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本稿では、5大商社に複数内定した筆者が実践し内定に至った経験を基に「自己分析の徹底」と「面接練習の突き詰め」という二大戦略を中心に、私の就活対策の全体像を描きます。個別の詳細はさらに別記事にて掲載いたします。
就職活動の最適解は存在せず、かなり属人的です。私は理系院生であり、手がけたいビジネスのドメインをかなり絞って就職活動を行ない、結果として5大商社から複数のご縁を頂くことができました。
1.まずは総合商社就活の「戦場」を理解する
商社ビジネスの複雑性を読み解く
以下、私の総合商社についての理解を教示します。
総合商社はエネルギー・金属・食料・インフラ・デジタルサービスまで網羅する巨大な事業ポートフォリオを持っています。しかし、多くの就活生が見落としているのは、これらの事業が独立して存在するのではなく、複雑に絡み合ったエコシステムを形成している点です。
例えば、三菱商事のチリ銅山事業は単なる資源開発ではありません。採掘した銅は中国の精錬所で加工され、そこから電線メーカーに販売される。同時に、精錬過程で発生するスラグは建設資材として活用され、さらには銅価格の先物取引でリスクヘッジを行う。 このような「川上から川下まで」の一気通貫モデルこそが、商社の真の付加価値なのです。
私は総合商社志望の中では比較的、興味のあるドメインが決まっていたタイプなので、そのため選考では「どの事業領域でどんな付加価値を創出したいのか」を具体的に語れるかが問われました。OB訪問を通じて総合商社の意思決定プロセス─川上資源獲得から川下マーケティングまで─を俯瞰し、自分の興味分野と結びつけておくことで、面接官との対話が単なる情報披露から事業提案型のコミュニケーションへと昇華します。
商社の「両利きの戦略」を理解せよ
【総合商社の本質的機能:「静脈」と「動脈」システム】
総合商社は資本市場の変動に応じてポートフォリオを並行移動させる"静脈"と"動脈"を両方持つ企業体として、現代経済の血液循環システムそのものを体現しています。
◆静脈機能 :市場環境の悪化や構造変化により収益性が低下した事業から資本を効率的に回収・撤退させる能力
◆動脈機能 :成長分野や新興市場へ迅速に資本を投下し、新たな収益機会を創出する能力
【コロナ禍における商社の対応実例】
◆撤退事業:航空機リース事業の打撃
2020年のコロナ禍は、この商社の本質的な強みを如実に示す転換点となりました。航空機リース事業では、世界的な渡航制限により航空需要が急激に縮小し、リース料収入の大幅減少と資産価値の毀損という二重の打撃を受けました。特に三井物産や三菱商事が手掛けていた大型航空機リース事業では、数百億円規模の減損処理を余儀なくされ、従来の収益モデルの見直しが急務となりました。
◆成長事業:食料・医療関連の急拡大
しかし同時期に、食料・医療関連の取引は急激な需要増加を記録しました。巣籠もり需要の拡大により冷凍食品や加工食品の取扱量が急増し、伊藤忠商事のファミリーマート事業では感染対策商品の販売が好調を維持しました。
また、医療用品や医薬品の国際調達・供給網の整備が喫緊の課題となる中、商社の持つグローバルなサプライチェーン管理能力と与信機能が重要な社会インフラとして機能しました。住友商事では医療機器商社の買収を加速し、丸紅では穀物トレーディング部門が食料安全保障の観点から戦略的重要性を増しました。
◆両機能の有機的連携
この結果、多くの商社が全体として収益を維持することができたのは、まさに静脈と動脈の両機能が有機的に連携した結果です。航空機リース事業からの撤退資金を、デジタルヘルスケアや食品テック分野への投資に振り向けることで、危機を成長機会に転換させたのです。
【学生の志望理由における問題点】
このような商社特有のダイナミズムを理解していない学生は、依然として「英語力を生かしたい」「海外で働きたい」「グローバルな環境で成長したい」といったテンプレート化された志望理由で終わりがちです。実際に面接練習を行った学生の志望理由と業界理解度には明確な相関関係が見られ、表面的な憧れにとどまる学生ほど、商社ビジネスの本質的な価値創造メカニズムを説明できない傾向があり、また「なぜ事業会社の海外事業部ではダメなのか」という根本的な問いに答えることができません。
▼理解不足の表れ
商社の差別化要因である「リスクテイク能力」「事業創造機能」「ポートフォリオ経営」の本質を理解していない
【商社が直面する構造変化への対応】
面接官が真に求めているのは、 激変する事業環境への適応力と、ゼロベースからの事業創造力 です。特に、ESG投資の急拡大とエネルギー転換の加速により、従来の化石燃料依存型ビジネスモデルからの脱却が急務となっている現在、商社各社は根本的な事業構造改革を迫られています。
【選考突破のための戦略的思考例】
◆再生可能エネルギー転換戦略
選考を勝ち抜くためには、こうした構造変化を踏まえた踏み込んだテーマ設定が不可欠です。例えば、「再生可能エネルギー比率50%のポートフォリオへシフトする過程で発生する既存炭鉱の出口戦略をどう設計するか」という問いに対しては、単純な売却戦略だけでなく:
■炭鉱跡地の太陽光発電施設への転用
■炭鉱技術者の再エネ分野への人材転換
■地域経済への影響を最小化する段階的撤退スキーム
■炭素クレジット創出による収益化
◆水素社会移行期の戦略構想
また、「水素社会への移行期における天然ガス事業の戦略的意義は何か」というテーマでは、天然ガスが「ブリッジ燃料」として果たす役割を理解した上で:
■LNG受け入れインフラの水素対応改修
■ブルー水素製造への事業展開
■アンモニア混焼技術の実用化
■最終的な水素専用サプライチェーン構築への戦略的移行プロセス
◆統合的戦略構想力
さらに高度な視点として、複数の外部環境変化を統合的に捉えた戦略構想力も求められます:
■「カーボンニュートラル達成と新興国の経済発展をどう両立させるか」
■「デジタル通貨の普及が商品トレーディングビジネスに与える影響は何か」
■「地政学リスクの高まりがサプライチェーン戦略に与える影響をどう軽減するか」
【求められる能力と準備】
このレベルの思考を展開するためには、業界研究にとどまらず、横断的な知識習得が必要です:
▼必要な知識領域: マクロ経済動向、地政学情勢、技術革新トレンド、規制・政策動向
それらが商社ビジネスに与える複合的な影響を分析する能力が必要です。面接では、こうした複眼的な視点から導き出された独自の洞察と、それを実現するための具体的なアクションプランを示すことで、志望理由に対する信頼を面接官から勝ち取ることができるのです。
競合他社との差別化戦略
【商社を取り巻く競争環境の変化】
◆競争軸の多角化
総合商社を取り巻く競争環境は従来の業界の枠を超えて多角化しており、同業他社とのコモディティ競争はもはや氷山の一角に過ぎません。
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