に2名転職しました。採用担当者曰く、その日系証券会社から採用したのは初めてだったそうです。
転職が成功したのはなんと言っても、候補者の方々のスキルが相当高かったからです。つまり、日系証券会社でもスキルの向上は十分に可能だということです。
逆に例えば、新卒で外資系投資銀行に就職できなかった方が、1年間のみの社会人経験ののちに外資系投資銀行に転職することは至難の業だと思います。社会人として最低でも3~5年程修行して、その間にスキルを積む必要があります。
また、外資系金融機関に入社すれば必ずスキルアップができるのかと言うと、そんなこともありません。よく誤解されているのですが、外資系投資銀行に行っても、人によってはかえってスキルアップができない場合があります。
外資系投資銀行が必ずしもキャリアの最適解ではない
―外資系投資銀行でスキルアップできない方がいるというのは、なぜでしょうか。
外資系投資銀行では、手数料を最低4百万ドル (44000万円以上)からという非常に高い基準を社内ルールで決めているところがほとんどです。つまり外資系投資銀行が請け負うのは、数千億単位の超大型案件に限定しているということです。
しかしそのような大きな案件は年間何件も起こるというわけではありません。しかもその数件を、何社もの世界トップクラスの投資銀行や国内に絶対的な強みを持つ数々の大手証券会社などと取り合う構図になります。
そうした場合、外資系投資銀行に転職した時、在籍中にいくつの案件に遭遇できるでしょうか。最大手の投資銀行でしたら世界トップクラスのグローバルネットワークや看板もあり、心配ないかもしれません。しかしそれ以外の投資銀行となると、1年間案件が取れなかったということも起こり得ますし、そうでなくても実際クローズまで行きつく案件はなかなか少ないのではと思われます。
―なるほど。案件を経験したいのなら、外資系投資銀行の中でも最大手を目指す必要があるということですね。
はい。しかし日系証券会社でしたら数多くの案件に携わることができます。日系最大手証券会社の国内シェアは、元々M&A、引受ともに断トツのトップで、外資系投資銀行も寄せ付けないほどでした。某銀行系証券では銀行の顧客網から多くの案件が入ってきて、今ではその最大手証券会社に迫る勢いです。
また、米系大手投資銀行とのジョイントベンチャーを運営している別の銀行系証券では、当該米系投資銀行のグローバル力と国内銀行系証券の強みをフルにレバレッジした結果、ここ数年はランキングトップに躍り出るなど各社熾烈な競争を行い、切磋琢磨しています。
「案件を数多く経験して様々なスキルを身につけたい」、「多様なM&Aアドバイザリーを経験したい」、「M&Aアドバイザリーだけでなくエクイティ・ファイナンスも経験してみたい」と希望される方は、圧倒的に大手日系証券会社の方が色々な経験ができると思います。
―日系証券会社、外資系投資銀行、それぞれに長所があり、外資系投資銀行が成長環境として優れているとは一概に言えないわけですね。
はい。外資系投資銀行の場合、入社後は本当に厳しいです。「教えてくれる」、「僕は学びたいと思います」と言うような受動的な人は必要とされません。基本的には「何でも自分でやってくれ」というスタンスなのです。
外資系投資銀行では新卒で入った未経験者にもすぐに仕事が与えられ、「じゃこれ明日の朝まで」と突然言われることがあります。この時新卒とは言え、手取り足取り教えてもらえるわけではありません。極端に言えばOJT以外の研修もありません。この状態の中で新卒者は皆手探りで仕事をやっているのです。この時、新卒でも手探りで、的を射た仕事をこなした者は選ばれ、これについてこられない人は落とされます。
日本人的な心情からすると残酷なやり方ですが、非常に合理的です。崖から落とし、そこから這い上がれた人のみに仕事を与えるという発想ですね。これを数値化し、「成績下位の5%を毎年必ず切る」と明言している会社もあります。
外資系投資銀行のようなシビアな環境にいる人達は、激しい競争環境にいるので、少しでも時間があれば成果を出そうとします。午前三時退社が多いのはこのためです。
―それでも転職市場では外資系投資銀行を強く志望される方もいらっしゃいます。
競争に耐えられる方で、実際に転職することができるのであれば、私は外資系のIBDでの経験は大きなプラスになると思います。
外資系、特に米系は世界のIBD市場では今でも圧倒的な強さを誇っています。その意味では、トップクラスの投資銀行の世界を体験できるわけですから、やはり全然違います。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
転職市場の動向を踏まえて、日系金融機関と外資系金融機関でキャリアの積み方について、働き方や案件数など具体的な論点から比較してくださった李氏の説明は、参考になったのではないでしょうか。
特に日系、外資系と単純に二分せず、外資系の企業文化が流入している日系企業の特定枠を狙う視点は、盲点だったのではないでしょうか。
次回は日本のPEファンド業界の動向、若手がPEファンドに転職する上で求められる資質やPEファンドへのキャリアパスについて教えてくださいます。
ぜひご覧下さい。
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