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sponsored by 日本マイクロソフト

急速に進化するAI。かつては一部の専門家だけのものだった高度な技術が、今や誰もが日常的に使用できるものとなった。そんな時代にキャリアを築いていく上で問われるのは、単なるスキルや知識ではなく「AIとどう向き合い、何を成し遂げるか」を考え抜く力だ。
目まぐるしく変化する社会の中で、自分をどう磨き、どう価値を発揮していくのか。これは、多くの学生が抱えている問いかもしれない。そんな問いに向き合い続けてきた企業の一つである日本マイクロソフトの執行役員 常務 最高技術責任者(CTO)、野嵜弘倫氏へインタビューし、AIと共に生きるこれからのキャリアの在り方を考えてみた。
※内容や肩書は2025年8月の記事公開当時のものです。
次世代の生成AIが、企業の競争力になりつつある
――生成AIについて、グローバルと日本の状況について教えてください。
野嵜:世界的には生成AIはチャットボットから、次の段階に入っています。中でも注目すべきは「AIエージェント」と「マルチモーダル」でしょう。AIエージェントとは、ユーザーの指示を受けて複数の作業を自律的にこなすAIのこと。例えば会議の議事録作成、要点の整理、次のアクション提案までを一貫して行ってくれる存在です。一方のマルチモーダルは、テキスト・画像・音声など異なる種類の情報を同時に理解して処理するAIで、人間の感覚に近い形で状況を把握できるのが特徴です。こうした技術は、既に企業の競争力そのものになりつつあります。
日本は、AIの活用が他国に比べて著しく遅れているというわけではなく、製造業やコールセンターを中心に業務効率化や品質向上といった、より実務的な場面での活用が進んでいます。実際、Microsoftの生成AIツール「Microsoft 365 Copilot」の使用でも、日本は世界的に見て高い傾向にあります。
――注目すべきトレンドはありますか。
野嵜:AIを活用したロボットです。日本は、製造現場で部品を運んだり取り付けたりするような特化型ロボットに強みがありますが、世界ではヒューマノイドのようにより汎用性の高いロボットに注目が集まっています。人間の言葉に反応しながら柔軟に対応できるAIを駆使したロボットの需要が、格段に広がるのは間違いありません。

聞こえない音を届けるためにAIは学び続ける
――変化のスピードが非常に早い中で、3年後、5年後の社会はどうなっていると予測されますか。
野嵜:例えばクラウドサービスの「Microsoft 365」では、AI機能がリリースされてから1年で約300の新機能が追加されました。これは従来では実現できなかったスピードであり、AIが開発自体の効率化にも貢献していることを示しています。今後はAIからより高度なAGI(汎用人工知能)へと進化していく中で、AIエージェントやマルチモーダルといった技術が実生活にどんどん組み込まれていくと思います。
――通信環境がなくてもAIが必要になる場面とは、どういった状況を想定していますか。
野嵜:例えば日本であれば災害時などが挙げられます。実際、能登半島地震の際に、聴覚障害のある人がコミュニケーションのために使っていた会話の文字起こしアプリがネットの遮断によって使えなくなってしまいました。もし、この書き起こしを可能にしていたAIモデルが通信環境なしでも動作していたら、この人は最も情報が必要な場面でこのアプリを使うことができたはずです。マイクロソフトではオフライン環境でも動作する、軽量化された言語モデル「 SLM(小規模言語モデル)」の開発と提供にも力を入れており、通信環境に左右されずにAIを活用できる世界の実現に取り組んでいます。
また、聴覚障害者の発話を書き起こすモデル開発の研究では、実際に聴覚に障害のある社員の協力を得て進めました。聴覚に障害のある彼、彼女らが話す声は、AIにとって“未知”の音でした。しかし、聴覚障害のある人の声を約1時間分AIに学習させただけで、認識精度が20%から80%に向上するという結果を出すことに成功しました。AIは、効率化や利便性を高めるだけでなく、情報格差やコミュニケーションの壁を越える手段にもなります。
使う側から進化させる側へ AI共存時代に求められる力
――AIの活用が進む中で、日本マイクロソフトでは若手がどのように成長の機会を得ているのか、育成方針について教えてください。
野嵜: 当社では若手が早期に実務を経験することを重視しており、新卒社員向けのオンボーディング期間も比較的短めです。AIで代替できる補助的な作業から始めるのではなく、明確な役割を持って現場に入ってもらうのが基本方針です。特にデジタルネイティブである若手には、柔軟な視点を生かして、新規事業や業務改革といった領域でも積極的な動きを期待しています。学生時代に慣れ親しんでいたツールを、今度は自らの手で進化させる立場へと変わっていく。そうした成長の機会が数多くある環境だと自負しています。

――AIが意思決定にも影響し得る時代に、若手にはどのような力が求められるのでしょうか。
野嵜:現在のAIは、与えられた命令を基に実行する仕組みです。つまり、AIの活用は「問いの質」で決まる。どのようなプロンプトを投げるかが成果に直結しますし、出力された情報の価値を見極めるのも人間の役割です。
だからこそ、若手にはまず得意分野を持ち、一定の専門性を培ってほしいと思います。AIをただ使うのではなく、その出力をかみ砕いて意味付けして、次のアクションにつなげる。そのためには専門性に基づいた判断力が不可欠です。反復作業や調査業務はAIに任せて、その分、より付加価値の高い業務に時間を使ってもらいたいですね。それが結果として、アウトプットの質や案件数にも反映されるはずです。
――情報収集の手段としてのAIの浸透で、もはや自身の深い知識や教養は不要と考える学生もいるのでは。
野嵜:AIの進化によってリアルタイム翻訳のような機能は格段に向上しています。例えば当社の「インタープリター機能」はコラボレーションツール「Teams」に実装されている最新の通訳機能の一つで、例えば、英語を話す相手と日本語を話す人が会議をしている場合、それぞれの発話が即座に相手の言語へ翻訳され、自然なコミュニケーションをサポートします。お互いの発言はそのまま自国語で読み上げられたり表示されたりするため、リアルタイムでの意思疎通が驚くほどスムーズになります。
こうした機能があると、確かに「もう英語を勉強しなくてもいいのでは?」という声も出てくるでしょうが、私自身はそうは思いません。やはり本質的な理解や信頼関係を築くためには土台となる教養や知識が必要です。AIはあくまで補助的な役割であり、全てを代替できるわけではありません。今後求められるのは、人間としての理解力や判断力を持ちつつ、AIの力を適切に使いこなす力です。技術の進化に受け身でいるのではなく、学び続ける姿勢や自らの専門性を磨く意識が、AIと共に働く上で大きな強みになるはずです。
「何をAIにさせるか」を考える力が、キャリアを切り開く
――これから社会に出る若い人たちにとって、どんな力を身に付けることが重要なのでしょうか。
野嵜:今の若い世代が働くこれからの約40年を考えると、本当に予測不能な未来になると思います。月に住んでいるかもしれませんし、人間より賢いAI、いわゆるASI(人工超知能)と共に生活しているかもしれませんよね。これまでの歴史を振り返ると、テクノロジーは使われることで浸透し、使われなければ淘汰されてきたことが分かります。その繰り返しの中で、たった十数年前にスマートフォンが登場して、私たちの生活を一変させました。
そして今は、AIがその変化をけん引しています。これからの時代に大切なのは、AIとどう付き合っていくかという視点です。技術の進化は止められませんが、それをどう使うかという判断は人間に委ねられています。

――単に「便利だから使う」という段階を超えて、テクノロジーの意味や影響まで考える力が問われてくるわけですね。
野嵜:そうした背景を理解する力、そして「人類としてどう進むべきか」を考える視点を持つこと。それは、AI時代を生きる上で不可欠になってきます。2027年からは東京大学が文理融合型の5年一貫教育課程を始めるという話も出ています。理系だけでなく哲学や倫理といった文系的な素養も併せ持つことが、これからますます重要になります。AIの開発は理系が担うとしても、その使い方を考えるには人文的な視点が不可欠なのです。分野をまたいで学ぶ姿勢が、これからの土台になっていくと思います。
――確かに最近はエンジニアに対しても倫理や哲学が強く求められるようになってきました。
野嵜:だからこそ、日本マイクロソフトが大切にしている「グロースマインドセット(常に成長を志向する姿勢)」が鍵になると考えています。今は誰でもAIツールにアクセスできます。同じツールを使うなら、何を問い、どう使うかで差がつく。“人としての力”が問われる時代に差し掛かっています。
当社では「AIをどう使いこなすか」だけでなく、「AIに何をさせるか」という設計力に重点を置いています。これはまさに、問いを立てる力や問い続ける力が生かされる領域でしょう。この考え方こそが、人とAIの関係を豊かにする原動力だと考えています。
――実際のビジネス現場でも、そうした「問いの立て方」が差を生んでいるのですか。
野嵜:先日、ある企業の役員会議で「自社独自のAI戦略をどう作るか」という議題が上がりました。でも実際には、同業他社も多くが汎用AIにアクセスしているのが現状です。使い方が同じならば、答えも似てくる。「それでは結局、差別化できないのではないか?」という、頓知にも似た議論に行き着く場面がありました。
私は、こうしたジレンマも問いの立て方や活用の仕方次第で解決できるはずだと思っています。要は「何を解決すべき課題と見なすか」「どんな文脈でAIを使うのか」といった設計の部分にこそ、人間の創造性が問われるのです。そこに知恵を注げるかどうかが、これからの時代の分かれ道になると思います。
これは企業にも個人にも共通する課題であり、同時に大きな可能性でもあります。だからこそ、これから社会に出る若い人たちには、専門知識だけでなく、広い視野や柔軟な発想、そして「問いを立て続ける姿勢」を大切にしてほしいと心から思います。

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