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日本を数学先進国にする。東大特任教授が起業で挑む、数学による社会変革

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東京大学で数学の研究をしながら、数学を駆使した社会課題解決に挑む人がいる。Arithmer株式会社の大田佳宏代表取締役社長兼CEO(最高経営責任者)は、数学をより早く社会で応用するため、同社を創業した。

IBM東京基礎研究所や日立製作所中央研究所で研究員を務めた後、東大で研究者としてのキャリアをスタートした大田氏。「数学を専攻した人材こそ社会を変える」と断言する彼に数学の社会課題解決における活用について、詳しく語ってもらった。

〈Profile〉
大田佳宏(おおた・よしひろ)
Arithmer株式会社代表取締役社長兼CEO、東京大学大学院数理科学研究科特任教授
東京工業大学工学部卒。東京大学大学院理学系研究科修了。IBM東京基礎研究所研究員、日立製作所中央研究所研究員、東京大学先端科学技術研究センター特任助教、東京大学大学院数理科学研究科特任准教授、同特任教授(現職)などを経て、2016年にArithmerを創業。

「数学を応用する役目を果たす」ために起業

――大田さんは、大学で教鞭を執りながら、Arithmerを創業、経営者としても活動しています。数学の研究者が、企業を経営するのは珍しいと思いますが、起業した経緯などを教えていただけますか。

大田:「数学を応用する」役目を果たそう、と考えたためです。アインシュタインの相対性理論や量子力学は、リーマン幾何学(※1)を基礎として成立しているように、数学の土台があって初めて、物理の法則が成り立ち、工学的な応用が可能となります。GPSやLEDにも数学が応用されていますが、その数学の理論は100年前にできあがったものです。研究者は、最先端の内容の数学を研究していますが、それが、実際に社会で応用されるには、100年かかる可能性もあります。
※1リーマン幾何学……リーマンにより創始された多次元の幾何学。非ユークリッド幾何学の一つで、ユークリッド幾何学の平行線の公理の代わりに、平行線が一本も存在しないという命題を公理とする。

――時間がかかりますね。

大田:それは本当にもったいないと思います。最先端の数学をいち早く応用できれば、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させるカーボンニュートラル、浸水の予測災害対策といった現在の社会課題を、もっと早く解決できるのではないか。そういう思いでつくったのが、Arithmerという会社です。

私は数学の研究を続けながら、企業にも10年程度在籍し、数学の応用にも携わってきました。その経験を生かしていく必要があると考え、起業に踏み切りました。

――IBM東京基礎研究所と日立製作所中央研究所に在籍されていましたが、どんな業務に携わっていましたか。

大田:IBM東京基礎研究所では、金融系のデータマイニング(※2)の研究をしていました。データマイニングが始まったころで、とても勉強になりました。
※2データマイニング……データ解析の技法を大量のデータに適用することで知識を取り出す技術。

日立製作所中央研究所では、製薬企業向けにDNA配列や、遺伝子の発現の数値などのデータ解析に加えて、テキストマイニング技術を使ったサービスを開発しました。創薬分野は、新しい論文が日々、数千本も発表されます。製薬企業の研究員は、最新の研究内容を把握するため、論文をチェックしなければなりませんが、数千本も読んでいる時間はありません。そこで、論文に書いてあるチェックしたい内容を自動的に抽出して、データベース化したサービスを開発しました。

製薬企業を訪問して、プレゼンテーションをした結果、いくつか契約もいただきました。研究だけではなく、プレゼンや販売にも携われたのは、スタートアップの起業家のような経験をさせてもらい、とても貴重だったと思います。

――日立製作所中央研究所に移ったのは、もともと、医薬分野に興味があったからでしょうか。

大田:そうですね。大学院時代に、「ヒトゲノム計画」(※3)が始まり、医学が大きく変わろうとしていました。医学が数学的な対象に変わったと思います。病気のほとんどがDNAに関係しているということが分かってきました。

これまでは、医師がそれまでの知見から、直感的に病気を診断し、薬を処方していることが多かったのです。それが、DNAの解析によって、その病気のメカニズムが分かり始めると、その根本的な治療ができるのではないかと考えられるようになりました。
※3ヒトゲノム計画……ヒト染色体の遺伝情報を全て解読し、染色体のどこにどんな遺伝情報が書かれているかを明らかにしようとする計画。

しかし、ヒトのDNAだけでも約30億個の塩基対が並び、どんどん変異しています。それを含んだ細胞は人体に約60兆個あるといわれています。扱うデータの組み合わせは、爆発的に増えていきます。とても人力で対応できるデータ量ではありません。数値化や機械化を進める必要があり、ヒトゲノム計画は、それらを前提に計画されていたため、医薬分野が大きく変わる節目だと感じました。

――IBM基礎研究所や日立製作所中央研究所の業務は、コンピューターサイエンスに分類されるかと思います。

大田:そうですね。ですが、突き詰めれば突き詰めるほどコンピューターサイエンス、ソフトウエア、アルゴリズムというのは、本当に数学だな、とつくづく感じます。多くのデータから最適な組み合わせを発見したり、より優れた計算方式を探ったりするには、数学の知識が欠かせません。

シミュレーションでは超離散化、画像解析ではトポロジー。数学の知識を駆使

――浸水シミュレーション、人工知能による画像解析技術を使った、海岸沿いの道路の越波の予測など、サービスは多岐にわたります。どんな数学の知識が応用されていますか。

大田:シミュレーションでは超離散化、画像解析ではトポロジー(位相幾何学)などが使われます。離散化というのは、ある連続した値を不連続な値に分割することです。なぜ分割する必要があるかというと、美しい図形のように対称性が高い微分方程式の解を離散化しないで導き出すと、正しい解が得られない場合もあるからです。

トポロジーは、空間が持つ、伸ばしたり曲げたりしても保たれる性質に焦点を当てた分野です。もともとギリシャ語が語源で「位置の学問」を意味します。

その他、銀行の顧客同士のマッチングをするサービスでは、「組み合わせ最適化」という分野の数学を使っています。マッチングをするときに、利益率や資本回転日数といったおよそ30種類の顧客の属性データを使いますが、これを全て使うことはありません。

――全て使ったほうが、良いマッチングができそうですが、そうではないのでしょうか。

大田:全て使うと、マッチングはうまくいきません。使う属性データが多すぎると、顧客が持つ特徴がぼやけてしまうからです。ですので、6-7個の属性データを選択して、マッチングをしますが、30種類の属性データの中から、最適な6-7個に絞り込む技術が必要になります。これに寄与するのが「最適化」です。ちなみに、属性データが30種類あるとすると、選択できるデータの組み合わせは、10億通りを超えます。

――ビッグデータを扱う場合はどうでしょうか。

大田:データが多すぎる場合は、いかに最適に絞り込むかが重要です。データが少ないときは、定式化することで課題を解決に導く必要があります。絞り込みや定式化ができないと、データを十分に活用できず、成果も得られないと思います。

――一般消費者向けサービスに比べて、企業向けサービスは、対象が限定され、事業としてスケールしづらいのではないですか。

大田:確かに汎用性という点では、一般消費者向けサービスが優れているケースもありますが、企業向けサービスは、予測精度が99%といった「尖った」特徴が必要になります。

例えば、ものづくりの分野では、「予兆保全」というキーワードがあります。予兆保全というのは、工場のラインなどが壊れる予兆をあらかじめ判定して、壊れる前に入れ替えることです。故障してから初めて入れ替えると、そのラインを止める必要があるため、機会損失が発生します。予兆をつかむことができれば、それを防ぐことができます。

その予兆を、画像から判定する技術が必要ですが、その精度は、せいぜい7-8割程度でした。これでは、実際に運用するのは難しいです。予兆保全に関しては、98-99%の精度が必要になるため、それぞれの業界、企業、課題に応じたプログラムやアルゴリズムを構築しなければなりません。それには、数学が欠かせません。逆に、数学者だからこそ、定式化したアルゴリズムの構築だけではなく、定式化すらも可能となります。

業界のトップ企業と上記のようなシステム構築ができれば、業界全体への波及も期待できると思います。業界全体に広まれば、より早く数学を社会に応用することにつながります。

「数学による社会課題解決」はグローバル展開できるビジネスモデル

――数学を専攻している修士や博士の現状をどのように見ていますか。

大田:数学を専攻する日本の学生の数は、世界的に見て少ないです。また、数学が実社会にどのように生かされているかを、社会が十分に認識しているとは言えません。

――なるほど。企業の認識はどうでしょうか。

大田:アメリカのIT大手企業などは、数学の重要性を認識しているので、博士課程で数学を専攻する人材を高給でどんどん採用しています。日本企業が、博士課程の学生をなかなか採用しないのとは対照的です。数学の博士号を持つ人材を積極的に採用している当社はとても珍しいのではないでしょうか。

アメリカにおいて、自動車産業が衰退する中、ソフトウエア産業が成長して、景気拡大をけん引しましたが、その要因の一つは、数学者の使い方だったと思います。

日本には昔から数学のできる人が多いです。世界的な数学者も多く、数学に関する学習の水準も高いです。数学を産業に生かしていこうとする意識が強くなれば、世界でも有数の数学先進国、最先端技術先進国にまた戻れるのではないかと期待しています。

人口が減少し、既存の産業構造が大きく変わる中、日本の産業の競争力は、岐路に立たされています。数学を専攻してきた人材こそ、社会を変え、産業構造を変えるような活躍ができると思います。そういう人材を育成すべきではないかと考えています。

――そのような中で、今後どんな取り組みをしていきたいですか。

大田:われわれができることは結果を見せることです。数学で社会課題を解決できる事例を数多くつくりだし、グローバル展開できるビジネスモデルだということを示す。それを若い人に直接見てもらいたいと思います。

私は、毎朝3時間、数学の本を読みます。研究者、経営者として数学の最先端を理解しておく必要があるためです。まだまだ分かっていないことがたくさんあるので、常に勉強しているような状態ですね。

研究していると、現在、数学のさまざまな分野が融合されつつあると分かります。学問というのは、融合して新しい理論ができるとき、分割されてさまざまな分野ができるときなどのさまざまな場面があります。数学は現在、新しい理論ができつつあるのではないかと感じます。研究者としては、それを見てみたいという思いが強いです。

数学を社会に応用している企業の経営者としては、さまざまな課題を解決して、数学の学問としての発展に、少しでも寄与できたらと思います。

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