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複雑化する社会では、自分たちだけが利益を上げられればいいわけではない。社会が抱える問題やその在り方にまで考えを張り巡らせなければ、個人も企業も生き残ってはいけない。企業は社会の一員としてどんな取り組みをしているのか。また、そういった企業活動が経営戦略や人材獲得にどんな影響を与えるのか。具体的な事例をあげながら考えていく。
JPモルガンが、スモールビジネス支援やSTEM教育のプログラムに取り組む理由
JPモルガンは、就労支援とスモールビジネス支援、ファイナンシャルヘルスの3つの分野に注力した社会貢献活動を展開しており、東日本大震災後は東北復興支援にも力を入れている。
2019年9月からは起業家を支援するNPO法人 ETIC.(以下、「エティック」)主催のプログラム「東北グローバルチャレンジ」のサポートを始めた。東北グローバルチャレンジは、東北からの海外展開の加速を目指す、食に関わる企業や組織のリーダーたちの挑戦を支えるプログラムだ。
岩手、宮城、福島の3県で農水産業や食品加工業、流通業に携わる経営者30人に対して、商品開発やブランディング、国際認証取得、海外展開に必要な事業課題の分析と対策などの面で支援する。
東日本大震災により、3県の食産業は大きな影響を受けた。同社は、11 年以降、東北の復興支援を続けているが、同プログラムは、同社がグラント(助成金)を出すもの。エティックが運営する支援の資金拠出のみならず同社の社員も、このプログラムの中で実施されるイベントなどにボランティアとして参加している。
同社が社会貢献活動に力を入れるのは、東北に対してだけではない。同じく19年には、公益社団法人ジュニア・アチーブメント・ジャパンや早稲田大学と組み、東京都立両国高等学校附属中学校の生徒120人を対象に、STEM(科学、技術、工学、数学)教育に特化したメンターシッププログラム「スクール・チャレンジ」を実施した。
プログラムの目的はSTEMに対する興味喚起と、STEMを活用した社会課題の解決方法について自ら考える力をつけることだ。
中学校がある東京都墨田区は、東京都の中でも最も水害の多い地域の一つ。STEMを使い、地域の社会課題に取り組むための製品やツール構築を目指す。同社はロンドンなど世界7地域で本プログラムを展開、日本は8カ所目となる。
同社の社員は、早稲田大学の学生とともにメンターとして中学生をサポートし、半年間のプログラム終了時には子供たちは自信に満ちたプレゼンテーションを行い、成長を見せた。
同社がこのプログラムを展開する目的の一つは、IT化への対応とグローバル人材の育成だ。目まぐるしく変化する環境のもとでは、グローバル人材には自ら課題を探して解決するスキルが求められている。STEMは、そのスキルの前提となる技術の一つといわれる。
社会貢献活動が、企業の経営戦略や人材獲得に与える影響
同社はなぜ、社会貢献活動を展開するのか。JPモルガン・アセット・マネジメントの大越昇一社長は、「道徳的な慈善活動というよりも、持続的な経済発展に貢献していく要素が強い」と話す。
大越氏も「スクール・チャレンジ」に中学生のメンターとして参加した。多様なバックグラウンドを持つ、より多くの人が、様々な場面で、それぞれの立場で社会に参加して、経済発展に貢献していき、その果実も得ていく。そういう好循環を生み出すことが、持続的な経済発展に結びつくと言う。
社員にはどんな変化をもたらすか。普段接しない人と協力し、様々な意見や価値観があるなかで、メンタリングを進めていく経験はとても貴重で、スキル向上にもつながるという。
業務で身に付けた知識やスキル、経験を生かして社会貢献するボランティア活動は「プロボノ」と呼ばれる。社員としてプロボノに参加する意義は何か。「自分の業務を見つめ直すこと」と大越氏は話す。
社会から感謝されない仕事は、評価されることは少ない。報酬も「感謝」が前提となっているといってもいい。こういった感覚は大抵の人が持っているはずだが、日々の業務に追われて、その感覚が薄れることもある。「業務を通じてだけではなく、様々な角度や場面で社会に接することで、業務の見方も変わってくる」という。
では、こういった社会貢献活動をすることは、企業の経営や人材獲得戦略に影響を与えるのか。仕事の価値というのは、社会に対する貢献に由来する。「社会が抱える問題やその行く末に対しての感度が高くないと、ビジネスモデルを構築できないし、社会自体を変えられない」(大越氏)。
感度や社会的意識が高く、問題解決能力が高い人材が、金融業界に限らず、求められる人材だという。こういう人材が集まることで「企業として持続的な成長を遂げられる」(大越氏)。
学生が1人でできることは限られる。価値観や理念に共感できる企業で、自分の思いにレバレッジをかけろ
就職先として、学生はどんな企業を選ぶべきだろうか。大越氏は「業務内容というよりも、その奥にある考え方が重要」と指摘する。企業は社会貢献などに取り組むことで、その価値観や理念を発信している。一方、学生が1人でできることは限られている。そこで、価値観や理念に共感できる企業で活動することで「自分のやりたいことや思いにレバレッジをかけられる」(大越氏)。
全世界でサイバーセキュリティーなどを含むテクノロジー関連に年間約1兆円投資をしている。会長兼CEOのジェイミー・ダイモン氏も口にしている言葉「We are technology company with banking license」は、もはや競争相手は金融機関ではないことを示す。これと、社会貢献活動とは一見すると関係がないように思えるが、奥底の考え方は共通だという。
「目まぐるしく変わっていく社会で、クライアントが抱える多様な課題、本当に求めていることを理解して、ビジネスをやっていこうとすると、金融業はこうあるべき、というような画一的な考えにこだわる必要はない」と大越氏は話す。
同社は、年初から続く新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、生活が困難な状況に陥っている人々を緊急かつ中長期的に支援すべく資金を拠出しNPOを通じてコミュニティ支援を展開している。
慈善活動ではなく、持続的な経済発展に貢献し、世界中でインクルーシブな成長を実現することをミッションに掲げている数多くの企業は、その姿勢を示す必要がある。
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