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『頭がいい人のChatGPT&Copilotの使い方』。今春発売された同書は、生成AIの指南書として人気を集めている。著者は、デジタルハリウッド大学教授で、生成AIプログラムの開発に携わる橋本大也さんだ。AIスタートアップの創業者でもある橋本さんは、生成AIがソフトウェアエンジニアに与える影響について、どうみているのか。生成AIが社会に普及する時代に、エンジニアのキャリアをどう考えるべきか。橋本さんに見解を聞いた。【亀松太郎】
※内容や肩書は2024年8月の記事公開当時のものです。
1. コンピューターはもともと「人」だった
2. 誰もが「優秀なアシスタント」を雇えるように
3. AI時代のエンジニアに求められるスキル
4. エンジニア志望の学生へのアドバイス
コンピューターはもともと「人」だった
——橋本さんの著書『頭がいい人のChatGPT&Copilotの使い方』の中に、「AIに人間の仕事が奪われる」と心配する意見があります、という記述が出てきます。よく聞く話ですが、ソフトウェアエンジニアという職種についても、なくなる仕事があるのでしょうか。
橋本:たくさんあるでしょう。でも、ソフトウェアエンジニアの世界はコンピューターが登場したころから、それがずっと続いていますから。継続学習で新しいことを覚えていくことが常に求められてきました。
——コンピューターやインターネットの世界は「新しい技術を覚えないと仕事がなくなってしまう」という意味では、昔から変わらないと。
橋本:そうですね。そもそも「コンピューター(Computer)」という言葉自体が、昔は「人」を指していたんですよ。
——そうなんですね。
橋本:「Computer」というのは英語で「計算する人」という意味です。ミサイルの弾道を把握するために複雑な計算をする必要があって、Computerと呼ばれる職業の人たちがその計算をしていた。当時のComputerは女性が多かったそうです。その後、真空管や半導体を使ったコンピューターが出てきて、人の役割を奪ったので、Computerという職業はなくなってしまったんです。
——コンピューターの歴史はそうして始まったんですね。
橋本:インターネットの世界も同様です。5年や10年で技術のトレンドがどんどん入れ替わる歴史を繰り返してきました。インターネットが社会に広がり始めた1990年代の終わりごろは、HTMLが書けるだけで花形のクリエイターとしてもてはやされました。でも、いまはソフトウェアで簡単にウェブサイトを作ることができるので、HTMLのタグを覚えるだけでは、あまりお金をもらえません。
誰もが「優秀なアシスタント」を雇えるように
——ただ、コンピューターの技術が常に進化しているとしても、最近の生成AIのインパクトはひときわ大きいように感じられます。ソフトウェアエンジニアの仕事にどんな影響があるでしょうか。
橋本:私も生成AIのインパクトは、コンピューターやインターネットが普及し始めたころに匹敵すると感じています。いくつかの影響がありますが、誰もが「優秀なアシスタント」を雇えるようになったといえます。
——どんなアシスタントでしょう。
橋本:現在の生成AIが作れるプログラムは、せいぜい数十行のサンプルコードみたいなもので、実際にビジネスで使えるような何万行ものプログラムは作れません。しかし、大きなシステムを作る能力をもったエンジニアが「ごく当たり前のコーディング」を自動化するという点で生成AIは優れています。
つまり、エンジニアが生成AIに短いプログラムを書かせて、そのパーツを組み立てて、動くものにしていく。そこでは、アーキテクトの視点、ディレクターの視点が重要になってきます。
——大きなシステム全体を設計するのが、人間の役割ということですね。
橋本:ディレクターとしては、プログラムで「できること」と「できないこと」が理解できていないと、生成AIに正しいプログラムを書かせることができません。もし生成AIが間違ったプログラムを書いたら、指摘できないといけない。だから、これまで通り、プログラムの知識は重要だと思います。
——いまは生成AIが書けるプログラムが数十行だとしても、今後、書ける量が増えていく可能性はありますか。
橋本:可能性は十分あります。どんどん高度になっていくでしょう。もともとプログラミングの世界は、あるプログラムの全体を一から書いているわけではなく、必要に応じて既存のライブラリを呼び出して、それを組み合わせて大きなプログラムを作っています。ライブラリが充実するにつれて、エンジニアの役割もどんどん高次化していきました。
生成AIの活用も似たところがありますが、ソフトウェアのニーズがさらに高度化していくので、生成AIを使ってパワーアップしたエンジニアたちが、もっと複雑なシステムを作っていくのだろうと思います。
AI時代のエンジニアに求められるスキル
——生成AIが人間の代わりにプログラムを書いてくれる世界では、エンジニアにどんな素養が求められるでしょうか。
橋本:必須といえるのは、機械学習の知識です。統計の専門家になる必要はないですが、Pythonを使って機械学習の作業を一通りできるようにしておくべきでしょう。
——生成AIのベースとなっている機械学習の原理を知っておくべきということですか。
橋本:機械学習の原理も重要ですが、実際に機械学習を実施するためのコードをPythonで書ける能力があったほうがいい。なぜなら、今後、個々のビジネスに合った「独自のAI」を作って、そのAIに学習させる仕事が増えていくとみられるからです。そうなると、単なるユーザーとしての知識だけでは不十分です。
——機械学習の知識のほかに、これからのエンジニアに求められる能力はありますか。
橋本:どんな組織で働くかによって変わってきます。多数のユーザーを対象にしたサービスは、大きな組織で開発する場合が多いですが、そこでは人間とのコミュニケーション能力が重要です。
新規サービスを開発するときには、天才的なクリエイティビティをもったエンジニアも必要ですが、それはごく一部。ほとんどは、他のメンバーときちんとコミュニケーションしながら期日まで成果物に仕上げる「生産的なエンジニア」であることが求められます。
——エンジニアというと、コンピューターは大好きだけど人間とのコミュニケーションは苦手な「ギーク」というイメージがあったんですが、そうでもないんですね。
橋本:エンジニアの文化は以前とだいぶ変わっていて、いまはどのテック企業もコミュニケーションを重視しています。少人数のスタートアップならば、プログラミングスキルだけでも良いかもしれませんが。
エンジニア志望の学生へのアドバイス
——ソフトウェアエンジニアを志望する学生にアドバイスをお願いします。
橋本:さきほど挙げたPythonに加えて重要なのは「英語」ですね。私が教えている学生には「英語とPythonを学んでおけば、10年くらいは大丈夫」と言っています。
——生成AIのおかげで、英語の文章を簡単に読めるようになりました。生成AIへの指示も日本語でできます。それでも英語を勉強したほうがいいですか。
橋本:生成AIの能力は、英語で指示した場合と日本語で指示した場合で大きく違います。英語のほうが断然、優れているので、英語で使ったほうがいいんです。
——英語のほうが精度がいいのは、なぜですか。
橋本:AIの学習量が全然違うからですね。一説によると、英語と日本語の学習量は20倍ぐらい違う、という話もあります。
——そうなると、やっぱり英語を勉強したほうが良さそうですね。
橋本:英語を身につければ、「海外で働ける」というメリットもあります。円安の影響で、他の仕事も海外との賃金格差が広がっていますが、特にエンジニアの世界は日本と海外で天と地の差になっています。海外の会社で働けるならば、それにこしたことはないでしょう。
——英語以外については、なにか助言はありますか。
橋本:最新のテクノロジーで遊んでおけ、ということですね。テクノロジーの進化は速いので、どんどん新しいものが出てくる。それを見逃さないで面白がる姿勢が重要です。たとえば、生成AIについても、ブームになり始めた2年くらい前から「生成AIがすごい!」と言って手を動かしていたエンジニアが、いまいいポジションにいると思います。
——学生は社会人に比べれば時間的な余裕があると思うので、そういう時期にできるだけ新しいものに触れておくというのが良いということですね。
橋本:もう一つ、生成AIを監督するアーキテクトとしての立場を目指すならば、いろいろなプログラムを見ておくといいでしょう。アーキテクトには、生成AIよりも豊かな見識が求められますから。生成AIが作ったプログラムについて、他のパターンを想定しながら良し悪しを判断できるかどうかが、重要です。
——その見識を広げるためには、どんなことをすればいいでしょうか。
橋本:生成AIに聞くのも面白いですね。生成AIにいろいろなプログラムを作らせてみると、さまざまなパターンがあるのがわかると思います。
たとえば「検索エンジンを作って」と指示したら、ウェブで実際に利用できるフルコードは書けないんですけど、 大きな骨格は間違っていないことが多い。そういうふうにして、生成AIから学ぶこともできるんですよね。
【インタビュー撮影・北川直樹】
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