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自宅で『鬼滅の刃』や『ポケットモンスター』の世界に遊びに行ったり、音楽ライブを堪能したり、入社式や選挙の演説会に参加したり……。物理的な制約を飛び越えた体験をバーチャル空間で実現するのが、累計イベント動員数1000万人超の大規模メタバースプラットフォーム「cluster」です。
仕掛け人の加藤直人さんは、京都大学理学部出身のエンジニア。物理学者を志すも、途中で“引きこもり”に転じ、その後起業するという、独自の道を歩んでいます。
今回、そんな異能の起業家に、これからの時代に活躍する人材の条件を語ってもらいました。「就職活動をハックしても一流にはなれない」と言い切る加藤さん。その意味とは……。【橘菫】
※内容や肩書は2022年6月当時のものです。
あえてレールから外れてみた。物理学系エンジニアの“戦略的引きこもり”
――引きこもり中に起業したと聞きました。そもそも、どういった経緯で引きこもったのですか。
加藤:小さいころから、アニメやSF、偉人の伝記なんかを“摂取”するのが好きで、プログラミングを始めたのもガンダムの影響です。高校時代にはアインシュタインに憧れて、大学は物理学の分野に進みました。
宇宙や量子物性の研究をし、理論物理学者を目指していたわけですが、研究そのものより、手法として使っていたソフトウエアエンジニアリングの方が、楽しくなってきて。だんだん「この道でいいのかな」と考えるようになったんですね。
もともと、自分はSFが大好きだし、そこで描かれているような時代が来てほしい、という「オタク心」があります。そうした時代に、理論を突き詰めるか、自分で作り上げるかだと後者がいい気がする。焦って道を決めるよりレールから外れてみようと、引きこもり始めたわけです。
――レールから外れることに、不安はなかったのですか。
加藤:正直、こう考えていました。自分は今、プログラミングで一定の生活費は稼げている。将来的にソフトウエアエンジニアリングの重要性はさらに高まるだろう。だから死ぬことはない、と。
さらに3年間の引きこもりのうち2年間は休学を選んでいます。学生の“身分”を維持し、研究者に戻ることもできる状態でした。
いわば、戦略的引きこもりです。
――生活費は、どれくらいの金額をどのように稼いでいたのですか。
加藤:スマートフォンのカジュアルゲームの制作を請け負っていました。1本あたり2~3週間で制作し、およそ100万円いただく。それで、数カ月は暮らしていけました。
――引きこもり中に起業したのも、戦略の一部ですか。
加藤:いえ、起業までは考えていませんでした。起業したのは、僕たちの技術ブログを見たベンチャーキャピタルが、“突撃”してきたことがきっかけです。
とはいえ、この「技術の知見を世の中に発信する」ということ自体は、狙ってやっていました。引きこもりであっても、アカデミアと同様、自分が生きていくためのポジションを確立することは重要と思っていましたから。
――創業したクラスターでは、どのような事業をしているのですか。
加藤:バーチャルの世界の中で遊んだり、その世界そのものを創ったりできる、メタバースプラットフォーム「cluster」を運営しています。
多くの人にメタバースに触れてもらいたく、プラットフォーム内では、いろいろなイベントを実施しています。『鬼滅の刃』や『ポケットモンスター』などの有名コンテンツとコラボしたイベントや、選挙の演説会、大学の卒業式やコンサルティングファームの入社式など、官民学問わず、多様な企業と連携していますね。
cluster内のイベントの様子 ©Cluster,Inc
ソフトウエア化した時代に活躍するのはアーキテクチャを設計できる人
――これからどういう時代を迎え、どういうスキルが必要とされるのか、加藤さんの考えを教えてください。
加藤:そうですね……。優秀な読者の皆さんに「これからメタバースの世界が来ます」なんて話をしても面白くないと思いますので、抽象度を上げますね。
前提として、Software is eating the world(*1)は続くとみています。全世界で見たときのインターネットの普及率なんて、人口の6割程度(*2)ですし、長い目で見れば今もまだまだ「インターネット黎明期」です。
*1…エンジニアのマーク・アンドリーセン氏による言葉。ソフトウエア化に対応できないビジネスが淘汰されていくという市場予測を端的に表しているとして反響を呼んだ。
*2…国際電気通信連合(ITU)の推定によれば、2021年のインターネット利用率は世界人口の63%。
ソフトウエアによって計算された世界で生活することが、今よりもっと当たり前になっていく時代。その時に求められるのは、データを扱うスキルや、データを基にアーキテクチャを設計する力です。
――アーキテクチャを設計する力とは。
加藤:言い換えれば、「ルールを理解して、ルールを作る能力」とも言えるでしょう。
この記事を読んでいる皆さんは、おそらくテストの問題を解くが得意な方が多いと思いますが、テストもある種のルールに則った仕組みの一つです。そして、テストを攻略するように、ルールを知り、理解することは重要です。
でもそれ以上に大切なのは、そのルールを作る側に回ること。ルールを守る人は三流、ルールをハックできる人は二流、ルールを作ることができて、初めて一流です。
だから、皆さんには「就職活動」のルールもハックしてほしいですが、それで終わってほしくないですね。二流で満足するのではなく、一流を目指してほしいのです。
「ビジネス界で修行してから起業予定」の人は起業しない。志があるなら、最初から一流を目指せ
――これからの時代、アーキテクチャを設計できる職種は、具体的にいうと、例えばソフトウエアエンジニアやデータサイエンティストなどでしょうか。
加藤:それらの職種は該当するでしょうが、ビジネスやコーポレートサイドでも、ルールを作る側に回ることはできるのです。
そのために必要なのは、ソフトウエア的発想を持てていること、そして技術の言葉で話せることですね。
僕は経営者として人を動かし、モノを動かし、お金を動かしていますが、そうした時、エンジニアやデータサイエンティストとディスカッションできるスキルがあることが非常に大事なのです。
――では、加藤さんのように起業を目指しているような学生にとっても、ITを理解することは重要なのですね。
加藤:はい、その通りです。ただ、読者の中に起業を目指す方がいるなら、ITの重要性とは別に「最初から一流を目指しましょうよ」と伝えたいですね。
「いつか起業したいけれど、まずはコンサルティングファームや投資銀行で修行してから」と考える方がいますが、そういう道を進む人の大半は起業しません。だんだん守るべきものが増えて、一生、二流の「ルールをハックする」だけで終わります。
起業にお金や仲間が必要と思っているかもしれませんが、イマジネーションをもってブループリントを描けるなら、お金も人も勝手に集まります。ルールをハックしている人たちが投資してくれますから。
最初から一流を目指し、起業しましょうよ。失敗しても、死にはしません。一人一人がそうした挑戦をすることで、人類のフロンティアが広がっていくのですから。
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